私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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163話です。

睡眠不足 → 脳内麻薬がキマる → 脳に宇宙を宿す → 一時的狂気を発症
→今ここ (深夜テンション!)

変態作者(わたし)の毒牙にかかった可哀想なキャラの話です。
好みがだいぶ分かれそう。


1章 ~幕間②~

・時間と孤独に侵されて

▼――――――――――

 

 私は沈んでしまいました。

 魚雷に被弾したのが致命的だったみたいです。

 

 海底で目が覚めた時は慌てて酸素を求めたけれど、沈んでしまった影響なのか全然苦しくなくて、水を吸って水を吐いてを意味もなく繰り返しました。

 海の上に戻ろうと藻掻きましたが艤装がもの凄く重たくなっててちっとも動かせなくて、外そうにも引っかかってしまったのか壊れてしまったのか、錆び付いてしまったのか、いくら触っても外れなくて。

 

 幸いにもあまり水深のある場所じゃなかったので、どうしようかと混乱する頭を落ち着ける為にも、海面を眺めました。

 

 近くにまだ艦隊が居るのなら見つけて欲しいです。

 

 

 

 しかし誰かが見つけてくれることはなく、何回か水底で夜を過ごしました。

 誰かが隣に居る訳でも無くて、お腹が空かないからご飯も要らない。呼吸すら必要ない。運が悪い事に通信機はダメになってるみたいなので助けも呼べません。

 やる事と言ったら、眠たくなる度にこれは夢だって思い込んで、目を覚ましては目の前に広がる光景に絶望して、涙を流すことくらい。

 

 このまま心まで艤装と一緒に錆び付いていくのかな……

 

 そう落ち込んでいたら視界に潜水カ級が現れました。

 

『きゃあ!』

 

『……』

 

 驚いて砲を構えようとしても全く持ち上がらなくて、叫んだ時に口から泡ではなく声が出て、海中なのに喋れるということに気が付きました。

 そして当の潜水カ級はというと、普段から私たちに向けて発射してた筈の魚雷を大事そうに抱えて、おっかなびっくりといった様子で私の方を見つめてます。

 

 ……沈んだから攻撃してこないの?

 

 そんな疑問を持った私も突然現れたカ級にビックリしただけで、よく見て見ると何故か脅威()だとは思えなかったから見て見ないふりをしました。

 そして1つ思いついたことがあったので、ダメ元で潜水カ級に話しかけました。

 

『あの……』

 

 

『もしよろしければ、その魚雷で終わりに……あぁ……』

 

 「してくれませんか?」という言葉を紡ぐ前に逃げられてしまいました。

 艤装の魚雷は綺麗さっぱり無くなってる(撃ち尽くした)し、砲は信じられない辛い重たくて持ち上げられません。仮に持ち上げられても水の中だから火薬は湿気ってるどころじゃなさそうだから……持ってても意味が無さそうです。

 

 今の私はただ海底に縛り付けられている状態です。

 自分で何も出来ないなら雷撃処分を、せめて敵の手で。

 だからと言っても本当にさっきみたいに大人しく終わりにして欲しいかと聞かれたらそんなことはありません。

 

『帰りたい……帰りたいよぉ……』

 

 夕立姉さんのマフラーをぎゅっと抱き締める。

 鎮守府の皆や司令官の顔が浮かんでは消える。

 

『皆と一緒に居たい。独りは嫌……』

 

 せめてお話の出来る誰かが居ればなと思って、直後に何てことを考えてるんだと首を振る。

 “自分が寂しいから誰かも同じように沈んで居れば”

 なんて恐ろしい発想でしょうか。

 

 でも……

 

海底(ここ)は、寒いです……』

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりと海面を眺めるようになってからどれだけ経ったことでしょう。

 間違いなく単位は日じゃなくて月、もしかしたら半年、いや1年以上……?

 

 経過日数毎に外した砲の上に砂利のような小さな石を並べたりもしました。砂利の数が600を超えて、手の届く場所にそれっぽいものがなくなってからは砂を積み上げるような真似が途端に馬鹿馬鹿しくなったので止めました。

 

 随分前には捜索とか来ないかな? なんて思ってみたりもしましたけど、そういえばここは日本近海じゃないから期待は出来そうに無いかなぁと自嘲交じりに振り返ることも一度や二度ではありません。

 軍艦時代のような大きさなら兎も角、途轍もなく広大な海から自分1人を見つけるのは簡単じゃないことくらい分かってます。

 深海棲艦の脅威を加味しなくてもコレなのだから、深海棲艦に気を割きながらの捜索に出ようなんて提案なんて到底出ないであろうことも。

 

『……』

 

 ふと、近くに落ちていたマフラーに目を配る。

 藻に侵食され過ぎてて根本的なところから変質、変色しているように見えます。

 

 腕を前に出して海中に漂う自分の髪を梳く。

 遠い記憶にある水死体の様に真っ青……病的なまでに白くなった腕と、同じように海に色が溶けてしまったみたいに真っ白になった髪。

 

『変わっちゃったね』

 

 今もこうして自分(自我)があることは果たして幸運なのか不運なのかよく分かりません。

 

 全く動かさない足の感覚が無くなったのはいつから?

