私の名前は「      」   作:捻くれ餅

169 / 180
168話です。

前回に引き続き、オロジナル設定もりもりです。
会話回なので面白くないかもしれません。


機会、理由、進展

『確保完了』

 

 驚愕に埋め尽くされる頭に響くその言葉は死刑宣告にも聞こえた。

 

 こんなに沢山の深海棲艦が居る中でわざわざ声に出すと言うことは確認と周知を兼ねているに違いない。……それにしてもなんで? 何かそんなにマズいことした?

 いや、潜在的敵だらけの状態で迂闊に接近を許したからこうなってるんだろうけど……ああ! まともな結論が出せる気がしない!

 

『ありがとう。わざわざごめんなさいね』

 

『いい。これまで以上の協力を宣言されたからには不穏分子の排除は尤もだ』

 

 嘘だろ、排除されるの?

 しかも不穏分子ってなんだよ。確かに蟹製のお面はちょっと奇抜だけどそれだけだし、さっきよろしく言ったじゃねーか和風な装いしておきながら滅茶苦茶かよ。お淑やかさの欠片も無ぇな。

 何してくれやがると思いながら和風の深海棲艦を睨むけどどこ吹く風。苦手なタイプだ。

 

『さて……コレを連れてきたのは?』

 

 そんな俺を一瞥して何とも言えない顔をした中枢棲姫がそう言うと、視線が氷雨に集まる。

 そんな氷雨の視線は俺と周りの間をしきりに行ったり来たりしてる。

 

 助けて! 助けてヘルプミー!

 いや やっぱり無関係を装ってくれ!

 あ、でもちょっと助かりたいかも。

 

『えっと、私です……はい』

 

『ほぅ? 何処で拾ってきた?』

 

『それは……』

 

 言い淀む氷雨の視線が俺に助けを求めている。

 俺を見捨てても良いのか助けた方が良いのか決めかねてそうだから、任せろと視線で訴えたら明らかにホッとした様子を見せた。意図せずに他人の生殺与奪権が与えたれると困るのはみんな同じか。

 じゃあ、と覚悟を決めて後ろで押さえられた腕、その先の手首で押さえてる深海棲艦の腹をタップアウトして降参する。

 流石に世界共通の言語だから通じるよね?

 

 通じた。

 それでええっと……何処で俺が拾われたって話だ。まるで勝手に拾ってきたペットみたいな扱いなのは不服極まるけど、所詮俺は降参せざるを得ない敗北者だし我慢しよう。

 さて、この質問に嘘を吐くのは簡単だ。だけど嘘を吐いたら頭をブチ抜かれる可能性も捨てきれないから大人しく従うしかない。

 取り敢えず会話する以上、最低限のマナーとして蟹の面を外すことにした。

 

 

『大湊警備府から来ました』

 

『随分素直に答えたな。何が狙いだ?』

 

『深海棲艦が戦う理由が分からないから、知りたいと思った』

 

 どうだ? 嘘は無いぞ。

 

『意味も分からずに戦うなどまるで人形だな。それを知ってどうするつもりだ?』

 

『そんなのは……今から考える!』

 

 開き直るしかない。

 だって分からないものは分からないし、知らないものは考える事すらできない。これ真理。

 

『そうか。ならば……我々の戦う理由は 無いよ(・・・)

 

 マジかよ。

 

 

 

 

 

 まさかまさかの理由が無いと来たか。想定の中で最悪と言っても良い。

 何かしらの理由があれば良かったんだけど、中枢棲姫の言ってることが本当だとしたら深海棲艦はただただ人間を襲うだけの存在で、そんなのもう災害の類だ。

 つまり深海棲艦とは永遠に理解し合えない。港湾棲姫と北方棲姫がイレギュラーだっただけか?

 

『そう険しい顔をするな』

 

 半分は冗談だ。

 そう言って微笑んだ中枢棲姫はフワリと移動して氷雨の肩を持った。氷雨がガチガチに固まって、ついでに俺の頭もガチガチに固まった(フリーズした)

 さっきまでの威圧感は何処へ?

 

『駆逐棲姫もまだ新米だったからな。我々と人間、艦娘、そして妖精が争う理由を知らないのも無理はない』

 

『じゃあ……』

 

 教えてくれるなら願ったりだけど、教えてくれるのか?

 

『教えよう。但し、今から話す内容を聞いたからには相応の対応を求めるぞ』

 

 その瞬間、軟化した中枢棲姫の雰囲気が再び威圧的なものに変わった。

 相応の対応なんて言うからには明らかに面倒な内容だって分かるし、いつもなら前置きで『じゃあいいです』って断ったんだろうけど、中枢棲姫と他の深海棲艦からの圧がそれを許してくれない。

 

『我々の戦う理由は、先程の集会でも言ったように海と世界を守る為だが、これは多くの深海棲艦に向けたスローガンに過ぎない』

 

 まぁ確かに、大まかな指針だってあるのと無いのとでは大分違ってくるし……

 

『大湊、日本の鎮守府から来たと言う貴様は当然艦娘の、人間の『大本営』が掲げるスローガンも知っているのだろう?』 

 

『確か……『平和な海を守る為』だったと思う、ます』

 

『そう。ここで肝心になってくるのは守るべきものや倒すべき敵に対する認識が我々と大本営で違っていることだ。大本営側が我々のことをどのように認識しているのかは大体察しが付くが、我々としては大本営……もっと言うなら人間だが、彼らを意味も無く積極的に攻撃しようという気は無い』

 

『『 え? 』』

 

 予想してなかった言葉に混乱する。氷雨も困惑したような顔をしている。

 

『意外か? 再三言うが我々のスローガンは海と世界を守る為に戦うことだ。そしてこれも集会で言ったが、我々は海や世界を人間の好きにはさせないように戦っている。つまり……』

 

『人間が海に干渉しないなら争いは発生しない?』

 

 でもそんなの嫌だよ。魚食べられないとかさぁ……拷問だぜ?

