私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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39話です。

タグに【ブラック鎮守府の描写アリ】を加えました。
3章後半から出番かなぁ? 

苦手な方はご注意を……この章を読んでる時点で今更か……



三日後の鎮守府

 昨日は黒潮にバトンタッチして寝袋へダイブしたことしか覚えてない。

 

 朝に起きてみんなと一緒に質素な飯を食べて長良から今日の予定を聴く。どうやら時間、体力的に余裕が出来たみたいだから資材を集めに行くらしい。望月が生返事をして怒られたことが印象に残った。

 絶対に怒られるって分かってても態度を変えないとか凄いなぁ。絶対に注意やお叱りで済むと分かり切っているからこその判断という訳か……。

 手の込んだ手抜き……じゃないな。サボる為に全力を尽くす……みたいな感じだな。ウン。

 

 そんなことより大事な事があっただろう!

 

「資材を集めにって……何をするんですか?」

 

「あ~。スチュワートさんは初めてだから分からないのよね」

 

 知ってるはずが無い。っていうか知ってたら凄くない? いやホント。

 それに資材って言ったって、重油か石炭か知らないけど、化石燃料がそこら辺にホイホイ落ちてるとは考えられない。弾薬と……鋼材だっけ? 金属製品もそこらに生えてるはずが無いし……事前に掘削機とかが建てられてたりでもすんのか?

 

「資材はね……拾うのよ!」

 

「……え?」

 

 聞き間違いかな? 拾うって聞こえたんだけど。

 もしかして海底から? きっと深海棲艦の残骸とか死骸とかのことでしょきっと。海にダイビングでもすんの?深海の水圧に耐え切れずにパーンしたりすんのは御免被りたいなぁなんて……。

 

「なに変な顔してるの! 普通に落ちてるのを拾うのよ」

 

「……」

 

 普通に落ちてるの!? なんでゲームみたいに鋼材とか化石燃料の類が落ちてんの? あ、ここ『艦これ』っていうゲームの世界だったわ。

 ……じゃあ落ちててもおかしくはないな!

 

 ってなるか。アホか。

 あ~ダメだ。なんでなんでと考え始めたらキリがない。俺の知ってる常識が崩れるのが先か、俺の正気が削れるのが先か。……まぁいいや。この世界だと化石燃料は大して貴重でも何でもないってことね……ふ~ん。

 

「なるほど……わかりました」

 

「そう? それじゃあ今から目星をつけた島に行くわよ」

 

「いや~長良? コレは思考を放棄しとるで? 絶対に何も分かっとらん」

 

 そうなの!? なんて長良が訊いてくるけど「そんなことありませんよ」と受け流す。常識が違うって怖いな〜。

 

 

 

「うわぁ……」

 

「やっぱ初めてだとそう思うよね? ウチもコレはちょっとどうかと思う」

 

 まさか本当に資材が落ちているとは思わなかった。

 でもそうだよね。普通に考えて石炭とか弾丸、砲弾が綺麗なまま落ちてるはず無いもんね。

 だからと言って、真っ黒な癖にツヤツヤしているタールっぽい何かが目に入ると突っ込まざるを得ない。あれが資材だなんて言われてもとても信じられない。

 そう考えながら俺達は砂浜の一角に広がっていた汚泥に手足を突っ込む。

 

「うっ……吐きそう」

 

「ウチもや……」

 

 とんでもない悪臭と生理的嫌悪感を催す音、ヌルヌルする触感。それらを五感で感じると吐き気を催すことになるのは必然だった。

 鋼材と弾薬はかなり重く重労働だが、肉体よりも精神にクる燃料を集めるのよりは人気があるらしく、みんなが必死で押し付け合っているらしい。

 最終的にジャンケンをして黒潮が負けたので俺もこんなことをしている。ここまで酷いとは思わず、何か揶揄(からか)ってやろうと思ったけど、ガチな雰囲気で落ち込んで謝って来たから何も言えなかった。

 

「でも他の班でも誰かはやることやし……」

 

「負ける訳には……ッ!」

 

 そう言って、秒単位でも早く終わらせる為に嘔吐(えず)きながら手を動かす。

 ――汚泥に塗れた奇妙な友情が、ここに誕生した。

 

 

 

 

 

 時間はすっかり夕方。出発の時とは違って消耗品の代わりに資材でパンパンになった鞄を背負って鎮守府の近くまで到着した。

 

「なぁ……長良?」

 

「おかしいわね」

 

「ああ、何かおかしいな」

 

「そうですね……」

 

「なんか変だよねぇ」

 

 そうなの? 遠くに鎮守府っぽい影は見えるけど…そんなに分かりやすい異常があるようには見えない。

 

「なんで艦載機が1機も飛んでないんでしょうか……」

 

「あっ」

 

 なるほど言われてみればそうだ。鎮守府が一応目で見える距離だって言うのに艦載機が全く飛んでない。

 鎮守府近海は毎日、空母や軽空母が最低2人以上は防衛の為に艦載機を飛ばしている筈だ。それが今は全く存在しない……一体何があったんだ?

