私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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179話です。

様々な娯楽に溺れ、モチベが死んでしまいました。
しかし完結までは走らねば……私は元気です。

あらすじ覚えてる人が居ない説



炎上、過程、隠者

 

 常在戦場。

『常に命のやり取りをしてるような心持ちでいること』という意味で使われる言葉らしいけど、実践しようとすると実のところかなり難しい。

 それは世界大戦時代の記憶や記録の一部を引き継いでるような艦娘が、ガチの戦場である海上に居て尚、目の前の(俺ら)に集中しきれてないことから明らかだ。

 

 そりゃあね? 何が起きても不思議じゃない戦場に突然大きな音がしたら気になるだろうし、それも司令塔の居る建物に近い場所からしたのなら尚更。意識がちょっと逸れて手が止まってしまっても責めることは出来ないだろう。

 だから目の前の出来事を起こした張本人である俺たちが、意識を爆音に割いた艦娘たちより早く次の行動に移れたのは当然だった。

 

 戦場や戦闘に関しては見た目不相応なくらい覚悟がキマってたりする艦娘たちではあるけど、流石に20人前後で2人と1匹を囲んでいる現状は、各々が5~8割くらいの実力を発揮すれば十分に勝利出来るだろうという油断を招いたらしい。

 だってちょっとヤバくなっても取り返しがつくから。

 

 だったら、一手で“ ちょっと ”じゃ済まない程度に被害を出したり、取り返しの付かない状況にすれば良いだけだろう。

 そう考えて取り出したのは赤い缶。焼夷手榴弾は前に条約違反って言われたことがあるけど……知ったことじゃない。

 

『戦況をひっくり返してやる』

 

 今は艦娘の敵としてここに居るんだしお行儀よく戦ってられないんだよ! 自重して負けましたなんて恥ずかしいことも出来ないし。それに……結果が良ければ過程は多少滅茶苦茶でも許されると思うんだ。

 それポイ~っと。

 

 飛んでいった赤い缶は艦載機にぶつかって予定よりも手前で爆発した。引火したゲル状のモノが空母が居た辺りに撒き散らされて宿舎棟を赤く照らす。

 雪の反射もあって、一気に明るくなる。

 

 想定よりも広範囲が燃えているけど、最悪の事態に陥っても提督の部屋には竹が居るし住宅街からはかなり距離があるから被害は大湊警備府だけに留まるしセーフだと思う。

 

 投擲物を投げた時に隙を晒したせいで多少の被弾はしたけど、警備府から火の手が上がった今は艦娘たちもかなり混乱してるのか弾の密度が急に下がった。取り敢えず集中放火に晒され続ける状況からは抜け出せたかな。

 少し余裕が出来たから合流しようと氷雨に視線を送ると頷き返される。まぁ一点突破にしろ何にしろ1人より2人……あっ。

 

『良いこと思いついた』

 

『どんなこと?』

 

『行きたい場所がある。だから逃げに徹しよう』

 

 そう言うが早いか、全力で鎮守府から離れていく。

 逃すかと言わんばかりに艦載機が襲いかかってくるけど、実は秘密兵器に頼らなくても逃げ切るだけなら出来るだろうと確信出来る程度には素の対空能力にも自信があるんだよね。

 そもそも、よく考えてみたら囲まれてんのに真面目に相手する方がおかしいんだよ。だから火中の空母は放っておく事にする。流石にこの状況で心頭滅却すれば火もまた涼しの精神で、俺のプランをぶち壊しにくる人が居る可能性なんて考えたくもない。もしそうだったら素直に諦めるとして……我慢比べといこうか。

 

 

 

 艦載機とは、適当に言ってしまえば空母が繰り出す小型の戦闘機である。つまり飛行速度と飛距離こそ優れているものの、エネルギーは有限だからどこまでも追いかけてくるなんてことはなく、補給の為に往復する必要がある。つまり空母の位置を中心に一定範囲を飛んでいると思えば良い。

 幸いにも艦載機と、それに載っている妖精のことを一切考慮しない特攻を仕掛けてくるような空母は居なかったので、しばらく対空砲をフル稼働させながら移動していると艦載機の攻撃がそこまで気にならなくなってきた。

