私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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52話です。

なんか想定より4章が長くなってます。
元は香取さんとかは出ず、事情徴収~大湊の繋ぎを簡単に熟すだけの実質3.5章の筈だったんですけど……どうしてこうなったんだか。


ちょっとした会話

「はい、そこまでね?」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 またダメか……。

 疲れ果てた俺に投げかけられる無慈悲な終了宣言。今回も弾を早々に撃ち尽くしてしまい、合図の笛が鳴るまでひたすら逃げ回った。……疲れた。

 

「大分お疲れみたいね。今回の私の被弾は四回よ。……ちょっと虐め過ぎちゃったかしら?

 

 香取さんから実力を見せろと言われて始まった演習。始まってから半日、休憩を挟みながら延々と香取さんを狙い続けた。……そして今回、辺りが暗くなって来た頃に最後と言われて挑んだが……俺が疲れ果てて動けなくなったという何とも情けない結果で終わった。

 

 言葉で動揺を誘い、制限時間で焦らせ、残弾で注意力を分散させ、ピストル型の取り回しの良さそうな武器で後の先よろしく反撃をかましてくるコンボを、俺は未だに突破できないで居た。

 

 それでも最後の方は、俺が最初以降は香取さんの声に騙されないように合図が出るまでは一切を無視したのが功を奏したのか、騙すような声を出さなくなっていた。俺に通用しないと判断してすぐにそれをしなくなるなんてやっぱり香取さんは相当優秀なんだなって思った。

 ……俺としてはだんだん慣れて来た頃だったから「あ~はいはい。演技乙w」くらいの感覚で心の中で笑って無視できるようになったばかりだったから、せめてもうちょっと優越感に浸っていたかった。「フン、効かぬわ!」ってやってみたかったんだけどなぁ……。

 

 因みに昼過ぎからは兎に角俺なりに試行錯誤をしていた。

 ブースターを着けてやっと俺と同じくらいスピードだったから、更に速度を上げて翻弄しようとしてみたり、近接戦闘みたいにゼロ距離で撃ち合ったり、弾が切れたと嘘のアピールをして油断を誘ってみたり……。

 それでも俺が考えたこれらの方法はまるで通用せず、派手に動き回る俺の何故か腕ばかりを撃ってきたり、嘘を見破られて「アレ? アレ?」ってやってる間に額に撃ち込まれたり……。

 

「それじゃあ、もう大分暗くなってきたので戻りましょうか♪」

 

「……ハイ」

 

 こうして今日の分が終了した。……一番多く当たったのが目標の十五に対して十二発だった。俺がいつもしたくないとか思いながら仕方ないって言ってやっちゃう自爆特攻。超近距離で十二発当てた代償は、俺も相当被弾してかなり痛い思いをしたこと。当然香取さんからは厳重に注意された。

 

「明日も引き続き行うので、しっかり休んでくださいね♪」

 

「……」

 

 嘘やん。鬼かこの人。

 

 こんなの絶対に練習とか訓練ってレベルじゃないと思う。試練だよ試練。ゲームとかで言うところのトロフィー取得の為の高難度クエストと同じタイプだと思う。

 

「……厳しいなぁ……」

 

「何ですか? ……そうですか。フフッ♪」

 

 小さく呟いた独り言にまさか反応されるなんて思いもしなかった。慌てて何でもないですと言ったら未だ何か言いたげだけど、再び前を向いて大本営に戻り始める香取さん。

 聴き取り難いけど、小さく鼻歌を歌っているから、不機嫌だという訳ではなさそう……むしろ上機嫌?

 

 一体何故……? まさか香取さんってドS?

 

「……」

 

「……」

 

 そう考えてたら急に振り返って目をジッと見られた。いつかの夕張もそうだけど、なんで皆して俺の心読めるの? 今回なんて目も合わせてないのになんで? 怖すぎるだろ……。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。久しぶりに誰かを教育しましたが……疲れますね」

 

「……」

 

 食堂で香取さんが口を開き、また小言かと思ったら出て来たのは今の言葉。

 ……これってなんて相槌打つのがセオリー? 無視は良くないだろうけど年寄り臭いなんて素直に言ったら間違いなく瞬き一つする間にあの世に送られるだろう。……あ。

 

「お疲れ様です」

 

 これだ。 無難な答えが出て来たことに安堵しフッと顔を緩める。

 

「……それにしても、スチュワートさんには驚かされました」

 

 ……うん、俺も驚かされた。目の前で綺麗に食事を進める香取さんも、海の上に出れば勝てば官軍を地で行く戦士(ソルジャー)に早変わりなんだもんな。

 佐世保のみんなはまだ遠征とか、出撃の休憩中くらいしか一緒に居たことはなく、緊張感はあるもののガチな雰囲気じゃなかったから比べられないけど、それでも香取さんほどメリハリがしっかりしてる人はあんまり居ないんじゃないかな……。

