昨日も上げてます。お間違えの無いよう……
今日は進みます(少し)
「ここです」
ここです。じゃねぇよ……。千尋の谷の底に叩きつけるように落とさないで? 俺何か明石を怒らせるようなことしたっけ? 心当たりがないんだけど……
唾を飲み込んで深呼吸。まだ、まだ意識はあるし緊張のあまりの吐き気はしない。まだ舞える……俺はやれる。
ノックを3回する。2回だっけ? それはトイレだっけ? まぁいいや3回で。
木製の扉は木特有の奥に響くようなコンコンという音が出る。
デカい扉に手を掛ける。よく手入れがされているのか重そうな割にはスーッと開いた。
「失礼します……」
そう言って部屋に入る。目に入ったのはシンプルな造りの部屋だった。本棚が沢山あるが圧迫感や窮屈さを感じさせず、朝方だというのに暗くない。
執務机の上には数多の紙束が置かれ、綺麗に清掃されていて、無駄なものが殆どない部屋との違いに違和感を覚える。
……提督ともなると優雅にティータイムもするんだなぁ。なんて、雑多な物が綺麗に並べられている棚に置かれた物の中で、一際存在感を放つティーセットを見てそう思った。
視線を執務机に戻すと、その机の主は俺が来たことに反応して、執務中だったのだろうか、顔を上げてこちらを見た。
「おはよう。昨日はよく眠れたかね?」
「おはようございます。お陰様で元気です。ありがとうございます」
「それは良かった。それで、君に来てもらったのは他でもない。君について話を聴きたい。簡単に言うなら事情聴取だ。受けてくれるね?」
「はい」
そんな言い方されると断れない。元から断るつもりなんてないけど。
まぁ、事情聴取は予想通りだ。提督がどこまで詳しく報告を受けて何を知っているのか俺は知らないけど、単艦で駆逐棲姫に挑んでズタボロで、しかも見たことが無い艦娘。
俺が提督の立場でも助けるまでは全然オッケーだけど、そのあと絶対に事情の説明を求めるだろう。
むしろ容態が安定し次第、拘束や監禁されなかっただけ余程マシなんじゃないか?
視線を提督から逸らす。提督の両隣には二人の艦娘が居て、一対一で話し合う事を想定していた俺の精神に大きな揺さぶりをかけていた。
その内一人は大淀。恐らく、提督の机の上にある書類の処理をしていたんだろう。二次創作でもだいたいその立ち位置は変わらなかったし、多分間違いじゃない筈だ。
――目が合った。無表情を浮かべたままこちらを見ている。嘘や矛盾の一つも見逃さないという強い意志を感じる目に見える。
思わず目を逸らす。このまま大淀の目を見ていたら心の中まで覗かれる。そう思って目を逸らしたけど、疚しいことがあるから目を逸らした、なんて思われて突っ込まれたことを訊かれたら終わりだと感じた。
もう一人は長門だ。仮に俺が擬態した深海棲艦だったとして、暴れたりしても対応できるようにここに、提督の護衛の為に居るんだろう。
――目が合った。腕組みをして威圧感を漂わせているが、穏やかな顔をしている。俺が
「二人は長門と大淀だ。ここには
気にするわ! 大した用事じゃなきゃ終わるまで待ってるから! もしくは一時退出を促せば良いんじゃないの? それをしないってことは何かしら今からの会話に関わってくるってことだよね?
……なんて思ってても言えないし言わない。口は禍の門、その一言で何が起きるか分からない。だったら極力気にしない方向で……無理だろ。
「それでスチュワート、君は一体どのような経緯であの傷を負い、ここに辿り着いたのか、聴かせてもらえるかな?」
うわぁ……予想通りの質問だけど
取り敢えず、転生関係と食糧事情は言わない方向で話していけばいいか。何か訊かれたら「知らない」と「妖精さんがくれた」で良いだろう。妖精さん、オラに力を分けてくれー!
