前段階のスタート前、スタートです。
吹雪と高波で荒れる海を切り裂いて進む闇と化した集団が進む。その動きは非常にスムーズで停止や減速は一切しない。
どれだけ悪天候でも本調子で動けるのさ。
そう、深海棲艦ならね。
艦娘だったときはマジで寒くて死ぬんじゃないかと思いながら哨戒とかしてた記憶があるけど、深海棲艦になってからと言うもの、寒さをあまり感じなくなった。
寒いには寒いけどまだ我慢できるレベルだと思う。でも氷雨は普通に寒そうにしてるし駆逐水鬼と部下たちは平気そうだから正直個人差だと思う。
陽が沈む前から大湊を目標に移動していた俺たちは、とうとう遠くに漁船のものと思われる光の点を見つけられる程までに接近した。
『漁船を発見。
『『『……』』』
ちょっと茶化しながら話しかけるも駆逐水鬼から調教された駆逐級からの返答は沈黙。数の多さと凶暴さが売りの駆逐級にあるまじき静かさだけど、これは決して牙を抜かれて大人しくなった訳じゃない。
今静かなのは全力を出す為に不必要なエネルギー消費を無くしているからで、実際に全力を出した時は文字通り目の色を変えて暴れ回ることを俺は知っている。
一応隠密を心がけて移動中だから大咆哮を上げるなんてことはして欲しくないけど、それでもやっぱりつまらない物はつまらない。
やはりここは何か面白い事でもして主に俺の緊張を解すべきか?
『下らないこと考えてる顔してる』
『そんなことはない』
『日頃の行いって知ってる?』
まずは手頃なサイズのホタテを探そうかと考えていたら氷雨に窘められた。
この半年、事あるごとにイタズラしてたから氷雨が冷たい。それはもう文字通りの冷たさだ。
でも絶交もとい殺し合いに発展しないのは、氷雨もまたイタズラで仕返ししてくるからだ。ある日なんて目が覚めたらイソギンチャクに頭を突っ込んでいた。というか寝てる間にイソギンチャクを被せられてたことがあるからお互い様ってヤツだ。
何だかんだで氷雨も嬉しいからガチで止めさせようとしないってことを俺は知ってるからな。
『砲身にチューブワーム詰めたのは謝ったじゃん』
『へぇ、弾が出ないと思ったらそんな事してたんだ?』
あの時は弾撃ったら何か出てきて本当にびっくりしたんだけど。なんて言いながら氷雨がジトっと睨んでくる。うん、かわいいね。
『で、漁船が見えたから……何?』
こっちは準備出来てるんだけど、なんて言ってくるのは駆逐水鬼。
ちょっと口が悪いけど、後ろの艤装が
『プランAを続行するよ。作戦通りに行動してね』
事前に仕込んで貰った指示に従って駆逐級が行動を開始する。
プランAの内容は、これから駆逐水鬼率いる駆逐級隊に護衛艦を相手に小規模な衝突をしてもらう。そしてそこそこ粘ったら引き返してもらうこと。
そしてそれを俺が遠くから観察することで、向こうからは俺たちの存在は目の前に現れた駆逐級以外気付かれないが、俺たちは一方的に艦娘達の情報共有が出来るいう寸法だ。
漁船の護衛が任務だから過度な追撃はしてこないだろうし、いざとなった時の撤退も簡単だ。
『さて、どうなるかな……』
今まで漁船の護衛任務に割り当てられたメンバーの大まかな人数配分からすると、駆逐艦娘が3人に軽巡が2人くらいだと思うけど、油断は出来ない。
勝負しましょうなんて煽ったから、警戒されてその倍が出てくるかもしれない。
因みに川内さんが出てくるようなら問答無用で作戦は中止するつもりだ。死神に対して首を差し出すのはバカのやることだからな。
そうこうしている内にドン、ドンと砲撃の音が聞こえてくる。それと同時に漁船の灯りが強くなった。
『おぉ?』
恐らく誰かが上から大型のライトで照らしているんだろう。
考えたな。あれなら夜間の戦闘でも照らされた範囲だけは探照灯が要らなくなる。その分砲撃や雷撃に特化した艤装を持って来られるんだから、それだけ相手が強くなるということだ。
記憶にある漁船にはあんな強力な灯りは付いてなかったし、やっぱり警戒されてるんだろう。
『それでも漁船の近くだけしか照らせないんだけどね』
それに、夏場はそれで良いかもしれないけど今は冬。艦娘の速度で動いたら雪の反射が眩しくて逆に視界が悪くなるかも知れない。それに明るくし過ぎた所為で俺たちからは誰が居るか分かりやすくなったまである。
妖精さんお得意の謎技術によって夜中に太陽を顕現させるなら話は別だけど、ちょっと相手が強くなったってくらいの認識で良いだろう。
『それで艦娘は……球磨さんに能代さんに、松と見たことないのと秋月と、天津風と時津風に……ゲェッ、雪風も居るのか』
ピンクのヤツは誰だ? 艤装からして駆逐艦娘だろうけど、と考えるけど今は置いておく。とにかく予想通り駆逐級の人数が増えてることが問題だ。
それに雪風まで居るとなるとかなり厳しくなりそうだ。運要素を持ち込んだら負けるから、詰みの状況を作って押し付けるように立ち回らないとダメだろう。
夜間だから戦艦と空母は出てこない筈だ。重巡は基本的に警備府周辺の哨戒に回してるだろうから居ないだろうし。潜水艦も海防艦も……いや待て
『何で占守と国後が居るんだ?』
遠征班や哨戒班、艦載機の偵察をすり抜けてきた潜水艦を確実に葬る為にいっつも警備府の防衛してた潜水艦対処のプロフェッショナルじゃん。
俺の知る内では漁船の護衛には配属されたことは無かった筈だけどいやホント、何で居るんだ?
