私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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62話です。

またしてもお酒に任せた勢いで出来上がった狂気の産物。
もうちょっとだけ続くんじゃ(4章)


心の内①

 演習終了後、佐世保鎮守府の教官と最後まで名前の分からなかった偉い人と別れ、長かったような短かったような……謹慎してたのかしてないのか微妙に分からなかった生活が終わった。

 

 そして今は新幹線の中、後ろの方から聞こえてくる声から考えて、夕立と時雨と満潮はトランプ、列を挟んだ隣では伊26と神通さんが本を読んでいる。姿は見えないけど赤城さんは駅弁を食べている。腹が減ってくる良い匂いがその証拠だ。

 

―――良いなぁ……

 

 そして俺の隣にはさっきからチラチラと俺の方を見てくる提督。偉い人からそんなことされてたらおちおち寝てらんねぇんだよ。……言いたいことがあるならさっさと言って欲しい。内容はだいたい予想付くけどさ。

 

話は聴いている……済ま―――

 

別にいいですよ。過ぎたことですし

 

 提督の言葉を遮る。謝罪するんだろうな~とは思ってたし、この人は実際悪くない。無理矢理ダメだったところを上げるとするなら、アイツが来るまで鎮守府に残っていなかったことと、大本営の決定で決まった後任の提督(アイツ)を自分の目で判断しきれなかったところ……かなぁ? でもやっぱりこの人は悪くない。

 だからこの人に謝罪される、謝罪させるのは違う気がするし、時間が巻き戻る訳でも無いからぶっちゃけどうでもいい。

 それに、今回は俺が我慢の限界を迎えるという形で殺っちゃって、だいたい俺とアイツの所為みたいな感じになったけど、タイミング次第では別の誰かが何かしてたかもしれないし……。

 物事には割を食うヤツが絶対に居て、偶々それが俺だった。それだけだろう。

 

 ……だけど……

 

……ただ、鎮守府に着いたら愚痴に付き合って貰いますよ?

 

 これくらいはしても良いんじゃないだろうか。流石に何でもかんでも「許すよ」では提督も気が済まないだろうし。

 

それくらいならお安い御用さ

 

 この人は優しいから、きっと快諾するだろうとは思っていた。

 お安い御用なんて言っちゃって……だったら止めろって言うほど事細かに……

 

 良い事を思いついた。無意識的に口の端が上がっていく。

 

楽しみにしてますね

 

 そう言って、提督の目元がちょっと緩んだ隙に話は終わりだと言わんばかりに目を閉じて前を向く。腹の辺りに腕を置いて姿勢を楽にする。

 

 五月蠅過ぎず全くの無音でもない、振動も少ないし、きっとよく寝られるだろう。

 

 

 

 

 

 新幹線を降り、駅を出たら今度は電車―――ではなく、近くの駐車場にあるデカい車の所まで連れて来られた。

 

「……提督? 運転席に誰も座ってないように見えるんだけど?」

 

「おかしいな……事前に時間は伝えてある筈なんだが……」

 

 満潮の言葉に提督がそう呟いて時計を確認する。他の皆も周りを見渡し始めて……

 

「居ました」

 

 赤城さんが見つけたようだ。

 

Hey、提督ぅー!

 

 アッハイ この声だけで誰か分かるわ。

 

「皆さんも到着する頃だと思って Present for everyone(みんなにプレゼント) !」

 

 そう言ってアイスクリームを皆に手渡してくる金剛さん。

 俺の分が無いのは……イジメ? いやいや、冗談だよ。

 

「Oh …… ! スチュワートさん! お久しぶりデース!」

 

 俺を見るなり抱き着いてきた。これが……ッ 英国式のご挨拶……?

 ちょっと刺激が強すぎる。淑女はそうホイホイ抱き着いちゃいけないと思うんだ。

 

 会いたかったデース なんて言って尚俺を放す気配のない金剛さんには困っていたところに、救いの手が差し伸べられた。

 

「金剛、スチュワートが困っているだろう。放してあげなさい」

 

「Sorry ! ……大丈夫ですカ~?」

 

 大丈夫じゃない 問題だ。溜息を吐いてから金剛さんを見上げる。

 

「……早く鎮守府に居る皆にも会いたいですね~」

 

 うはははは! こう言っておけば日本的アトモスフィアを感じ取って 「よし戻ろう」 って感じになるだろ。語彙力のない俺にしてはなかなか良い感じの言葉だったんじゃないか?

 

「それもそうですネー! さぁ皆さん ride on please(乗ってください) !」

 

「金剛さん、いくら出撃に制限掛けられてるからって、羽目を外し過ぎないようにお願いしますね?」

 

 赤城さんがこう言っている間にも車には人が乗り込んでいき……あぁ、後ろの席が取られた……悲しいナリィ……。

 

 車内で移動中、俺のことを訊いた。もし皆から嫌われてるようなら、出来るだけ人目を避けて行動する必要が有るんじゃないかなぁ~なんて思ってたけど、意外とそんなことはなく、なんか……結構好意的な印象が多いらしい。

 それだけ訊いて、なんか安心したから適当に話題を逸らしてから演習の話題にする。思い出したかのように伊26と時雨から文句を言われたりして、何故か赤城さんが 「スチュワートさんですから」 なんて悟ったようにフォローしきれてないフォローをして俺が逆に傷ついた。

