『忙しさ』から解放されたッ!!!
自由時間よ、私は帰って来た!
ヤバい。
実にヤバい。
これは所謂アレだ。
14歳くらいに発症する病に罹った男子がつまらない授業中に妄想する『絶対に
正に今、授業中の教室に突然不審者が現れてクラスの誰かが捕まって人質になるんだ。
そして何故か自分は筆箱に入っていたカッターとかボールペンで不審者に立ち向かうんだ。
そして何故か不審者は銃を持っていて、それを自分は偶々避けることが出来て、その上人質も無事で不審者は不殺。
一気にクラスのヒーローだ。そんなの自分の気質じゃないのに……ってヤツだ。
「はぁ~……」
どうでもいい事に頭を使うことだけは一級品だな。
そんなクソな妄想と比べて、実際はどうだ?
何か変な行動を起こしても撃ち抜かれるのは間違いない。
俺の鈍色の脳細胞によって導き出された行動とは?
ハンズアップからの対話だ。
「……は、ハァイ駆逐棲姫さん。そんな物騒なモノ仕舞って、お話……しよ?」
『……』
俺たちは知的生命体なんだ。殺したり殺されたりなんて虫でもできる。なんなら
へ、ヘイ! 春雨ちゃんにソックリだネ~あなた。
彼女の愛嬌はどこに行っちゃったのカナ~?
「あ、霰もソレは今はナシです。捨てて捨てて」
「……。ん」
霰の足元から魚雷が沈んでいく。間を開けずに俺も装填が終わった魚雷を沈めていく。
こんな不自然な挙動の魚雷があったら
「さぁ、お話しましょう?」
『……』
全然目線が俺から離れない。
あっもしかして残りの
うっかり起爆しないようにぶら下げてるチェーンごと外して沈める。
まだ足りないの? いやいや盾は捨てないよ。殺傷力無いし。
人質取ってるってことは何か要求があるということ……だと思う。先制攻撃しちゃったのはこっちだからワンチャン見逃してくれって可能性もあるな。
いやでも、港湾棲姫と北方棲姫は反撃してこなかったけど今回はレ級の突撃を皮切りに普通に交戦したからそれは無いか? 魚雷捨てたのは流石に早まったかもしれない。
まぁまずは話し合いだ話し合い。
「……何が望みで?」
『貴女の身柄』
「…………えぇ?」
ちょっと何言ってるか分からない。
だって俺の身柄なんてあってもどうするよ?
俺が深海棲艦に捕まったと皆んなに知られても精々が「じゃあ助けに行くか!」くらいのモノだろうし……あっでも提督なんかは変に拗らせてるっぽいし、結構混乱しそうじゃないか?
でもなんでそれを深海棲艦が知っているのか。
これが分からない。
まさか港湾棲姫と北方棲姫か?
実はやっぱり敵性の深海棲艦と繋がってましたってオチ……は無さそうなんだよなぁ。
都会から戻って来た漁師の息子さんの性癖をガッツリ歪めてオロオロするのはスパイのやる事とは思えないし……って違う違う。
どういう訳か駆逐棲姫が俺を欲しがってるってことだ。
趣味が悪いってレベルじゃないけど、俺としては断る理由なんてほとんど無い。
死にぞこないの俺と多分まだ碌に被弾してない霰。
変な事して両方撃たれて両方沈むのはアホ過ぎる。せめて片方だけでも……ってなったらもうダメそうな
まぁ立場が逆でも切り捨てるのは俺なんだけど。
「霰、ポジションチェンジします?」
取り敢えず霰に声をかけるだけかけておこう。
「ダメ。私はいいから皆で戻って……」
お? 良いのかそんな事言って。自分のことを棚に上げてでも怒るぞ。
俺よりも有能な霰のことだから俺の思い浮かばないアイデア出せそう、と言うかもう思いついてそうだから取り敢えず霰を解放しようもアレコレ考えた結果だと言うのに……まさか構わず逃げろと言われるとは思わなかった。
「駆逐棲姫、トレード成立ですので霰を渡してください」
『え? ……そっちが来るのが先。貴女が私のところまで来たら解放する』
「信用できない」
『……どうなってもいいの?』
見せつけるかのように霰に砲を突きつけ直す駆逐棲姫。
やっぱりすんなり霰を解放してくれないか。
じゃあ仕方ないと、言われた通りに俺から駆逐棲姫に近づいていくと、近づくに連れて嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。
……しっかり駆逐棲姫の要求に応えてる形になるな?
