相変わらず[投稿]ボタンを押す時にマウスのクリックが震える……
「絶対に中を覗かないでください」
そんな鶴の恩返しみたいな言葉と共に倉庫の外に叩き出された。
掌サイズの一体どこに恐らく人間サイズの俺に抵抗を許さないで押し出すだけのパワーがあるんだろうか。浮いてるところも見たし……艦娘なんて要らないんじゃないのか?
「25分もあれば出来ると思いますので、待っててくださ~い」
と言うなり扉を閉めてしまった。
25分ってちょっと微妙じゃない? ただ待ってるには長いし、何かするには短い。散歩するにも道が分からない。
周りを見ると、近くには今まで居た倉庫に似た建物が並んでいた。コンテナだコレ。しかも張り紙には文字と数字が書いてあったけど日本語じゃない。
「日本じゃないのかよ」
そして海の香りがするから海の近くだと判断できる。海、コンテナ……港か?
海なんて人生で5回も行ったことが無い。港なんて初めてだ。
でも妖精さんの気まぐれで今の俺は艦娘だ。これから嫌だと言うほど海に出ることになるんだろうな。
ゲームの中、アニメや小説の中といった命のやり取りは見ていて楽しいと思う。
これからは傍観者ではなくなる以上、被害が出ないから楽しむなんてことは出来ないんだろうと思う。なにせ此方は最近まで一般人だ。命のやり取りなんてしたことはある筈がない。
考えながらも石をいくつか拾って倉庫の前にまとめて置いた。もっと分かりやすい目印があったらいいのにと考え、あまり遠くには行かないようにしようと思った。
紺色の空に黒い海が目の前に広がっている。昼間は太陽の光を受けて輝いているであろう波は自己主張を抑えている。残念ながら夕日は背中にある。
「……」
俺の知っている海はいつもテレビの中にあった。天気が悪い日の荒れた海と夏に人で賑わう騒がしい海。あとは大量のゴミが流れ着いた海岸くらいか。
だけどそんな海は影も形も無く、俺に夜の海がどれほど静かなのかを教えてくれた。
……あの水平線の向こうでは今日も艦娘が命を懸けて戦っているのかと思うとセンチな気分になる。艦娘は一体何の為に戦っているんだろう? 市民の安全か、誇りか、それともただ存在理由だからか。
小さな波の音を聞き、徐々に暗くなる空を眺め考えに耽る。
――風が吹くまでは
「うわっ」
風が吹きいてスカートが揺れ動く。咄嗟に押さえたからまだいいとしてもやはり、事情を知ってるならスカートじゃなくてせめて短パンにして欲しかったと思わざるを得ない。
こういったところ女子は本当に凄いと思う。冬の日にも脚を出してたりするのを見て寒そうだと思ったことは一度や二度ではない。今俺はスパッツを履いているが聞いた話だと女子はそうでもないらしい。羞恥心とかは無いのか? 慣れなの? 部活動では俺もスパッツは履いてたけどスカートなんか慣れるわけねぇだろ!
溜息を一つ。最近溜息が増えた気がする。幸運がどんどん逃げていくなと考えながら、また溜息を吐く。
「……そろそろ時間かな?」
倉庫に向かって歩き出す。せめて情報収集とかすれば良かったのにしょうもないことに時間を使ったなぁと気づいたのもこの時だった。
倉庫に着くと扉の前に妖精さんが居た。
「ちょうどいい時間ですねぇ、たった今完成したんですよぉ」
そう言って倉庫の中に入る妖精さんの後に続いて倉庫に入る。
すると、なんということでしょう! 先程までダンボールその他以外は何もなく、寂しい雰囲気の倉庫の中に、立派な艤装が佇んでいるではありませんか! 点いている明かりの数も増え、出ていく前よりも明るい雰囲気になりました!
「ビューティフォー」
「早速着けてみてください」
見ているだけでワクワクしてきていたが、着けろと言われると困惑してきた。どうやって着けろと? あれ金属でしょ? どう考えても40キロくらいありそうなんだけど……持ち上げる?
