長かったほのぼの日常回も終わりの時が近づいています。
やっぱり艦これだからね。深海棲艦が居ないと……
「私、大淀さんから提督が近いうちに辞めるつもりだって聞いたんだけど!」
「えっ嘘!?」
「Oh...」
マジ? 血迷ったか提督。
提督が辞めるとか……一部の艦娘達が暴動を起こしかねんぞ。平穏な日常が無くなっちゃうだろうが!
「それで、暴動を起こした人達を一先ず鎮めた大淀さんが、提督にサプライズで送別会を企画しててね……」
えぇ……もう暴動起きてたの? 行動力ヤバいな。そしてそれを鎮めた大淀強くない? 絶対に鎮守府の裏のボスでしょ。
「えぇ、分かりました。この妙高、並びに妙高型も参加することを大淀さんに伝えておきます。それよりも、何故そんな大事なことを今まで言わなかったの?」
「あっ……」
あ~あ、また口煩くお説教が始まりそうな予感がする。
何してんのさ足柄~? なんて考えながら足柄を見る。果たして視線に思考は乗せられるか。
うんざりしたような顔をしながらハイハイ言ってた足柄も、お説教の内容が小言から提督の送別会に移ると生き生きとし始めた。
やっぱり提督って慕われてんだね。ケッコン指輪渡したら人によっては感動、感激のあまり気絶するんじゃねーの?
っていうかさっきから俺に話題が一切振られてこない。完全に姉妹で空間を作って楽しそうにしてる。まぁ新人の俺には提督との思い出なんて無いし、別にいいか。
話が無いなら鎮守府に着くまで寝てようかな……走り回って疲れた……。
安全運転極まる車内は殆ど揺れないから、意識はスッと落ちていった。
「起きなさいよー!」
やや乱暴に揺すられて大声を出されて起きない人などいない。それでも起きないヤツは寝たふりか死体かマネキン。もしくは強力な睡眠剤か、起きていると自己認識できない狂人の五択だろう。
勿論俺はその中には入っていないから素直に「何事ぉ……」なんて寝ぼけながら起きた。
鎮守府に着いたらしく、足柄の後ろを欠伸をして目を擦りながら歩く。
「ハァ……きっとこんな時間じゃ食堂はやってないわね……。よし! 今から私が夕食を作るわ! 貴女もいっぱい食べて、力を付けなさい!」
「……食堂、電気点いてますけど」
「あら、ホントね」
そう言うと、キョトンとした様子で食堂の明るい窓を見る足柄。因みに妙高は提督のところに行っている。車の鍵を返しに行くらしい。
俺が夜間まで帰らなかったのはお咎めナシらしい。緩くね?
でも聞くと、無許可での外泊やその他の迷惑、犯罪行為以外はほとんど自由らしい。人によっては居酒屋で日付が変わるまで飲んでコッテリ絞られたこともあるそうだ。
……緩くね?
休日にしっかり羽を伸ばすって意味では間違ってないんだろうけど、艦娘だって一応海軍……海上自衛隊の中の深海棲艦対策本部? に所属してる軍人だ。もっと規律とかでガチガチに縛られてるもんだと思ってたんだけど、偏見だったかな。
食堂には多くの艦娘が集まっていた。きっと夜間の見張りと、出向で居ない艦娘以外は全員居るんじゃないかってくらいの多さだ。だからだろうか、人が集まる故の熱気と独特な酸素の薄さにクラクラする。
俺と足柄が入って来た時に、扉越しでも聞こえてきたような喧噪はピタリと止んで、何故かほぼ全員が立ち上がってこちらを見ていた。……凄く張り詰めた空気に食堂に入って一歩目の姿勢で俺は固まった。
が、俺と足柄を見るとあからさまに空気が緩み、各自が椅子に座り始めてまた騒がしくなった。……これは何かを隠してるな?
