私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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23話です。

いろいろ詰め込んでみました。


濃い一日

『そろそろ降参してください!』

 

 なんか降参しろって言ってきた。

 

「ハァ? やだ」

 

 好き放題に攻撃し続けて日頃のストレスがスッキリしたのか知らないけど、俺は良いように攻撃され続けてストレスがマッハなんだが?

 新品の盾もボロボロにされてるかもしれないし、俺自身もボロボロなのにどうして一矢報いることもなく降参する必要があるの? 艦載機を堕とすだけじゃ気が済まない。せめて一発殴らせて? 殴らせろ。

 

 煙が晴れて2度目の艦載機の攻撃を最初と同じように、盾を構えるところからスタートしなかっただけで随分と展開が変わった。

 

 まず最初に艦載機の群れに緑の缶を投げた。その中身は閃光や煙ではなく、頭が痛くなってくるような音“ 音 ”だった。

 その結果、バランスを崩した艦載機が近くの艦載機に衝突。これだけで間違いなく10近くの艦載機が落ちてった。

 

 そして次に赤い缶。炎のマークが描いてあったから殺傷力高そう……って思い艦載機に投げたら当たった艦載機が派手に燃え始めた。

 しかも爆発した破片も火の玉のように燃えていて、近くの艦載機に飛び火、結果的にこちらも10機くらいの艦載機をダメにしてくれた。

 連鎖的に艦載機がダメになっていく様は見てて最高に気持ちが良かった。

 

 艦載機のパイロットが動揺でもしたのか、動きが悪くなった艦載機は高角砲で堕としていった。

 

 優に100を超える艦載機に対して30くらい堕としたからってどうなの? って思ったけど、全然違ったんだなぁ~コレが。

 まず攻撃密度が下がったから体力の消耗が少ない。そして盾が受ける衝撃が少なくなったからさっきと比べて移動する余裕が生まれた。

 とは言っても、俺自身も疲労でまともに動けなくなってるから、目に見えて俺が有利かと言われたらそんなことは無い。

 

 ただ、マジで限界だから最後に一発殴りに行きたい。

 もうそんな気持ちだけで動いてた。

 

 多少の被弾を覚悟して赤城に向かって突っ込む。

 盾は頭の上、いつでも振り下ろせる最高の形。

 喰らえッ!

 

「はあぁあッ!」

 

「惜しかったですね」

 

 

 

 目の前を横切った艦載機が爆弾を投下した。

 艦載機がやや上昇しながら投下された爆弾はフワリと上昇し、わずかな時間その場に留まった。置き爆弾とでも言えるような設置技と化したソレがようやく自由落下を始めた頃、回避する余裕が無い俺が突っ込んだ。

 

「ア゜ッ!」

 

 そして俺だけが吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 青い空が見える。白い雲が見える。無数の艦載機が見える。眩く光る太陽が目に入る。

 

「はぁ~……」

 

 視界の端に現れた赤城が見える。赤城の太陽の逆光で窺えないが、俺の表情は疲れの余り歪んでいた。

 もうちょっとだけでいいから頑張ってくれよ表情筋。立ち上がろうとするけど力が入らない。深呼吸のような溜息を吐く。

 

「私の勝ち、です。今まで居ないタイプだったのでとても新鮮でした。演習、感謝です」

 

「……」

 

 努めて無視しつつ赤城が視界に入らない方に顔を向けると、波打つ海面と水平線が見える。

 

 結局赤城には一撃も与えることが出来ずに完敗した。多くの艦娘の憧れの空母には手も足も出ず、言葉通り殴る拳は届かなかった。

 

「ハハッ……」

 

 あ~あ、なんか燃え尽き症候群って感じ……何もやる気が起きない。

 海面に浮かんでる現状から立ち上がることさえ億劫だ。いっそこのまま波に流されて海に溶けて消えるも、鎮守府なりどこか知らない浜辺に打ち上げられて、身動きできないクラゲみたいになるのもいいかもしれない。