 突然鎮守府を襲撃するような深海棲艦を逃さないという意思は流石だけど、鎮守府側から見た時、最も重要な戦局は俺の居る場所じゃないから、ある程度効果が望めなくなったら諦めたんだと思いたい。

 

 氷雨と追いついてきたタコと一息付きながら、とある場所を目指して移動を続けていると今度は先の方に人影が見えてきた。間違いなく艦娘だろうから次の戦いが始まるのは間違いないんだけど、艦載機から逃げ続けて疲れたから遠回りもしたくない。出来れば不意打ちして楽に突破したいと切に願う。

 

「っ! 敵発見! 集中するんだ!」

 

 だけどそれを簡単に許してくれなさそうなのは磯風。俺を見つけた途端に指示を飛ばすのは流石だ。しかも既に連絡を入れてあるのか、探照灯の灯りが近づいてるように見える。数は1つだけど……

 

「磯風さん! 第一水雷戦隊到着、準備OKです!」

 

 阿武っち! 阿武っちじゃないか!

 それに一水戦ってことは……

 

「磯風、大丈夫ですか?」

「ほんまに燃えとるけ、何の冗談じゃ?」

「目標はあの2隻で良い、みたいですねっ!」

てーーーっ!

 

 ああああああああああ!

 一七駆逐隊じゃねーか! 滅茶苦茶強いし、おおハズレだ。

 しかも撃ってきやがった!

 

『ヤバっ』

 

 氷雨は庇いきれないと悟って魚雷を放ってから盾に隠れる。流石に氷雨もこの程度で沈みはしないだろうけど、蓄積してるダメージはあるし、被害を少なくするに越したことはないから氷雨を庇うように立ち回ろう。

 

「片方は盾のような物で砲弾を防いでるようですね。先にもう片方を片付けましょう」

「合点だ! てーーーっ!」

 

 しかしどうだろう。

 艦娘たちは俺を無視して氷雨を狙うじゃないか。

 

『おいおい』

 

 キレそう。

 いやいや、みんなの判断は正しいよ? 効果が薄い方は避けて効果がありそうな方を狙うのは当然のことだ。でも敵が大人しくそれを受け入れられるかは別問題なんだよね……せっかく氷雨を庇うべく前に出たのに無視される俺の気持ちにもなって?

 つまりなんだ。

 

『舐めてると痛い目に会うぞ?』

 

 氷雨だけじゃなくて俺も狙わないと危険だと思い知らせてやるよ。俺と撃ち合いする気は無い? だったら狙いやすい至近距離(めのまえ)に行ってやるよ。

 盾を構えたまま更に前進すると途中で魚雷に引っかかって浮遊感を得た。けど足を挫いた程度の痛み程度で止まるとでも? 体罰上等の元日本男児を侮るな。

 

「えっ?」

 

 誰かが驚いたような声を上げたのを聞いてすぐに魚雷を射出する。これは当たったなと確信して盾の陰から顔を出すと、既に艦娘たちは散っていた。

 しかし見てみると雪風がの服がいくらか煤けているように見える。あの雪風に短時間でダメージを与えられたなんてラッキーだと内心で喜びながら、一番近くにいる浦風に再度突撃を仕掛けようと盾を構えた。

 

その時だ。

 

「うわぁ!? なんじゃ!?」

 

 浦風が突然、海中から生えたタコの脚に拘束された。

 いつの間に移動したのか分からないし、脚は何本か吹っ飛ばされたのか拘束力は強くないみたいだけど、浦風の抵抗を物ともせずにカチャカチャと手際よく艤装を剥いでいくタコの脚の動きのなんと嫌らしいことか。

 

「止めろ! んっ……離せぇ…ひあっ!?

 

 あまりにも戦場に似合わない艶っぽい声が聞こえるんだけど?

