私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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2話目です。

1話の拙分を読んで尚、このページを開いていただきありがとうございます。
プレッシャーが凄い。正直吐きそうです。でも完結までは頑張ります。


My name is…

 『艦隊これくしょん』――通称艦これ

 

 一時期は……今もか? 絶大な人気を誇っているブラウザゲームで、学校のクラスメイトも口に出していた気がする。

 そんな自分はプレイしようか何度も考えたが、案外大変だと言う声が聞こえたことと、弟妹の情操教育に少々良くないのではないかという建前で、プレイしてるのを知られたくないという何とも小さな理由(プライド)で伸ばした手を引っ込めた。

 それでも投稿サイトにも多くの関連動画やイラストがあって、視聴閲覧していたので全くの無知という訳ではない筈だ。

 

 しかしいくら目の前の自称妖精――『艦これ』的には妖精さんが言ったように俺の地縛霊云々があったとしてもだ、俺に白羽の矢が立つのは不思議でならない。

 それこそ熱心に『艦これ』で提督業に勤しんでる人達の方が今の俺の状況に相応しいと思う。

 

 何せ地縛霊をどうこう出来る上にパラレルワールドまで引っ張って来られるような奴だ。俺よりも余程適性のある奴なんて星の数ほどとは行かなくても沢山いるだろうし、その人たちから選別でもすれば良かったのでは? と思う。

 

「なんで俺が選ばれたのさ。もっと相応しい奴はいっぱい居たんじゃないの? 諸々の事情を抜きにしてもさ」

 

「あなたはなんだか面白そうな感じがしたからですぅ」

 

 予想外の、気の抜けるような返答の後に肩の妖精は続ける。

 

「この世界に来たい、深海棲艦と戦いたいって人は沢山居たんですよ。でも、あなたと同じような人ってあまり居ないんですよね」

 

「これはアンタは変人だって喧嘩売られてるのか? 確かに俺は子供の時から変わり者だってよく言われてきたし自覚もしてるけどさ。確かに同じ感じの人(同類)には会ったことは殆ど無い。あまり居ないっていうのは間違いじゃないと思うけどさ」

 

 残念ながら事実だ。俺の性格は臆病で短気で落ち着きがなく、楽しいことが大好き。仲が良かった人からは「愉快犯みたいな人」「将来悪い意味でニュースに出そう」だなんて言われたりもした。否定はしないし出来ないけどあんまりじゃないかなぁ。

 そう言われても特に否定もしないで肯定するから変わり者って言われるんだろうなぁ……直すつもりは無いけど。

 

「あなたと同じように人類の敵を倒す人は艦娘って呼ばれますぅ。大戦時代の軍艦の記憶を持った存在なんですけどねぇ」

 

 それは知ってる。いくら『艦これ』をプレイしたことが無い俺でも大雑把な設定と有名なキャラと好きなキャラの名前くらいは知っているつもりだ。妖精さんに続きを促す。

 

「艤装と呼ばれる物を纏って平和のために深海棲艦と戦っているんですぅ」

 

 それも知っている。しかし辺りには積みあがったダンボールの山しかない。艤装のぎの字も見当たらない。

 そうやってキョロキョロする俺を見て妖精さんは楽しそうにしている。

 

「艤装はどこだ? って顔をしてますねぇ。聞いて驚いてください! 実は艤装は……」

 

 

 

 

 

作っていません!

 

 いい笑顔で告げられた。

 

は?

 

 と言い睨むと途端に困ったような顔をして

 

「作ってないんですよぅ……仕方ないじゃないですか。いつもと同じように建造、艦娘を造るならまだしも今回は随分と無茶しましたからねぇ。キチンと動く事を確認してから艤装を作るって決めてたんですよぉ」

 

 それを聴いて成程と思う。初めて行う事だから慎重にって姿勢は嫌いじゃない。自分がそうであれと言われたらせっかちな自分では到底無理な話だけど。

 

「それでですね、今から艤装を作るに当たって一番必要なモノが足りていません」

 

「必要な物? なにそれ? 材料とか作業環境とか?」

 

「――あなたの名前です」

 

「なまえ」

 

 何故名前が必要なんだろうと考えたが答えはすぐに出た。

 

 『艦これ』には多くのキャラクターが登場するが、その多く、というよりは殆ど全ては艦の名前をしている。響や皐月、榛名ならまだしも、武蔵や飛龍、伊58なんて名前の女の子の名前は聞いたことが無い。もし居るなら親の頭を疑うレベルだ。絶対に虐められるだろう。

 

 艦娘……彼女たちにも、本当の名前があったりするのかねぇ……

 

 なんて考えていてもしょうがないし、間違いなく妖精さんは前世? の名前を聴きたい訳ではないだろう。でも今の自分の名前がポンっと出てくるわけはないし。

 と、ごちゃごちゃ考えていたら目の前に妖精さんが居た。

 

「ウェア!?」

 

 畜生! ボーっとしてた。自分で呆けておきながら自分で勝手にビビるとか情けねぇな。

 っていうか目の前の妖精浮いてね?

