私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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27話です。

誤字脱字報告ありがとうございます。


夜の女王

―― バン!

 

 扉を勢いよく開け放ち、執務室から飛び出してきた川内に対して、廊下で待ってた故に突然の事に固まっている俺。

 獲物を見つけた獣のような獰猛で、無邪気な笑顔を顔に浮かべている川内に腕を掴まれて凄い勢いで引っ張られる。漫画とかでありがちな引っ張られる方の足が床についていない状態に近い。

 

「さぁ! 夜戦の時間だよ! 準備しておいで!」

 

「え? ……いやあの、今日は秘書艦でして」

 

「いいから行くよ!」

 

「うわぁっ!?」

 

 腕を引っ張られる。

 今秘書艦って言ったよね? 野戦ってそれよりも優先度上なの!? あと、準備しておいでって言われても腕掴まれてるから何も出来ないぞ!

 高いテンションで「夜戦だ夜戦だー!」と叫びながら艦娘寮内を走り回る川内と付属品と化した俺。あとは部屋から出てきて追いかけてくる殺気立った数人の艦娘たち。

 

 そして川内は騒ぎながらも追っ手を撒いて工廠に突っ込んだ。自分では動いてないのにも関わらず非常に疲れた俺に艤装を渡してくる。ロッカーには一応鍵付いてた筈だよね?

 渋々艤装を着けるや否やまた腕を引っ張られる。工廠から出るときに明石の近くを通ったときに小さくごめんなさいって言われた。

 だったらこのハイテンション川内を殴ってでも止めてくれって思った俺は疑いようもなく常識的だろう。

 

 

 

 

「おっ、ちょっと少ないけど皆準備出来てるね~。じゃあ行くよ! 貴女も付いておいで!」

 

 さっきから拒否権と自由意志の尊重は? 無いの?

 

「駆逐艦朝潮です。よろしくお願いします」

 

「え? ハイ」

 

 なんて奴だと川内を見てたらいきなり挨拶されてつい挙動不審になる。返事できただけまだマシな方だと思う。

 

「大潮、満潮、荒潮も、挨拶を……満潮?」

 

あっ……ふん……」

 

 俺から顔を背けて離れていく満潮と断りを入れてからそれを追いかけて離れる朝潮。

 え、俺何かしたっけ? 全く心当たりがないんだけど……

 歓迎会のときに酒に酔ってウザい感じの絡み方でもしたのかな? 満潮が不機嫌な理由は知らないけど後で謝っておこう。

 なんて考えていたら他の人にも声を掛けられた。

 

「は~い。荒潮よ。スチュワートさん、これからよろしくね? うふふっ」

 

「大潮です! 一緒にアゲアゲで行きましょう! ハイッ!」

 

「あたしは敷波。よろしく」

 

「綾波型駆逐艦、天霧だ。よろしく頼むぜ!」

 

「アタシは江風ってンだ。これからよろしくぅ!」

 

「陽炎型駆逐艦の十七番艦、萩風です。一緒に頑張りましょう」

 

「そして私が川内だよ。これからも“ 一緒に ”夜戦、しようね!」

 

 うん、情報量が多い。

 え~っと……さっきの真面目そうなのが朝潮で、挨拶してないのが満潮、なんか見た目と雰囲気が一致しないのが荒潮で、陽の者(陽キャ)が大潮ね。これは全員服装が同じだから朝潮型駆逐艦で決まりだろう。

 それであっさりしてるのが敷波、メガネが天霧で、二人とも綾波型……で良いんだっけ? ……良いんだ。吹雪型と似てるって言われない? 似てると思うけど……え? 違う? ……そう。

 

 そして目立つ赤い髪が江風で落ち着いてるのが萩風ね。江風は白露型だったっけ?

 そして夜戦ってしか喋れないんじゃないかって疑惑を早くも俺に植え付けた張本人が川内と。リーダーがコレで良いのか? このリーダーだから良いのか? 分からないなぁ……

 

 俺も挨拶と自己紹介。それが終わったら川内がとんでもないことを言い放った。

 

「あ、そうそう。スチュワートは三水戦に入れるから!」

 

「……?」

 

 あまりにも突飛な内容で脳が理解を放棄してフリーズする。説明プリーズミー。

 

 

 

 海の上で進みながら説明を受けた。

 提督から俺の訓練を兼ねるなら夜戦の許可を与えると言われたらしい。

 

 確かに座学の時間に訓練はしたいとは言ったけど、その数時間後に川内が来るまで一切の素振りナシでいきなり始まるなんて思わないだろ普通は。

 