さてどうしようかな……
とりあえず艦娘の面々は確認したから駆逐水鬼には一時撤退をして貰おうか。いくら駆逐水鬼が率いてるエリート駆逐級だったとしてもあの人数には勝てはしない。
『駆逐水鬼、相手の勢力は大体把握したから一回退いて貰える? 追撃に注意してね』
『安心して、そんなヘマはしないから』
そんな通信があってからすぐに砲撃の音が止んだ。
そしてあまり時間を置かずに駆逐水鬼が俺たちの居るところに戻って来た。
『こっちはまだ被害なし。次はどうするの?』
『漁船を港に戻さないように立ち回る』
艦娘たちからすれば、襲ってきた深海棲艦を“追い返した”だけで倒したわけじゃないから、漁船の乗組員のことも考えて引き返さざるを得ない。
そして漁船を港付近まで寄せてしまうと、護るべきお荷物は無くなったと言わんばかりに艦娘達が一転して攻勢に出てくるのは間違いない。そしてそうなると一気に厳しくなるのは目に見えている。
『それは安心して、ツーテンポくらい遅れさせたから』
そしてそれを予防するといった意味では、漁船にそう易々と進路変更させないように四方から包囲するように駆逐級を
『流石。深海司令官金賞は要りますか?』
『要らない』
『そう? じゃあ時間稼ぎ。氷雨、行ってきて』
『打合せ通りね。皆行くよ、引き際を見誤らないで!』
氷雨が駆逐級を連れてまた短時間の接触と戦闘をする為に漁船を襲撃しに行った。
そしてまた漁船を動かさないように四方に散りながら撤退してもらう。そして氷雨たちが戻ってきたら今度は後方に待機してるクソ餓鬼……PTB小鬼と駆逐水鬼に呼ばれてたチビたちをメインにした嫌がらせ艦隊を率いて俺が襲撃を仕掛ける。
『駆逐水鬼たちは休憩して待機。駆逐棲姫が戻ってきたら今度は俺が交代する』
『了解。その時は起こして』
そのアイマスクどっから出てきた。
吹雪で見辛いけど、一時撤退ってことを忘れてるんじゃないかと氷雨を心配するくらい激しい戦闘音が聞こえてくる。
一言で言っちゃえば俺たちがやってるのは波状攻撃だから、そこまで一気に仕掛けるつもりは無い。
漁船の最高速度が艦娘や深海棲艦に遠く及ばないのを活かして部隊を入れ替えながらヒットアンドアウェイの戦法を取ることで、艦娘の戦力をゆっくりと確実に消耗させることが狙いだからだ。
潜水艦も空母も味方には居ないから、海防艦と秋月はそこまで大きな脅威にはならない。
そして今は深夜帯。提督は寝てるだろうから的確な指示の無いまま現地の判断で漁船を守りながらどうにかするしかない。
問題があるならこの作戦は艦娘の消耗具合によっては時間がかかるってことだけど、漁船から大湊に連絡したところで援軍がすぐに到着するとは考えにくい。
そしてこれは誤算だったけど、寒さは体力的に大きく影響する。勿論漁船の乗組員も例外ではない。
つまり全員を無事に家に帰す為には早く深海棲艦を処理しないといけないから艦娘たちは焦る。そして焦りは隙を産む。
『完璧では?』
まぁ、俺と氷雨以外にはいつもと違って艦娘を沈めてはいけないっていう枷があるけど、まぁハンデだよハンデ。
『見せて貰おう、貴様らの力を……なんてね』
氷雨「zzz…」
主人公「オラッ! オラッ!(チューブワームぐりぐり)」
氷雨の艤装「らめぇ! もう入らないのぉ!」
これは紛うことなき変態。
・20XX 冬イベント
「急襲! 北海道沖夜戦」
出撃には連合艦隊が必須。
ただし輸送護衛部隊であり、その他の連合艦隊では出撃できない。