今回は割と(展開を)飛ばしたつもりです。
腹が減っては戦は出来ぬ。
昔の偉い人もそう言ってる。だから俺が「腹が減った」と訴えたことは何もおかしいことでは無い。
前世男が妖精相手になんてことを言ってるんだ。プライドは無いのかと言われそうだけどそんなモノは常識と一緒に母さんの腹の中に置いてきた。今更取りに行こうにも腹パンしたって出てこないしやったらやったで家に鬼が現れることは想像に難くない。そもそも見た目は別人だしなぁ……傷害罪?
溜息を一つ吐く。やっぱり溜息増えてるよね。言ってしまったものは仕方がない。この妖精さんが風と波の音を聴いていて俺の呟きが聞こえていないことを普段は信じてすらない神に祈ろうじゃないか。
「お腹空いてるんですかぁ? でしたらもう少ししたところの港で陸に上がってください」
神などいない。バッチリ聞いてんじゃねぇか! っていうか陸に上がって何をする気だこの妖精さんは。俺は金なんて持ってないんだが……流石にゴミ箱から残飯を漁るなんて惨めなことはこの体に失礼極まるのでやりたくはないし、多分極限状態じゃない限りは理性が邪魔で出来ないだろう。
そんなこんなで妖精さんが言っていたであろう港に辿り着く。海の上を滑るように動くのも良いけどやっぱり自分の脚で歩くのも良いねぇ。しかも非日常を経験しているから余計に気分が良い。
それにしてももう真っ暗だ。街灯と遠くの街くらいしか電気は点いていない。ここで妖精さんは一体何を――
「あそこのコンテナですぅ」
「……」
まじか。やっぱりグレムリンじゃねぇかなこの妖精さんは。悪気も無さそうに泥棒行為しようとしてる……正直ドン引きだ。
艤装で撃っても良いんじゃないかな。妖精は死んでも一回休みなだけって聞いたことがあるし。
いや待てよ、そもそもこの妖精は艤装を作る時点でいろいろ盗ってたように見えなくもない。あの時は私物だろうと思ってたけど今の態度からして怪しくなってきたぞ。仮にそうだとすると俺は盗品背負ってるってことになるのか? ヤバくね? 艦娘じゃなくて海賊だよね今の俺。指名手配とかされないよね?
「だ、大丈夫ですぅ。一人分無くなっても誤差の内……ですぅ」
声震えてんじゃん。ダメじゃん。大丈夫って言う奴ほど駄目だって昔誰かに言われたぞ俺は。
溜息を吐く。いい気分から急降下、一気に何とも言えない気分になってしまった。犯罪の片棒を担がされたら誰だってこうなるのは当然だと思う。
兎に角、チキンハートの俺には犯罪なんて犯せない。代替案を見つけなければ……
「魚を捕るとか深海棲艦の拠点を探して盗む……とかじゃダメなの?」
すると妖精さんはう~んと悩み始める。深海棲艦の拠点から盗むというのは俺の中では一番いい案だと思う。敵の資源を使えるならそれはとてもいいことだ。良心も痛まないしね。
「確かにそれが出来れば一番良いんですけどぉ、今日艦娘として目覚めたばかりのあなた一人で深海棲艦の拠点を制圧出来ますか? まともに艤装の撃ち方も知らないあなたが」
と言われてしまった。艤装の使い方は知らないけどそれはそれとして、拠点を制圧? この妖精は一体何を勘違いしているんだろう。俺は盗むとは言ったが交戦するなんて一言も言ってないんだが?
目の前の
頭の中の
……だから俺は頭の中の
差し当たっての問題は深海棲艦の拠点の場所を俺が知らないことだろう。これで場所は
仮に陸上にあったとしても余程警備がザルじゃない限りは盗みに行けるはずがない。俺はルパンじゃないから。
「なるようになるか。どうせ予定なんて立てるだけ立てて何もしないのがオチだ」
「それってただ無計画なだけじゃ……」
「うるさい」
肩を払って妖精さんを落とそうとする。……いつの間に艤装に座ってんだ。そしてお茶啜ってんじゃねぇよ、俺にもくれよおい。
さてどうする。結局何もせずに海へ出た。一日間何も食べていないというのは飽食の時代の日本人だった俺には経験が無い事だ。足の下には水がこれでもかとあるから喉が
「渇くんだよなぁ」
それでも空腹も喉の渇きもまだ我慢できるレベルだ。
艦娘になったことでこの辺の忍耐力が向上したと考えるべきか?
でも流石に海水を飲むなんて馬鹿はやらない。汚いだろうし、塩分濃度が高すぎて死ぬって聞いたことがある。
せめて鍋かフライパンでもあれば適当な無人島見つけてもらってワンチャン野宿があるだろうけどサバイバル初心者の俺が出来ることなんてたかが知れてる。
「泥棒か? やはり倉庫に盗みに入るしかないのか? あー駄目だ。眠いし喉渇いたしでまともに考えられない。ポカエリアスって凄かったんだなぁ……ん?」
遠くに何かが見える。緑色の光が二つ見えるな、漁船? いや、深海棲艦が居る世界だ。のうのうと一隻だけで漁なんて出来る筈がない。じゃあアレはまさか?
