PCやスマホで『執筆』するということに疑問を感じてます。
この場合の適切な熟語は……?
耳に入る市街地の生活音。
目に入る信号機や電光掲示板などの光。
鼻には車の排気ガスや土っぽい匂いが入る。
自販機の炭酸飲料を片手に街並みを歩く。
空き店舗のショーウインドウに映った自分の姿が目に入って立ち止まる。
「早いもんだな」
『艦これ』の世界に妖精さんに連れてこられる形で転生してから大分経った。
何も分からないまま海の上をただ進み、深海棲艦なんて化け物と相対して死にかけたり、ゲームの中のキャラクターがリアルに居て、鎮守府で過ごして……
「……すっかり日常と非日常が入れ替わったなぁ」
なんと鎮守府に着いてから既に一週間以上経ってる。
新しい武器を作ってもらったり、大ベテランから洗礼を受けたり、夜戦に連れてかれたり……
人は慣れる生き物だって言われてるけど、毎日が非日常だからそうそう慣れることはなさそうに思える。
今なんて特に、非日常の連続から急に俺が知ってる日常に逆戻りしたから脳が混乱してる。
突然の休暇だったから予定なんて無いけど、服装は何とかしたいと思ってる。
今も俺は妖精さんから貰った
制服はいつの間にか……というか寝てたら朝に綺麗に畳まれて置いてあったから、妖精さんが隙を見て洗ってくれてるらしい。
つまり、極端な話にはなるけど、余所行きの服が無くても鎮守府内では清潔な服装で過ごすことが出来ると言うわけで、制服以外の普段着なんて必要無いんだけど……。
「やはりスカートは恥ずかしい……ッ!」
街並みを歩いてると、数は少ないけど車の中からちょくちょく視線を感じる。まぁ、
だから見ないでくれ。邪な視線を向けて来ない艦娘ならともかく、見ず知らずの人に見られるのは抵抗がある。おう今ガン見してた姉ちゃん、アンタに言ってんだよ前向いて運転しろよ。事故っても知らないぞ。
「おっ?」
交番があった。
周辺の地図が描いてある看板とかがあるから実際、今の俺みたいに迷子になったときは間違いなく役に立つんだよなぁ……。
「うわ……結構離れてる」
なに? いつの間にこんなに歩いたの? ってくらい離れてる。正直なところ、メモか何かが無いと自力で帰れる気がしない。
近くにコンビニあったから、メモでも買ってくるか。
「ヤバいなぁ」
この一言が全てである。
お手製のメモで複雑な道を正確に辿れなかった俺は今、正真正銘の迷子である!
やっぱりスマホのマップ機能は素晴らしいってことがハッキリ分かった。
迷路は迷ったら分かる場所まで戻るってやり方も、迷路みたいに右手の法則? も市街地では役に立たず、
そんな現状である。見たことない街並みをあっちへフラフラこっちへフラフラと、もはや当初の目的地を目指しているのではなく当てもなく彷徨い続けている感じだった。
空を見上げる。空は綺麗な橙色に染まってきたけど、建物の陰に隠れながらもゆっくりと沈んでいく夕日を呆けながら眺めている余裕は俺には無い。
「まだ、まだ沈まないでくれよ……!」
焦燥感が募っていく俺は、さっきからずっと街中を小走りともとれるような早歩きで移動していた。道を訊こうにも物欲センサーに引っかかったみたいで、迷う前はそれなりに人通りはあったにも関わらず、迷子になってからは車の往来があるばかりで、人影は全くない。
時間的に居そうなちょっと買い物帰りのおば様方~? 散歩やランニングしてるおじ様達~?
