私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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170話です。

お酒に身を任せどうかしてる。
今回はヤバいぞ。私が過去1イカレてる。

前半はギャグ。
後半は知らん。
文字数がいつもの3割増し。

ちょっと修正。


予定、不足、不測

――――――――――

 

「ん?」

 

 ペンを走らせる音しか聞こえない執務室。

 ふと、今日の秘書艦の竹が声を上げた。

 

 何かあったのかと目を向けると、訝し気な目で書類を見ていた。

 書類自体に不備が無いのは確認してるけど……

 

「何かあったかい?」

 

「いや、何でもねぇよ。邪魔して悪ぃな」

 

「そうか。何かあったら遠慮せず言ってくれ」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 そう言って再び書類に判子を捺していく竹は明らかに集中を欠いている。

 だけど、初めての秘書艦としてはかなり頑張った方だと思う。

 普段のぶっきらぼうな言葉遣いとは裏腹に嫌々書類仕事をしてるような雰囲気は出なかったし、真面目に仕事に取り組んでた。ただ、部屋の中でジッとしているのは苦手みたいだったから次からは途中でリフレッシュも兼ねて長めに休憩でも取った方が良いと心のメモに記入する。

 

 だけどそんな感心も束の間、眉間に皺を寄せた竹がとうとう降参だと言わんばかりに判子を机に放った。縁に付いてた朱肉が書類に赤い破線を引いていく。

 

ヤッベ……あー提督。ヒトナナマルマルだ」

 

 罰が悪そうに頭を掻きながら今の時間を言う竹に、まさかと思う。

 また(・・)だ。

 日中と変わらず宙を舞う雪が灯りに照らされていたことが仕事を始めてから随分と経ってたことを証明していた。

 

「ありがとう」

 

 ペンを降ろすきっかけをくれたことに感謝して、お礼を言って話題を探す。

 そう言えば松が竹の作るご飯は凄いって言ってた筈だから、この話題を振ってみようか。

 

「今日の夕飯は竹が用意してくれないかな? 松が自慢してたから食べてみたくてね」

 

「松姉が? ……よし、ちょっと待っててくれ」

 

 そういう竹は肩を回して首と手首、あと指を鳴らしながら執務室から出ていった。

 

「……ふぅ」

 

 誰も居なくなった部屋で息を吐く。

 最近は前よりも仕事に没頭するようになった。今だって、竹に言われるまで昼食から少ししか経ってないと錯覚していた。

 それだけ自分が集中している証拠なんだろうけど、それはそれで秘書艦の子たちがやり辛いだろうとは思う。間違いなく前まではもっとゆったりとした雰囲気だった。

 だけど今はそんなことは言ってられない。

 

 大和の建造。

 あの休暇兼作戦から早くも半年以上。ようやく武蔵との約束を果たせそうだ。

 艤装の修理や改装は一段落した。それでも遠征班には更に資材を集めてもらった。

 

 あんまり武蔵を待たせても不満の種になるだろうと思ってそう計画したけど、大量の資材が無くなることは何時来るか分からない脅威に対応出来なくなることに等しい。

 やっぱりもう少し武蔵には我慢してもらうか……いや、彼女(・・)が何時攻めてくるか分からない。

 

 どうしたものか。

 取り敢えず資材を溜めておけばいざとなった時に柔軟に対応できるだろうと思い、資材を集めさせている。

 逆に、それ以外のやる事が殆ど無い状態。

 それがここ最近の一番の悩みだった。

 

 窓の外を眺めながら考え事に耽っていると頭をパコっと叩かれた。

 

「なに難しい顔してんだ。ほれ、晩飯だ」

 

「あぁ、ありがとう。……?」

 

 お盆の上には麦飯と味噌汁。そして簡単なおかずと、よく分からない物があった。

 萎びた人参? いや、なんだこれは。

 

「ははっ、良い反応だ。『くちこ』って言うらしいぜ。食ったことねぇか? そりゃあ物が無い時は工夫してやりくりするが、やっぱり物が有るってのは良い事だな、うん」

 

 ……聞いたことが無い。

 でも名前が付いてて出回ってると言うならば食べられないことは無いと思う。

 恐らく人参か大根辺りが材料だろう。

 