「無理でしょコレ」
手に持つ砲だけならまだしもこれは……こんなに重そうなもの背負えといって留め具が無いとかお前ほんとに作業員かぁ!? 安全第一って言葉をご存じない!?
「ここを、こうです!」
腕に砲を着けられた。
「止めろっ! ……そんなに重くない?」
一体何故と自問自答。答えは簡単なもので、俺の知っている艦娘はみんな艤装を纏っていた。疲労で腕が下がるならまだ分かるが、艤装そのものを重たそうにしている艦娘は居なかった。
つまり俺は今、スチュワートという艦娘になったのだから同じように艤装を纏えるという訳か。
そうと分かれば早速装備してみますかね。
……現実は甘くないらしい。一般的な服装以外のものは身に着けたことがない俺にはどうやって装着するのかがさっぱり理解できず、唸っていたところに妖精さんが手助けしてくれた。着ける手順とかを見て覚えようとしたものの、あっという間に終わってしまったのでさっぱり理解できなかった。恐るべし妖精パワー。
「似合ってますよ~」
うんうんといい笑顔で頷く妖精さん。確かに鏡に映る自分の姿は不慣れからくる違和感は大きく、やはり自分だと思うことが出来ない。それでも鏡の中には『艦これ』に居てもおかしくは無いんじゃないかと言えるくらいには艦娘に見える少女が居た。
「右手のそれは単装砲ですぅ」
そう言われて右手を上げる。重さを感じさせず滑らかな動きをして上がった右手には砲身の二つ付いた奇妙な形の銃が握られていた。
「これって二発同時に発射されるの?」
「そんなことは無いですよぉ。腰の二つも全部単装砲なのでバラバラに発射できると思いますぅ」
「じゃあどうやって撃ち分けするんだよ」
「念じれば出来ると思いますよ~」
そんなアバウトな。念じればってなんだよ念じればって……しかも思うって……しっかりと言い切って欲しい。ここでは試し撃ちも出来ないし、腰に着いてる艤装についても聞いておいた方がいいかもしれない。
「側面下部に付いてるこれは魚雷ですぅ」
と一本渡される。鈍く銀色に光る筒、これが魚雷か。軽過ぎず重すぎないちょうどいい重さを感じる。手で持ってるけど大丈夫?
これ落とちゃって大爆発なんて俺は嫌だからね。
「これは?」
気になったのが腰の艤装の右側にある出っ張った部分。そこには単装砲? とは形の違う砲が一つ付いていた。比較的小さいが長めの砲身、随分上向いてるけど当たるの? これ。
そう思っていたら妖精さんが教えてくれた。
「それは高角砲ですぅ」
高角砲? なんじゃそりゃ。
いや、形と名前から考えて大きい角度を持っているだろうから、航空機を打ち落とす為の砲か? 妖精さんに答え合わせをしてもらったら、だいたいあってるらしい。
「じゃあ背中にあるこのドラム缶? っぽいのはいったい何なのさ」
そう、背中のコレはいったい何だろう。個人的な予想では燃料タンクと見た。まさか背もたれです休んでくださいなんてことはないだろう。
「それは煙突ですぅ」
「煙突ぅ!? なんで? なんで煙突」
「煙突が無いならどうやって動くんですか? 第二次世界大戦中の艦は何で動いていたと思ってるんですかぁ?」
「あっ……ハイ」
なるほどね。現代の豪華客船だって煙突が付いてる。当時の技術力で化石燃料を使わずに電気モーターだけで動く艦なんて考えられない。あったとしたらそれはオーパーツだろう。
だから艤装にも武器だけじゃなくて煙突が必要なのか。水に浮けても進めなきゃ駄目だもんね。
さて、ここまで艤装について妖精さんとお喋りしたんだ。次にやることとと言ったら……
「艤装もあるんだし海に行ってみましょう」
来た。これで俺も海上デビュ「そこで――」ん? まだ何かあるの?
「大事な話があります」
ちょっと真面目な雰囲気を漂わせた妖精さんはそう言った。
三話目で海の上に行かない艦これの小説(?)があるらしい。
見切り発車故書き貯めなんてありません。