私の名前は「      」   作:捻くれ餅

25 / 180
25話です。

~秘書艦 午前の部~


秘書艦➀

 提督の朝食を忘れるという失敗をどうにかしようと、せめて少しでも早く朝食を用意する為に食堂までの道のりを急ぐ。

 

 食堂に着いてから間宮に訊けばアレルギーも嫌いな食べ物もないみたいだから、適当に白米と納豆と味噌汁とトマトを用意した。

 そして溢さないようにしながら執務室へ向かう。

 

「うん、美味しい。ありがとう」

 

 出てきた感想がコレだった。

 味噌汁は油揚げとネギと味噌で出来る簡単な物だし、白米は間宮が炊いてたもの。納豆は既製品だしトマトは水洗いしてカットしただけ。俺がまともに調理したのは1品だけだから……提督の感想はリップサービスで間違いない。

 確かに量は少ないかもしれないけど、そこまで致命的なメニューではない筈だ。

 

 因みに、味噌汁と作ってる途中にどこからともなく磯風? が現れて、魚の形をした暗黒物質の親戚みたいなのをご飯に乗せようとしてきたから全力で阻止するなんて一幕があった。

 だって単に焦げただけじゃ絶対にああなったりはしないだろう、全く光を反射しないモノが食べられる訳がない。

 一応艦娘って(ふね)としての一面を持ってるって妖精さんは言ってたけど、そんな第二次世界大戦中に食べ物で遊ぶなんてコイツ絶対勇者だろ……って思った。

 とにかく、恐らく料理下手であろう磯風よりはまともな朝食を用意できたと信じたい。

 

 

 

 提督の食べ終わった食器を片付けて、お櫃の中に残ってた白米を2、3口分拝借してから執務室に戻る。

 途中で何人かで固まって歩く艦娘たちを見かけた。私服を着ていて明らかに楽しそうな雰囲気で昼に何食べる~とか話し合っていた。

 声を掛けられたが、秘書艦であることを伝えたら頑張ってくださいって言われた。翔鶴姉ってことは瑞鶴か? そんなに睨まないで……貴女の翔鶴姉を取ったりしないから。

 

 

 

 

 

「「 …… 」」

 

 暇だ。

 

 提督が記入した書類の内、渡されたものに判子を押していた。クリップと一緒に渡されたものは留めたり、ある程度量が溜まったら封筒に入れたりもしたが、これらがとにかく暇なのだ。

 

 書類になんて書いてあるかを見ても

 

「大本営での会議の出欠確認」

「休暇希望届」

「戦果、被害報告書」

 

 などなど。

 パッと見た感じで面白いものはないし、仕事が始まった時に指示を受けたきり互いに口を開かないし、ずっと座りっぱなしだし、最初に言ってた通り仕事は簡単だから暇を持て余してる。

 ハッキリ言おう。滅茶苦茶眠い。

 

 だけどここで「提督に時間を伝える」って仕事があるからうたた寝も出来ない。この環境の中で寝てはいけないなんて一種の拷問だと思う。

 さっきから欠伸を嚙み殺すのに神経を使ってる。

 

 チラリと提督の後ろに掛けてある時計を見る。

 なんで提督から見えない位置に置いてあるのか、時間を伝える機能は付いていないのかは凄く気になるけど、そろそろ10時になるからお知らせしなきゃいけない。

 それにしても……ずっと書類と向き合ってる提督の集中力は凄いと思う。俺の集中なんて判子を押し始めてから20分と続かなかったというのに、いったい提督と何が違うというんだ……

 あ、10時になった。

 

「午前10時です。適度な休憩も大事ですよ?」

 

「ああ、ありがとう」

 

「コーヒーを用意してきますね」

 

「お願いするよ」

 

 顔を上げた提督が小さく首を縦に振った。OKは貰ったからこれで1回食堂に退避できる。さっきは我慢が限界を迎えてちょっとだけ舟漕いだし、あんな暇なところで単調な作業を繰り返してたら退屈のあまり病気になる。コーヒーでも淹れて気分を変えるしかない。