 しかも敷波の推測によると、コレは毎晩のように夜戦に出る川内の為ではなく、それに付いていく(付いて行かされる)艦娘が無断出撃にならないようにする為の措置らしい。

 そうかな? ……そうかも。

 いや、俺の訓練をオマケ扱いされるのはそれはそれでなんか嫌だ。

 

 

 そして三水戦が云々って話はなんと、俺が三水戦に居たら毎日夜戦しても怒られないだろうと判断した川内の独断っぽい。

 その話を聞いて流石に滅茶苦茶過ぎると思ったのか萩風に謝られた。……逆になんで他の艦娘たちは歓迎ムードなんだよ。

 どう考えてもやりすぎな事実にドン引きだぞ。

 

 夜戦する大義名分を逃がさない為にここまでやるか? その熱意はもはや尊敬できるレベルなんだけど、別に痺れも憧れもしない。

 夜にも哨戒してる艦娘が居るらしいのになんでわざわざ敵を探して叩いてんだか……

 

 このままでは川内に振り回されて死ぬ。そんな未来が見える。

 これは提督に一言物申さねばなるまい。

 

 

 

「敵艦を見つけました! 10時の方向、気を付けてください!」

 

「よーし野郎どもォ! 突撃だ! 続けー!」

 

 深海棲艦が見つかった連絡と共にに騒がしくなった。

 朝潮と萩風以外は緊張するような素振りを見せない。……この2人が清涼剤(まとも)だな。

 

 他の人達が次々と敵に向かって突撃していく中で、まともな攻撃手段を持たない俺は何をすれば良いのか分からなくなっていた。

 

「え、速……

 

 困惑して、取り敢えず付いて行こうとした時には既に人影は遠くに居た。しかも見える光と聞こえる音からすると既に交戦しているらしい。

 取り残された。いや、置いてかれた? 俺の訓練ってどうなったの? 何すれば良いの?

 

いつまでも突っ立ってんじゃないわよ!

 

ああああああっ!?

 

 めっちゃビビった。心停止するかと思った。すぐ後ろから突然大声出さないで……。

 でもいつまでも突っ立ってるのは確かにマズいだろう。

 おかげでちょっと現実に戻ってこれたかも。逃避してても深海棲艦は居なくなったりしないからね。

 

「あ、ありがとうございます。もう大丈夫です」

 

前を見なさい!

 

「え…っ!」

 

 お礼を言ってたら砲弾が飛んできてたらしい。怒られて気が付いたソレを盾で弾くと、駆逐イ級のものよりもだいぶ強い衝撃が盾越しに伝わってくる。

 そうだ、俺が盾を望んだのは何でだ? 確かに誰もしたことが無いようなことがやりたかった。俺が楽しければそれで良かったんだ。

 

 だけど……それはきっかけの一つに過ぎなかった。

 妖精さんを亡くした時みたいにこちらの攻撃は通用しなくて、でも相手の攻撃は避け切れない。なんて時に攻撃を捨てて防御に特化すれば自爆なんてしなくても済むかもしれないと思い始めた。

 

 そして夕張や赤城との演習で、攻撃能力が高い艦の護衛に回ることで心置きなく攻撃に移ってもらうことが出来るかもしれない。と考え始めた。

 

 でもそれだけじゃあダメだ。相手の攻撃を待つんじゃなくて俺の方から俺に攻撃するようにしてやれば良いんだよ! ゲームでありがちなタンク職。その手のゲームはやったことないから経験は無いけど知識ならちょっとだけある。やってれば自然と体は動くようになるだろう。その為に演習とかもあるんだろうし。

 

「満潮、しばらく下を向いててください。攻撃は任せましたよ」

 

「はぁ? いきなり何よ……つまらない作戦なら許さないから」

 

 視線の先には青いオーラを纏った深海棲艦。満潮は呻くように軽巡棲鬼と名前を言った。○○棲鬼ってことは、俺が出会った深海棲艦の中では駆逐棲姫と同等かそれ以上の強さだろう。

 だけど今回は俺の他にも隣に満潮が居る、後ろに心強い仲間が居る。

 だったらやるべきことは俺が攻撃を引き付け続けることだ。その為の盾だ。仲間が攻撃してるときに盾に包まれて震えるなんてカッコ悪いにも程がある!

 

 間違えても沈んでやるものか。軽巡棲鬼にも多くの取り巻きが居るみたいだけど、果たして赤城相手に数分持ちこたえた俺を沈められるかな? 

