私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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169話です。

遅刻は当たり前…だが遅すぎるなぁ?
ずっとテレビに齧りついてて遅くなりました(建前)
読みたい小説が増えてきたので読んでました(本音)

一応投稿者である前に一人の読者である故……


知識、計画、準備

『……』

 

『人の心が無い。私よりよっぽど深海棲艦です!』

 

 氷雨はご機嫌斜めだった。 

 さっきからチクチク小突いてくるくらいには不機嫌だった。だけどやっぱり根っこの部分は春雨だから口撃もかわいいモンだし、全くダメージがないどころかむしろあの優しい春雨の反抗期(ビフォーアフター)を見てるみたいで微笑ましく思う。

 

『まぁ今は深海棲艦だし。それにしても……』

 

 集会が終わってみると、情報収集とかそういうレベルを超えた結果になったと言うしかない。

 深海棲艦の戦う理由は把握したし、次の目標まで完璧に定まったから只管に突っ走っていける。しかも深海棲艦サイドから支援までして貰えるとか最高かよ。

 大湊の偵察と言う名の襲撃作戦に向けての準備として部下の異動(プレゼント)、艤装の配備(プレゼント)から始まり、作戦中の指揮権の獲得(プレゼント)と充実した、し過ぎたサポートにもう乾いた笑いしか出ない。これで失敗しましたなんて言えないよなぁと、大きいプレッシャーを逃がすように溜息を吐く。

 こう、調子良くまつり上げられた感じがちょっとモヤモヤするけど、まぁ突飛な話だったからこんなもんだろうと自分を納得させた。

 

『こんなことになるとは思ってなかったんだよねぇ』

 

 これも全て『はい。ここにぃ、大湊警備府のことをよ〜く知ってるのが居ますよ?』なんて調子に乗ったことを言った俺が悪いんだよね……。

 

『我々は日本の鎮守府から把握されている。当然だが対策もされている。そんな我々よりも、大湊をよく知ってる上に深海棲艦としては未知数の君を尖兵……リーダーとして征かせたいと思う』

 

 だからそう言った中枢棲姫の言葉はご尤もで、それについては考えさせてくださいって曖昧にはぐらかした。

 まぁ、その後に『旗艦は駆逐棲姫が良いと思います!』なんて言って氷雨を推薦したから今拗ねられてるんだけど。

 

 

 氷雨を旗艦に据えたのは、俺がイ級とかに指揮をしたくないって理由だから。今回はなんとなくっていう理由じゃない。

 だってアイツら《▶たたかう》と《▶にげる》以外の言う事聞かねぇんだもん……実力を見たいって適当に理由付けてチーム分けして演習させたら嬉々として暴れ出してズタボロになるまでバトり始めるのに、纏まって移動しようとすると途端に脱落者が出始めるとかなんなんだよ。

 多少雑に扱っても良いけどまともに動いてくれない駒を使って将棋やチェスをしたいかと言われたら俺は嫌だと言う。つまりそういう事だ。

 

『ガァッ!』『ギギギ……』

『グルルァ!』『グオォ……』

 

 ポンコツどもめ、まだやってら。

 

 

 

 旗艦を氷雨にしたから俺は暇……ではない。

 中枢棲姫も警戒してた大湊の警備体制について一番知ってるのは俺だから、必勝を期す為に作戦を考えないといけないという軍師ポジについてる。

 知ってますよぉ! なんてイキった手前、戦術的ミスは許されないと思ってる。墓穴掘っちまったなぁなんて思うけど大きなミスをしなきゃそれでいいだろう。

 

 そんな俺たちが攻め込みます大湊の警備体制はと言うと、日中は空母が広範囲に艦載機を飛ばしてるから潜水艦以外はすぐに見つかるし、その潜水艦だって低速故に遠征中の駆逐隊からの辻爆雷で沈められる悲しい宿命を背負っている。

 駆逐艦ではちょっと太刀打ちが厳しいような戦艦が居たとしても、だいたい数人の戦艦がいつでも出撃できるように準備してるから警備府に近づいたら最後、沈められる。

 

 夜に攻めると戦艦や空母といった大きな戦力が引っ込む変わりに、日中の間はちょっとだらしない川内さんが鬼神と化す。お供の駆逐艦娘も勘定すると脅威的な戦力になるのは間違いない。こっちの戦艦も使い物にならない状況でこれらを敵に回すのはちょっと無謀だと思う。イ級がどれだけいても夜間の川内さん1人に敵いやしない。

 

 隙が無い。なんて言いたくなるけど、実際のところそんなことは無いからやりようは幾らでもあると思ってる。

 例えばレ級みたいなを大量に嗾けたりとか、大湊近海の資源を徹底的に回収して艦娘の出撃自体を制限させるとか、現実的じゃないから逆に想定もされてないような事態、日頃役に立たなかった妄想がこんな時に役に立つ。

