「勿論それだけではない。ただ異動するだけでは納得しない人は必ず出てくる」
「……」
「だから君は、初期艦としての異動に加えて一年間の謹慎とする。謹慎の理由は……解るね?」
「…ハイ」
危ぶないところだった……なんとか反応できたぞ。
んで何? 大湊警備府ってところに行けって? そこで戦い続けることが罰になるって? でもしばらくは謹慎してねってこと?
「一年の謹慎の理由だけど、その間大人しくしていれば、今回の事件は黒川提督の監督能力の無さに問題があったと責任転嫁できるからだ」
なるほどね。
あとは出撃したまま逃げるのを防止することも兼ねてそうかな。
罪を忘れるなと言いつつ逃げたら許さんってことか。生きて貢献することが償いになると。
俺が処刑にならなかったのはきっとこの人が何らかの手を打ったに違いない。反艦娘派の人じゃないってことが分かったけど、だからと言って艦娘に甘い訳じゃないのね。嫌いじゃない。
良いじゃねーか。やってやろうじゃねーか。
謹慎ってのがその大湊警備府の敷地内から出るなって意味だったら、たった一年くらい大人しく引きこもってやるよ楽勝だよそんなの。その後は「謹慎なんてさせなきゃ良かった」 って後悔するくらい暴れてやる。俺は負けず嫌いなんだよ。
「自分の処置については分かりました。……ですので、異動先の提督と顔を合わせておきたいのですけど」
そうと決まれば俺の下らない八つ当たりに付き合わせられる憐れな提督の顔を拝んでやろうじゃねーか。……ちょっと可哀そうだけど、偉い人の決定だからね! しょうがない。断れないって日本の縦社会を恨んでくれ。
「それは許可できない。私は君がそう危険ではないと判断しているが、周りの目は厳しいぞ」
「……」
確かに。顔も合わせたことが無い人からしたら
・鎮守府で建造されてない上に世界中で報告の無い怪しさ満点の艦娘
・類を見ない艤装を使う意味不明な艦娘
・提督に発砲して昏睡までさせた艦娘(New!)
これは酷い。そんなヤツがいきなり同じ建物に入ってきて
「一年間よろしく! ……大丈夫! 大人しくしてるから~」
なんて言ってきても信じられる要素が無い。絶対に何か企んでるだろって思われる。俺だったら胡散臭すぎて監視付けるね。
……あ、そういうこと?
「それにこれは私が今決めた事だ。だから大湊警備府に配属される者にはまだ連絡を入れていない」
ありゃ……まあ、異動したら嫌でも顔を合わせることになるんだし、別に後ででもいいか。
すると話は終わりだと言いたげに頷いて立ち上がりドアの方へ向かっていく。
「……そういえば、佐世保鎮守府にも新しく提督が配属されてね。急遽戻ってきてもらった田代元提督に教育を受けているだろう」
そう悪戯っぽくわらう男の言葉は衝撃的だった。
「は?」
オイオイオイ、それが一番のビッグニュースなんじゃないか? 良いなぁ……じゃなくて、また提督が一時的とはいえ戻ってきたならみんな安心だろうな~。特に大淀辺りが。
っていうかそれを聴いたら大湊ってところに行ってる場合じゃないね! あの人は優しくてユルいから色々出来て楽しいだけど……俺もやっぱり佐世保に戻りたいんだが?
「……最後になったが、大湊警備府に配属される提督と連絡が付いて、諸々も終わるまでは大本営で謹慎してもらう」
え~……まだ謹慎続くの? 正直今なら大嫌いな筋トレとかも喜んで出来るかもしれないくらいには暇なんだけど……。
……どうでもいいけどまだ話あるなら座ったら?
「そこで、出撃は許さないが、演習や訓練は許可することにする。君もずっと篭りっぱなしだと鈍ってしまうだろうし、何よりも退屈だろう?」
艤 装 が 無 い
「あの……」
佐世保に置いてあるんだったー! 俺の頼もしき盾と手榴弾たちィ! いや、レンタルしよう。きっとあるはずだ……
「やはり暇を持て余していた訳か。そんなにソワソワするなんて案外子供らしいところもあるじゃないか」
ああ聞きたくない! 艤装が無いって焦ってるだけで小学生みたいにはしゃいでる訳じゃねーよ! 嬉しくない訳じゃないけれども!