 司令官や皆の顔の輪郭がぼやけ始めたのはいつから?

 いつから狂うことに救いを見出し望むようになった?

 

海底(ここ)は何も変わらないよ……』

 

 海底を寒いと感じなくなったのはいつから?

 

 

 

 

 

 どれだけの時間が流れただろう?

 やる事なんて無くて、出来ることと言ったら辺りを見回して呆ける事か海面を見上げて呆けること、目を瞑って靄のかかった過去に思いを馳せるだけ。

 

 ようやく、自分の考え事には意味が無いと気が付いた。

 

 今頃は別の(春雨)が建造されて頑張ってることだろう。

 鎮守府の皆は別の(春雨)と楽しくやっているだろう。

 きっと司令官は別の(春雨)に笑顔を向けているんだろう。

 

『……』

 

 どうせ誰にも聞こえないんだったら幾らでも私の好きなようにに呪詛でも吐いてやろう。

 どうせ誰の記憶にも残ってないならいっそ深海棲艦のように振舞って記録に残されるのも悪くない。

 

 ……(春雨)はこんなことを考えるような艦娘だったっけ? きっと違った筈だ。

 ではどんな艦娘だったっけ? ……忘れてしまった。

 

 永い時間を掛けて少しづつ湧き出していた怒り、恨み、辛み、嫉み、妬み。

 宛先が分からず溜められていたこれらの感情の矛先が艦娘───かつての仲間たちに向けられるようになっているのが自分自身でも感じられる。

 

 でも、仕方ないよね?

 誰も私を終わらせてくれなかったんだから。

 

 何度同じ思考を繰り返しただろう? そう思っていた時に遠くの方から聞きなれない音が聞こえた。

 酷く新鮮に感じた音の方向に目を向けると、海面に光と影が1つずつ見えて、その光がなんとなく艦娘ってことが分かった。

 そして影がイ級で、どうやら海上で交戦しているらしい。

 

 最初は長い間隣人だったイ級を応援しようかと思ったけど、何故か艦娘であろう光から目を離せない。

 艦娘に対してはさっきまでアレコレ考えていたようにベットリと黒い感情がこびり付いていた筈なのに。

 さっさと沈んでしまえと思っていたのに。

 私と同じ目に遭ってしまえと思っていたのに。

 

 その筈なのに。

 

 なのに……。

 

『暖かい……』

 

 海の上の太陽とはまた違う光から目を逸らせない。

 冷え切っていた心、身体に染み渡るような心地良い暖かさを感じる。

 さっきまで抱いていた艦娘に対する黒い感情なんて、この感覚に比べたらどれだけ小さくつまらないことだったのか。

 

 そうこうしている内に交戦地点は真上まで来ていた。駆逐イ級相手に結構時間を掛けてるから艦娘の方はまだまだ弱いんだろう。……ほら、魚雷を外した。

 そして外れた魚雷は勢いを失くして近くに降って来た。

 

『……』

 

 一時期は自決するために切望して止まなかった魚雷が今、手の中にある。

 

『……ここから離れられる?』

 

 直感的にそう感じた。

 そして何も考えずに重りのようになっていた艤装に魚雷を叩きつける。

 躊躇いなんて無かった。

 

 

 

 海底に縛りつけられる生活に突然の終わりが到来した。

 浮遊感に気持ち悪くなりながら、海面に進もうとする。

 

 春雨()の艤装は海底に捨ててきた筈なのに、いつの間にか無くなった足の部分に艤装があった。

 

 海上に出て、忘れかけていた太陽の眩しさに思わず目を眩ませる。

 風、波、水平線、雲。これら全てが懐かしく感じた。

 

 後ろ姿を見た感じだと見たことない子だった。

 こうして見ると意外と憶えてたんだなぁと内心ビックリしながらも、観察する。

 なんと言うかすごく眩しかった。暖かく感じた。

 彼女から感じる暖かさは記憶にあるものとそっくりでそう、まるで───

 

司令官?

 

 そう思った時に彼女は前進しようとしていた。

 

 待って! 置いていかないで!

 私を独りにしないで!

 寒いのはもう嫌!

 

 だから───肩を掴んだ。

 

『行かせは……しない……よっ!』

 

 沈めたら一緒に居られるよね?

 

▲――――――――――




・駆逐棲姫

元佐世保の春雨。
長い間海底に居たので色々と壊れた。ちょっと病んでる。
“何故か”暖かい光を持つ主人公にご執心。
わざわざアメリカまで付いていった主人公ガチ勢。

今は念願を果たせてご満悦。
2人なら、寒くいないね。
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