私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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155話です。

この物語の着地点を見つけました。
つまり一応のエンディングは迎えられる筈です。



注意!
今回は人によっては不快になるような表現が含まれております。
閲覧にはお気をつけください。








σ スタート (かがみうつし)

「なぁ、良いだろ?」

 

「良いだろって、何が?」

 

 薄暗い部屋の中で男2人が会話をしている。

 

「何がってそりゃあ……俺が何の為に憲兵になったか分からねぇのか?」

 

「提督は向いてないからって言ってなかった?」

 

 会話の内容からしてそこそこ親しい間柄のようだ。

 

「その通り。お前も知ってると思うが俺は俺たちの同期の中で最も成績が良かった。当然、鹿島教官からは提督になりませんかって訊かれたよ」

 

「鹿島教官に薦められるくらいなら向いてないってことは無いと思うんだけど」

 

「あぁ、多分俺はお前より上手に艦隊運用出来ると思う。だがそれじゃあダメなんだよ。……艦娘はみんな美人って言われてるのは周知の事実だろう?」

 

 憲兵と提督の、研修生時代の思い出についての会話が何の脈絡もなく別の話題にシフトした。

 

「まぁ、そうだな」

 

「実際に艦娘を目当てに提督を志すヤツも居る。まぁ不純な動機だけで提督になろうとしてるヤツはだいたい選考で落とされるらしいが……っとこんなことを言いたかったんじゃない。俺は艦娘なんてこれっぽっちも興味無いてことだ」

 

 そう言って2人が腰掛けていた大きなベッドに聞き手側の男を優しく押し倒す男。

 雲行きがおかしくなってきた。

 よく見たら押し倒された男は大湊の、我らが松田提督に似ているように見える。……如何にも乙女ゲームに出てきそうなレベルのイケメンに美化されてるように見えるが。

 

「俺はお前のことを考えてたんだよ。ずっと前からな」

 

「!? 冗談にしてはタチが悪いぞ」

 

 何かを察して慌てる提督の上に、興奮した様子を隠そうともせずに男が跨り身動きを封じた。

 

「無駄な抵抗は止せ。監査を拒否したなんて大本営に報告されたくは無いだろ? ……まぁ、提督相手にこうやって強気に出られるって知った時から俺は憲兵になるって決めたんだよ」

 

 そしてその男は徐に服を脱ぎ始めて鍛え抜かれた身体を露わにする。そしてそのまま……ああ、なんてことだ。

 

「……俺は一体何を見せられているんだ?」

 

 これは夢に違いない。

 

 

 

 

 

 

う〜ん...」

 

 なんて(おぞま)しい夢だったんだ……。

 体調の悪い時に見る抽象的な悪夢よりよっぽど酷い。

 前世で多少の心得を付けてなければ即死だった……。

 

 微睡む意識の中でそんなことを考えていても触覚や聴覚等はバッチリ機能していて、様々な情報を俺にお届けしてくれる。

 まずは横になっていること。感じる重さからして多分布団の中にいる。汗でじっとりしてる上にかなり暑い。

 そして割と静かなこと。明石さんがアレコレ指示を飛ばしている声は聞こえるけど、なんか遠くに聞こえる。

 

 瞼に遮られた暗さの中でアレコレ考える。

 まだ夢の中なのかと思ったけど、身体を動かそうとする度に全身から肉離れのような強烈な痛みを感じて夢じゃないってことをなんとなく理解した。

 

 ん? おかしいな。

 何故俺は海の底に居ない?

 

 沈められた後に助けられたのはこの状況からして事実だと思うけど……どうして無事な人たちだけで撤退しなかったのか、コレガワカラナイ。いや、助かったんだから文句は言えないんだけど。

 霰辺りは正確に状況を認識してすぐに撤退するように動きそうなんだけど……まさかそれを無理やり俺を助けるって方向に捻じ曲げたヤツが居るのか? だとしたら酔狂過ぎないか? 

 

 そう思いながらも目を開けようと奮闘するも、瞼が重すぎて目を開けられず、なんかダメそうだったから助けを求めることにした。

 

。ん゛っ、お~い……」

 

起きた!? 起きたー!!

 

 声を上げた瞬間、誰かが反応した。

 そして俺の上に飛び乗って来た。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!

 

 超痛い!

