――ブゥーーーン
そんな音を響かせ飛来する艦載機。そして投下される攻撃は火の雨と言っても大袈裟な表現じゃない。
正に絨毯爆撃。横に大きく動いたところで攻撃の密度がちょっと下がるだけで、全く当たらなくなるなんてことは無い。俺はそんな数の暴力による爆弾の雨の中、盾を上に構えながら僅かな隙間を縫うようにして大ダメージを受けないようにするので精一杯だった。これなんてクソゲー?
「チッ! ああもう!」
俺はマゾじゃないから上からの衝撃によってかなり重く感じる盾を持ち続けたくはないし、防御に徹したところでご褒美なんて喜ぶこともない。
艦載機が邪魔だから一向に近付けない状況で攻撃され続ける……つまりハメられてストレスが溜まってる。
思えば、最初の3機の対処を間違えたのが失敗だった。
戦力を小出しにしているうちに堕とせるだけ堕としておくべきだった。堕とせるかどうかは別として、少しでも減らしておけばその分だけ後で楽になったのに……。
でも後悔してももう遅い。
この現状をどうにかしないとジリ貧になることは確定的に明らか。だったら多少の被害には目を瞑ってスタングレネードでも投げて艦載機を落とした方が良さそうだ。
片手で盾を構えてこの鉄の雨の衝撃に耐えられるとは思えないけど、適当に宙に放っても艦載機の数が「なんで衝突事故起こさないの?」ってレベルだからほぼ確実に複数機は落とせると思う。
艦載機一機当たりの攻撃力がどの程度なのかは知らないけど、腕が疲れてプルプルしてきたから早く実行に移して余裕を作らないと……
「でもどうする? ……あっ」
そういえば投擲物はスタングレネードだけじゃない。踏ん反り返った偉そうな妖精さんは複数種類の投擲物を作っていた。
目線を腰に向ける。赤、黄、緑、青紫の缶が目に入る。黄色がスタングレネードってことはさっき隼鷹の艦載機に投げた時に分かってる。でも他の色が何なのかが分からない。
すまねぇ妖精さん。折角すぐ分かるように色付けてもらったのにそもそも何が入ってるか分からねぇ……
「全部投げよう。まずは……っと」
どれを投げたら効果的か考えてたけど、中身が分からないならどれを投げても変わらないことに気が付いたから適当に投げてみることにした。決して考えることが面倒臭くなったからじゃない。
まずは青紫色の缶を手に取る。取り敢えず投げてみるとサイズと重さが丁度いい感じに投げやすく、結構飛んで行った。
「せいっ!」
青紫色の缶は俺から離れた海面に着水し、プシュー……なんてマヌケな音と共に大量の紫色の煙を吐き出し始めた。幸運にも風は無く、毒々しい色の煙で辺りの視界は最高に悪くなってきた。
赤城と俺の間に視線を遮る物が出来たから、これで少しは攻撃の手が緩むだろう。
「……」
――ドドドドド――
……全然緩まねぇ! じゃああの艦載機は赤城自身が照準合わせてるんじゃなくて、中に妖精さんでも入ってるかカメラみたいなので視界を共有でもしてるってこと!?
こんなの溜まったもんじゃない。俺は逃げさせてもらおう! 煙がかなり濃いところに逃げ込む。煙に突っ込んだ時に毒っぽい色してるけど、マジで毒じゃないよね? って思ったけどただの色付きの煙で助かった。自分の武器で意図せず自滅だなんて情けないにも程がある。
「ハァ、ハァ……ハァ。助かった?」
煙の中に入るとほぼ同時に盾に受ける衝撃が明らかに減った。海面に爆弾が落ちる音と艦載機の飛ぶ音も殆ど聞こえなくなった。まさか音もなくホバリング出来るなんて思わないし、赤城の元に撤退したんだと思いたい。
「マジ疲れた」
ずっと攻撃を受け続けたから腕も肩も腰も痛いし体力的にも限界が近い。これで手加減されてるとか冗談じゃない。
「……やっぱりヤバいわ空母」
あれだけの数の艦載機があれだけ弾や爆弾を吐き出し続けたにも関わらず、最初からペースを殆ど落とさずに攻撃し続けるだなんて、流石は「正規
空母の出力の高さを思い知った。砲や魚雷を中心とした駆逐艦娘とは違う、艦載機を用いた面での制圧。しかも言い方は悪いけど艦載機は消耗品だから艦載機をどうにかしても本体は無事っていうのが性質が悪い。
そして、そんな攻撃能力をたった1人に向けたらどうなるか。
「ただの弱い物イジメなんだよなぁ……」
この感想には一方的にただ攻撃され続けた私怨が多分に含まれてるから正当な評価じゃないだろう。でも少なくとも俺はそう思った。
そもそもの出力が違うんだよ。
