私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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42話です。

今回は解体についてのあれこれ……のはずです。


夕張さんに訊く解体事情

 視線の先には長門を中心に未だ熱くなっている人の輪。話題は言わずもがな新しい提督のことだろう。

 

「……まだ終わんないの? 流石に長すぎるんだけど」

 

 こうしている内にも鎮守府では何が起こっているかもしれない。愚痴とかは移動しながらでいいからさっさと作戦を終わらせて、みんなで提督が後悔するまで袋叩きにした方が絶対に楽しくなると思う。

 

「100%の怒りと、更に120%の恨み辛みを拳に乗せて、顔の形が変わって洗面器よりもデカく腫れあがるまで殴ってさ……とにかくボコボコにしたら気持ち良いだろうな~」

 

えぇ……スーちゃんはこんな離れたところで何してるの?」

 

「オゥッ!?」

 

 虚空を見つめてニヤニヤしてたら話しかけられてビックリした。っていうか結構ヤバい独り言だったから聞かれてたかと思うと気が気じゃない。夕張の反応はドン引きって感じだし……これは終わったな。

 それよりも言い訳を……いや、話題を逸らすべきか?

 

「夕張さん、なんで皆さんはあんなに“ 解体 ”って単語に対して怒ってるんですか?」

 

 すると夕張は信じられないものを見たような顔で俺の方を見てくる。

 これは何かやっちまった感じがする。多分だけど普通の艦娘なら常識レベルのことだったってことなんだろう。

 

「言葉にするのが難しいかな……ちょっと待ってね」

 

 “ 解体 ”が艦娘にとって良くないことってのは分かるけど、そんなに複雑な事なのか……

 さて、夕張が言葉に悩み始めたから少し、解体のことを考えてみよう。

 

 まず“ 解体 ”とは何か。それは『艦これ』を含むゲームにおける要らないユニット等の売却システムで、一部の提督からは 2 - 4 - 11 なんて言われるくらいには親しみのあるネタになってるけど、実際にスクリーン越しじゃなくて現実だったらどうか。

 例えば艤装を使えなくなるように何らかの処理を受けて、記憶処理やら何やらをされて市井に放たれる……とか? 現実味が無いな。

 いやホントどうなんだろう。全然想像がつかない。

 最悪の場合は文字通りバラバラにされるまであり得るのは怖いな。色々と手間が掛からないからかなり楽な解決方法だろう。されるかもしれないと思うとちびりそうだけど。

 でもきっと屁理屈を捏ねて捏ねて拗らせて、艦娘は人間ではないなんていう思想の人は居るだろうし、そんな人から見たら艦娘の殺処分は何でもないのかもしれない。

 

「ハァ」

 

 考えがどんどん暗い方向に向かうなぁ……。

 

「ちょっと! やっとなんて説明していいか纏まったのに、溜息なんて吐かないでよ!」

 

 ……確かに。ちょっと失礼過ぎたかな。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「よろしい。……それで解体っていうのはね、私達艦娘の中でいっっっちばん嫌われてる終わり方よ」

 

「轟沈とかは聞いたことがありますけど、それよりも?」

 

「当たり前じゃない! 轟沈は沈むまで戦ったってことでしょう? うっかりで沈んだなら目も当てられないけど、そうじゃないなら名誉の最期ってやつよ。まぁ、無いに越したことは無いけどね」

 

 流石にうっかりで沈むような人は居ないんじゃないかな? 俺ならともかく普通の艦娘なら戦場で気を抜くなんてあり得ないだろうし。

 

「それで雷撃処分はね、拠点から遠いところで大破状態まで追い込まれたときに偶に行われることがあるらしいわ。轟沈と同じように作戦中の負傷が原因ね。だけど轟沈と違って、移動に支障が出て隊全体に支障をきたすときに自主判断で行われることが多いみたい。これも作戦中の名誉の負傷ってやつね」

 

 なるほどね。艦娘の最期には幾つか種類があるのね。

 艤装がダメになるまで戦って深海棲艦にやられたら轟沈。戦い終わってからも、艤装の損傷が激しくて部隊の足手まといになるくらいならと雷撃処分。

 戦いがあるところに犠牲は付き物だし、これらは扱い的に殉職とほぼ同じで良いっぽい?