 正直聞かなかったことにしたい。でも加賀さんと雲龍さんの事もあるし……もしかしてこのタコは相当な変態なのでは? と思い至り真顔になる。

 そうこうしてる間に艤装を外された浦風が海に放り出され、その救出のために浜風の手が塞がった。無力化って意味では有効なんだけどなぁ……絵面と方法が酷い。

 

『早く先に進まないと』

 

 近くに寄った氷雨に声を掛けられて、エロダコの成した事にドン引きしている場合ではなかったと思い直す。過程は本当に滅茶苦茶だけどとりあえず戦力差は埋まったな。

 タコがひん剥いた浦風の艤装から通信機を外して弄る。相手は……磯風でいいか。

 

『ちょっとやらなきゃいけないことがあるんだよね。通してくれない?』

『貴様は何を……いや、まさか?!』

 

 チラリと見ると磯風が驚愕に染まった顔を向けている。

 

悪いようにはならないから大人しくしててね

 

 そう言うと口をパクパクさせて大人しくなった。

 ……本当に大人しくなった!? いや、撃つのを止めただけか。

 

 でも相変わらず魚雷を撃ちまくってくる谷風と、阿武隈は全然大人しくない。幸いにもタコを警戒してやや密集気味の陣形を取った十七駆は、持ち前の機動力を殺した形になった。

 だったら速さで振り払えばいいかと思ったら足元に魚雷。

 

『ひょっ!?』

 

 ビックリして反射的に避けたのは良いものの、見事に転ばされた。

 立ち上がろうとしたらここぞとばかりに砲弾を撃ち込まれ、盾を持ちあげたまま動けなくされた。早くしないと魚雷に当たるってのに……

 なんでたった3人だけなのにこんな多方向から魚雷が向かってくるんだ? 何も感じないだけで潜水艦も来てるのか? いやでも、軽巡とか駆逐艦とは移動力が違うからなぁ……。

 

 もしかして阿武隈の特殊潜航艇か!?

 なら辻褄が合う。なんだよ、潜水艦がもう一人隠れてるようなものじゃないか。

 これは厄介だぞ……阿武隈も、普段は駆逐艦から舐められてるからって実力不足って事はないし、なんならかなり優秀だじ。

 でもね、俺たちは駆逐艦なのよ。阿武隈も速いとは言っても速度の差は埋められないんだよなぁ。

 

『逃げるよ。あっちだ』

『分かった』

 

「あっ、逃がしません!」

「逃げようったってそうはいかせねぇよ!」

 

 あぁ、面倒なのとしつこいのに補足された……。

 

 

 

 どんな力が働いているかは謎だけど、深海棲艦は生体兵器的な存在だから激しく動きまくれば普通に疲れる。艦娘が妖精さんの力で艤装を手に入れたプ〇キュア(魔法少女)だとすると、深海棲艦は謎の力で生まれ変わった怪人だ。瞬間的な出力量(パワー)は深海棲艦の方が優れていたとしても、艤装が出力する艦娘の方が持久力に優れているってことは間違いない。

 

 つまり、長時間の鬼ごっこはかなり不利だってこと。

 この深海棲艦の意外な欠点にヘロヘロになってから気付くとは、流石に知らなかったなガハハと笑えない。この程度の距離で艦娘は燃料切れを起こさないし、まさか持久力にここまで差があったなんて……。

 恐らく今の俺を鎮守府に居た頃の俺を同一視出来ている磯風は、谷風と雪風に追撃しないように通信を入れてくれなかったのかと恨み節を溢しそうになる。

 

 めっちゃ疲れた。

 だけど遂に目的の場所が見えてきたのも事実。

 

『ちょっとゆっくりさせてほしいんだけど……時間稼ぎって出来る?』

 

 仮にも姫級でしょ、駆逐艦娘2人は何とかできない?

 

『無茶言わないで』

 

オラッ! 早く盾を装備するんだよ! 今なら盾を持ったタコまで付いてくる。……お願いだから』

 

『遅れたら許さないから』

 

 フフッ、怖い。

 

 

 

 

 

 氷雨と別れて島に上陸する。

 そして、一見すると廃墟に見える建物の扉を開ける。

 

『港湾棲鬼、力を貸して欲しい』

 

『……何の用だ』

『帰れ!』

 




赤い缶(焼夷手榴弾)
 主人公の投擲物4種類のうちの一つ。
 殺傷力はピカイチだが効果範囲が狭い(誘爆するならその限りではない)
 艦娘に向かって投げると服と艤装だけが影響を受けてボロボロになる。艦娘自体は“かなり熱い”だけで中度の日焼け程度の炎症で済む。(検証:主人公、明石、夕張)
 資材由来の物質で生成されている為、環境に優しい。しかも燃焼には酸素を殆ど必要としない為一酸化炭素中毒の危険性は無い。どうやって燃えてるんだ
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