 

「あなたの名前は判りましたか~?」

 

「判ってたら答えてるよ。せっかちなヤツめ」

 

 と返して溜息を吐く。名前なんてそこらへんに転がってる訳ないし、適当にウィリアムとか凪風とか名乗ったところで今の体の名前だとは思えない。

 

「あなたの記憶じゃなくて体が記憶している名前がある筈ですぅ。早く集中して記憶の中から引っ張ってきてください。名前が判らなかったら何時になっても艤装を作り始めることも出来ませんよぉ」

 

「はいはい。集中しますします」

 

 とは言ったものの体の記憶って何? 日常会話では絶対使わないよね? っていうか今の体は艦娘なんだしそこはかとなく卑猥な感じがするんですけど……妖精さんに集中を乱される……いや、俺の煩悩か。

 

 集中しよう。俺は軍艦。俺は軍艦。俺は軍艦……

 

 いや無理だろ。

 なんだよ俺は軍艦って…

 

「ッ!」

 

 そう思ってたら脳みその裏側!? がどこか知らんけどその辺に痛みというか違和感!

 普段は当てにならない勘も言ってる。ここに答えがある!

 そして違和感を意識し始めた時、目の前は真っ暗になったが俺は気が付かなかった。

 妖精さんめ、集中してなかったけどなんとかなったじゃねぇかよこの野郎……

 

 

 

 

 

 

 

 

 音がする。大きな音と小さな音。大きな音は人の声で小さな音は波の音。

 それで俺はいつの間にか船の上に居る。乗船経験は無いから凄く興奮する。

 甲板? の縁まで歩いて下を見ると多くの人がこちらを見ていた。

 

 大勢からの視線が苦手な俺はすぐに視線から隠れるように身を潜める。とんでもないドッキリだ。正直止めてほしい。いや、よく考えたら俺の方に顔が向いてたけど俺のことは見てなかったような……見えていない? 見えていたら誰かが気付いて騒ぐ筈だろう何かの式典っぽかったし。

 

 暫く甲板に伏せてジッとしてると誰かが何か言ってるのが聞こえてくる。あぁ分かる。これは聞き逃しちゃいけないヤツだ。

 

「―――art―――」

 

 ……日本語じゃないじゃん。しかも距離があるからよく聞こえない! ワンモアプリーズ!

 

「Clemson-class destroyer USS Stuwart」

 

 うわ。すっげぇネイティブな英語。 いや待ておかしい。俺の英語の成績は悪かった筈だがなんでこんなにハッキリと聞こえるんだ? 耳がおかしくなったか頭が更におかしくなったかのどっちかだな間違いない。

 だけどしっかり聴いたぞ。

 

 ――クレムソン級駆逐艦「スチュワート」

 それが今の俺の名前らしい。俺の少ない艦これ知識じゃあ聞いたことが無い。

 

 壮大な音楽が響いてゆっくりと艦が降ろされる。着水して……沈まなかった。奇妙な達成感を感じ、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと先ほどの倉庫の中に居た。寝かせられてた。これで本当に寝てて妖精とかも全部夢でした。でも平和的でよかったんだが。

 

「ククク……」

 

 なんというか、いつも妄想や想像の中にしかなかったファンタジーが、スリルが目の前にある。例えこれから『艦これ』の戦場に送られて、後悔することがあると分かっていても今、目の前にある楽しそうなことを逃すなんて考えられなかった。気持ち悪い笑いが漏れる。

 

「あーあー、妖精さん?」

 

「なんですかぁ? 判りましたか? 名前」

 

「バッチリだ」

 

 よく聴け妖精さんよ、これが今の俺の名前!

 

「クレムソン級駆逐艦、スチュワート。それが私の名前だ」

 

 名前が判って艦娘になったんだ。一人称「俺」は流石にまずいだろう。幸いなことに家に居る時以外の一人称は「自分」か「私」だったんだ。この際だから他人と話すときは変えてしまおう。

 女子が友達に言うような気軽な感じではなくてちょっと事務的なイントネーションだからちょっとよそよそしいけど、ポロっと「俺」なんて漏らすより万倍良い。面倒だけどそこまで大変な事じゃない。

 

「クレムソン級駆逐艦のスチュワート……ですかぁ。分かりましたぁ、艤装を作るのでしばらく待っててくださぁい」

 

 え? 艤装ってゼロから作れるの? 作るような設備とか無いじゃん。っていうかここは『艦これ』の世界だってことは分かったけど、あの世界も地球。今いる場所は結局わからないままじゃん。

 近くのダンボールからインゴットを取り出し始める妖精にそう言っても反応は返ってこない。一度集中し始めると周りを気にしなくなる職人気質なのか?

 

 それはそれとして勝手にダンボール開けるとかそれ窃盗なんじゃないの? でもここまで堂々としてるし、恐らく私物だろう。

 

 眺めている俺に気付いた妖精さんはハッとした様子でこちらに近付きグイグイ背中を押して出口に向かう。凄い力だ、どこにこんな力があるんだよ。

 そうして倉庫から出された俺が振り返ると妖精さんは告げる。

 

「絶対に中を覗かないでください」

 

 『艦これ』は鶴の恩返しじゃあないと思うんですけど……

 




二話が終わっても海に辿り着かない艦これの小説(?)があるらしい。

毎日投稿できる人って凄いなぁと思いました。
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