見やすいところには大きなホワイトボードが出されていて「提督の送別会について」なんて大きく書かれている。その下には大勢からの意見なんだろう。豪華な夕食、記念撮影などの赤マルを付けられた案と、人体実験で若返らせるなんていう悍ましい案が横線で消されていた。考えたヤツの頭は絶対にイカれてやがる。早急に明石に頭の修理をしてもらうべきだ。
ワイワイと騒ぐ艦娘たちの輪から一歩離れた場所で見てたら、テーブルの上におにぎりや軽食が並んでいるのが見えた。
「足柄さん、夕食はいいんじゃないでしょうか」
「そうみたいね。私も混ぜなさい!」
そう言ってズンズン人が多い方へ進んでいく足柄を、食堂の入り口に立ってる俺はただ見ていた。おにぎりを手に取り……具材ナシ。塩味が疲れた体に沁みる。
▼―――――――――――――――
「静かにしてください」
私がそう呼び掛けても、一瞬だけ静かになるばかりで、すぐにざわつきが大きくなっていって元に戻ってしまいます。これでは一向に会議が進行できません。
たしかに、提督が辞めるという情報を他の人に知らせたのは私ですが……。
暴動を起こすほど提督を慕っている人が居ることまでは予想できていたので、こうして「提督の送別会」という形で、それに向かって全力を出してもらうことにしました。
共通の課題があると、バラバラな集団も団結する、と提督が仰っていたので参考にさせて貰ったら、本当に団結したので驚きを隠せません。……団結し過ぎてる上に暴走気味なので今、困っていますが。
今食堂に入る皆さんは、各々の用事があって時間が無い中で焦る気持ちがあることは分かっているんですが、円滑な司会進行に全く協力的ではありません。普段はまとめ役をしてくれる長門さんも拳を握り締めて何かを熱弁しているので、今は期待できないでしょう。
色々と書き込まれたホワイトボードを見る。そこには「各自が一言を綴った色紙を渡す」といったまともな案から「提督参加型の鬼ごっこ」「提督も一緒に飲み明かす」といったちょっと許容しかねる案まで様々なことが書き込まれていました。
……島風さんも、伊14さんも、提督が鍛えてるからと言って随分と無茶をさせようとしますね……「私はもうそんなに若くない」って口癖のように言っているでしょうに……
ハァ……と溜息を吐きますが、皆さんの声が五月蠅いのできっと誰にも聞こえてはいないでしょう。それでも。良く通る言葉はあるもので―――
「――誰か来るッ!」
そんな声を出されたのは、食堂の出入り口でさっきまでおにぎりを3つほど食べて噎せていたスチュワートさんからでした。
その一言で食堂内は静まり返り、皆さんが立ち上がって、少しでもホワイトボードが出入り口から見えにくいように立ちはだかります。……どうしてこういった連携が、話し合いで出来ないのでしょうか……きっと私は今、苦い顔をしているでしょう。
「……皆さん? どうかしましたか?」
やってきたのは妙高さんでした。先程の足柄さんが入って来た時と同じようにまた、空気が緩んで……あぁ、また騒がしくなってしまいます……
「はい! 大淀さん。お……私もう眠いので部屋に戻って良いですか? 明日もあるので……」
突如そんな声を出して食堂から出て行ったスチュワートさんに私は何も言えませんでした。皆さんも「信じられない」といったように口を開けて固まっています。
「薄情な人……」
そんな呟きが聞こえてきましたけど、それと同時に長門さんが正気に戻りました。
「そんなことは言うものではない。我々にも明日の仕事がある。それに支障が出ては却って提督を心配させることになるだろう。大淀、早く話し合いを進めようじゃないか」
「はい。……今出てる案から――」
やっと進行が再開出来ました。やっぱり長門さんは頼りになります。そして、一度空気を止めてくれた妙高さんと、マイペースながらも長門さんを立ち直らせたスチュワートさんには感謝します。
▲―――――――――――――――
廊下を歩く。
「あ~眠い……」
なんて呟きながら欠伸をすると、目の前の部屋から提督が出てきた。部屋のプレートには「海風 山風」と書いてある。……たしか江風の姉貴達だったな。
でもなんで……まさか提督が提督として
「「 ! 」」
アカン。目が合った。目と目があったらポケ〇ン勝負だって決まってるから……え? 違う?
じゃあ恋でも始まる? これも違う?
じゃあ「
「艦娘の子たちが見当たらないんだが……」
あぁそのこと……こればっかりは口が裂けるまでは言えねぇな。適当な嘘で誤魔化そう。
「あ~……それでしたら、今食堂で「女子会」をしているみたいで……集まって騒いでましたよ。提督こそ、お夜食ですか? だったら準備してもらいますけど」
「いや、いい。……あまりにも誰も居ないから少し心配になってね。皆居たのかい?」
「はい。私は眠くなったので抜けてきましたけど」
「そうか。なら良いんだ」
なんて言って提督は執務室のある方へ戻っていった。俺も風呂入って寝ようとしてたけど、提督が心配で見回ってたことと、女子会で騒いでたって誤魔化したことは伝えておこう。来た道戻るとかめっちゃダルいけど、仕方ないか……
「ハァ……」
溜息を吐く。
この後、食堂に戻って伝えたら、何故か凄く真面目な雰囲気で話し合いをしていて凄く驚いて、仕返しとばかりに提督が心配してたと言って
去り際に見えたホワイトボードからヤベー案が消されていたのでちょっと安心した。提督の命の危機は去ったらしい。それも身近なところに潜み、気付いた時には手遅れなヤツがな……。
「ふぁ……」
風呂に入って寝よう。
・艦娘寮の部屋割りは適当。1~3人部屋までは用意してある。
妖精さんに頼めば増築もカンタン。(都合のいい言い訳)