シナリオは今回も進みません。
「それで? 盾を作ると言いましても、私たちだって作ったことないので勝手が分かりません。私たちはやりがいのある仕事が出来て良いんですけど、その間貴女は何をするつもりですか?」
「それは……」
明石から放たれた一言で冷静になる。
確かに、目が覚めない重症患者なら仕方ないけど、目が覚めた野良艦娘をただ居候させる訳にもいかないだろう。深海棲艦と戦争している以上
それに、間宮さんの飯をタダ飯にするのは、戦っている艦娘に対してかなり失礼なことだろう。
だからといってほとんどの艦娘と顔を合わせたことが無い上に正式な艦娘ではない……違法入国してきた怪しいヤツに仕事が振られるかと言われたら、そんなことあるワケないじゃんって笑われてしまう。
「こっ、工廠とかの清掃くらいしか出来ませんが……見捨てないで貰いたいなぁ〜って……」
情けない上に汚いやり方で嫌になるけどこうする以外に思いつかない。鎮守府から見捨てられたら終わりなのは間違いない。ホームレスになるし、なんなら純粋な人間じゃない以上人権があるかも分からない。
「どうしてそうなるのよ! スーちゃんは明日、提督の執務室に連れて行く! そこで今後のことについて提督から話を聴く! それでいいでしょ!? 明石!」
「えぇ。……聞き方が悪かったですね。ごめんなさい」
あー……確かに提督が夕張に後日ホニャララって言ってたな。後日って明日かよ。後日(明後日以降とは言ってない)みたいな?
「あーもうっ! 明石の所為で変な雰囲気になっちゃったじゃない! 明石! 後で大淀さんに明日の昼過ぎに提督の時間空けておくように伝えておいてよ!」
「分かったから、そんなに怒らなくてもいいじゃない……ごめんなさい。ただ手持ち無沙汰な時間をどうするか気になっただけで」
「いいえ、こちらこそ変な事を言いました。明石さんは心配してくれたいたのに、変な解釈をしてしまいました。私の方こそごめんなさい」
「本当ですよ……捨てるために拾うなんてことはしません。もう少し物事を前向きに捉えるようにしてみたらどうですか?」
これは前世から言われてきたことだ。こう言われたってことはやっぱり俺は俺なんだな。……だったら返す言葉もこうだ。
「善処しますが、期待はしないでください」
「いいえ、期待しておくので曖昧にして逃げないでください。……夕張もそう思いませんか?」
「そーそー。物の捉え方一つで世界は案外簡単に変わるモンだよ~? 私も期待してる♪」
うえぇ……この返しは初めてだぁ……逃げ道が塞がれたぞ? まぁ、善処するって言ったからちょっとずつ頑張っていけばいいや。少しずつだよ少しずつ。いきなり変えろなんて言われてないんだし。
「ハードルを上げてきますねハハハ……。ん? 明石さん。妖精さんが何か渡したいものがあるそうですよ」
「あら、ありがとう妖精さん。……これは?」
いつの間にか近くに来ていた妖精さんはクリアファイルを持っていた。
なんて眺めていると紙を持った妖精さんは離れ、そこに他の妖精さんが群がっていって揉みくちゃにされていた。
クリアファイル……あぁ、覗くなって言われたヤツか。
なんて呆然としてたら、先に紙を見てた明石と夕張が呟いた。
「設計図ね」
「あ~こんな時間になっちゃったか~……スーちゃんはもう寝なさいよ。明日、提督のところに連れて行くから体調整えておかなきゃいけないでしょ?」
「そうです。まだ病み上がりですからゆっくり休まないと。ベッドはあの部屋にありますよ」
夕張と明石にそう言われて外を見る。確かに外は暗くなっていた。
提督のところに連れて行くってのもあるだろうけど、なんか適当な理由を付けて追い出そうって感じがする。釈然としないけど従おう。2人だって俺に付き合い続ける以外にも時間を使いたい筈だ。それを邪魔するわけにはいかない。
まぁ、提督なんてお偉いさんと対話するわけだから、イメージの4つや5つはしておかないと緊張でガチガチになってしまう。寝落ちにもピッタリだからやらない理由はないか。
「それではおやすみなさい。明石さん、夕張さん、妖精さんたち」
医務室に向かう扉を閉めながらそう言う。扉の向こうから夕張の「また明日ね〜」なんて声が聞こえた。
横になって明日のイメージトレーニングしようと思ってたらいつの間にか寝落ちした。
「新しい朝が来たっ……なんてな。フフッ」
目が覚めて一人で呟いて笑う。外は明るいが寝過ごした感じの空の色ではない。俺の体内時計は六時半頃だと告げているからそのくらいの時間だと思いたい。
部屋には俺以外に誰も居らず、外は案外静かなものだと思う。『艦これ』に出てくる艦娘は三百くらいだったか? それが鎮守府という敷地の中に居るんだからもっと騒々しくても良いと思うんだが……
そう思ったがすぐに出撃や遠征のことを思い出し、常にそれだけの人数が居る訳がないと勝手に納得する。
近くの台の上には水の入ったペットボトルと何かのファイルと……いつの間に作ったのだろう、深紅と黒の色をしたセーラー服。紛れもなくあの妖精さんが作って俺がずっと着ていた服だった。踏まれたら痛そうな金属のブーツまでしっかりと用意してある……ん?
「なにコレ?」
服の下には薄い冊子があった。
「ちょっとバカな貴女へ? へぇ~……ハァッ!?」
タイトルだけならまだ良かった。だけどこの中身は喧嘩を売ってるとしか思えないから俺の怒りは当然だろう。「日々の髪のお手入れ」だの「服の着方」だの「女らしい仕草」とか……今すぐ死んであの世に行って
そう憤っていたのも束の間、部屋の外から「起きてるみたいですど入ってもいいですか?」なんて声が聞こえてきて焦る。この冊子だけは隠しておかないとマズイ。
「だ、大丈夫です!」
冊子は丸めて布団の下に押し込む。多少の折り目は付くけど秘密がバレるのに比べたら些細な問題だ。
「おはようございます明石さん。何か御用でしょうか?」
「おはようございます。提督のところに貴女を連れて行く時間ですけど、提督もお忙しい身なので、出来れば今から30分後に連れて行きたいと思っています。準備しておいてください」
「分かりました」
それだけ言うと出て行ってしまった。居られると困ることが多すぎるけど、連絡がかなり事務的な内容だったから実は嫌われてるんじゃないかと勘違いしそうになる。
それにしても困った。30分後っていう余裕の無さもそうだが、その時間内にしっかりと服を着られるかが問題になってくる。枕から
「止む無し……か。恨むぞ妖精さん」
結果はというと、髪に癖が付いているものの、服装自体はしっかりと着ることができた。「服着るだけだろ」なんて思ってたけど、実際はブーツを履くのにかなりの時間を使った。
前を進む明石は一言も喋らずに提督の執務室へ歩を進めている。……なに? 俺殺されるの? せめて一言くらい掛けて欲しい……もう既に緊張で胃が
「ここです」
ここです。じゃないよ……
次回!
「偉い人の判断」デュエルスタンバイ!