3章は巻きで行きます。
今は何時だ?
あれからどれぐらい経った?
床に転がされたまま眠って同じ体勢のまま目を覚ます。椅子が重い上にそもそもの姿勢が悪いからまともな身動きが取れず、廊下の方から物音がほとんどしない。
「暇過ぎて死にそう……」
窓が無いから時間感覚が滅茶苦茶になってることもあって、とにかく退屈を持て余していた。
誰かに来て欲しい。ハムスターは寂しいと死ぬなんてデマはあるけど、人間は孤独を拗らせると本当に発狂するらしいからさ。
この際あのクソ野郎でも構わない。退屈を紛らす何かが必要だ。
よし、暇潰しも兼ねて何度目かになる情報の整理をしていこう。
アイツは言った。深海棲艦が居なかったら俺たちが人類に殺されると。言うことを聴いていれば良いんだと。
それから考えると、アイツは深海棲艦よりも艦娘に恨みを持っているような気がする。
どうやったらそんな状況になるか。
俺が知る限りでは艦娘よりも深海棲艦の方が余程危険度は高い。それなのに艦娘を親の仇のように憎むのは何故か……。
「……」
ダメだ思いつかない。一番考えられるのが知人を艦娘絡みの何かで喪ったってことくらいだけど、艦娘が人を撃つかと言われたら違うと思う。
「艦娘の救助とかが遅くて間に合わなかったとか? それとも漁船の護衛してたけど力及ばず……ってこと?」
これだ。一番しっくりくる。
だとしても、そもそも悪いのは深海棲艦なんだから艦娘に当たるのは違うよね?
「拗らせただけかな?」
取り敢えずこういうことにしておこう。
「……今は何時だろう」
結構時間経ったんじゃねぇの? 寝てた時間もあるだろうし、一日くらいは経ったでしょ。
ずっと同じ姿勢だからもう身体が痛い!
「腹減ったなぁ……喉も渇いたし……」
せめてさぁ……水とか無いの? 日本の犯罪者でももう少し良い思いしてると思うんだけど。
――ドン――ドン――
「おっ?」
足音だ! ……人数は一人かな。
じゃあ多分アイツだろうな。
「チッ……起きてるじゃねぇか。おい」
「……なんでしょうか」
不機嫌そうで何より。それよりもこっちはアンタに転がされたままなんだが? 常識的に考えて椅子を元通りにするとかさぁ……してくれても良いんじゃ無いの?
「そういえばお前は最近ここに来たんだって?」
そんな新人に何が訊きたいんだろう?
「そうですね。……ちゃんとした会話がしたいなら、せめて起き上がらせてくれてもいいと思うんですけど」
姿勢の改善を要求したら椅子を起こしてくれた。
正直無視されると思ってたからちょっと意外だったかも。でもまぁ、不満気な雰囲気はしっかりと伝わったらしい。嫌そうな、罰が悪そうな顔をしている。
いや、椅子倒したのお前だよ?
「お前は……艦娘についてどう思っている?」
質問の内容が抽象的すぎるだろ。
「深海棲艦と戦う存在ですかね?」
他の人たちみたいに平和な海とか、深海棲艦の脅威から守るといった存在意義というか、崇高な理念? そんなの俺には無いし……まぁ同意はするけど。
そんな無難な回答を聞いたら口の端を上げた。……悪いおっさんの悪そうなスマイルなんて要らないよ。
「そうだ。お前たちは提督の指示の下で戦う存在だ。……それなのになんだコレは!? この鎮守府の提督が退任するからと配属されてみれば! 碌に深海棲艦から海を取り返して無ぇ現状!」
「そうだったんですか。最近来たのでよく分かりませんでした」
愚痴を言いに来たのね。なるほど了解です。
それにしたって言い方ってモンがあるだろ……前の提督、各地の提督は全くの無能でしたって言ってるようなもんだぞ。
「深海棲艦が現れてから数年経ってるんだぞ? それなのに未だ日本は漁船に護衛を付けないと碌に漁もに出られない状態だ。いくら何でも遅すぎると思わないか?」
事が事だから対応に遅れが出ても仕方ないとは思うんだけどなぁ……それに、深海棲艦が確実に絶滅したって認知されない限りは、念には念をの精神で護衛は付くと思うんだよね。
「俺が軍学校で教わった通りに進められていたなら、今頃はもっと深海棲艦の脅威は少なかった筈だ!」
いや、理論上可能なことと現実を一緒にしないで? それが出来るなら科学者が永久機関を発明して技術者がガンダムを作ることになるぞ。
「お前たちは戦う為の存在だ。それなのに俺が来た時には食堂に大勢集まっていやがった。街で聞いてみたら休日があるそうじゃねぇか。いいご身分だなぁ? 機械人形の癖によぉ……」
実際に戦場に出る訳でもないのに偉そうだなぁ……って感じで聞いてたらやっぱりだ。コイツは前の提督と艦娘に対する考え方がまるっきり違う。
前の提督は艦娘を人間だと言った。それぞれの意志を尊重して一人の人間として付き合っていた。
それに対してコイツは、艦娘を人形だと言った。そして俺たちの都合を無視して無理やり行動させている。
確かに同一人物っぽいのは居るだろし、解体や建造で増えたり減ったりするのは人間じゃない。普通の人とは違うっていう意味では確かに化け物なのかもしれない。
それでも俺たちには意思があり、考えがあり、感情がある。そしてそれを言葉にできる。これはどう考えたって人間である証拠だろう。
意思を汲まず、考えを無視し、感情を蔑ろにして、言葉を踏み躙るコイツは……コイツみたいなヤツこそが人間が真に打ち倒すべき相手なんじゃないか?
