私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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165話です。

クソ難産でした。
いろいろおかしいところがあるかも(毎度おなじみ)
でもある程度の方針を決めることが出来たのでヨシ!

湿気ヤバくて頭おかしくなりそう。なった。


沈黙、情報、天秤

 退屈とは無縁だった。

 

「ここで大胆な隠し味! ……待って! どうして持ち去るのぉ!?」

「連日のお菓子パーティーは太るから止めろって? 少しくらいは愛嬌だよ!」

「ご主人様! 今日はなんとスチュワートにメイド服を『ぬるぽ』 ガッ! あれ? 意外とこのノリに着いてくる……?

 

 個性的な人たちが居て楽しかった。 

 

「最近は各地から人が来るようになって賑やかになったと、みんな喜んでました」

「おや~まんだ買い出しだべが? いつもこったらほば(こんなところ)ご贔屓どもの~」

「いつもお土産ありがとうございます。──マトリョーシカですか……響さん、ロシアは楽しかったですか?」

 

 “ 前 ”では分からなかった人付き合いも楽しかった。

 

「天城さん、何で空母は競うように私を大破させようとするんですか? ──中々撃破されない上に実戦形式だから艤装のテストや実力を測るのに丁度いい? そんな……」

『そしたら夕立が「誰が相手でもパーティする」って言うからさ、何かの隠語だと思ったわけ。……待てとお座りを覚えさせろ? そんなことしたら噛まれちゃうよ』

「今日は子の日か……初春に胃腸薬を渡しに行かねば」

 

 非日常と日常が曖昧になって、何もかもが楽しかった。

 

また会おう

 

 その言葉を最後にゆっくりと身体が後ろに傾いて

 景色が黒く染まる───

 

 

 

 

 

 まるで寝起きのような感覚を伴って意識が覚醒した。

 波打つ水面を見上げていることから海中に居ることは間違いないと瞬間的に理解して、起きあがろうとしたところで異常を感じた。

 

 何か腰の部分がやけに重たい。

 艤装が妖精さんパワーを失って鉄の塊と化したならしょうがないと思いながら艤装を外そうと腰へ手を伸ばすと、変な感触の物に触れた。

 何事かと視線を下げると、駆逐棲姫が腰をガッチリ掴んで腹に顔を埋めていた。

 

 なんで?

 

 あまりにも予想を超えているからか声が出ない。

 だけど状況は待ってはくれず、俺が起きたことを察知した駆逐棲姫が顔を上げたことで目が合ってしまった。

 

『『……』』

 

 ここでフリーズした俺に対して駆逐棲姫は俊敏に起き上がり、今度は胸にハグをしてきた。

 だけど纏ってる雰囲気が絞め落としてやるって感じのソレじゃなくて、まるでお気に入りのぬいぐるみを離さないようにしている子供みたいだから意味が分からない。

 

 そして『もう離さない』なんて耳元で囁いてくる。何を言ってるかは分かる。でも頭が理解を諦め耳が飾りと化し、右から左へと聞き流すもんだから何を言ってるか分からない。

 「孟・ハナサナイって誰だよ」なんて思考を放棄するのが精一杯だった。

 

 これが海中での駆逐棲姫とのファーストコンタクト。

 大体1週間くらい前だったと思う。

 

 

 

『はい、どうぞ』

 

『……』

 

 渡されたのは頭を吹き飛ばされた魚。

 まぁ鱗と内臓さえどうにかすれば食べられないことはないだろうと思いながら受け取ると、腹の辺りからウネウネしたのが飛び出してるのが見えた。

 

 コレを食えと? 多分俺より先に寄生虫の餌になってるぞこの魚。

 なんてことだ、もう食べられないゾ♡

 

 受け取った魚は駆逐棲姫が目を離した隙に足元の砂に埋めた。

 これならそこら辺の子供が作るツヤツヤした泥団子の方がまだ食欲を唆る。食べられないのは変わらないけど。

 

 そんなことを続けたのがこの1週間だった。

 

 

 

 

 現状をどうにかしないといけない。

 そう思い立ったのが今。

 

 当然だけどこんな生活はゴメンだから逃げようとした。

 1度目は暗くなってからそっと逃げたけど追いつかれてボコボコにされて、2度目は海底をコソコソしながら進んでいたら気絶させられた上でこれ以上逃げられないように鎖で岩と繋げられた。

 

 しかも、2度も逃げた前科があるからか駆逐棲姫の隙が明らかに減った。

 今も俺のことをジッと見張っている。

 これは3度目の正直以前の問題じゃないか?

