誤字脱字報告が…多いッ! 報告ありがとうございます。
布団にダイブ。風呂場が艦娘寮のすぐ近くってこともあって僅かながら外の空気に触れ、表面だけは冷えたがまだ熱が籠っている芯は再び体を温め始めた。
「疲れが取れた気がしない……」
溜息を吐く。
実際は大変だったなんてモンじゃない。風呂場に台風が留まってるって感じだった。
予想通り風呂場には誰も居なかったけど、途中で江風に捕まったのが運の尽き。この時はまだ「一人じゃないのかぁ」くらいの軽い気持ちだった。
江風がちょっと温くなった湯を熱くしようと蛇口を捻るところまでは良かったけど、そのまま寝落ちして沈んでいったり、引っ張り上げてから風呂場の椅子に座らせたり、その間に熱くなった風呂に入ってたら起きた江風が入ってきて熱いと騒ぎ始めたり、心配した海風が見に来て俺が盛大に焦ったりetc……
「川内と一緒で、振り回して来たなぁ……」
バカと天才は表裏一体ってのを思い知った。
眠気が吹き飛んだのか、勢いよく質問し続ける江風にビビりながらも答え続けた、そして江風にもいろいろと訊いた。
白露型の姉貴たちについて嬉しそうに色々と喋ってたことは覚えてる。白露は何でも一番を目指そうとするから努力し過ぎて頻繁に体調を崩すだとか、山風はついつい可愛がって控えめに叱られるのも良いとか、涼風は唯一の妹だから可愛いとか……仲がよろしいようで。
名前からして海外の艦娘じゃンって言われたけど、知らぬ存ぜぬで突き通した。実際に俺が知ってることは殆ど無い。アメリカの艦だってことくらいか? 休みは簡単に「駆逐艦スチュワート」について調べてみるか。ロールプレイに役に立つし。
「ァ……ッ フゥ……」
きっと他人には見せられないような、はしたないって妖精さんに言われるだろう大欠伸が出た。するとなんらかのスイッチが切れたんじゃないかってくらい眠くなってきた。
これは寝るなと理解して、そのまま目を閉じた。
それから数分後
ハラリと微かな音を立てて「壁」が剥がれ落ちる。
落ちた壁の向こうにはカメラを持ち「どんな顔?」と10人に訊いたら13回くらい「悪い顔だ」って答えられそうな顔をした女性が立っていた。
女性がソロリソロリと、ゆっくりと音もなく、しかし慣れた足取りで寝ている艦娘の枕元まで近づいて行った。
―― カシャッ!
「いや~。良く寝てますなぁ……一枚、いただきましたよ!」
女性は何かが書いてある紙とペンをちゃぶ台の上に、それ以外の痕跡は一切残さず、最近この部屋の主になった寝ている艦娘にそう呟いてから出て行った。
その後の部屋には、何事も無かったかのように規則正しい寝息だけが響いていた。
「ん。んーーっ、ハァ……」
なんか寝た。すっごい寝た。
もそもそと布団の中の冷たい部分を求めて動く。次第に布団全体が暖まってきて、心地よい眠気が不快感を伴う熱気に換わってきたのでゆっくりと体を起こす。
髪が耳とかに絡まってウザい。耳に絡まないように後ろで束ねようにも髪の長さが足りない。邪魔なのに伸ばさないと退けられないとか不便だ。
何度も切ろうかとも思ったこの短くない髪。なんと妖精さんから伸びないし、妖精以外にカット出来ないって言われてるんだよね……。諦めてお洒落しろって? 冗談じゃない。
制服だから仕方ないとは言えスカートを履いてるから今更だけど、リボンはちょっと抵抗感が強い。やっぱり慣れるしかないのかと考えて寝起きから憂鬱になる。
ノロノロと布団を畳み終わって大きく伸びをすると、ちゃぶ台の上に並べられている紙束に気がついた。
カレンダーの他にも封筒がいくつか。あとペンも。
早速開けて確認する。
「ん~っと……あぁなるほどね」
紙の内容はプロフィールの記入を求める物で名前やプロフィール、一言などを記入するように紙に指示されていた。
これに記入したら、艦娘のプロフィールとかが載ってるあの冊子に俺の項目が増えるのかと思うと恥ずかしい。
「クレムソン級駆逐艦で……スチュワートっと」
身長と体重は……これって艦の方? 艦娘の方? どっちも知らないからパス。
好きなものは……困ったなぁ。『艦これ』だったらキャラクターごとに好き嫌いが艦歴とかを反映させたものだったりするから……やっぱり明日か明後日には調べに行かないといけないな。取り敢えずこれも飛ばす。
……この調子だと碌に埋められる気がしない。やっぱり今すぐ調べに行こう。幸いまだ外は明るいから、図書館とかが近くにあることを願おう。
書類の記入を諦めて他の封筒を確認すると、中には紙が2枚。
取り出してみると……諭吉さん!?
「えっマジ?」
ドッキリとかじゃないよね? 監視カメラとかないよね? あの冊子に使うようなオモシロ画像なんて撮られたくはないんだけど!
焦って部屋を見回したけど隠し撮りはされてなさそうだった。安堵の息を吐く。
そして諭吉さんじゃない方の紙は……
「初めての休日、これで羽根を伸ばしてきなさい。ただし門限は守ること……提督の仕業か」
何をするにも大なり小なり金は必要だから、本音を言えば遠慮せずに貰っておきたい。
でも財布も持ってないし……
「問題が多すぎるな」
財布を買いに行くことが最優先か? いやでもその前に、俺の
普通な服は工廠にあったっけ? 確認しよう。
「明石さ~ん」
工廠の購買で明石を呼ぶ。はいは~いなんて言いながら出てきたので、外に出ても不自然にならないような服は無いか? と訊いたところ、幸いなことに鎮守府からそう離れていないところに服も売ってる店があるらしい。
しかも嬉しことに、鎮守府が近いからかこの辺の住民は艦娘慣れしているらしい。
鎮守府で
他にもアレコレ訊こうとしたら「購買には余所行きの服は売ってないし、住民も慣れてるし、悪目立ちはしないから諦めて外に買いに行きなさい!」って怒られた。
艦娘に慣れてるからと言っても、見慣れない存在である俺には好奇の視線が注がれることは間違いない。注目されるのは好きじゃないんだけどなぁ……。
なんて落ち込んでたらケツを叩かれた。
「明石さんは最初、固い人だなぁなんて思ってましたけど、全然そんなことなかったです」
「ちょっと、ソレどうゆうこと?」
「そのままです」
「……貴女も言うようになったわね」
いや、ずっと言ってたよ? 心の中で。
俺もだんだん慣れてきたから喋り方のセーフティーラインが見えてきたような感じがある。でもポロっと男言葉を漏らさないように気を付けないと……。
でも江風とか天龍とか居るし、漏れても案外何とかなるかもしれない。まぁその時はその時でいいか。
受付みたいなところには“ 普通 ”の警備会社の社員みたいな人が座ってた。
外出したいと言っても特に引き留められるような事は無く、あっさりと外に出ることが出来た。
「……何もないじゃん」
レンガ造りの壁に作られた扉を開けると、そこは舗装された道路と、その両サイドに林が広がっていた。
懐かしき日本の街並みは遠く、木の隙間からちょっと見えるだけ。
「交通の便、悪くない?」
出鼻を挫かれた気分だ。
現代日本を忠実に再現なんて土台無理です。
多少地理や地形が変わっても許してつかぁさい……