私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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33話です。



提督最後の日

 色紙も書き終わってから青葉とちょっとした雑談、もとい取材を受けて午後を過ごした。

 

 それでも余った時間に工廠に行って、どことなく暗い夕張と山城の前で川内と江風の物マネをしてみたりした。ショートコント「夜戦バカ達の夜」。

 物マネはそこそこ得意だから自信はあった。ウケなかったらどうしようと思ってたりもしたけど、結構ウケたから良かったと思ってる。

 

 

 

 日が落ちてくると、また妖精さん達が物々しい感じで武装して工廠から出て行った。夕張曰く艦娘が集合したりするときは妖精さんが一時的に防衛を行ってくれるらしく、お陰で集まって騒いだり出来るからとても助かっているらしい。

 他の鎮守府から一時的に防衛を行ってもらう時も場合によってはあるみたいだけど、今回は提督にサプライズってことで書類が必要になりそうなこと(他の鎮守府に防衛依頼)はできなかったらしい。時計を見ると予定の時間が近づいていた。

 

「さて……山城さん。スーちゃんも行きましょうか」

 

「ええ。姉さまもきっと、同じ気持ち……」

 

「ちょっと暗くない? そんなんじゃ提督も気持ちよくお別れ出来ないよ~?」

 

 ちょっと茶化してみるけど全然明るくならない。食堂もこんな感じだったら提督は辞めても辞めきれないんじゃないかな……まさかそれが狙いだったり。

 

 

 

 なんてことは無く、食堂に着いたら既に半分くらい出来上がっていた飲兵衛たちが騒いでいて、別れることを望んでいるって空気じゃない、学校の卒業式みたいな雰囲気に包まれていた。

 

 テーブルの上には豪華な料理を見ると楽しくなるだろうと予想できてワクワクしてしまう。でも出入り口付近に目立たないように置いてある重しは……見なかったことにしよう。

 恐らく逃がしてもらえないであろう憐れな提督には、艦娘達の好感度を上げ過ぎたことを後悔しながら穏やかな老後を送ってほしい。

 

 午後7時。ざわざわとしていた食堂内も1人2人と席に着き……気づいたら全員が椅子に座り、一言も喋らないからお通夜みたいな雰囲気になった。

 駆逐艦が多く座っている辺りからは早くも鼻を啜るような音が聞こえてくる。さっきまでの雰囲気はどこに行ったとツッコみたい。

 

 そんな時ガチャリ、とドアノブを捻る音が嫌に大きく食堂内に響いて大淀と提督が入ってくる。提督の方は驚いたのか目を大きく開けている。

 拍手でお出迎えするとすぐに他の人達も乗ってきたので取り敢えず一安心。あのままじゃガチのお通夜になるところだった。

 

「皆……これは一体?」

 

「提督が辞職されると耳にしまして、提督の送別会を勝手ながら企画させていただきました」

 

 それを聴いた提督は嬉しそうに笑い、それなら……と遠慮せずに空いてる席に移動しお礼を言ってからお酒を注ぎ始めた。

 

「今日は私も遠慮せずに飲むっ! 付き合ってくれるね?」

 

 そう言ってお猪口を高く掲げて1人で乾杯をした。

 するとみんな一斉にお酒を注ぎだし、乾杯! と思い思いに騒ぎ出す。元から準備は万端の飲兵衛たちが真っ先に提督に突っ込んでいったのは見ていて面白い。

 

「スチュワート、お前はどうする? ジュースか? 酒か?」

 

 向かいに座った長門が訊いてくる。その手にはジュース。こういったときくらいお酒飲めばいいのに……。

 俺はどっちにしようか悩んでるってことにして長門に意見を求めようか。

 

「お酒を飲んで一緒に馬鹿騒ぎしても楽しいでしょうし、ジュースを選んで酔わずにこの光景を目に焼き付けても良い……悩みますよね?」

 

「うむ。私と同じ意見のヤツが居て助かった。この胸が熱くなるような光景はずっと見ていたいからな……」

 

「話は聞かせてもらいました! この青葉、この光景を余すことなくフィルムが一杯になるまで収める次第です! お任せあれ!」

 

「済まないな青葉……任せて良いか?」

 

「勿論です!」

 

「良し、スチュワート! 我々も飲むぞ!」

 

 あれよあれよと酒を注がれ、酒を飲んで(アルコール)に呑まれ……

 

 

 

 あっという間に頭がフワフワになった。

 提督が何か言ってるけど、頭が働かなさ過ぎて何を言ってるかが分からない。

 ……歳だから辞めるって? そう思ったら「もうちょっと頑張れよ~!」なんて口にしてた。

 あっヤベって思ってちょっと酔いが覚めたけど、周りからも「そうだそうだー!」なんて聞こえるし、提督も楽しそうだしまぁいいか。

 

