「うぅ~まだ痛い~」
嘘つけ絶対にもう痛み引いてるだろ。
そんなに何回もアピールしたところで呆れるだけで逆効果なんだよなぁ……。
「何度も謝ったじゃないですか……」
「そ、そんなのじゃないよぅ~」
じゃあなんだよ。
チョイチョイと、手を振って「こっちに来て」とジェスチャーする島風。
近くに寄っていくと耳に顔を近づけて――
「提督が出撃した艦隊に戻れって言ってたから私が来たんだよ」
なんて言ってきた。
戻れ……って何かの間違いだよな? 俺と初月は兎も角、大勢を出撃させたのは提督だったよね?
「……その話は長門さんにするべきでは? っていうか見張りはどうしたの?」
「遅かったから引き離して来た!」
おい、胸を張れることじゃないだろ。
「島風じゃないか。よく来てくれた。歓迎しよう」
おや、噂をすれば長門じゃん。
島風がたった今俺に言ったことと同じことを長門にも話した。
「実は――」
「ええぃ! やってられるか!」
長門が近くに落ちてた石を拾って投げる。相当遠くまで飛んで行ったのは見えた。
……戻ってこいって言う以上にヤバい情報も島風は持ってきたみたいだ。
「ふざけるのも大概にしろよ……」
「ど、どうしよう」
長門は拳を固く握って鬼の形相をしてるし、島風は事が大きすぎてどうしたらいいか分からないみたいだ。
……この空間に居辛いんだけど。振り返ってまだ夢の世界に居る
「スゥーー……艦隊! 総員起こしー!」
お前たちも俺らと同じ悩みを共有するんだよ! 寝てて知りませんでしたはナシだからな!?
「スチュワート!? いや……済まない。こういった時こそ皆で話し合うべきだな」
3人で寝てる人たちを起こして回る。まずやらなきゃいけないのは情報の共有と問題回避の為に話し合うことだ。見張りを除いても30くらいの頭数はあるから、俺たち3人の10倍のくらいは居るからそれなりの知恵は出てくるだろう。
「皆、こんな夜明け前に済まない。だが緊急事態だ」
長門の一言で集められた人たちが静まりかえる。さっきまでいきなり何とかアレコレ文句を言ってたのに切り替えが早い。でも緊急事態にされたんだから文句は提督に言って欲しい。
「我らが佐世保鎮守府に近いうちに監査が入るらしい。それを何故か危惧した提督が我々に戻ってくるようにと、ここに居る島風に伝言を頼んだようだ」
一体何に危惧しているのか予想はつく。提督の椅子に座って踏ん反り返って好き放題しているのを見られるのが困るんだろう。
他の鎮守府と協力もしないで大型作戦並の出撃を敢行し、守るべき市民の安全の確保を20人も居ないくらいの海防艦と潜水艦に任せるなんて、どう足掻いても無能の烙印を押されるのは間違いない。
せめて表面上だけでも普通に運営してますよってアピールをしたいと見た。
「鎮守府近海の防衛を行えるだけの人員を帰還させて、他は作戦続行した方が良いんじゃない? 折角ここまで進んだんだのよ? わざわざ全員帰るのも馬鹿らしいわ」
なんて言葉が出てくる辺りやはりアイツは提督として認識されてないな。でもその案は通らない。通せない。
「因みに戻ってこなかったら各自の私物を処分するそうです」
「ちょっと! それどういうこと!?」
俺に言われても困ると肩を竦める。でもこれがなんと嘘や冗談じゃないらしいんだよね。……なんで私物を処分する必要があるんだろうね?