柔道とかボクシングだって階級別に分けられてるってのに……やっぱりフェアじゃない。こんなの絶対におかしい。
「ふぅ~……仕切り直しだ」
盾を下ろして休めていた腕を上げる。初めて持ったときよりも重たく感じた。やっぱりかなり限界が近いって。明日はきっとまともに動けないに違いない。
「やれるところまでやる……よし」
艦載機からの絶え間ない攻撃を中断させた今、俺が疲れたことを除けば振り出しだ。それでも、空母がどんな存在かをちょっと理解したつもりだ。
言ってしまえばゲームで強敵から逃げて回復もせず、装備の変更もしないまままた戦闘に突入するのと似てる。
だけど、行動パターンをちょっと把握してると立ち回りが分かる。対策が練れる。この差はかなり大きいと思う。
風が吹いて、煙が横に流され始めた。
少しでも回復しようと大きな深呼吸を繰り返す。
そして煙幕は晴れ、数分ぶりに太陽の光に曝される。
「あっ……」
眩しくて細めた目の隙間からは赤城と思われる小さい点と、こっちに飛んでくる艦載機。相変わらずブゥーーーンなんて耳障りな音を立てながら、今度は煙を出されたくはないのか、一気に畳みかけるように纏めて飛ばして来た。思わず顔がニヤける。
「当てやすくて良いな」
腰から緑色の缶を抜く。側面には音符マークが描いてある。正直なところ中身の予想が全くつかない。まぁ今に分かるでしょ。
赤い缶も抜く。こちらには炎の絵が描いてあった。これは分かりやすくて良いな。恐らく火炎瓶の仲間だろう。中にはきっとよく燃える何かが詰まっているに違いない。
……ぶつけられるほど近くに標的が居ないんだけど。レバーはまだ開いてないけど、ピンは腰から抜くときに外れるようで、どうしようもない俺は両手に缶を持って迫りくる艦載機をただ見つめていた。
「いや、少しでも数を減らさないと……」
そういえば高角砲はあるんだ。
落ち着いて狙いを定めて ──
「撃つ!」
▼―――――――――――――――
突然スチュワートの目の前から毒々しい色の煙が噴き出し、艦載機に乗った妖精さんが私のところまで戻って来た。
「お疲れ様です。ですがまだ勝利した訳ではありません。装備換装をして備えてください」
妖精さん達が慌ただしく作業を始めるのを横目に、風が無いから晴れない煙幕を睨む。
正直に言うと私は、あのスチュワートという艦娘を全く信用出来なかった。
深海棲艦の活動が活発になって数年、私は何度も海外に出向した。人の名前はすぐに覚えられる私が、日本よりも種類の少ない海外の艦娘の名前を覚えられないとは思っていない。そしてその中に“ 駆逐艦娘のスチュワート ”は存在しなかった。
そんな不審な存在を私は、例え提督や妖精さんが信じたとしても自分の目で判断するまでは信用できなかった。だから適当な理由を付けてこうして攻撃している。提督や妖精さんを信じていない訳ではないけれど、味方の中にみすみす敵を招き入れるだなんて愚は犯せない。
妖精さんが作業を終わらせたのか飛び立って、私の上をクルクル回り始めた頃、風が吹いて煙幕が晴れた。
「嘘、よね?」
あれだけ艦載機の攻撃に晒され続けても逃げの一手を打たず、煙幕のあった場所に立っているスチュワートに驚いた。本当に駆逐艦かどうか怪しくなってくる頑丈さだ。
「――ッ! 第一次、第二次攻撃隊、全機発艦!」
すぐに立ち直って艦載機を飛ばす。いつまでも呆然としては居られない。
「スチュワート、貴女は私たちの仲間だと認めましょう」
深海棲艦は艦娘に比べて動物的な行動が多い。いくら鬼や姫級だって危機的状況になったら逃げる。
だけどスチュワートは逃げなかった。それは彼女が艦娘であることの証拠。
こうして相手をするときに皮肉げに送った言葉である「素敵な盾」は間違ってはいなかった。
挑発するように言ったことに対して、後で謝罪をしなくては。
だけどそれはそれとして、このままでは駆逐艦すらまともに撃破出来ないと思われてしまう。それでは加賀さんに顔向けできない。
だからスチュワートには悪いけれど、轟沈……までは行かなくとも動けなくなるくらいにはなって貰おう。
「ごめんなさいね」
彼女は仲間。もう信じられる。そう呟いた私の口は笑みの形を作っていた。
▲―――――――――――――――
ちょっと怖い赤城さんでした。
缶の種類は
赤:焼夷手榴弾
黄:閃光玉 (モンハン感)
緑:音爆弾 (モンハン感)
紫:発煙筒
となっております。