「待って。それ以上は進まないで」
『黙ってて!』
うわ。砲を押し付けられた時にゴリッて聞こえた。めっちゃ痛そう。
そんなことを考えていたその時、視界の端でヲ級が動いた。
「なぁ〜〜にやってんのよあなたたちはぁ〜っ!」
『!?』
突然聞こえてきた怒声の直後、駆逐棲姫が霰を盾にするかのように前に突き出した。
そして霰はと言うと、駆逐棲姫の砲が頭から離れた一瞬の隙を突いて拘束を振り解いて、俺の方に向かって来ていた。
『あっ……』
駆逐棲姫も呆然。映画のワンシーンみたいだ。
「すごい格好良かったです」
「『格好良かったです』じゃ無いわよもうっ! はぁ……ま、待たせたわね!」
「待ってた」
「風雲、ナイスです」
なるほど霰は風雲の到着を知っていたのか。
やっぱり凄ぇよ。そりゃあ俺がわざわざ駆逐棲姫の要求に応えようとしたら止めるわな。
まぁ通信出来なかった以上、霰の意図を察することが出来なかったんだから許して欲しい。
あぁ、でも思い返すと霰が不自然な程多く瞬きしてたような気がする。
「……まさか瞬きでモールス信号を?」
「もっと自分を大事にして」
「返す言葉もございません」
観察力の不足。いや、あの状況で気付くのは大分無理があると思う。
霰も霰で咄嗟の出来事に対しての対応力が高すぎる。
「それでどうするの? 私たちだけでヲ級と駆逐棲姫の相手なんて正気の沙汰じゃないように思うんだけど」
「ですね。霰の判断に従いますよ」
どうせ俺よりも現実的かつ有効な手段を思いついてるに違いない。
本当に、霰みたいな有能と一緒に居ると自信無くすわ。
「じゃあ青葉さんたちと合流。ヲ級たちに追撃される前にレ級を片付ける」
「「了解」」
俺ならヲ級も駆逐棲姫もどうにか倒して一休みって答えたね。……だから「意外と脳筋思考だよね」とか言われるようになったのか。
俺の高角砲は空っぽにしてたから装填中、霰と風雲がヲ級の艦載機をどうにかしてる間は盾に隠れてるしかないか。
守って貰うということに無力感と情けなさを感じながらレ級との交戦地点に向かう。
しかし油断していた。
というよりは想定外だ。
なんでレ級みたいな戦闘狂の代名詞みたいなヤツじゃなくてさっきまで
その消耗を覚悟してでも駆逐棲姫が向かう先には俺。
『 逃がさない! 』
狂気すら感じるその声に息を呑む。あっという間に俺の下に辿り着いた凄まじい形相の駆逐棲姫が魚雷を振りかぶっていた。ちよっと速すぎるんじゃない?
しかも魚雷を器用に4本も持っちゃってまぁ……一本だけでも沈めるってのに追加がヤバい。まぁ避けられないのが一番ヤバいんだけどね!
せめてもの抵抗で頭と顔は守ったけど、目を閉じてやって来たのはそこそこの衝撃と、直後にやってくる圧倒的な重さ。
「あっ……」
まるで水の中から何かに引っ張られてるような感覚と、水に入って冷たくなる足と体。
「ま、待って!」
咄嗟に
主人公轟沈ヨシ!
また『やりたいことリスト』が1つ埋まっちまったなぁ~