 

「やってみろクソがぁッ!」

 

 そう叫んでからスタングレネードを全力投球して軽巡棲鬼に近付く。必然的に軽巡棲鬼の周りに居た他の深海棲艦から囲まれるけど、ここで夜の闇を科学の光が吹き飛ばす。

 視界が一瞬明るくなり、不意を突かれた深海棲艦は動きを止めた。俺は細目で辺りを見渡す。

 

「うげぇ……」

 

 さっきの提督との座学で説明を受けた深海棲艦がチラホラと……空母ヲ級に重巡リ級? あれは軽巡の何級だったかな? 兎に角見たことない種類の深海棲艦が何種類か居た。

 でもヲ級は赤城より上ってことは無いだろうし、無視して構わないか。あとは取り巻きの後ろで様子見してる軽巡棲鬼も無視でいいだろう。

 だからまずは俺と同じようなクソデカい盾っぽいのを二つも持ってる深海棲艦を海の藻屑にしてやろう。同族嫌悪ってヤツだ。海上に輝く盾は1つで十分だよ。

 

 近くに来ていたイ級にゼロ距離で高角砲をお見舞いする。ゼロ距離なら艦載機じゃなくても当たるんだよねこれが。普通の砲よりも威力は出ないけど何もしないよりは良いだろう。

 イ級が俺に向かって体当たりしようとしたタイミングで後ろの方から魚雷が複数向かってきていることに気が付いた。不思議なことに危険な物ではないと分かる。

 それらは俺の脇を通り抜けてイ級とその他に大きなダメージを与えているみたいだった。あの妖精さんが言う通りなら満潮のレベルはかなり高い。

 ……これなら案外楽に勝てるんじゃないの?

 

 

 

 前言撤回。かなりキツい……やっぱり戦いは数なんだなって思う。ヲ級が3人も居たらそりゃあ赤城と同等かそれ以上に苦戦を強いられるでしょうよ! しかもまだ盾持ちの深海棲艦は沈んでくれないし。

 高角砲が無かったら今頃満潮と一緒に仲良くお亡くなりになってたかもしれない。

 大見栄を張ったばかりにそれだけは勘弁してほしいと思い始めた頃に、軽巡棲鬼が川内が居る方の戦場に向かっていったから助かった。

 軽巡棲鬼用に取っておいた魚雷を眼前の深海棲艦に惜しげもなく放つ。相変わらずダメージはあるみたいだけど満潮の魚雷と比べると威力が低すぎる。

 

 それにしても、艦載機が多すぎる。

 切実に1回休みを貰いたい。

 

 だけど深海棲艦がそんなことをしてくれる筈もなく、焼夷手榴弾と音響手榴弾を投げてから後退して危機を脱する。

 やっぱり場数をこなして適切な対処方法をゆっくり身に着けていくのが一番の近道か。 なんて考えてたりしてたら、突然攻撃が優しくなった。

 ちょっとした余裕に辺りを見渡すと、首から上が無くなってるヲ級が居た。

 

「ヒエッ…グロい

 

「私たちの事を忘れてるんじゃないの?」

 

「スチュワートさん、大丈夫ですかっ!?」

 

 なんて声が聞こえてきた。川内に朝潮!?

  あぁ……すっかり頭から抜け落ちてたよ……。

 

「あっちの戦いは……」

 

「終わりました。あとは私たちに任せてください」

 

 

 

 萩風に連れて行かれて戦場から少し離される。そこにはかなり疲れた様子の満潮が居た。大きな怪我はしていないみたいで、殆どの攻撃を引きつけた甲斐が有ったなぁと思う。

 

「ヘヘッ……」

 

「なによ、気持ち悪いわね……ありがと

 

 聞こえてんだよ。可愛いくないヤツめ。

 

 主に満潮が減らしたとはいえ人数差があったこともあって、それほど時間も掛からずに残っていた盾持ちとヲ級3人は海上から姿を消して、静かな海が戻ってきた。

 

「みんなお疲れ様。早く鎮守府に戻って、明日の夜戦に備えるよ!」

 

「「「……」」」 「「おーっ!」」

 

 川内の放った言葉に対する反応は二通りだった。白い目で川内を見る大多数と、元気よく右腕を上げる江風と天霧。俺は勿論前者だ。そんな元気は既に無い。他の面子もだいたいそんな感じだろう。

 だって空が薄っすらと明るくなってきてるんだし。

 ほぼ徹夜して尚騒げるのは生粋の夜戦バカ。と頭の中で注意書きをしてから、出撃の時より大分ペースが遅くなった三水戦と鎮守府に戻る。

 

 ……秘書艦って昨日の午前8時頃に始めた筈だからまだ一日経ってないんだよね。

 毎日こんな感じで夜戦に付き合わされてたら過労で頭おかしくなる。

 明日……いや今日も、頑張らないといけないのか。

 




・川内さんは平常運転
 川内の身体は夜に闘争を求める

・なぁ主人公……探照灯って知ってる? 「!!」
・軽巡棲鬼は戦力を小出しにしたばっかりにやられました。あ~あ
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