 

 

 

▼―――――――――――――――

 

 午前10時を伝え、飲み物を準備しにスチュワートが出て行った扉が閉まるのを私は見ていた。

 先程までずっと室内にあった紙が擦れる音もしなくなり、部屋を静寂が支配する。

 

「ふぅ~」

 

 大きく深呼吸をして身体を伸ばす。するとポキポキと音を立てて、僅かな痛みと共に少し重たくなった肩が軽くなった。

 流石に私も歳かなぁ…と目を書類の置いてあったところへ向ける。

 

 いつもなら雑談やお茶をしながらゆっくりと処理していて、それでも間に合うくらいの量に調整された書類たちは、少しづつ溜まっていき定期的に大淀に手伝ってもらっている。

 しかし、公私を分けて淡々と仕事をする子や、書類仕事に強い子が秘書艦だとその1日の書類は驚くくらい早く無くなる。

 そしてスチュワートも黙々と作業をするタイプのようだった。暇なのか退屈そうに書類を眺めることはあっても私に話しかけてはこなかった。

 おかげで仕事は非常に捗り、今日やる筈だった書類は午前中にして早くも半分くらい処理されている。この分だと昼過ぎには終わってしまいそうだ。

 

「私もまだまだ現役かな? それにしても……」

 

 時雨や加賀など大人しかったり無口な子は居る。だけど1時間前も「午前9時です」だけで終わり、つい先程までの1時間、何も喋らないどころか一息つくような声すら出さないような子は流石に居ない。

 ずっとお喋りするのも仕事が進まないので少し問題だと思うが、喋らなさ過ぎるのもある意味問題だと痛感した。

 もしかしたら話題が無かったり、単に緊張しているだけなのかもしれないけど、他の子達に比べるとあまりにも静かで物足りなく感じる。1人だけで作業しているように感じて寂しくなってきてしまう。

 きっとこのままでは秘書艦の仕事をしている間に会話が無いだろう。……昼からは私の方からコミュニケーションを図っていこうか。

 

 

 

 駆逐艦スチュワート。

 彼女の第一印象は“ 普通の艦娘 ”だった。

 強烈な個性を持った子が多い中、その子達と比べるとちょっとコミュニケーションが苦手で大人しい性格に感じたけれど、これはまだ付き合いが短いから本当かどうか分からず、あまりあてにならない。

 とにかく、昨日の昼頃に彼女と演習したらしい赤城が報告を聞きに来るまで私はそう思っていた。

 報告を聴く限りでは盾型の艤装や煙幕、音響兵器らしきものを使って赤城の艦載機をいくつも落とたらしい。防空駆逐艦でもない駆逐艦を、かなりの時間大破まで追い込めなかったと赤城が悔しそうに言ったときは本当に驚いた。

 

 「駆逐艦スチュワート」は記録にも残っていてアメリカのかなり旧い駆逐艦らしい。実際に高角砲を搭載していたから艦載機を複数落とした。だったらまだおかしな所は無いが、やはり盾や煙幕などはどこから出てきたのかは非常に気になるところだ。

 そして、彼女が来てから工廠の一部の妖精さんが非常に騒がしくなったと、多くの妖精さんが口を揃えて言っていたことも気になる。

 

 スチュワート、彼女自身も何か隠し事しているような気がする。文句も言わず……それこそ何も喋らずに秘書艦を務めてくれる様子から、きっと命令したら例え嫌な事だろうとしてくれるだろうし、隠し事だって教えてくれると思う。だけどそれは私の主義に反するので自分から話してくれることを気長に待とう。

 あと、命令に対して従順なのはいいけれど、命令に絶対服従する必要はないということを後で教えておかないといけないと思った。

 

 何故なら艦娘は人間であって、機械ではないのだから。

 

 

▲―――――――――――――――

 

