私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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44話です。

※暴力的な表現あり



バケモノ

 ―――コツ―――コツ―――

 

 外の風と波の音しかしない鎮守府内を歩いていく。

 この部屋にも誰も居ない。

 

「…………」

 

 それにしても、建物内にも誰も居なさそうなのはかなり奇妙に感じる。あの野郎が視察を気にしているなら艦娘たちに部屋の片付けなりなんなりをさせるだろうけど、そんな物音すら聞こえない。

 遠征に行かせたんだったとしたら近海で全くすれ違わないのはおかしいし、深海棲艦に侵略されたとしたら荒らされた形跡が無い。……汚い部屋の人は居たけど。でも防衛に誰も居ないならやっぱり陥落しちゃったって考えて良いのかなぁ?

 

 ―――コツ―――コツ―――

 

 曲がり角で立ち止まってゆっくりと奥を覗く。物音は全くしなかったから居ないと分かっていても警戒せざるを得ない。安堵の息が漏れる。

 

 最初は足音を気にして、靴を脱いで探索しようと思ったけど深海棲艦が居るなら遅かれ早かれドンパチが始まるだろうし、艦娘が居たなら全力疾走で話しかける。

 提督が見回ってたとしても……

 

「よくよく考えてみると、新しい提督の命令を素直に聞く必要が何処にもないな?」

 

 佐世保鎮守府(ここ)に所属してる艦娘たちは何かしらの規律とかに縛られてるんだろうけど、俺は居候の身分だからそんな縛られるようなものは無い。

 俺には日本に向かって妖精さんと移動して死にかけた所を助けてくれた佐世保鎮守府には馬鹿みたいに命の恩がある。

 それを成したのは前提督と艦娘たちであってあの野郎ではない。

 

 ……これは、恩を返すべきではないのか。

 

 

 

あああぁーー!

 

 声が聞こえたような気がした。

 

「一階の……あっちの方?」

 

 たしかあの辺は使われてないとかで立ち入ったこと無いけどどんな部屋があるんだろう? まさか拷問部屋とかじゃないだろうし………。分かんないから取り敢えず行ってから考えればいいか。どうせ何の部屋なのか表示はあるだろうし。

 

 

 

 

 

「……まさかこんな部屋があるとはね」

 

 聞こえる声が叫び声だと判り、近付くにつれて大きく、ハッキリと聞こえるようになった時、いかにもそれらしいプレートを見つけて部屋の前で立ち止まる。

 

 懲罰部屋――そのプレートが見える部屋の扉からは断続的に誰かが叫んでいる声が聞こえてくる。おいおい、やっぱりなんかヤベー事してるよアイツ。

 咄嗟にドアを開けようとして、思い留まる。何かあったら合図するって言ったわ。

 少し離れた場所に移動して窓を開け発煙筒を放る。程なくして辺りは紫色の煙に包まれた。風があるからすぐに煙は晴れるだろう。

 

「ん?」

 

 恐らく飛龍が飛ばしたであろう艦載機が俺のところにやって来た。ずっと艦載機で上空から偵察してたってことね。そして発煙筒を確認した直後に俺のところに飛ばして、コレ(艦載機)を目印に進んでくるんだろう。

 手を伸ばして艦載機を掌に載せる。そして窓を閉めて他の人が到着するのを待てばいい。

 ……艦娘って妖精さんが居る限りプロもビックリな暗殺集団なんじゃないかな……全く、俺も随分と非日常(こういうこと)にも慣れたもんだ。

 

「まぁいいや……」

 

 バタバタと複数人が走ってくる足音が大きく響き、僅かに遅れて室内からの叫び声がしなくなった。恐らく無駄だとは思うけど、やって来た5人に向かって指を唇にあてて「静かに」とジェスチャーをする。

 

なんでこの部屋だって判ったの?

 

先程まで誰かの叫び声がしていました。誰かが被害者になってる以上、鎮守府内に加害者が居ることはほぼ間違いないかと

 

「行くよ!」

 

「え、待っ……」

 

 話を聞くなりドアを開け放った飛龍を突き飛ばして盾を構える。……衝撃無し。そのまま1歩、2歩と進むと廊下に居た5人が続いて入ってくる。

 

「なんの真似だ」

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

 やはり相当酷いことが起こっているらしい。

 提督の声が聞こえたと思ったら後ろで加古が怒鳴った。それ見て射撃の恐れは無いと盾の構えを解く。

 すると目に入ったのは檻。そしてその中には艦娘が何人か収容されている。でも1人だけ外で倒れててその前にはアイツが居た。

 手には竹刀を持っている。……なるほどね。

 

「クソ野郎だな」

 

「なんだその口の効き方は」

 

「こんなことしてるんだから当然じゃ?」

 

 檻の中に捕まってる人たちの解放させるには鍵が必要で、コイツが持ってるとしたらどうやって鍵を奪おうか……適当に答えながら目の前の男を観察する。

 腐っても軍人。格闘の経験なんて碌に無い俺がどうこう出来るとは思えない。砲撃出来れば楽なんだろうけどなぁ……殺人だからなぁ。

 やっぱり転ばせるか。そう考えるなり再び盾を構えて突進する。

 しかしド素人のタックルだからかあっさりと捌かれ、逆に盾を蹴られて俺がしりもちをつく結果になってしまった。艤装は持てるけど出力は人並みらしい。

 ケツが痛い。と感じた次の瞬間には盾を思いきり踏みつけられた。その衝撃は勿論、縁の部分が体に食い込んで痛い。

 けど耐えられない程じゃない。もがきながらポケットの膨らみに手を伸ばし、金属製の何かを掴んで皆の居る方に放る。

 

「なっ…お前!