 一口。

 微かな塩味と、旨味を凝縮したような味が口の中に広がった。

 確かにこれは竹がとっておきだと言ったのも頷ける。

 

 ……原材料を聞いた時は噎せたけど。

 

「竹はこれが好きなのかい?」

 

「ああ。流石にまだ食ったことはねぇが、その内蛇肉とかも食ってみたいもんだ」

 

 鶏肉みたいで美味いらしいぜ。という竹の口からは、とても普通の人が食べたがらないような人を選ぶ……正直に言うとゲテモノや珍味の数々が飛び出して来た。

 松が一言で凄いって言ってたのは自慢じゃなかったと気が付いた。

 

 

 

 

 

 黒ずんだ飛蝗(イナゴ)を食べる竹と一日を振り返る。

 話題は自然と書類整理、そしてその内容に移っていく。

 

「書類仕事なんて今日が初めてだったけど、いい経験だったよ。まぁ、次やりたいかって言われたらやらねーけど。……それより気になったんだけど、資材の収支の表からしてみるとやたらと資源を溜め込んでるじゃねーか。何かあるのか?」

 

 まさかあの戦艦大和の建造かと訊いてくる竹は鋭い。

 当たりとだけ答えて続きを促す。竹の考えを知りたい。

 

「それにしたって溜めこみ過ぎじゃねぇか? いや、足りないよりか全然いいんだけどな。何か引っかかるというか……」

 

 再び感心していたところに聞こえた言葉で、一気に頭が冷えた。

 そうか。いや、そうだったな。

 竹はスチュワートが居なくなってから建造されたから、彼女を知らないのも無理はない。自分は何も言ってないし、竹の様子から誰も彼女について言及してないんだろう。

 つまりそんな竹に戦艦大和の建造を抜きにしても資材を溜めこむ理由を彼女のことに触れずに話すとしたら……

 

「厳しい戦いが後に待っている。その時の為に今から余裕を作っておかないといけないんだ」

 

 こう言うしかない。

 それを聞いた竹は指をパチンと鳴らした。

 

「そう、それだ。他のセンパイたちに聞いても似たようなことばっかり言うんだ。厳しい戦いが待ってる……これは理解出来る。今の内に余裕を作る……これも理解できる」

 

 だけどな、と言う竹の目は真剣だ。

 一瞬たりとも離されない視線からは怒りすら感じる。

 

「過去の資料と比較してみたんだ。するとどうだ、半年前から明らかに哨戒に割く人数が増えてる。演習の頻度も増えた。資材を溜めこみ始めたのもこの頃だ。そう、半年前から不自然なくらいにだ。これが理解出来ねー。なぁ……その厳しい戦いはもうすぐそこまで来てるのか? 大本営からの発表は無かった筈だ。半年前に何があった? 何を知ってる? 何を隠している!?

 

 恐らく無意識の内に机に手を付いて身を乗り出して詰問してくる。

 机が無かったら胸倉を掴まれていたと思うほど激しい。

 軽く注意するとハッとしたように椅子に座った。

 

「……悪ぃ。でも俺だけじゃねーんだ。巻波さん、涼波さん、伊47(ヨナ)さん、伊203(フーミィ)、桃……最近建造された同期連中はみんな同じ疑問を持ってる! なぁ提督……詳しい説明は、してくれねぇのか?」

 

 流石にここまで言われたら説明をしない訳にはいかないと思ってしまう。

 半年前のことを色々と調べたであろう竹がそれくらいの情報しか知らないのであれば、大淀が上手く隠しているんだろう。

 でも自分が説明すると自分が何も言わなかった意味が、みんなが隠してたことが無駄になってしまう。

 

「大淀を呼んでも良いかい?」

 

 だから大淀を呼んでしまおう。

 上手く(ぼか)しながら説明してくれるだろう。

 そう思ったところで待ったがかかった。

 

「……分かった。そんなに話しにくい事なら無理に追及はしねぇよ。だから半年前に何が起こったかはいい。せめて近いうちに何が起こるのか、これだけは説明してくれ」

 

 竹が折れた。

 誰に訊いても無駄だと判断されたのか、だとしたらとても悲しい。

 だからこそ、今言われたことだけは答えなくては。

 

「彼女が来ます」

 

「大淀!?」

 

