2章幕間 三本目です。
・だってアイツは……/b》
《b》▼――――――――――
進むのを止めて、暗い星空と黒い水平線を眺める。後ろの方からは何を言ってるかは分からないけど、お喋りしているのは分かるような声は聴こえる。
あんなことをして一人離れて行ったら、朝潮が心配して私に声を掛けてくるんだろうなぁ……ほら。
「満潮! ……どうしたんですか? スチュワートさんに挨拶を―――」
「イヤよ」
朝潮の言葉を遮って断る。……誰がアイツなんかと……。
この前、歓迎会が開かれると聞いてウキウキしていた私は、新しくやって来た人を見て気分が悪くなった。一目見た時から「アイツは好きなれない」 ……そう感じた。
食わず嫌い……とかに似てるかもしれない。まだ私はアイツと碌に喋ったこともないのに、そう決めつけた。実際、見てるだけでちょっと気分が悪くなってくる。不潔だとかそういうのじゃなくて……何て言ったらいいのかが分からない。
ただ一つ、言えることは―――
「だってアイツは……私を、満潮を大破させたヤツなのよ!? 仲良くだなんて正気じゃないわ!」
「満潮……」
「私の他にも夜が苦手、潜水艦は苦手っていう人は居るでしょ!? あの人たちの気持ちがよ~く分かったわ! ……なんというか、認めたくないのよ。自分を大破、轟沈させたヤツがさ、素知らぬ顔で接してくるなんて……」
そう言うと、朝潮は一瞬目を伏せて私の方に寄って来た。そして―――
―――ペチン
私の頬を軽く叩いてきた。
「満潮」
「……何よ」
「昔は昔、今は今です。艦の時のことを忘れて、全て水に流してくださいとは言いません。ですが、
「……」
分かってる。分かってるけど、だとしたら―――
「「ついさっき挨拶すらしなかった私が、いきなり友好的に接しても違和感だらけで関係が破綻するに決まってる」そう思ってますね?」
「っ!」
図星だった。仲間なんて言われても、きっと私はキツい態度になってしまうだろうから上手くはいかないだろうと考えていた。
「私は、朝潮型の
頷く
「提督も仲間ですよね?」
頷く
「他の鎮守府の方も仲間ですよね?」
頷く
「ほら、アメリカの鎮守府の方だって仲間です。友好的であることに越したことはありませんが、無理に仲良くする必要なんてどこにもないんです」
「そういうものなの?」
「えぇ、満潮も海外に出向したら分かりますよ。……イタリアには、お酒が入ったまま出撃して何故か戦果を挙げるとんでもない方が居ました」
それは……確かにとんでもない。言い方は悪いけどクソ真面目な朝潮とは馬が合わなさそう……。
そういうことね。艦娘には艦と違って、
「……朝潮。分かったからもういいわ。……心配かけて悪かったわね」
「分かってくれましたか。それじゃあ頑張ってください」
そう言って集まりの中に戻っていく朝潮。
「……アイツになんて言おうかな……」
私はできるだけ友好的な会話を考え始めた。
「よーし! 野郎どもォ! 突撃だ! 続けーー!」
そう言って江風を先頭にみんなが突っ込んでいく。私は最後尾に居たから出遅れてしまっっていた。早く追いつかないといけないと思い、進もうとしたら、一人の人影が動いていないことに気が付いた。
「あの……」
すぐ後ろに移動するとそんな呟きが聞こえてきた。大方、何をしたら良いのか分からないんだと思う。初めて出撃したりする人は偶にこうなることがあるってことを聞いたことがある。
それにしても、さっきからコイツは全く動かない。敵に近付いて、味方に攻撃を当てないように敵に攻撃を当てればいいのにどうして分からないんだろう。
―――イライラしてくる……
「いつまでも突っ立って……ウザイのよ!」
そう言うと、コイツは肩を跳ね上げて私の方を向いた。あぁ、やってしまった……。
友好的に話しかけようと思っていたのに、イライラしてたからつい怒ってしまった。
言いたい言葉はこんなのじゃなくて―――
「ありがとうございます。満潮、もう大丈夫です」
それなのにコイツはお礼なんて言ってきて、更には、前方から飛んできた砲弾を盾で弾いていた。
まさか、江風たちが突っ込んでいったのとは別の深海棲艦の群れがあったなんて!