「おい妖精さん! 起きろ起きろ」
「うぐ……いきなり叩かな「アレは何?」……深海棲艦!? ど、どどどっど、どうしますぅ!?」
叩いて起こして確認させたらやっぱり深海棲艦だったらしい。っていうかすっげぇ動揺してんじゃん。自分より動揺してるやつ見ると逆に落ち着くって本当だったのか。
「俺が聞きてーわ。……アレって俺でも倒せる? それとも逃げる?」
見た感じ緑の点は二つ。隻眼が二つとか潜水してる他のが居ますとかじゃない限りは同数だし、戦ってみたいよなぁ? 折角艤装なんて戦う手段があるのに使わないなんて勿体なくない? あぁヤバい。考えてたらテンション上がってきちゃったじゃんか。
「多分大丈夫……ですぅ」
多分だろうと大丈夫ってことは一方的にやられるってことはなさそうかな? じゃあいざとなったら逃げられるって訳。
「じゃあ行こうか」
「えぇ……」
突撃ィーーーッ!
遠くに見えた緑の光。それは駆逐イ級の目の光だった。
そんな駆逐イ級は俺でも知ってる『艦これ』のマスコット(?)だ。愛すべき雑魚だった筈だ。
だけど……
「やけに強いなオイ」
右手の砲を撃つ。当たってると思うんだけどなぁ。外した時は小さいけど水柱上がったし。
魚雷の発射の仕方が分からないから左手で魚雷を掴んで投げる……手前に落ちた。全く当たる気がしない。腰に着いてる艤装の攻撃もだ。手の艤装が一番当てやすい。だけど当たっても効果が薄いとかなんだこれは、クソゲーか?
しかもやけに賢いぞこいつ。距離が空いたら撃ってきて、近づいたら噛みついて来る。絶対に一番最初に出てくるようなヤツがする行動とは思えねぇぞクソ! バカみたいに同じ行動ばっかりしてたらいいのに。
「これが命のやり取りって? やってられるか!」
逃げよう。最後に一撃食らわせたら全力で逃げよう。死んだら終わりだ……左手に魚雷を持って
「これでも喰ら――居ない?」
どこだ? ヤツはどこにいる? 上は無いだろうし……
「下か!?」
「後ろですぅーーー!」
下を向きつつ振り返る。視界の上にヤツの影を捉えた。口を開けているのだろう、白い歯の縁の中は真っ暗だ。サイズがサイズだけに丸呑みだろう。あぁ、俺はここで死ぬ――
「クソがあああああああ!」
残りの二本の魚雷をぶん投げる。まさかこの距離では外すまい。案の定ヤツは頭とその他の二つになって吹き飛んだ。片方は俺と一緒に。
「ぐはッ!」
衝撃! 視界がブレて一瞬何も考えられなくなったと判断したのはこの数瞬後で、その時俺は空中を舞っていた。
息が出来ない。めっちゃ痛い。
やけにゆっくり流れた行く景色を見ながらなんとなく、ありふれた感想を思い浮かべていた。
海面に背中から叩きつけられる。背骨が折れたんじゃないかって思うぐらい痛い。艤装の思わぬ欠点だ。
近くには見事に半分くらいになったイ級が浮かんでいる。ぶつかった時は凄まじい衝撃だったからさぞ重たいのだろうと思ってたんだけど、なんで沈まないの?
立ち上がり呼吸を整える。聞こえるのは自分の荒い息と早すぎる鼓動。心臓が爆発していないか心配になってくるくらい跳ね回っている。
動き過ぎたからか、生まれて初めて命のやり取りをした緊張と興奮、恐怖からか? それとも勝利したことによる喜びか。分からないが分かることがある。心臓とトリップした頭はまだ落ち着いていないということだけは分かる。
「ヘッ、やってやったぜ。ざまあみろ」
見下しながらそう言う。さっきまで鬱陶しいくらい元気だったイ級は今、物言わぬ塊になっている。
近づいてみても動かない。……死んでいるのか。せめて歯の一本くらいは貰っていっても文句は言われないだろう。
歯を抜く。掌以上あるそれは、何度か蹴るまではびくともしない程に力強かった。逆に、抜くときに触れた歯茎は柔らかく、そして冷たかった。
深海棲艦という不気味な存在を、所詮敵だからを侮っていたのかもしれない。
気持ち悪くてちょっと吐きそうになった。
前書きと後書きは適当です。
オマケくらいに見て貰てたら幸いです。
これからも拙作にどうぞお付き合いください。