やりたいこと、見たいもの、読みたいもの、食べたいもの
これらが沢山あるって幸せなんだなぁって……(悟り)
夜中。
俺はベッドから抜け出していた。
明石さんからは『絶対安静です!』なんて言われたみたいで、見張り兼世話焼き担当の夕張さんが常時隣に居る状態からどうやって抜け出したかと言うと……
まずは明石さんが休む時間、深夜帯になるまで待つ。
幸いにして一般に売られてる湿布とは別物の高速修復剤入り湿布なるものを沢山貼られたお陰で異常な程スースーして全く眠れない。
これから寝ると言う明石さんにお休みの投げキッスをしてげんなりさせた後は、夕張さんとの会話で今期アニメの話題に触れて会話を盛り上げる。
公然の秘密と化した隠れオタクの夕張さん VS 前世の知識を持つ俺。この勝負(?)で俺が負けるなどあり得ん。
夕張さん
こうすれば見張りは誰も居なくなる。
ね、簡単でしょ?
そして今は部屋から脱走する直前。
それまでの会話で今居る部屋の階層と夕張さんの部屋の階層は違うことを確認してある。
案の定廊下には誰も居なかった。
「……」
謎の達成感で言葉が出てこない。
脱走までの流れがあまりにも完璧だと自画自賛する。
「あら~? どこに行こうとしてるの?」
「ふぇっ!?」
廊下の角から現れた陸奥さんに呼び止められてマヌケな声が上がる。
そう言えば日本のホテルとは全然違う内部構造じゃん。
内心舌打ちしながら、陸奥さんの質問の答えを用意する為に頭を働かせる。
よく見たら手にお酒持ってる。もしかして酔ってる?
陸奥さんの進行方向に階段やエレベーターは無い。つまり部屋に戻る途中の可能性が高い。
目がとろんとしている。かなり眠そうだ。
長門さんの妹だから駆逐艦には甘い可能性。
なら───唸れ俺の演技力ゥ!
「その、眠れなくって……提督のところに行こうかと」
微妙に恥ずかしそうに言う。顔がほんのり赤くなってたら完璧だ。
「あらあら。悪い事聞いちゃったわね……それじゃあごゆっくり♪」
うん。俺の望んだ方向に勘違いしてくれたぞ。
でもやっぱり陸奥さん酔ってたのか。こんな深夜に提督が起きてると思うか? まぁ提督に用事が無いわけではないけど。
というわけで提督の部屋に向かっている。
勿論寂しいとかそんなのではない。
「レッツ猛抗議ってね」
夕張さん曰くみんなの雰囲気がびりぴしてて大分ヤバいらしい。だいたい俺のせいなんだけれども。
だから思いっきり遊ばせてリフレッシュしてもらおうと考えている訳で、その為にいち早く提督を説得して休みを勝ち取ってその知らせをもって雰囲気を和らげる必要がある。決して世話を焼くことに執心の夕張さんから逃げて来た訳ではない。
提督の部屋の扉をノックしたら深夜なのに提督が出てきた。
マジかよ。ノックから出てくるまでの時間的に寝てないんじゃないか?
「……」
「……」
備え付けの机にはノートと紙が散乱していた。ベッドは全く乱れていない。なんだコイツ……仕事中毒か?
「絶対安静って言われなかった?」
その言葉を聞いて、今までズルズルと押していた提督をベッドに向かって突き飛ばす。あっけなくバランスを崩してボフッと音を立てて倒れ込んだ。
そして俺は提督が座ってた椅子に座る。
「大袈裟ですね」
身体がちょっとボロボロなだけだ。しかも実際に抜け出したくらいには元気だし頭も無事だ。頭はおかしいかもしれないけどデフォルトだからこれはセーフ。
「そう言われる人が大人しくしているとでも?」
川内さんに夜戦しろって誰も言わないのと同じだ。
「───とりあえず脅威は去ったんですし、ローテーションを組んで観光とか休暇を取らせないとダメだと思います」
その後、適当に世間話をした後に本題をブッ込んだ。
「その前に今回の反省会をした方が……」
まだ言うか。
机の上のノートを見る限り、俺たちのところ以外は特に被害出てないっぽいし、反省会なんて開いて時間を潰すなんて勿体ない。せっかくの海外旅行なのにホテルに閉じこもる必要なんてないしね。
「そんなのは大湊に戻ってからでも出来ます。他の皆に大湊でバカンスしろと?」
駆逐艦を筆頭にウキウキで旅行鞄をパンパンに膨らませてたのは知ってるだろうに……提督だってちゃっかりそれっぽいシャツとか持って来てるのは俺の洞察力の前ではバレバレだからな?
「昨日今日の出遅れを取り戻すように遊び尽くすのが一番です」
問題点はローテーションで揉めそうなことと寝不足や食べすぎの人が出ること、財布の紐が緩んで素寒貧になる人が確実に現れること。
「でも君は」
「ん?」
俺の頭の中が既に遊ぶ気満々で、既に提督の説得に成功した場合の事ばっかり考えてるのに目の前の提督はまだ気を遣う気でいるらしい。
流石にそこまでされてちょっとイライラしたから少し威圧して返答する。
考えてもみろ。青い海、青い空、白い砂浜───そしてキャッキャウフフする艦娘。
うん……何とも思わないね。残念なことに目が肥えすぎてしまったらしい。
でも、海防艦とかが遊んでるのは見てて和むかもしれない。
絶対に誰かは砂浜を走って体を鍛えようとするだろうけど、それはそれだ。
「まぁ、1回寝たらどうです? きっと疲れてるんですよ」
「1番気疲れさせてくれたのによく言うよ」
「それは……」
それを言われちゃあ俺に勝ち目はない。本当に済みませんでしたと平謝りするしかない。
何が何でも明日はみんなを遊ばせるよう、ついでに自分も楽しむように釘を刺してから提督の部屋を後にした。
「すみません。ナメッ○星での激闘を見届けに行ってたので……」
これが部屋に戻ってから、怒り心頭の夕張さんに放った言い訳である。
いやぁ~宇宙の冷蔵庫は強敵でしたね……流石に厳しいか?
「ふ~ん……感想は?」
「やはり
「やっぱり?」
さっすが夕張さん、
多少の制限があったとしても3回は凄いよねって話だ。
「まぁぶっちゃけると提督のところに行ってたんですけど……見せた方が早いですね」
スマホの大湊の艦娘専用のLINEのようなモノに明日からの休暇のローテーションを各自で話し合うようにってメッセージを入れると、すぐに既読が沢山ついてメッセージが爆速で流れていく。
夕張さんも画面を食い入るように見ている。
だいたいの反応は好意的なもので、それらの反応を見てしてやったりって感じになった。
『で、絶対安静って言われてたアンタは何やってんのよ』
「あっ」
痛いところを突いてくるメッセージが見えた。
これに便乗して俺を叩くメッセージが一気に増えた。けど、そのどれもが思いやりを含んだものであることを俺は知っている。
『明日は一日中私が責任を持って甘やかすから安心して!』
「えっ……すぐ目の前に居るのになんで宣言をする必要があるんです?」
「もう逃げられないでしょ?」
ベッドに入って不貞寝した。
おかしいな?
今回から深海棲艦成分は抜けてゆっくり遊ぶつもりだったのに、深海棲艦成分が抜けただけでお遊びになってないぞ?
……味の無いガムみたいなものだな!
次はそこそこ早くできると思います。