 何? 後任の提督は明日来ることになってるって? 話はそれだけ? 眠いし寝る。お休み~。

 

 

 

 

 

「……知ってる天井だ」

 

 天井に謎のフックが付いてる部屋なんてそうそう無いだろう。だからここは俺の部屋。ちゃぶ台の上にはいつか見た錠剤と水が置いてある。

 たしかコレって不気味なくらい効くんだよね。

 昨日の送別会はあくまでサプライズだから今日は休みではなく普通にお仕事だ。カレンダーには……近海の哨戒って書いてある。

 

「さて、新しく来る提督にガッカリされないように1発目! ビシッと決めていこうかね!」

 

 だんだん慣れて来た手つきで服装を整え、部屋の外に出たら鬼怒が立っていた。

 

「お、おはようございます」

 

「おぅっ! おはよ。今日は一緒に頑張ろっ! さ、付いてきて」

 

 若干ビビりながら挨拶すると元気良く返された。若いっていいな、なんて爺臭いこと考えていたら今日の仲間も待っていた。どうやら俺が一番遅かったらしい。

 夕雲型の姉妹達から遅い遅いと文句を言われるけど、夜更かしして酒まで入っておきながら目覚まし時計も無いんだ。時間前集合は出来なかったけど遅刻はしてないから許してほしい。

 皆に謝って艤装を取りに工廠へ急ぐ。戻ってくると、盾がやっぱり珍しいのか色々と質問された。質問には海の上で答えると言って誤魔化しておく。昨日の送別会の話題を出せば勝手にそっちに話が逸れてくれるだろう。

 

 さぁ出撃するぞと意気込んで出て来たは良いものの、提督が海を眺めていたのを発見し、みんなが足を止める。

 

 

 

「おぉ、君達も出撃かね?」

 

「うん! これからこの子達と一緒に近海の哨戒任務だよ!」

 

「そうか……頑張ってきなさい、鬼怒、高波、早霜、秋霜、清霜、スチュワート。これからも君達の応援をしているよ」

 

「提督、このタイミングで泣かせに来るのはパナイって……」

 

「司令官。高波、その言葉だけで頑張れる気がするかもです。いえ、頑張れますっ!」

 

「静かだけど騒がしい、夜の鎮守府も寂しくなりますね……もう、司令官も見れないのね」

 

「戦艦になった清霜を見せられないなんてぇ……」

 

「はやはや、きよきよ、そんなにメソメソしないでよぉ……うちまで泣けてきちゃう……」

 

「……」

 

 あ~あ、提督五人も泣かせた~。どうせ今日は朝早くからここで出撃していく人たちに激励の言葉を掛けては大勢を泣かせてきたんだろ? 罪作りなヤツめ……後ろから刺されても知らんぞ。そんな提督をじっとりと睨むと、少し狼狽えたように目を泳がせた。

 

「さ、さぁ! 深海棲艦はすぐそこまで来ているかもしれない。ここでしんみりしている場合ではないよ」

 

「っ! はい! 鬼怒、出撃します! みんなもついてこーい!」

 

 そう言って振り返り、海に向かって走り出す鬼怒とそれに続く四人。俺も付いて行かなくちゃいけないな。でも――

 

「提督さん、拾ってくれてありがとうございました。……それじゃあ私も出撃するのでこれで……お元気で!」

 

 俺もそう言って先を進む五人に追いつくように走り出す。あぁもうあんな場所に!

 

 

 

「ま、待って! 待って~!」

 

 そう言ってしばらくしてから止まってくれた。その頃には鎮守府は点のようになっていて、当然提督も見えなかった。

 

「うぅっ……」

 

「……グスン」

 

 俺が追いついた時には、一か所に固まって泣いていた。提督には出来るだけ涙を見せないようにしてたのか……。

 恋する乙女……かもしれないし、そうではないかもしれない。だけど、戦う乙女の強さってヤツを見せつけられたような気がした。

 

 

 

 哨戒任務自体は時々はぐれた駆逐イロハ級が数匹ずつ現れるって感じで、異常は無いらしかった。

 綺麗な涙を流しながら提督との思い出話に花を咲かせ、それでいながら深海棲艦を材料とした汚い肉片の華を咲かせる彼女らを見て、俺は何とも言えない気持ちになった。

 ……彼女たちの気持ちの整理の為に挽肉にされる駆逐イ級にちょっとだけ同情するぜ。

 

 

 

 そんなこんなでどこかスッキリした五人と鎮守府に無事戻って……問題が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

「スチュワートさん……何を……」

 

「……ごめんなさい。大淀さん……皆さん」

 

「ううぅ……ああああっ……」

 

 あの後、思い出すのも憚られるような悍ましい事件が起こり、俺は――

 

 

 

 

 

 

 

提督を撃った。

 

 




次章「ブラック鎮守府

二章はほのぼの日常回(ハッピーエンドとは言ってない)
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