私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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19話です。
初投稿から1ヶ月経ちました。見てくださった方には感謝です。
これからもよろしくお願いします。


歓迎

「やっぱり覚えられません! 数が多すぎます!」

 

 工廠の一角で夕張や妖精さんが作業している音をBGMにファイルを読んでいた。勿論あの妖精さんが用意した指南書(危険物)ではない。

 恐らく大淀か明石辺りが用意したのだろう、ここ佐世保鎮守府に所属している艦娘の写真と名前、プロフィールやメモ書きが載っている紙が綴られていているファイルだ。

 艦娘たちの顔と名前を覚えようと読み始めたけど、それなりの厚さがあるファイルの半分もいかないうちに集中力が切れた。

 

「大丈夫だって。皆のことはそのうち覚えるよ」

 

 果たしてそんな日は来るのか。パラパラと捲ってみた感じではページ数は余裕で百100を超える。もしかしたら200も有り得るかもしれない。

 これが服装指定のある中学や高校とかなら全員の顔と名前を一致させるだけでもかなり社交的(コミュ強)だと思う。人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺にはかなりの難易度だ。

 でも幸いなことに服装は全員が完全に統一されていない。○○型ってのはあるけどそのグループ毎に似たような服装をしている。そして、艦娘は髪の色はかなりカラフルだ。

 これらがなかったら覚えることを諦めて狭い交流で良いやって付き合う人を限定してたに違いない。

 

 そう考えながら読み進めていく。

 メモ欄に力強く「一番!」だったり、もの凄い達筆で「大和ホテルとは呼ばないで――」だったり、「*猫の足跡が描いてある*(なんて読むか分からない)」だったり、笑いを誘うようなことも書いてあった。

 写真もまた、各艦娘毎にちゃんとした物と変わった物があり、寝起きだったり、サインが入っていたり、絶妙にイメージに合わない可愛い服を着ていたりした。これらを撮った(盗った)人は今頃生きていないだろう。

 それと、すごく目の保養になった。艦娘の容姿が整いすぎてて基本的にどんな写真も画になる。凄すぎない?

 

「お?」

 

 ふとファイルから目を逸らしたら、いつの間にか机の上にUSBメモリが置いてあった。

 

『……only know fairies(妖精だけが知ってる)?』 何これ」

 

 さっきまで無かったから滅茶苦茶怪しい。

 でも態々英語で書いてあるってことは俺宛ての何かってことで良いのかな? でもUSBメモリの接続部のカバーが外せないんだけど……これが妖精さんだけが知るってヤツか? 謎アイテムだ。

 

「まぁくれるってんなら貰っておこうかな」

 

 使えないからって捨てないように気を付けよう。

 そもそも夕張以外の人目なんて無いけど誰にも見つからないようにコソっとポケットにUSBメモリを忍ばせた。

 

 

 

 その後何事もなかったかのようにファイルを一度読み、二度目を通し、三度目、これを見ている目的が変わって来た頃、窓の外は紫色に変わっていた。随分と時間が経つの早いなぁなんて思っていたら夕張がソワソワしていることに気が付いた。

 

「何かあったんですか?」

 

「ま、マイペースね……これから貴女の歓迎会だって聞いてるんだけど」

 

 そういえば長門がやるって言ってたな。

 ファイルの内容が普通に面白くて夢中になってた。ただのプロフィール集なのに一言コメントと写真で個性とか関係とかが見えてくるの面白すぎか?

 

「忘れてました」

 

 ヤバい。もしかして待たせちゃってる感じか?

 急いでファイルを近くの台に置いた。

 

「みんな待ってるわよ! 行きましょう!」

 

「え? あっハイ」

 

 すっかり忘れてた。

 夕張に手を引かれたまま小走りで付いていく。絶対に楽しみにしてたな?

 

「みんな、お待たせーーっ!」

 

 

 

 

 

 俺は今、非常に混乱していた。

 目の前の大勢の艦娘と大量の料理はまだ分かる。

 しかし隣には提督が居る。これが分からない。

 

「この子が今日からこの鎮守府の一員となった。みんな仲良くしてやってくれ」

 

 しかもそう言ってマイクを渡してきやがった。いや、挨拶の大切さは知ってるしやらなきゃいけないってことも分かるんだけどさぁ……この人数の前で喋るのは初めてだからすごく緊張する。

 こんな時に何て言うかを移動中に妖精さんとシミュレーションしてた筈なんだけど全然覚えてない。どうすればいい……適当(アドリブ)でいいか。

 

「は、初めましての方は初めまして。たった今、提督より紹介されましたクレムソン級駆逐艦、スチュワートです。まずは私の歓迎会ということで企画、実行をしてくださった長門さんには最大限の感謝を。そして集まってくれたみなさんもありがとうございます。……私からの一言としましては、提督さんも言っていたように仲良くしてください。い、以上です……」

 

 よし、何事もなく言い切れたぞ!