 

 なんて考えていたら、視界に再び赤城が入り込んできた。

 

「参りました。どうぞ炒るなり裂くなり好きにしてください」

 

 適当に、ぶっきらぼうにそう言うけど、そういえば胸を借りると言った相手にコレは無いだろうと発言の後に気付き焦る。

 

「うふふっ。面白い子ですね。その盾、貴女自身もとても素敵でしたよ。これからも共に頑張りましょう」

 

 なんて言って手を差し伸べてくる。これが人間性の違いってヤツかぁ……俺には真似出来そうにないかなぁ。これは正規喰母なんかではなく頼れる一航戦だなぁ……

 

 流石にここまでしてもらってその手を取らないなんて選択肢を選べる俺ではない。

 

「はい。これからもよろしくお願いします。赤城さん」

 

 そう言いながら手を掴んで立ち上がる。赤城の顔は演習が始まる前よりも柔らかく、憑き物が落ちた……とまではいかないものの、どこか固かった雰囲気が霧散しているように思えた。

 

 

 

「あ~っ。お腹空きましたね~。美味しいものでも食べに行きましょうか」

 

 鎮守府に赤城と戻る途中、彼女が発した一言目がコレだ。

 えっ連れてってくれるの? なんて思ったが――

 

「加賀さんと」

 

 って次の一言で台無しになった。俺とじゃないんかい! だったら何で俺の前で言ったし……

 

 まぁこんな新人よりも長年の同僚と一緒の方が色々と楽しいだろう。

 でも加賀には挨拶しておきたいしなぁ……なんかそういう礼儀とかに結構口煩そうな雰囲気あるように感じるし……

 

「あの、出来れば加賀さんにも挨拶させて貰えませんか? その、加賀さんが居るところまで連れて行って貰いたいなと」

 

 そういうと赤城はニコリと微笑み

 

「良いですよ。さ、行きま……ってあらら」

 

「?」

 

「そういえば加賀さん、3日前から出向でイタリアの方に行ってたんでした……ごめんなさいね。挨拶してくれるのは嬉しいのだけど、また今度ね」

 

 じゃあ仕方ないか。

 

 

 

 そんなこんなで鎮守府に戻る。またしても多くの艦娘が寄ってくるけど俺は既に疲労困憊。悪いが赤城に押し付けさせてもらおう。さっさと工廠に戻って休みたい。

 そう思い、艦娘の輪の中からそっと離れた俺に、声が掛けられた。

 

「スーちゃんお疲れ様。疲れたでしょ~。さ、一緒にお風呂行くわよ!」

 

「え?」

 

「ん~?」

 

「……え?」

 

 ……ハッ! ヤバイヤバイ、フリーズしてた。

 え、待って? 風呂とか嘘でしょ? せめて最初とその後10回くらいは慣れる為にも一人で静かに入りたいんだけど……。

 女の子とか女性と一緒にお風呂だヤッホー! なんて考えられる神経は持ち合わせてないんだよ! 羞恥のあまり死ぬから! なんでそんなにこやかな笑顔してんだよ断りづらいじゃん! 笑顔は最強の交渉武器だった……?

 どうしよう……ハッキリ言って逃げ場が無い。

 

 この間僅か0.3秒。 嘘、30秒くらい。

 

 

 その大きすぎる隙を逃す彼女、夕張ではなかった。

 

「何ボーっとしてるの! 早く行きましょう。ほらほら~」

 

「えっ、いやその……」

 

 考えろ考えろ……きっとどこかに答えはある。

 

「何その行きたく無さそうな顔……因みに私、スーちゃんが演習終わるまでお風呂に行くの我慢してず~っと待ってたんだけど」

 

「ワカリマシタ……」

 

 これは勝ち目ないわ……待たせたって借りがある以上断れない。

 返事をした瞬間腕を掴まれてグイグイ引っ張られる。俺の腕はゴムみたいに伸びはしないから夕張に合わせて歩く。腕を掴まれてるのが何となく嫌で、振りほどこうとしたがビクともしなかった。

 そんな細い腕のどこにそんな万力みたいなって痛い痛い痛い!