「何だよその反抗的な目はぁ!」
―――バシッ!
「ぐぁッ……!」
手に持っていた棒状の何かで頭を叩かれた。脳みそが零れたんじゃないかと思うような痛みに襲われる。
「市民を守るとか言っておきながら、遠征や出撃の任務を与えると反抗する。休みが欲しいだ? イライラするんだよ……一丁前に人間ぶりやがって」
そう言い残してコイツは部屋から出て行った。
「ヒステリックなことで……」
キレちまったよ。一周回って冷静になってる。
もう殺しちゃっても罪に問われないような気がしてきたぞ……。
椅子に縛られてるだけの自分に無力感を感じる。
……限界だ。
トイレくらいは行かせてくれても良いだろうがよぉ!
こんな歳で! 不可抗力とは言えお漏らしは嫌だぞ!
「ん?」
椅子に自分由来じゃない振動を感じてトイレで埋め尽くされた頭が一瞬で冷静になる。
いつの間に俺の後ろで何かしてる奴は誰だ? 誰も入ってこなかったと思うんだけど、せめて声くらい掛けて欲しい。
「ぅわっ!」
フワッと拘束が緩んでベシャリと体が床に延びる。
「痛ってぇ……あ、どうも」
開放してくれた誰かにお礼を言おうと振り返ると妖精さんが居た。しかも見慣れたあいつ。いつもいつも、気が付いたらそこに居るお前はマジで一体何者なんだ……。
「よっと……ぉっとお!?」
上手く立ち上がれない。ここ最近はずっと椅子にくっついてたから足が固まって動けねぇや。思わず苦笑いが出る。
屈伸運動と軽いジャンプで多少解した後に放置された盾のところに向かう。
「あ~あ~、埃被っちゃって……」
それじゃあ、トイレに行ってから提督をぶちのめしに行くか。
「絶対にただじゃ済まさねぇ。不本意だけど一緒に地獄に落ちようじゃねぇか……」
扉はあっさりと開いた。アイツに痛い目を見させてやる前に食堂……。腹減ったけどまさか取り壊しには……なってない!
扉を開けると中にはそれなりに人が居た。みんなビックリした顔で俺の方を見ている。まさか人が居るなんて思わなくて俺もビックリした。
「スチュワートさん! 無事でしたか!」
そんな声を皮切りに俺は歓迎される。
なんだよ……せめて誰か助けに来てくれても良かったんじゃないの? って言おうと思ったけど止めた。きっとみんなもみんなでアイツとの戦いがあったんだろう。辛いのは俺だけじゃない筈だ。
「……皆さんは遠征に行かされてると思ってましたよ。取り壊しになってなくてビックリしました」
近くにいた長良にそう話しかける。
「私たちはね、遠征を “ぼいこっと” することにしたの。……もうあんな人の言うことなんて聞かないんだから!」
「そーだそーだ!」「誰があんなヤツの!」と騒ぎ出すその他大勢。
「随分と頼もしい不良たちですね。あ、間宮さん? ……ありがとうございます」
今の俺を含めてみんな笑顔だから悲壮感が無い。僕らの鎮守府戦争って感じがする。こう……大規模な悪戯、そんな感じのやつ。
アイツからしたら溜まったもんじゃないだろう。道具がいきなり使えなくなった上に使用者に襲いかかってくるなんて普通の製品だったらクレームもんだ。だけど俺たちはアイツが言うには機械人形。しかも意志が搭載されてるから、変に刺激したアイツが悪い。全面的に。
出て来た水を飲み、おにぎりに齧り付く。ちょっと零れて下品だろうが構わない。最後に楽しければ良いんだ。俺は今楽しい。
飲んだ水が染み渡るような、そんな気がした。
「さて、一仕事してきますかね」
「どこに行くつもりですか?」
おっ、ここってカッコつけるところじゃない?
「……書類に埋もれたお姫様を救ってくる」
抑止を振り切って執務室に向かう。
――絶対にアイツはそこに居る。
「妖精さん、ナイスだねぇ」
俺が執務室近くに来た時には偉そうな妖精さんが誰かの砲を持っていた。俺のは壊れちゃったから誰かに借りるしかないのは心苦しいけどやるしかない。
「初めての……か……」
本音としてはやっぱりやりたくない。人を撃つだなんて考えるだけで顔が歪む。あれだけ覚悟を決めたつもりでも、やっぱり直前になると日和ってしまう。
今まで深海棲艦なんて沢山倒してきたのに……
チラリと砲を見ると【さみだれ】と書いてある……随分カワイイじゃねーか。
「そうだよな。殺人砲なんて嫌だよな」
死は救済って言葉もあるくらいだし、命だけはとらないでおくか。
「これ以上あなたの横暴に付き合うつもりはありません!」
なんか既に大淀が揉めてるんだけど。
まぁいいや。
「何だっ!?」
部屋に突入して、アイツを素早く探して照準を合わせる。
まず狙うのは──耳だ!
バァン!
アイツの耳の上の方が吹き飛んで蹲る。
後ろの壁に穴が開いたけど、気にせずに右肩を撃つ。
「ぐあああああっ!」
「なっ!? スチュワートさん!?」
提督が叫び、状況を理解した大淀が止めに入ってくる。
でも、もう遅い。
最後に右膝を撃ち抜いた。
頭が悪いせいでこんな薄っぺらい悪役になっちゃった。
4章からはまた日常回にします。
やはり戦闘以外の艦これは日常がベスト。変に暗くして良いのはしっかりとした小説を作れる人だけ! 私には無理でした。
Q.砲の威力低くない?
A.深海棲艦にこうかばつぐん! それ以外にはいまひとつ