 

 そして今回俺がやろうと思ったのは沖に出た漁船を襲うという選択肢。

 艦娘たちが襲われた漁船を守りながら戦うことを強制されるからほぼ確実に俺たちが有利に戦いを進められるという特大のメリットがある。水雷戦隊にプラスで戦艦と空母も居るけど、数はだいたい決まってるから戦力の予想も立てやすい。あと海賊みたいでちょっとロマンがある。

 

 ただしこっちの駆逐級たちがポカやらかすと漁船と乗組員がヤバいというこれまた特大のデメリットも存在する。深海棲艦としては人間に積極的に害を為すつもりはないのにそれはマズい。

 

『という訳で協力してもらえませんか?』

 

 そんな訳で、駆逐級の扱いが上手いと評判の駆逐水鬼に協力してもらおうと思って駆逐水鬼の元を訪ねていた。

 

『それで私のところにねぇ……自分で言うのもアレだけど所詮暴れる事しか能が無い駆逐級なんだけど……本気なの?』

 

『勿論です。歩の無い将棋は?』

 

『ふ~ん……気に入った。なかなか見る目あるじゃない』

 

『それほどでもない』

 

 握手を交わした。

 駆逐級を作戦の中枢に据える俺が異端なのか、今まであんまり部下に大きな仕事が無かったのか駆逐水鬼が嬉しそうにしている。見て分かる程度にはウッキウキだ。

 

『作戦までしっかり準備しておくから、その時は声掛けてね。たかが駆逐級と侮るなかれ、驚かせてあげる!』

 

『期待して待ってます』

 

 駆逐水鬼とその部下は間違いなくいい仕事をする。

 そう確信した。

 

 

 

 『服装が適当だと舐められるからね』と去り際に駆逐水鬼から渡された黒い布をどう処理しようか悩んでいたら、俺のファッションセンスを見かねた氷雨に奪い取られた。

 一応のリクエストとしては露出控えめとだけ伝えてあるから変な風にはならないと思う。

 

 服装で上下関係を認識する程度には賢さがあったという事実に驚いた。

 渡されたのは布だけだったけど、鋼材を始めとした何かしらの物資から靴とかも作ったりしないといけないのか……

 お洒落って難しい。

 

 

 それはそれとして、今からやるのは野良深海棲艦の討伐。

 俺がやらないといけないことは作戦立案も含めて色々とあるけどその中に俺自身の強化が含まれてる。

 今更野良の深海棲艦程度で俺に何か得るものはあんまり無いと反論したら、俺じゃなくてタコの強化に繋がるんだとか。

 詳しい原理を知ってる有識な深海棲艦は誰も居なかったけど、説明を受けた限りだと蠱毒みたいな感じで俺の場合はタコが強くなるらしい。まるでゲームみたいだ。

 まぁ、道理でタコに無理矢理イ級の肉だとか燃料だとかを捻じ込んでもちょっと大きくなったかな? くらいの変化しか起きない訳だと納得した。変化が起きてる時点で大分普通とはかけ離れてるけど、やっぱりなってくらいの感想が出てくる辺り俺の感覚もかなり麻痺してると思う。

 

 誰かの部下じゃない野良の深海棲艦は戦力も統率もないから余程のことが無い限り人間に損害は与えられない。漁船を守ってる艦娘に倒されるか、遠征の辻魚雷で駆逐されるか、変に鎮守府に近付いて滅されるか。

 その癖に次から次へと生まれる、正に毒にも薬にもならない存在だから好きなだけ狩っても構わないらしい。だったらこの機にこれでもかとタコを強くしたいと思う。

 

『やっぱりお前はビッグにならないとな』

 

 目指せクラーケン! と言うと諦めたように触手をぐったりとさせた。

 タコにとっては嫌な作業かもしれないけど、最近は頭脳労働ばっかりしてる俺にとっては気分転換以外の何者でもないところが悲しいところだよねと、他人行儀なことを考えながらタコの頭を掴んで海を徘徊し始めた。

 

 

 

 

 

 そんな生活が半年くらい続いた。

 

『そろそろやるか』




・駆逐水鬼
部下は駆逐級とPT小鬼だけ。
深海最速の艦隊の長。本人も決して弱くない。
この世界では珍しいナ級は大体彼女の部下。

ゲームで例えるなら
・育成優先度の低いユニットを限界まで育てるニッチなプレイヤー。
・囮などに向く低耐久のトークンやお供を召喚するテクニカルな運用が求められるユニット

どちらにせよ主力にはならないけどお供やフレンドで借りると輝くタイプ。
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