 

 

 

「みんな止まって!」

 

な、長良さん! 助けてぇ!

 

 突然の長良の静止の直後、前方の海面が弾けた。

 そこには肩から上を海の上に出して叫んでいるイムヤがいて、只ならない雰囲気で助けを求めている。

 

「イムヤさん!? どうしたの!?」

 

「いや、戻ってきてくれただけで助かったんだけど……。とにかく! あの子たちはもう限界よ! 少しだけで良いの……お願いっ!」

 

 一気に捲し立てるイムヤを気圧されるみんな。一体何があったと言うのか。

 

「取り敢えず落ち着いて……戻ってから話を聴くわ。皆、急ぐわよ」

 

「「「了解!(分かった~)」」」

 

 これまでも長良のペースは速かったけど、イムヤの様子から緊急事態だと判断したのか更にペースを上げて鎮守府へ戻っていく。

 俺の中ではサボり魔の印象が定着した望月は文句を言うんじゃないかと思っていたけど黙って付いてきていた。

 

 

 

 いつもは飛んでる見張りの艦載機がない鎮守府周辺、軽度のパニック状態のイムヤ、限界だというあの子達。

 

 なんて言うか……第一印象からして『艦これ』の二次創作に出てくる典型的なブラック鎮守府の提督って感じはしてたから、予想通り……想定内(今更~?)って感じがする。

 最悪の場合は戦艦や空母が提督から無理やりあんなことやこんなことで年齢制限(R指定)が付くことになってるってことだけど……無いよね?

 

 

 

 

 

 

 

「酷い……」

 

 旗風の呟きは、俺たち全員の共通認識だろう。何時もは居る軽空母や空母は海の近くのどこにも居なかった。代わりにそこに居たのは……

 

「長良さんっ! 皆さんも! みんな! 助かったよ!」

 

「助かった? うぅ……」

 

 俺たちを見つけるなり嬉しそうに声を上げる択捉と、安堵からか泣き始めた海防艦の面々。

 

「えっと……イムヤ、説明してくれる?」

 

「勿論よ。嫌と言う程聞かせてあげる」

 

 

 

 イムヤの口から出て来たのは流石に想定、予想の範疇を越えていたものだった。

 

 普段行っている哨戒は、海防艦と潜水艦()()で行われているということ。

 書類仕事は大淀がほぼ全てやらされている為、限界が近いこと。

 

 ここまでなら海防艦とイムヤしか居ない現状と、これくらいはやるだろうという予想の範疇だった。俺以外の面子は既に言葉を失っているようで、戦艦とか重巡はどこにいるのかという質問すら出てこないようだった。

 

「戦艦、重巡、空母と軽空母は全員(・・)、提督命令で出撃したわ。だから遠征に行ったあなたたちが戻ってくるまで本当に私達だけだったのよ」

 

「待って下さい! それじゃあ、他の任務は?」

 

「手が回る訳無いじゃない! だから助かった、なのよ。……悪いとは思ってるんだけどさ、今から警備か哨戒、もしくは他の任務やってくれない?」

 

「……大丈夫、これから他の班も戻ってくるわ。だからまずは私だけでも報告しに行かないと――」

 

ダメよ!

 

 うおっ、ビックリした~。

 

「お願いだから報告には行かないで……。絶対にまたすぐに遠征に行かされるわ! だからお願い! 報告に行かないで今だけ! 任務や哨戒じゃなくてここで見張りするだけで良いの! 人手不足でみんなほとんど寝られてないの! ……お願いよ……」

 

「「「 …… 」」」

 

 

 

「長良さん……」

 

「僕たちが代わろう。海防艦の皆は休んでて」

 

 旗風と初月が海防艦に声を掛けた。みんなが嬉しそうに、集まってはしゃいでいる。これで目の下に隈が無く、出てくる言葉が「やっと休めるね!」とかじゃなかったら微笑ましいんだけどなぁ……。

 

 それにしても、たった3日でここまでとんでもないことになるとか。

 

 想像を超えて極限状態になっている海防艦を見て、やるせない気分になった。

 




どうでしょう? 多少はブラックな雰囲気が出せてたでしょうか?
次回は提督(クズ)が出てくるのでもっと酷くなる……と思います。

艦娘には恨みは無いんだけど……。
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