 

「何か失礼な事考えなかった?」

 

「気のせいですよ」

 

 全く動かないことを例えただけだから失礼な事じゃない筈だ。俺の口が嘘つきで良かった~。

 

 

 

 

 

「うぅっ……グスッ!? ゴホッゴホッ!」

 

 湯船の中でわざとらしく鼻を鳴らしていたら湯気で咽た。でもわざとじゃなくても泣きたい。勿論感動や喜びではなく羞恥で。

 

 工廠に超スピードで連れて行かれ艤装を外され「ロッカーはここね!」って言われて、気がついたら脱衣所にいた。展開に付いていけず脳がエラーを吐いてフリーズしていたら夕張に好き勝手されていた。

 具体的には服を脱がされ髪を洗われた。年下の妹の世話をする姉じゃないんだから止めてほしかった……

 

 体の方は出来ると言いつつ、皮膚を削るような擦り方をしたら絶対に怒られると察したので、隣で洗う夕張をバレないように観察しつつゆっくり洗った。

 髪といい体といい、女がどうして風呂やシャワーの時間が長いかの理由が分かった気がする。

 

「どぉ? 沁みるところとかない? そっかー、綺麗に治って良かった良かった」

 

 素直に反応するとそう言いながらすぐ隣に寄って来たので少し距離を取る。体をタオルで隠しているが、まだ安全とは言い切れない。そもそもこの空間は2人だけとはいえ童貞の俺には刺激が強すぎるから凄く辛い。

 

 多少のケチが付いたものの、久しぶりの風呂は気持ち良かった。

 身体の傷は治ったみたいだけど、心が死にかけた。

 

 

 

 工廠に戻ってから夕張が俺の替えの服が無いとか言い出したり、赤城にズタボロにされた盾を直してもらったり、なんか偉そうな妖精さんに演習の感想から考えて艤装の要望を出したり、椅子に座って船を漕いでたりして、気がついたら真っ暗になってた。肩には薄い毛布が掛けられている。

 しかも工廠内が雰囲気的にも物理的にも薄暗くなっていた。明石と……黒いロングの戦艦? 長門じゃないし、不幸で知られる……誰だっけ?

 

「あれは扶桑さんですよ。スチュワートさん、貴女に提督から連絡があります」

 

 後ろから声を掛けられた。毎度突然のことで心臓が飛び上がるから止めてほしい。提督からの連絡ってのもあって、眠気は吹き飛んだ。

 

「貴女に艦娘寮の部屋が与えられます。場所は島風さんの隣です。案内しますので付いてきてください」

 

「……はい」

 

 どうやら自室が貰えるらしい。さらば医務室のベッドよ。

 今まで俺の指定席だったベッドに別れを告げる。

 

 

 

「こちらです」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ドアを開ける。中には畳にちゃぶ台と布団があった。物は少ないけどシンプルイズベスト。物が溢れかえって足の踏み場が無いゴミ部屋よりは余程いい。

 

「あの、明日の予定とかっていつ分かるんですか? 予定表みたいなものとか……」

 

「はい、貴女の明日の予定は……えっ嘘……コホン。失礼しました」

 

 おっ、気になる反応。なんて書いてあったの?

 

「貴女の明日の予定は、秘書艦です」

 

「……はっ?」

 

 

 

 ……は?

 

 




嘘みたいだろ? これ一日の出来事なんだぜ……

・まだまだ一航戦には勝てない主人公。当然。
・夕張に好き勝手(ご褒美)される主人公。 つ処刑台
・自室GET! やったね主人公! プライベートが増えるよ!
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