「私は――」
それからは語った。語るに落ちたんじゃないかって自分で錯覚しそうになるくらい語った。
スラバヤでとある妖精さんから造られたこと。
妖精さんに従い日本へずっと移動していたこと。
日本を目前にして駆逐棲姫に捕まったこと。
コミュ障拗らせた俺は半ばパニック状態。
身振り手振りで何とか伝えようとして、語彙力の無さに恥ずかしくなって、あとはなるようになれって感じで諦めた。
「――そして今、ここに居ます。これが私の話せる全てです」
「そうか……それで、君の言っていた「妖精さん」は今どこに居るんだね?」
「妖精さんは駆逐棲姫に特攻した時にその……。最後に「ありがとう」だなんて……気の良い妖精さんでした。ちょっと変なところもありましたけど、旅の道連れだったんです」
良し! これで多分ひと段落はするだろ。最後まで殆ど嘘 “は” 言ってないつもりだけど、大淀はどうだ? チラ見する。
「では貴女は今、どこにも属していないんですね?」
手元の紙に何かを書いてるみたいだけど、角度的に見えない。議事録とかだったらボロが出そうで怖いんだけど。
「まぁ、そうなります……よね?」
「うむ。胸が熱くなるような話を聴いていなかったのか? 大淀。そもそもどこの鎮守府でもないところで建造されたんだ。どこかに属している筈がないだろう。そうだな? 提督」
「あぁ、長門の言う通りだが少し違うぞ。スチュワート、君はどこにも属していないのではない。どこにも属していな
ん?
「提督、それってまさか……」
「あぁスチュワート、君をこの鎮守府の一員として迎えよう。これは私が判断した決定事項だ」
「えっと」
おぉ? おぉ。
驚きが天元突破してチンケな感想しか出てこない。だって鎮守府の一員ってことはつまり鎮守府ってことだろ? ってことは何? ……安定した衣食住と警察に怯えることのない素晴らしい毎日って事だな!
「これからよろしく頼むよ。スチュワート」
脳内でパニックを起こしていたら立ち上がった提督が椅子から立ち上がり近くに来ていた。右手を出してるからこれは……握手をしないといけないのか!
「こっ、こちらこそよろしくお願いします! 頑張ります!」
提督と握手をする。俺の手が前世よりも小さいからか、提督の手はより大きく、頼もしく感じた。
握手を終えると、後ろから長門が頭を押さえつけてきたので思わず「痛っ」っと言ってしまう。
「おぉ! 済まないな。提督! そうと決まれば今日はスチュワートの歓迎会をするべきだろう! 勿論、許可してくれるな?」
あまりにも突然の話にそれでいいのか? と言いたくなった。いくら何でもやりたい放題じゃないか?
「許可しよう。だが、今日の仕事を終わらせてから、が条件だ」
「ふふっ当然だ。この長門はいつだって全力だ! スチュワートは待っていろ。大丈夫だ、私に任せておけ!」
そう言うが早いか物凄い勢いで書類を捌き始める長門に戦慄する。一体どこからそんなやる気が出てくるんだ……歓迎会って言って、自分たちが騒いで楽しむための理由が欲しかっただけだったりして……
「あ、もう戻っても大丈夫ですよ。明石も呼んでありますので」
大淀にそう言われて執務室から連れ出される。「失礼しました」って言うのも忘れない。
部屋の扉の近くには明石が立っていた。隣の大淀が怖過ぎで、連れ出された時は何処かに連行されるのかと思ってたけど、見知った顔があってなんかホッとした。
「……大淀さん、ありがとうございます」
「ありがとう大淀。さ、行きましょうか。妖精さんが面白い物を貴女の為に作ったらしいんですよ」
「それは気になりますね。一体何でしょうね? あ、それと……これからもよろしくお願いします。明石さん」
「それって……良かったわね。こちらこそよろしくね。スチュワートさん」
あ、なんか柔らかくなった。……やっぱり今まではどこか信用してなかったって感じだったのかな?
執務室から工廠に向かって明石と歩く。
窓から外を見る。
「なんか鎮守府に着いてから現実感が無いです。上手くいき過ぎてる感じで。」
「夢みたい? でも現実だよ」
そんな会話もやっぱり現実感がなかった。
でも、悪い気はしなかった。
提督、心が広い。
※今作は百合は無しの予定です。精神的BLも無いです。
今回は大淀と長門でした。
主人公の人を見る目ガバガバ過ぎて描いてて楽しかったです。