 長門も頷いてるし、問題は無い筈だ。

 

 拍手の音が聞こえたことにホッとして、これ以上注目されたくなかったからスッと椅子に座る。

 艦娘になってから絶対にコミュ力上がってるわこコレ。まぁ、そんな堅苦しい言葉なんて思いつかないし、このご馳走の前じゃあ「長い。早くしろ」って言われるかもしれないしこれでいいでしょ。

 

「うむ。それでは皆、グラスを持て!」

 

 長門がそう言うとコップの鳴る音が聞こえてくる。グラスに注ぐような音とアルコールの香りが……まさか全員酒飲むとかはないよね? いや、長門がジュースだ。良かった。

 

「では、新たな仲間の歓迎と私たちの健闘を祈って!」

 

―――「「「乾杯~!」」」―――

 

 グラスがぶつかるキンッという高い音がそこかしこで鳴る。

 すぐに楽しそうな会話と笑い声があちこちから聞こえてきた。

 

 みんなが楽しそうに会食できる環境だと理解して安心できた。

 俺をダシにした宴会って感じがするけど、邪険にされてるような雰囲気は全く感じないし、みんなが笑ってるなら俺は別にどうだっていい。

 お茶の入ったコップを傾ける。

 

「はら、間宮のご馳走だ。君も食べなさい」

 

「はい、頂きます」

 

 箸が伸びたのは美味しそうな唐揚げだった。

 

 

 

「さて、私はそろそろ抜けさせてもらうよ。あとはみんなで楽しんでなさい」

 

 歓迎会という名の宴会が始まって時間が経った。

 誰もがお腹が一杯になって箸を止め、酒の席特有の世間話や愚痴がメインのフェイズに突入した頃、提督が食堂を離れた。

 結局提督は多くの艦娘が酒を注ぎに来ても、ゆっくり少しずつ飲んでいた。見た感じ結構高齢……そろそろ六十くらいだろうか? 流石に自分の限界くらいは分かるのか、それとも自分が居ることで艦娘が羽を伸ばしきれないと思っているのか。

 「No! 提督ぅー! 待って下サーイ!」なんて声が聞こえたから、もしかしたら酔った艦娘に何をされるか分からない恐怖を感じたのか……だとしたら人気過ぎるってのも考え物だな。

 

「……」

 

 周りを見ると談笑や愚痴を言い合う艦娘たち。当たり前だけど“ 生きてる ”って感じがする。

 でもやっぱりちょっと疎外感を感じるというか何と言うか……正直なところ会話に混ざれない。人付き合いが無くて共感できる話題がないってのが大きいだろうけど、これはどうしようもない。

 

 つまりやることがない。

 まぁいいや。もう少しサラダを食べて、頃合いを見て長門に声かけて医務室に退散しよう。

 

「なに湿気た面で飯ばっか食ってんだよ!」

 

 と、近くにドカッと腰を下ろした艦娘が居る。

 

「でもまぁ、元気になって何よりだな! オレは天龍。よろしくな!」

 

「天龍ちゃんの判断次第では貴女は今ここに居なかったのよ~? それと、自分を大切にしない子には、お仕置きが必要かもね~?」

 

 マジ!? 天龍さんマジリスペクトっスわ! さすがおっぱいのついたイケメンって呼ばれるだけはある。あと龍田さん怖すぎでしょう……

 

「えっと、ありがとうございます天龍さん。それと龍田さん、お仕置きだけは許してください……」

 

「う~ん、どうしようかしらぁ?」

 

「ヒエッ」

 

「龍田ぁ~。もっとガツンと言っちゃっていいぴょん! 自爆するだなんて超ド級のバカだぴょん! ぷっぷくぷぅ~! 悔しかったら何か言い返してみるぴょん!」

 

 この特徴的極まりない語尾は卯月だな? 俺の自爆を知ってるってことは卯月も天龍達と一緒に居たってことか。悔しかったらって言われても、全くもってその通りだから黙るしかない。あと重い。肩に手を載せて跳ねないでほしい。

 

「卯月の言う通りだよ。まったく……かわいくないね」

 

 また声を掛けられた。卯月と同じような服装だから睦月型で、黄色だから確か皐月と、もう一人は……水無月?

 

「ごめんなさい。助けてくれてありがとうございます。皐月、水無月」

 

「弥生です。別に……怒ってなんかないですよ? 呆れてるだけ、です。」

 

 おぉう、名前間違えちゃったよ。でも確かに怒っては無さそうだ。本当にただ呆れているだけなのか言葉も出ない程怒ってるのかのどっちかの判断は難しいところがありそうだ。せめてもう少し顔に出てたら分かるのに。

 

「だが、元気になってなによりだ! よし! スチュワートも向こうで飲もう! なにせコレはスチュワートの歓迎会だからな! 説教など盛り下がるだけだからまた後日だ! 借りていくぞ!」

 

 緑の髪……長月か。ってめっちゃ酒の匂いするんだけど!? 誰だこんな中学生以下にしか見えないようなのに酒飲ませた奴は!?

 進む先に居た夕張と目が合った。助けてくれ。酔ってる駆逐艦に絡まれてるんだが……

 

「あっスーちゃん! おいでおいで~」

 

 手招きされた。ホッとしたのも束の間、夕張とその他一緒に座っていた面子の顔も薄っすらと赤くなっている。そして近くに転がる酒瓶。

 安全地帯じゃなかった。ここも地獄だ。

 

「おぉ! 今行くぞ!」

 

 えっ待って、このままだと俺もお酒飲ませられそうなんだけど?

 長月は出来上がってるし、他の子供にしか見えない艦娘も顔赤いから多分飲んでる……でも俺は飲まないぞ! 俺は成人だったけど、この体はまだまだ子供なんだからな!

 




宴回でした。
実際駆逐艦の子も平然とお酒飲むし……

宴回は続きません。
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