「部屋から出る時はそうだな……香取に声を掛けて一緒に居ろ。そして香取の言うことを聴く。これが出来ないならまた謹慎部屋に籠ることになるぞ」
「……分かりました」
誰かが一緒に居るなんて冗談じゃない! 自由が満喫出来ないじゃないか! なんて思ってたけど条件だと聞いた直後に脊髄反射で返事をした。退屈な謹慎だけはイヤだ……。
男が少しだけ笑みを浮かべて頷いた。話が終わったってことだろう。
こうして、俺の処分について教えてもらう話は終わった―――
「ふぅ。偉そうな真似事は疲れるね。……どうだい? この部屋には他に誰も居ないし、お酒でも飲むかい?」
「……何を言っているか分からないんですが?」
一息吐いたと思ったら豹変するとかビックリするから止めてくれよ……。しかも見た目未成年の俺にお酒勧めてくるとか本当に大本営の椅子に座ってる偉い感じの人なのか怪しくなってくる。権力にモノを言わせたワルい大人だ。
「君もずっと謹慎で疲れただろう? 息抜きとして一晩くらい飲んでも大丈夫さ! ……今のはオフレコで頼むよ」
まぁ、俺も水よりだったら味がある飲み物の方が良いんだけど……アンタは本当にそれで良いのか? 俺の見た目を考えろ見た目を! 仮にも偉い立場の人の発言だとは思えないんだが?
「私はビールを用意してくる。君は何を飲みたい? ……貰いものだが良いお酒は沢山有ってね」
「水でお願いします」
「詰まらないな。せめてここに居る間だけは警戒なんかしないで寛いで行ってくれてもいいのに」
「気持ちだけ頂いておきますね」
本当にこの人は偉い人なんだろうか?
ダメな大人って感じがする。俺の中で株が大暴落してるんだけど?
「なぁ~に、私は艦娘が好きでね。……別に恋愛的な意味ではなくて、良きパートナーとしてだ。……全く、反艦娘派の人達と話をするのは疲れていけない。君にはたっぷりと愚痴を聞いてもらおうかな」
あぁ、愚痴を聞くことになるのか。正確な心情の把握なんて出来っこないのにどうやって話を続けるか……。
部屋の奥にあった棚から瓶を持ってきた自称偉い人。蓋が取れ、酒の匂いが漂ってくる。マジで酒飲む気なのこの人?
もう一つのコップを奪い取り、酒を入れられる前にポットから水を注ぐ。
「えっと……それじゃあ」
「この件の一先ずの区切りに」
「区切りに?」
「乾杯」
……うっそだろ? 何かのお酒の付き合いだと思ってたら本当にこの人結構個人的な理由で俺を誘ってきた!?
取り敢えず
「じゃあ早速だけど聞いてもらおうじゃないか──」
▼――――――――――
ビールを飲む。目の前には顔を真っ赤にした顔の艦娘――スチュワートが居る。
「ハァ……」
「あれぇ? どうしたんですかぁ~? 溜息ばかりだと~幸せが逃げるらしいですよ~?」
……これは後片付けが少々面倒になるかもしれない。
佐世保鎮守府以前の経歴のスチュワートは本当に深海棲艦のスパイではないのか? と判断する為にお酒を使って酔わせて、何か新しい情報を聞き出そうと思ったんだが……中々お酒を飲もうとしなかったから、殆ど命令に近い形で飲ませた結果、完全に出来上がってしまった。
この状態が演技なはずが無い。上半身は絶えず揺れ、私の溜息に反応出来して変に絡んでくるし、随分陽気になった。結構な量を飲ませたのに意思疎通が出来る時点で相当お酒に強いと分かるが。
……仮に今の酔っているのも演技だとすると、完敗だ。
しかしながらその口から出てきた情報は田代元提督が聞いたと言う情報とさして変わらなかった。深海棲艦のスパイではないのか?
なんて考えている間にもスチュワートの体が大きく揺れ、座っていた椅子のひじ掛けに体を預けて眠ってしまった。
「どうしたもんかねぇ……」
彼女に言った大湊警備府の話は本当の事。だけどそこに志願したのが新人提督ただ一人だけだったとは……。
「荻野の言う通りだったな……我々の人材不足も深刻だ」
酒やグラスを片付けながらそう呟く。明日から条件付きとは言えある程度の自由は与えたし、どんな行動をとるか……
「まだ今日の分の書類が終わってないな……いや、お酒を飲んでしまったんだ、明日にした方が良さそうだな」
会議が終わってからも仕事がこれでもかと言うほど残っている。
「……本当に面倒くさいことをしてくれたな」
私も相当酔ってきたようだ。早く彼女を謹慎部屋のベッドに届けなくては……。
「彼女には勢いで言っちゃったけど、香取にも許可を貰ってこないといけないな」
翌日、寝坊してその香取に叱られたときは流石に反省した。
▲――――――――――
次回からはクソみたいにやることが無い謹慎部屋からの生活から一変!
香取、鹿島ペアからの厳しいレッスンが始まります。
※やらしさはありません。 ※やらしさはありません。