 

「何か分からないところがあった?」

 

「あ、多分大丈夫です」

 

「そう? ……それで最後に解体だけど……詳しい事はよく分からないの」

 

「え?」

 

「でも、解体された艦娘が市井に居るって話は聞かないから、艤装を使えなくなるだけって訳じゃないみたい」

 

 じゃあ何? マジでバラバラにされるの?

 

「詳しい事は分かってないけど、轟沈、雷撃処分と違って嫌われる理由は状況ね」

 

「状況?」

 

「そう。轟沈や雷撃処分と解体は違うの。解体処分は……提督から必要ないって判断されたってことなの」

 

「それは……」

 

 昔は軍艦として海の上で戦い、今は艦娘として深海棲艦と戦っている艦娘が、上司たる提督から「存在価値が無い」って言われるようなものか。とんでもない屈辱だろう。しかもこれまで佐世保鎮守府で戦ってきた他の艦娘たちからすれば相当な侮辱にもなる。しかもそれに死刑が付いてくるだなんて笑えない。

 

 常識もキャリアもない、ちゃんとした(ふね)の記憶もない俺ですら雰囲気的にかなり嫌な気分になる。……俺が周りと同じ立場なら解体するって決められたら心が折れるかもしれない。いや、間違いなく折れるな。

 

「それは……嫌われそうですね」

 

「そうでしょ!? やっぱりそう思うわよね? それをあの提督と言えば! 出撃しないヤツは解体!?冗談じゃないわ!」

 

「だったら全員解体してくれって感じじゃないですか? そしたらあの提督一人で深海棲艦と戦ってくれますよ」

 

「あっ、それいいわね」

 

 やっぱりそう思う? 口からポンっと出て来た割には名案じゃないかなコレ。まぁ一般人に大きな被害が出るからダメだけど、そうじゃないなら完璧だと思うんだ。

 

 

 

「おーい! そろそろ出発するぞー!」

 

 重巡の……加古が俺と夕張に声を掛けて来た。はーいなんて言って夕張が加古とお喋りしながら進んでいった。

 その時に「次に解体って言われたら全員で解体されましょう」なんて言ってたような気がするけど……もしそうなっても俺は悪くない……と思う。冗談だよね?

 

 そして前方から軽空母の大鷹と重巡の足柄、戦艦の扶桑が来た。進行方向から考えて俺は最後尾に居て置いてかれそうだから……殿かな?

 

「スチュワートさん、初月さんと一緒に来てくださってありがとうございます。……この子達も、潜水艦の相手は出来るんですけど、この多人数をカバーできるほどではなくて……」

 

「二人が来てくれたことが、不幸中の幸いだったわ。ありがとうございます」

 

「あー……自分としては~……」

 

「良いの良いの! お礼は素直に受け取っておくものよ! みんな助かったんだから!」

 

 ……ここまで歓迎されるとなんかこそばゆいというか、逆に素直に受け取り難いというか。恥ずかしくなってきちゃうね。適当に苦笑いを浮かべながら3人の会話を聞いて、相槌を打ちながら進んでいった。

 途中に深海棲艦が出たって知らせが入ったけど、艦隊の前方、俺たちが居る反対側だったから戦闘の音も聞こえなかった。固まって移動してるって言ってもそれなりに距離は離れてるんだね。

 

 

 

「今日はここで休むことにする!」

 

 長門の一言でそこまで広くはない島だったけど野営(キャンプ)の準備が始まった。艦娘が大勢いるけど、全員が見張りの交代で逐次入れ替われば何とか寝られるだろう。俺と初月は潜水艦が出なければずっと寝てても良いそうだ。

 しっかり俺たちの体調まで把握してるのはどう考えてもリーダーの鑑。そう考えながら熱くなったインスタント味噌汁を食べたら眠くなってきたから寝袋へ直行する。因みに初月はもう寝ていた。俺も寝よう……

 

 

 

 ゴソゴソとした物音で意識が覚醒する。

 

「ぅん?」

 

 寝ぼけ眼を擦って起き上がる。夜明けが近いのか空は薄紫色に染まっていた。

 そしてそんな空をバックに浮かび上がるウサギみたいな特徴的なシルエット。

 

「オゥッ!? 起こしちゃった!? ごめんよ~」

 

――やかましいわ。

 

 俺は目覚まし時計(しまかぜ)の頭を叩いて黙らせ、ちゃんと目覚めた後に謝ることになった。

 




艤装は妖精さんがリサイクル。艦娘は……本当に知りたいのかい?
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