見渡すと、うっすらと見えるシルエットから、戦艦、空母が見える。更には……
「ッ! 軽巡棲鬼……」
こっちは駆逐艦たった二隻、相手は多くの駆逐艦まで連れている。
血の気が引いていくような感覚がした。今すぐにでも逃げて合流しないと……。と思っていたが、隣で何が面白いのか悦に入っているみたいにニヤニヤしていたコイツが言った。
「満潮、しばらく下を向いててください。攻撃は任せましたよ」
「はぁ? いきなり何よ」
こんな鎮守府に来たばっかりの新人、それも好きになれなさそうな上、こんな絶望的状況でニヤついているようなド級のバカにこの場をどうにかできるとは思えない。心細すぎる。
それよりだったら後ろに居る心強いみんなのところまで戻って……挟まれるのか。
……しょうがない。このバカに委ねるしかなさそう。きっと何か案があるんでしょうし。
「つまらない作戦なら許さないから」
そう言うと、息を大きく吸い始めた。そして―――
「アンタラの豆鉄砲じゃワタシは倒せねぇぞぉおおッ!」」
「うるさっ!」
そう叫んで一人、敵に突っ込んで行ってしまった。コイツはド級のバカじゃない。超弩級のバカだと確信した。
舐めていた。手に持った盾の艤装と眩しく光る謎の攻撃を。そして理解した。砲雷撃戦が始まる前に放った言葉の意味を。
『攻撃は任せましたよ』
何を言っているんだと思った。アンタは攻撃をしないのかと。
「でもこれなら……仕方ない……かっ!」
砲を撃つ。撃ち続ける。撃ち続けられる。
敵がみんな揃ってアイツの事を狙うから私は非常に楽だった。何せちょっと狙って撃てば当たるから。そして、敵から狙われないからストレスが無い。だけど随分長い事撃ち続けていたから疲れてきた……
「それでもアイツは……」
きっと多くの深海棲艦に狙われ続けてまだ無事みたい。私に狙いをつけてこないのが一番の証拠だ。
砲を構える。疲労で腕が重く、震えてきていた。これじゃあ照準が……
「満潮ちゃん、後は荒潮たちに任せて頂戴。うふふふっ♪」
「満潮、お疲れ様。休んでていいよ。……みんな! まだ夜戦は終わってないよ! 動ける子達は私に付いておいで!」
荒潮と川内に声を掛けられる。……向こうの戦闘は無事に終わったみたい。
「助かった……」
「あらあら、こんなに沈めておいて言うわねぇ。ちょっと頑張り過ぎじゃないのぉ?」
「だってアイツはまだ、頑張ってるから……」
負けたくなかった。そう言おうとしたけど飲み込んだ。
視線の先には萩風に連れられてやって来たアイツが居た。私の方を見て笑っている。
「なによ、気持ち悪いわね……ありがと」
そして次はさっきの作戦とも言えないようなモノの文句を言わないといけない。……だけど、それは今じゃなくても良いか。
昔と今は違う。朝潮の言う通りだった。かつて満潮を大破させたスチュワートは今回、絶望的状況の中で、敵に対して私に大ダメージを与える事すら許さなかった。
「満潮、無事で何よりです。スチュワートさんにお礼は―――」
「言ったわ。なかなかやるわね、スチュワートって人」
そう言うと、朝潮は嬉しそうに微笑んだ。
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満潮ちゃん視点の27話でした。
上手く表現できてるか分からないです。
Q.主人公硬すぎない?
A.この場合、誰も庇ってませんので回避が出来ます。
次から三章です。既になんて書こうか悩んでます。
次回は……特に何もなければ偶数の日に投稿します。