 

『その通り。……と言いたいところだがそれでは争いは止められない。我々の守る対象は海だけではなく世界だということだ』

 

 ……つまり海だけじゃなくて地球そのものに干渉するなってこと? つまり人間は地球から出てけってことか? もしくは大人しく滅亡してくれと?

 超大型コロニーで地球から脱出なんてSF映画の世界なんだけど……どうすりゃあ良いんだよ!

 

『勿論地球に、海に一切干渉するなという不可能を求めるほど我々も厳しくはない。……話を戻そう。つまりだ、我々は人間が地球上で好き勝手し過ぎていることを抑制するために戦っているんだ』

 

『その好き勝手のし過ぎって具体的にはどういったものが当てはまるんですか?』

 

 氷雨が中枢棲姫に質問する。

 すると返ってきたのは、ごく当たり前の言葉だった。

 

『一番は自然破壊だな。海や川での漁、森の開拓。これ自体は昔から行われているから特に咎めるつもりはない。人間にも人間の生活があるからな。しかしだ、昔の自然と一体となっていたそれらは姿を消した。今の人間は過剰に魚を獲り木を倒し余ったものは捨てる。心当たりはあるんじゃないか?』

 

 心当たりがありすぎる。

 確かに自然破壊は人間の得意技だ。これはどう足掻いても否定できない。

 でも漁師には漁師の生活があるし、増えた人間を(高層建築)で生活させるのにも限度はある。

 

『しょうがない部分もあると思うんですが……』

 

『だが限度というものがあるだろうが!

 

 後ろで中枢棲姫と俺たちの話を聞いていた深海棲艦がいきなり怒鳴りだした。

 

『2度に渡って行われた長い争いは多くの犠牲を出したものの終わりを見せた。だけどその後は?』

 

『……平和になりました』

 

『ああそうだ。人間は呑気にも平和を享受している。技術の発展や進歩? それがどうした!? だったら何故自然破壊は止まらない!? 空気や海は汚され、人間以外の命が消え続けるんだ!?』

 

『……』

 

 耳が痛いってレベルじゃない。

 思わず苦い顔になる。

 

『平和になったんだろう!? なら今度は人間が、自分たちで荒らした地球を守る番じゃないのか!? 散々荒らしておきながら人間たちは自分たちの事ばかりで地球(ほし)のことを考えない! こんなの……こんなの!』

 

『気持ちは解るが落ち着け。……とまぁ、今しがた南方棲戦姫が言ったのが我々の戦う理由の全てだ。我々は地球の怒りを背負っている』

 

『人間も人間で自然破壊を始めとする環境の問題は重く見てます。だから深海棲艦の主張も会話を通せば、ああそっか』

 

 敵対しちゃってるもんなぁ……当然人間サイドは深海棲艦の目的なんて聞いてないし聞いても信じないだろうし、襲ってくるから艦娘と妖精に撃退してもらってるって認識で。

 深海棲艦は人間に物申したいけど艦娘と妖精(ガード)が崩せないから言葉が届かない。会話や対話が出来ない。

 

 要するに艦娘と妖精さん、そして深海棲艦の両方がいがみ合ってる現状を仲裁できる第三者が居ないのか。

 

『分かったか。非常に残念なことに我々は初手を間違えてしまったんだ。今はもう我々と人間の両方が対話の席に着いていない。だから我々は無理矢理にでも人間を椅子に座らせる必要がある』

 

 今はもうこの有り様だからしょうがないにしても、ファーストコンタクトを致命的に間違えた深海棲艦の初代トップは絶対に俺よりコミュ障だぜ?

 

『過去にも貴様ら……君たちのような艦娘と深海棲艦を繋げられるような存在は居たんだ。だが失敗した』

 

 多分これは如月のことだと思う。

 恐らく失敗の原因は、如月に深海棲艦の意思を伝えずに鎮守府に送り込んだこと。

 艦娘や妖精さんなら深海棲艦の戦う理由を知っていると思ってたのが前回の間違いだったのかもしれない。

 

『今回は貴様……君たちに願っても良いか?』

 

 あれだけ威圧的だった中枢棲姫が、溜めてた鬱憤を吐き出した後の子供のように弱々しく見えた。

 

『この通りだ』

 

 そしてなんと、頭を下げた。

 相当参ってたんだろうなと思うと、何とも言えない気持ちになる。

 

『ねぇ』

 

 肩を持った氷雨が声を掛けてくる。

 その目に強い意思が宿ってるのを感じた。

 

 なるほど、やるのか。

 頷き返事とした。

 

『『 任せてください 』』

 




まるで最終決戦前の一場面のようだぁ……

・中枢棲姫
目標と変わらない現状に板挟みになってた可哀想な御方。
人の前だとトップに相応しく在るように偉ぶってるけど、根っこの部分は指揮官に向いてないとは多くの姫級の談。
人間は素晴らしいと思っている。環境に対する意識の低さに目を瞑れば……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。