 

「佐世保鎮守府に居た期間から考えると、ちょっと難しい課題だったと思いましたが、そう思わせない結果でしたね」

 

「ありがとうございます。実力を見せてくださいと言われたので……見れましたか?」

 

「ええ。勿論よ♪」

 

 ほら、つい一時間前なんて微笑みながら俺に銃口向けて来た人がこれだ。こうして休憩中には褒めてきたりアドバイスをくれたり、他愛のない会話をするんだから……。演習中の雰囲気とのギャップが凄すぎて萌えるを遥かに通り越して俺は不気味に感じるね。戦場で培われてきた狂気みたいなのを感じる。

 

 ……でも今の言葉のちょっと難しいってなんだよ。どう考えても “ちょっと” じゃないだろうよ。早撃ちの選手にでもさせるつもりか? 一回 “ちょっと” の意味を調べてきて欲しい。

 でもこうして褒めてくれるのは恥ずかしいけど嬉しい。我ながらチョロいと思うけど、ボッチ気質の俺だけど承認欲求は人並にあるんだよね。

 

「……ですが! 何回も言いますけれど、被弾を前提に戦うのは良くないです。貴女はまだ知らないでしょうけれど、深海棲艦には姫や鬼を呼称に冠する強力な者も居ます。そんな彼らの攻撃力は高く、駆逐艦である貴女は、受けるのではなく、躱すことを意識しなきゃ駄目ですよ?」

 

「はい……」

 

 返事はしたけど頭の片隅に置いておくくらいに留めておこう。なんせ俺には妖精さんが作ってくれた盾があるんだからな! どうしても行き詰った時に一旦盾を下ろして、その時に香取さんの教えを活かせばいいんだ。

 

 強力な深海棲艦って……『艦これ』のイベントボスでしょ? 戦艦水鬼とか北方棲姫(ほっぽちゃん)とかが有名だっけ……。そうじゃなくても俺は駆逐棲姫相手にズタボロにされたり、軽巡棲鬼の取り巻き相手に頑張ったりしたんだけど……。

 いやぁ、今駆逐棲姫を相手にしてもまず勝てないだろうね。結局あの時は自爆特攻して、天龍達が助けてくれたんだっけ? ……俺は駆逐棲姫にキルマークを付けることが出来たのか? 次に天龍に会ったら訊いておこう。

 

 

 

 香取さんとまた他愛ない会話を繰り返しながら麻婆豆腐を口に運ぶ。

 うん、やっぱりこの舌が痺れるようなこの辛さと痛みが堪らない。やっぱり刺激的な香辛料は最高だぜ。

 昼のうどんには、これでもかと唐辛子をブチ込んでちょっと引かれたから、ラー油を足せないのと、温泉卵が付いてないのが残念だ。

 

「あら? 香取姉と……どちら様?」

 

「! あっ……」

 

 麻婆豆腐に舌鼓を打っていると、後ろから声が掛けられた。ビックリして豆腐がお盆に落ちて砕けちゃったじゃねーかよォ! どうしてくれんのさ!

 

「あら、鹿島? ……この人はスチュワートさんよ。どうしたの?」

 

「初めまして。香取型練習巡洋艦二番艦、鹿島です。よろしくお願いしますね♪」

 

「……こちらこそよろしくお願いします。たった今香取さんから紹介された、スチュワートです」

 

 後ろから現れて俺の対面に座る香取さんの横まで歩いてきた鹿島さんを視界に入れた瞬間に悟る。

 

(あ、ヤッベェ……これは俺が関わっちゃいけないタイプの人だ)

 

 なんというか……うん。香取さんだけならまだしも、この二人を同時に視界に収めた時に俺の精神がゴリゴリと音を立てて削れていくのが分かる。元男で童貞の俺には辛すぎる……。

 

 よし、逃げよう。

 

「……お話したいのはやまやまですが、少々疲れてしまったので休ませていただきます。……それでは失礼します」

 

「あら、それじゃあまた今度ね。しっかり休んで、明日に備えておいてね♪」

 

「はい」

 

 そう言って椅子から立つ。後ろの席に座っていた憲兵の椅子にちょっとぶつかってしまった。

 

「あっ……すみません。」

 

「こちらこそ、申し訳ない」

 

 へぇ~。憲兵にも女性って居たのか……。きっちりした黒い服を着て……下はスカートなのか。隣の人はなんかフードまで被ってるし……。変わった人も居るんだな。

 

 ま、良いか。ちょっとって言うには疲れすぎたけど、久々に身体動かしたから、今日はグッスリ寝れそうだ。  

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