だからそのまま屁理屈をこねる。
「戻ってくる人数に具体性が無いので、瑞鶴さんの言った通り少人数だけ鎮守府に戻って、後は作戦続行でも問題ないかと思います」
だって“ 全員戻ってこなかったら ”って言われてないし。まぁあの提督は何やっても文句は言ってきそうだけど……。
「……作戦遂行の指示に従わなかった場合には解体の可能性があると思うと、全員が引き返すのは逆に危険だと考えている。瑞鶴の案を中心に考えているが、異論のあるものは遠慮せず声を出してほしい」
長門が尋ねても異論は出ない。俺としても遠征から帰ってきたであろう駆逐艦と軽巡たちが今どうなっているかも気になるし、島風も来たから一旦ここは鎮守府に戻りたいなぁなんて考えていた。
「……居ないようだな。では、このまま作戦を続行する者と鎮守府に戻る者の選定を行う。各自希望を出してくれ。ただ、希望通りにならなかったとしても文句は言わないでくれよ」
やっぱり長門はリーダーだよなぁ……。
俺は希望通り鎮守府に戻るグループに分けられた。メンバーは蒼龍、飛龍の二航戦2人に衣笠、加古、鳳翔を加えた計6人。たった6人、されど6人とも言える。相変わらず潜水艦には物凄く苦戦しそうな面子だけど、多分何とかなるでしょ。
島風が言うにはきっと他の人も何人かは来るだろうからしばらくここで待機しているのも良いかもしれないとのことだった。
今は俺と初月とは違って“ 何故か ”フル装備でやって来た島風が居るから潜水艦も大丈夫だろう。
それにしても……どうやったら俺たちがタービン付けてブーストした距離を数時間程度の遅れで到着するのか、これが分からない。
今まで深海棲艦を倒しながら進んできた道を引き返しただけだから戦闘自体は殆どなかったけれども、偉大な先輩達の力を間近で見ることができた。
特に、二航戦の艦載機を用いた広範囲の索敵は流石と言わざるを得ない物で、他の艦種では絶対に真似できないだろうことが分かった。
重巡の2人は途中に出て来た深海棲艦相手に派手にぶっ放してくれたし、俺も少なかったとはいえ潜水艦をダメにしてやった。
戦闘での活躍があまりなかった鳳翔さんだけど……戦闘以外のこと、例えば休憩中の気配りその他諸々が上手すぎる。皆に慕われているってことに納得できた。
そんなこんなで2日、鎮守府近海まで戻って来ることができた。しかしやはりと言うかなんて言うか……やっぱり何かがあった。
「駄目ね。いつもの見張り地点にも誰も居ないみたい……」
艦載機で鎮守府を偵察していた飛龍が告げた言葉に全員が衝撃を受けた。
具体的に言うと遠征班、哨戒の人ともすれ違ってない。
こんな海の上、多少離れてても黒い点として認識くらいは出来そうなモンだけど……。
「見張りが誰も居ないって冗談だよな……?」
「じゃあもしかして鎮守府は……」
乾いた笑いを出す加古ときっと最悪な想像をした衣笠。まぁこんな状況だし誰だってそうなっちゃうのは仕方ない。俺だって鎮守府が深海棲艦に襲撃されたのか不安で仕方がない。
「慎重に行こう。深海棲艦が居るならできるだけ早く倒さないといけないわ」
蒼龍の言うことは御尤もなんだが……ところで深海棲艦って陸上でも活動できるの?
人型ならともかく駆逐イ級とかは無理だと思うんだけど……。
そんな割とどうでもいい事は置いといて、鎮守府に対して艦娘が安心して帰れないっていうのは一般的な『艦これ』の世界観とは随分違うんじゃないか?
「……内部の様子を見てきます。敵が居たら合図を出してから逃げますので、その時はやっちゃってください」
あ、気が付いたらなんか口走っちゃったぞ。ヤバいな……出来るだけ安全に鎮守府内部を探れないかと思っていたらつい口から出ちゃったよ……。
「……ならお願い。艦載機だけじゃ建物の中まではどうしてもね」
「分かりました」
そう言って一人で鎮守府に向かう。艦娘の全くいない近海と敷地内。だけど建物内部は分からない。
俺は都合よく盾なんて持ってるんだからそう簡単には落ちないと思う。生きて情報を持ち帰るっていうのも大切な仕事だし、正に打って付けって訳だ。
何事もなく上陸出来たけど、見慣れた風景なのに静か過ぎて不気味に感じる。
「本当に誰も居ない……?」
見渡しても動く影はない。それを余計に不気味に感じながら工廠や食堂などを見て回る。
ありとあらゆる曲がり角や隙間に意識を向けながらの探索に疲れ、スパイごっこなんて思うような余裕は吹き飛んだ。
「……チッ」
格艦娘たちの部屋を開けて回る度に、警戒するだけ無駄だと思うような“ 何もない ”という結果が得られることへ苛立ちが募る。
しかし、探索はまだ始まったばかりだ。
え〜では、PC1は【聞き耳】をお願いします。周囲は海の音こそありますが人気がなく静かなので技能値に+10で判定してください。