 喉から絶叫、意識も覚醒、痛みで開眼。今死にかけた。

 

 重さと痛みに負けず、ズルズルと緩慢に身体を起こすと胸元に時津風が居た。

 夕立相手に鍛えたテクニックで頭を撫でると「わふ~」とか言って目を細めて満足気にしている。完全にワンコじゃん。

 

 あとは『監視カメラの外で』というタイトルの明らかに腐敗の進んだ本が枕の近くに置かれていた。そりゃ悪夢も見るわ。

 表紙にはやたら美化された提督? ともう1人の男が互いに薄着で汗ばんでいる上に密着してる絵が。そしてオータムクラウドの文字。ふーん。

 誰がコレをここに置いたのか分からないけど、取り敢えず大湊には人でなしが居るらしい。

 

 

 

「起きましたね。どこか変な所はありませんか?」

 

 時津風タックルで上がった絶叫を聞いたのか、明石さんとその他数人が部屋に入ってきた。

 心配をかけたみたいで申し訳ない……そう思ったのも束の間だった。

 

「はい。ご心配を……ッ!?」

 

 みんなの顔がおかしい。

 心配そうな顔、嬉しそうな顔、安心したような顔、怒ってるような顔。

 その顔を俺は知っている。だけど“何かが違う”。

 具体的に何が違うと表現出来ない。だけどぱっと見で分かるくらいには違和感があった。纏ってる雰囲気や表情には特におかしいところは無いのに……。

 

 ただ、言いようがなく気持ち悪く感じた。

 

 直後、何かが腹の底から迫り上がってくる感覚。

 時津風を振り払い、明石さんを押し除け、痛む身体も気にせずトイレに駆け込んで嘔吐する。

 

「ううぅ……ヒッ!?」

 

 吐瀉物が混ざってカオスになったトイレの水の中に、何か蠢くものを見たような気がする。

 アレは何なのかを確認しようと思った頃には今まで感じたことが無い程の拒絶感からレバーを引いて流してしまっていた。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「矢矧さん」

 

 個室に鍵をかけてなかったせいで吐いてるところを見られてた。滅茶苦茶恥ずかしい。くっ、殺せ!

 

「ほら、早く戻って明石に診て貰いなさい」

 

「済みません……」

 

 キリっとした目の中に心配そうな雰囲気を滲ませた矢矧さんは全くの何時も通りだった。さっき感じた謎の違和感は悪夢のせいで頭が混乱してたからに違いない。

 

「その言葉をかける相手は私じゃないでしょ?」

 

 スッと差し出された水で口を濯ぐ。

 優しさが申し訳なくて心が痛かった。

 

 

 

 その後は何事も無かったかのようにベッドに戻って明石さんから問診や触診を受けて、取り敢えず経過観察と言われた。

 ナニカサレルかと思ったけど、特に何もなく病院の様に淡々と進んでいった。公私はしっかり分けるみたいで安心した。

 何があるか分からないから、大湊でしっかり調べるまで出撃は禁止の処置を受けた。

 

「まぁ当然と言えば当然よね」

 

 ベッドに横で林檎を切っている夕張さんに言われる。

 俺もその判断は間違ってないとは思う。

 

 と言うか今気づいたけど外暗くね?

 

「そう言えば……同じ艦隊のメンバーは今どちらに?」

 

 青葉さんを始めとして誰も見てない。

 まさかとは思うけど、俺を助ける為に犠牲になったとかだけは止めて欲しい。

 

「な〜んで他人の心配なんてしてるのよ。一番の、重! 傷! 者! でしょうが!

 

「でもんぐぅっ!?」

 

 目を三角にした夕張さんから林檎を口に突っ込まれた! 喉こわれる!

 

「でもじゃない。まぁ島風以外は無事みたいだから安心していいんじゃない?」

 

 え、島風もやらかしたの?

 

「島風は何を?」

 

「魚雷に当たってノックアウトだって。当たらなければどうということはないなんて言ってるから……フラグは建てちゃ駄目ってお約束なのにね」

 

 ちなみに目が覚めた途端にベッドから脱走したらしい。止まったら死ぬ病にでも罹ってそうだな。

 サメかマグロに親戚居そう。

 

「青葉さんは提督に報告。北上さんは大井さんに攫われてったし……風雲とイムヤは今頃ご飯かな? 霰は寝てるよ」

 

 みんな元気そうで安心した。

 俺だって身体は痛いけどもう元気だからジッと横になってるなんて嫌だね。

 

 

 

 そうだ、脱走しよう。

 




コレで良かったのかな……? まぁええやろ(投稿ボタンポチー)

ウス=異本の持ち主は秋雲先生ではありません。
次回はまともにバカンスさせます(鋼の意志)

主人公の感じた違和感や謎の物体Xは気のせいです。
ですが完全に嘘ではありません。
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