 さて、なんて言おうか……と悩んでいたら突然開かれた扉から現れた大淀が口にした。 

 あまりにもタイミングが良すぎる。さては何処かからこの会話を聞いていたな。

 だけどそれはそれ。あとは大淀が説明してくれるだろうと思って大淀を見ると、頷いてから竹を見据えた。

 

「大淀さん、彼女って?」

 

「事の発端は半年前。私たちはとある作戦で勝利しましたが同時に敗北もしました。彼女は私たちの前に再び現れるとだけ言って居なくなりました。つまり彼女は来ます。海の底から、私たちの予想を裏切る形で」

 

 流石大淀だと思い、その言葉に乗る。

 

「ああ、彼女は規則(ルール)に囚われはしないけど約束を破ったことは一度も無い。絶対にやってくる」

 

「ふ~ん……つまり、過去の因縁ってヤツだな? 提督も大淀さんも、その他全員が警戒するような強い敵が絶対に現れる」

 

 なるほどな~と、背凭れに体重をかけた竹が言う。

 

「分かった。巻波さんたちには俺から説明しておく。因縁の深海棲艦が来るってな」

 

「「……」」

 

「こうしちゃ居られねぇな。さっさと飯食ってくれよ提督。そんで俺は皿を片付けて秘書艦業務終わり! 提督は疲れてるみたいだからさっさと寝ろ! ……よし。お粗末様だ。じゃあまた明日!」

 

 竹が執務室から飛び出るようにして居なくなったことで、大淀と自分が残された。

 

「因縁の深海棲艦ね……間違いでは無いけど」

 

 やり切れない気持ちでいっぱいだ。

 彼女を知らないとは言え、そう表現されたのは素直に寂しい。

 

「最初に全部教えた方が良かったと思いますか?」

 

「分からない。……当時は、スチュワートを知らないが故に彼女を相手した時に情も無く全力で攻撃出来る子が居ないと勝てないって考えていたんだ。だから何も言わなかった。絶対に沈まないこと、なんて当たり前のことを伝えただけだよ。失望したかい?」

 

「はい。軽蔑しました。当然ですけど私たちにも仲間意識があります。彼女のことを伝えたかった。凄い子が居たんだって共有したかったんです。でも提督が黙っていたのでそれは叶わなかった。とても残念です。……ですが、提督に失望はしていませんよ」

 

「それはどうして?」

 

「提督の仕事は極論を言ってしまえば私たちを勝ちに導くことです。時には、提督だけでなく私たちも苦渋の決断をしなければならない時はあるでしょう……ですが、例え勝つ為だとしても今回のようなやり方はこれっきりにしてくださいね?」

 

「それは勿論。次は無いと約束しよう」

 

 そもそもこうなったのは自分の未熟さの他にも、敵に回った彼女が未知数過ぎるのが原因だ。

 つまりスチュワートも悪い。共犯と言えるだろう。

 

「その約束を破らない限り、私たちは提督に希望を見続けるでしょう」

 

「ああ、もしもが起こらないように努力を続けよう」

 

「ふふっ、頼もしいです。それでは私もこれで……今日の書類は貰っていきますね。お休みなさい、提督」

 

「お休み」

 

 大淀が出ていった扉を眺める。

 緊張が解れて、疲れていたこともあってか一気に眠気が襲ってきた。

 

「……風呂に入って寝よう」

 

 竹の頑張りもあって書類仕事は予定よりも片付いたから、今日はゆっくりと眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんな自分に全く遠慮しない相手は居る。

 次の日の朝、それも日が昇る前に事件は起こった。

 

――――――――――

 




・竹
大湊の新参者。
根っこは真面目で仕事に対しての姿勢は真摯。
アクティブだけど川内や江風の夜のお誘いは断っている。
島風の連装砲の内一匹?から妙に懐かれている。
嫌いな数字は06。

ゲテモノや珍味を食べるグルメ気質。お金の使い道は大体これ
怖い物見たさで一度は、と思っている。
既にホヤやトリュフを始めとした珍味は実食済み。
特筆すべきはシアワーム(食用イモムシ)入りカレー。
当時の松は胃を押さえたとか。桃は逃げた。
シュールストレミングが大湊に持ち込まれる日は近い。


やだ大淀さん怖い・・・
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