 

 

 食堂の厨房にまたお邪魔している。またまたスマンねって事と、食材は勝手に使っても良いのかってことを訊いたら、「厨房(ここ)に立っているのがいつも私なだけで、食べ物は皆さんのものですから」って言われた。その素晴らしい精神を深海棲艦にも分けてあげて……海は皆の物なんだぞ。

 

 そういった会話を間宮さんとしながらお湯を沸かし、インスタントコーヒーを用意する。給料とかが出るならコーヒーミルでも買ってみたい。

 

 その為にも毎日の仕事を頑張らないと。

 今日みたいな秘書艦は勿論、他の艦娘たちがやってる遠征とか……とにかく経験を積んでいかないと。

 特に提督は多くを語らない人みたいだし、もし休日とかが暇だったら執務室にお邪魔して、他の艦娘が秘書艦としてどんな仕事をしているのか観察するのもアリかもしれない。

 

「……」

 

 快適な自室に思いを馳せていたらお湯が沸いた。水で溶いたコーヒーを飲み干してから急いで提督用のコーヒーを用意する。

 さて、コーヒーも出来たし執務室に戻ろう。いつまでもここに居たらサボっていると勘違いされかねない。

 

 また来るってことを間宮さんに伝えたらニコリ、と微笑んだ。

 いつもニコニコしてる人ほど怒らせると怖いから、絶対に間宮さんは怒らせないようにしようと心に誓った。

 

 

 

 提督にコーヒーを渡してから暫く、休憩を挟んだ上にカフェインをキメた俺は眠気を吹き飛ばし快調だった。

 

「11時です」

 

 時計の秒針が真上にきたタイミングでそう伝えたら提督が小さく溜息を吐いた。机の上を見るとあまり書類は残っていないから、昼過ぎには終わる……まさか。

 さっきの提督の溜息、そして昼過ぎ辺りに終わるであろう書類……これはつまり、昼までに終わらせないといけない書類が終わっていないということなのでは?

 となると終わらなかった原因は俺だろう。初めてだったということもあるけど、単調な作業だ。他人に比べて特別遅れているということは無い筈……。やっぱり朝食の用意とかで始める時間が遅かったのが原因では?

 そろそろ書類の山は片付くだろうし、次はどんな仕事があるんだろうか。もし何もないようだったら勇気を振り絞って座学とかして貰うように頼んでみようかな?

 

 友達は『艦これ』の提督だったけど勿論ただの一般人。一方でこの提督は本物の提督。戦闘指揮のプロフェッショナルの筈だ。

 艦娘歴の浅い俺にとって、提督から受ける座学はただ時間を持て余すより非常に有意義な時間になることは間違いないだろう。その他にも鎮守府での決まり事や各種仕事の内容とか……ワオ、考えたら訊きたいこと沢山あるじゃん。

 その為にも俺も頼まれた仕事をどんどんこなしていこう。とりあえず次は正午のアナウンスだ。

 

 

 

 楽しい時間はあっという間で忙しい時間もあっという間。ただし退屈な時間は1日に60時間くらいあるけど。でも気がついたら正午を少し過ぎていた。だからなんで時計に時間を伝える機能付けないんだよ。チャイムとかもないし……意味不明だ。

 

「正午になりました」

 

 今度こそ余裕をもって昼食を用意しようと意気込んで、お昼ご飯を準備してきますって言おうとしたら手で制された。俺の飯が食えねぇってのか!? いやまぁ、朝に適当な物出しちゃったからメシマズ認定されたのかもしれない。なんてことだ。

 

「食堂まで行こう。昼は私が作る」

 

「……はい?」

 




主人公の時報があっさりし過ぎてて笑う。
でも猫を被らずに秘書艦させたらそれなりになる 筈。

「午前8時です。色々始める時間じゃないですか?」
「午前9時です。はぁ……面白いコト起きないかな

 書いてて思った。誰だコイツ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。