 

『ねぇ、何か喋ってよ』

 

 何回か言われたセリフだけど、何も言うことは無いとばかりに無視する。

 駆逐棲姫の意図が読めないし、得体の知れない不気味さがあるから正直会話もしたくないっていう本音もある。

 

『寂しいの……』

 

 すると急に、今までの生活で初めて出て来た駆逐棲姫のパーソナル的なサムシングが飛び出してきた。

 これは何かしらのヒントを得られると思い、興味があるように視線だけを向けつつも無言を貫く。

 

 頼む。もう少し現状打開に繋がる情報を出してくれ!

 その願いは叶えられ、駆逐棲姫の独白が始まった。

 

 

 

 ───結論から言うと。

 目の前に居るのは艦娘である。

 誰が何と言おうと艦娘である!

 

『……帰ろう』

 

 ガシっと肩を掴んで宣言する。

 

『え? ……えぇーっ!?

 

 ちょっと間が悪くて可哀想な目にあった艦娘の話を大人しく聞いてた筈の俺がいきなりそう言ってきたのを理解した駆逐棲姫、もとい春雨がキョトンとした後に大声を上げた。

 

『喋れたの?』

 

『人のことを何だと』

 

 震える指先で俺を指しなが凄く失礼なことを言われた。

 コミュ障だって随分と改善されたんだし当然喋るくらい出来る。

 

『じゃあ何で今まで喋ってくれなかったの?』

 

『話を聞くまでは駆逐棲姫だと思ってたから』

 

 それについては本当に申し訳ないと謝ったら、どこか責めるような雰囲気が一転して落ち込んでしまった。

 

『その、本当にごめんなさい。私の我儘で沈めてしまって……』

 

 そう謝る春雨は、見た目こそ病的に真っ白になっても根本的な所までは変わって無いように感じられる。ずっと独りで海底に置き去りにされてもこうやって罪悪感を覚えるとか俺には絶対に出来ない。

 

 この春雨の存在は「深海棲艦とは何か」と言う根本的な問題の解決に繋がるかもしれないなんて打算半分、同情半分で春雨の手を引いて進む。

 それに、約束を守る為に大湊に戻りたい俺と独りは嫌だと言う春雨の目的も一致している。

 『気にしなくていいよ』『それよりも、皆と一緒に居たいなら早く帰ろうよ』と慰めながら進んでいると、突然引いていた手を振り払われた。

 

『これ以上はダメ』

 

『何が?』

 

『私だって帰りたい。でも、もうこっち側の一員なの』

 

『ほう』

 

 新しい情報が出てきた。

 “ こっち側 ”について訊くと、どうやら深海棲艦には中枢棲姫による支配体制があるらしく、この春雨もその一員としてこの辺の海域担当にさせられたんだとか。

 ……コレ、特ダネじゃないか?

 

 大湊(ウチ)に居る港湾棲姫はずっと逃亡生活を送ってたらしいので“ こっち側 ”になってない。だから深海棲艦の目的とかについて詳しく知らないのも無理はないと考えると中々良い線行ってると思えてくる。

 何だろう、春雨を叩けば叩くほど情報が出てくるような気がしてならない。

 ベストは大湊に連れて行くことなんだけど、“ こっち側 ”の事情で今は無理そうだし…….

 

 だったら俺が帰らなきゃ良いだけだよなぁ?

 

『じゃあ一緒に居ようか』

 

 そう言いながら引き返して春雨の手を取る。

 おお、そんな驚いた顔をしなくても……

 

『いいの?』

 

『その中枢棲姫とやらに「どうして人間を襲うんですか」くらいは訊いても良いでしょ』

 

 マジの戦闘民族だったら救いようが無いけど、そうじゃなかったら何かしら打てる手はある筈だ。

 それに、仮に中枢棲姫に接触しないにしても他にも言い訳は沢山あるんだからな。あんな話を聞いて置いていける精神はしてないとか、大湊に帰るにしても早すぎるとなんか白けるとか。

 

『あとは……そう。これからよろしくね』

 

『……はい!』

 




主人公補正によって正気を失いません。なんてことだ……
急遽、駆逐棲姫ちゃんを撃破せずに済ませられないか考えた結果こうなりました。

元々の予定はもっと酷く、ガチヤンデレと化した駆逐棲姫に主人公が依存されたり、その結果主人公の理性や尊厳がぶっ壊されて共依存みたいになってそのままズブズブの……となったあたりで作者が正気に戻った。
シナリオ壊れる^~
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