「チッ……ああもうっ! クソッ!」
苛立ちのあまり怒声を上げる。東側の空が紺色になってきたのを確認して、俺の足は更に速く動いた。
……すっかり暗くなってしまった。街灯と車のヘッドライト、家の灯りのお蔭で海の上よりも随分明るい。
だけど帰る見通しが全く立たない俺は気分が落ち込んでて周りよりも暗くなっている。空を見上げると星が出ていた。
俺は公園に居た。夜戦終わってから何も口に入れてないから腹が減り、ずっと小走りだったから喉が渇いていた。公園の水飲み場で水を飲んで、疲れた足を休めるためにブランコに腰掛けていた。
「辛いわぁ……」
このまま帰れなかったらどうしようかなんて、ネガティブ極まる考えが出てくるあたり相当参っているらしい。
鎮守府で過ごした一週間の間に随分贅沢な生活に慣れた……質素な生活から抜け出していたものだ。ククッと苦笑いする。
人間、贅沢を知ってしまうと中々元に戻れないなんて言うけど、以前なら半日食べなくても何とかなっただろう。だけど今はもうダメだ。空腹による胃酸かストレスのどちらかで腹が痛い。
走り回った影響からか、セーラー服もリュックも汗でベチャベチャになってる。
こんなことなら、恥を忍んで誰かの家を尋ねて道を訊くとか、いっそ余ったお金でタクシー呼ぶとかしてもらえば良かった……どうして手遅れになってから簡単な解決法が浮かんでくるんだろう。
「はぁ~……」
クソデカい溜息を吐いてから軽く地面を蹴る。ブランコが小さく揺れて哀愁のある音を立てる。しばらくそれを繰り返してフッと自嘲する。こんな状況なのに焦らずに諦めた俺の不甲斐なさよ。
「あ~居た居た。もうっ! 随分と手、掛けさせてくれるじゃない?」
……どちら様で?
俺を探しに来たってことは鎮守府の人だろう。わざわざ俺の事を探しに来てくれたのか……
「えっと……ごめんなさい。お手数をお掛けしました」
でもどうやってだ? 俺はGPS機器なんて持ってないし……訊いてみるか。
「どうやってこの場所に居るって分かったんですか?」
「……私たち艦娘に大事な事は三つあるわ……勝利への意欲」
「はい」
あ、艦娘だったの。
なんか見たことあるけど……誰だろう?
「美への意識」
「……はい」
「そして……勘よ」
「はい?」
いや、1つ目と2つ目は分かるよ? 相手を倒してこちらも倒れたら負け。相手もこちらも倒れなかったら分け。勝利の為には相手を倒してこちらが生き残る必要がある。道理だ。
そして艦娘だって恋する女の子だ。『艦これ』でも提督LOVE勢なる人たちもいるみたいだし。……
そして気になる3つ目。これが分からない。何だよ勘って。
「勘は大事よ? ここぞって時には案外バカに出来ない力を発揮するわ」
アッハイ……でもそんなことを言えるのは高性能な勘を備えてる人だけなんだよなぁ……俺はそんなこと言えないもん。
「そう! 私たちは貴女を探しに来ていたの! さっさと帰るわよ!」
「足柄? 遅いですよ。見つかったなら早く戻ってきなさいな」
「み、妙高姉さん……」
もう一人の声がした。そこには足柄と呼ばれたのと同じ服を着ていて、俺を探しに来る人達で、妙高姉さんと呼ばれていたから……あっ、妙高型重巡かぁ!
型まではあっさりと覚えられそうだなぁ……。服装も纏ってるか似てるし。え? 陽炎型? ……あんなの無しだ無し! 統一感が無いから覚えられない。統一感が無いのが陽炎型って覚えておこう。
「ほら、早く鎮守府へ戻りますよ」
そう言って歩き出す妙高の先には、白い車があった。
まぁ、成人女性みたいな見た目の艦娘も多いし、車の免許持っててもなんらおかしいところは無い……か? 軍艦が車に乗るってのは、面白いって意味ではおかしいけどな。
「……もう少し速く走らせても良いんじゃないですか?」
遅っそ。安全運転のし過ぎでノロノロと走る車に乗ってる感想がこれだ。後ろ詰まってるじゃん。学生が運転してる教習車でももっと早く走るって。
これなら俺が運転した方が良いだろ。無免だけど。少なくとも今より余程快適な速度で運転できる。
「交通規則を破る訳にはいきません。そんな考えだと――」
隣に居る足柄が「何てことしてくれんのよ!」みたいな顔をして俺を睨んでくるけど、俺は悪くないと思う。
実際道路って流れが大事だと思うんだよ。いくら交通ルール守ってたって……ほら、後ろの方だんだん詰まってきたぜ。煽られるまであとどのくらいだろうなぁ~。
「あっ、そうだ! 妙高姉さん!」
「――達は市民を守るに当たって、模範となるように……何ですか? いきなり大きな声で」
「私、大淀さんから提督が近いうちに辞めるつもりだって聞いたんだけど!」
へぇ~そんなニュースが……
え?
・交番は実際迷子になった時すごい助かる。
今はスマホのマップ機能があるからそうそう迷ったりはしないけれども。
・妙高型の2人。那智と羽黒はお預け。
・提督、仕事辞めるってよ。