 

 俺の掴んだ物はやはり鍵だったようで、受け取ったであろう飛龍が檻へ近づいていく。

 それ見たこの男がアレコレ喚きながら脱走を阻止しようと飛龍を止めに行くが、そんなことはさせない。足を掴んで転ばせる。

 顔を蹴られ、腕を蹴られ、滅茶苦茶に暴れられたけど、絶対に離さないとガッチリとホールドした。

 

 そして段々と狭く、暗くなる視界に空の檻を収め、してやったりと思いながら、最後の足掻きとしてコイツの玉を力の限り殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

バシィッ!

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

 強い衝撃と痛みを受けて目が覚める。それで初めて今まで寝てたか何かで意識を失っていたことに気が付いた。

 それにしても変な体制だ。椅子に座ってるのに倒れてやがる。違うな、叩かれたから倒れたのか。

 

「痛い……?」

 

 元は一般人。殴られる経験なんてほとんどしたことが無い。それもこんな成人男性からなんて初めてだ。顎外れたりしてない? 滅茶苦茶痛くて……痛いってことしか分からないんだが?

 そもそもなんでこんなことするんだよコイツは? 何か艦娘に恨みでもあんのか?

 

「お前たちは、言うことさえ聴いていれば良いんだよ」

 

 ……初めてコイツの命令以外の言葉を聞いた気がする。

 何か引き出せそうか?

 

「……艦娘にだって意志はあります。休み無く働き続けたら不満が出るのは当然では?」

 

 俺がそう言うや否や、顔を真っ赤にして腹に蹴りを入れてきた。咄嗟に腹筋に力を入れようとするけどそんなものは殆ど無く、なけなしの防御力ではまともにダメージを受けてしまった。

 痛い、吐きそう……鳩尾だったら死んでた。

 咳き込みながらそんなことを思っていると、何かを言い始めた。

 

「お前たちの不満がなんだって言うんだ? お前たちが休み、呑気に遊んでる間にも深海棲艦による被害が出ていないと思ってるのか?」

 

 あ~……確かにそれを言われたらそうなんだよなぁ。深海棲艦の脅威から守ってるとは言っても被害は出ているらしいし。

 俺としては被害者の家族のことを思うとお気の毒にって感じだけど、それでは済まないのが艦娘とか提督って訳で……もしかしてコイツ完璧主義者か?

 

「だったら……なんでこんなことやってるんですか?」

 

「見せしめが必要だからだ」

 

「見せしめ。……そんなことしても団結して反対するに決まってるじゃないですか。どうして艦娘と協力しようとしないんですか。前の提督みたいに」

 

「お前らみたいなバケモノと協力なんて出来るかよ」

 

 えっ、バケモノ?

 バケモノって言った? 何で?

 

「黙りか。良いか? 人にそっくりで、同じ名前のヤツの見た目は同じ、記憶も殆ど同じ。そんなのが日本国内だけで複数も居る。しかも建造で“ 造れる ”ときた。これがバケモノじゃなかったら何なんだよ」

 

「……な、なるほど」

 

 めっちゃ嫌ってるじゃん。確かに存在そのものは不思議の塊だけどさぁ……そんな『艦娘とは何か』なんて俺たちだって知らないよ、多分。

 大本営(うんえい)にでも聞いてくれ。

 

「チッ……深海棲艦が居なかったらお前たちが人間に殺されるに決まってる」

 

 そんな未来はあり得たかもしれないけどね。とにかくコイツは艦娘が気に入らないってことは分かった。

 

 それはそうと、この世界って戦ってる時はガチで戦うけど、それ以外の時は艦娘同士のキャッキャウフフな世界だと思い込んでたんだけど?

 いきなり中東からスタートするし、なんか物騒な考え方してる人は居るし、もしかして結構ハードな世界なの……?

 

 そうやって一人で戦慄してると、アイツは振り返って部屋から出ていった。

 起こし方は最悪だし蹴られたりもしたけど、マンガとかでよくあるようなヤバい折檻をされたりとかは無かった。

 

「えっ……愚痴聞かす為に来たの? マジで?」

 

 重たい椅子に縛られて床に転がされた俺と、無造作に転がされてる盾だけが部屋に残された。

 

 

 




うーん、こらはクソ提督(真)

・主人公が縛られてる椅子
人型の深海棲艦を運良く鹵獲()した時用のもの
滅茶苦茶頑丈な上、すごく重たい。
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