 

 その後も、金剛さんが 「眠くなってきたネー……」 なんて言ってウトウトし始めたりして、本人を除く全員が滅茶苦茶慌て始めたりして、アクション映画のカーチェイスとはベクトルの違うスリルが満点のドライブで鎮守府に辿り着いたとだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 一月……半月? ぶりの鎮守府を歩いた。

 

 工廠に立ち寄った時には夕張さんからこれでもかと頭を撫でまわされて

 

 食堂に行った時は、恐らく即席だろうやけに赤いおにぎり(火の玉ストレート)(中身は卵。美味しかった)が出て来たり

 

 廊下を歩けばすれ違った艦娘からはほぼ必ず話しかけられた。

 

「……」

 

「? スチュワート、元気無いけどどうしたんだぴょん?」

 

 そりゃあ……一人二人なら兎に角、ほぼ全員が好意的な対応してくるなんて想定外だったんだよね。

 アイツを排したっていう点ではヒロイックかもしれないけど、やっぱり殺人したヤツは嫌われると思ってたらこの反応だもん。過保護と言うかなんというか……めっちゃ怪しい。

 

「卯月が兎詐欺(うさぎ)に見えるくらいにはね……」

 

「うーちゃんがカワイイって言ったぴょん!?」

 

「……ソウデスネ」

 

 いやホント……何があったし。正直ここまで来るとドン引きなんスよ……。

 

 

 

「―――なんてことがありまして……」

 

「ハハハ! あの子達も君には感謝してるということだよ。素直に喜んだらどうだい?」

 

 対面に座る提督が笑う。

 時間は夜。俺としては冗談半分だったんだけど、律義なことに俺の愚痴を聞くために俺を呼び出した提督から、お酒を勧められていた。

 今飲んでいるのは梅酒ソーダ。だんだん熱くなってきた季節になんか美味しく感じる。

 

 頭も良い感じにフワフワしてきたところで……うん、まだ目的は忘れてない。

 

「……そういえば、今この部屋って他に誰も居ませんよね?」

 

「あぁ、今頃は各自の部屋で休んでいるだろう」

 

「話し声って外まで漏れたりするんですか?」

 

「それは心配しなくても大丈夫だ。大声なら兎も角、今ぐらいの声なら外には聞こえないだろう」

 

 よし、その言葉を聴いて安心した。

 

 これで心置きなく提督を秘密の共有者……共犯に出来る。

 

「提督……私……自分が男だーなんて言ったら……信じますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……信じるよ

 

 長い沈黙の末、提督は答えてくれた。

 

「えっと……良いんですか? 艦娘が男だなんて、おかしいと思いません!?」

 

 あぁダメだダメだ。これ以上この話題をしてはいけない気がする。なんか……後戻りできなくなりそう。

 

「うん。正直、あり得ないだろうし、作り話だとしても出来が悪いと思う」

 

「だったら何で……」

 

「私はね、君が何かを隠してるだろうって、気が付いていたよ」

 

「ッ!?」

 

 え? マジかこの人……ガチもんのエスパーじゃね? 流石に元男の転生者なんて秘密中の秘密にしてたつもりなんだけど……。

 

「いつか隠してることを君から話してくれることを信じてたよ」

 

「……」

 

 ヤベェ……泣きそう。きっとこの人なら全部吐き出しても受け止めてくれるんだろう。

 ……いっそお酒の所為ってことで本当に全部吐き出してしまおうかな……。

 

 梅酒をグラスに零れそうになるまで注いで、薄めもしないで一気に飲む。

 

 プラシーボ効果ってヤツか、意識に靄が掛かって何も考えられなくなっていく。

 

 

「……どこにでもいる本当に普通の人だったんですよ……。 

 とある妖精さんから死んだところを生き返らせられてて、いきなり艦娘になってて、艤装も何も分からなくて……一般市民だった自分が深海棲艦と戦わなくちゃいけなくて……。

 スラバヤも何処にあるのかも分からないのに日本まで移動して……今までしたこともないような泥棒みたいな汚い生活を続けて……挙句駆逐棲姫に追いつめられて死にかけて……。

 気が付いたらここに居て……貴方も……艦娘のみんなも優しくしてくれて……!」

 

「うん」

 

「それなのに自分はそんないい人達にずっと隠し事をしたままのうのうと生活してきて……! あのクソ野郎が来た時に、殺すなんてとんでもない方法でゴリ押して、みんなに迷惑を掛けて!

 人殺しになったのに処刑にはされなくて! そんなヤツがこんなところでやっぱりのうのうとこんな風に喋ってる!」

 

「……」

 

「それなのに感謝してるだなんて……もう嫌です……もう嫌なんですぅ!

 

 あ~……頭がクラクラして俺が自分で何言ってるかよく分かんねぇな……。

 

「そうか……君はずっと悩んでいたんだね……」

 

 いつの間にか隣に座っていた提督が俺の頭に手を伸ばしてくる……が

 

バシィッ

 

 俺はその手を弾いた。

 




おかしいなぁ……
どうして私のやりたいことをするたびに主人公が壊れていくんだろう?

※主人公はお酒に弱い。

やってることは、無意識に溜めたストレスを吐き出す為にお酒に頼る上、上司に叩きつけるクズ的行動なんだよなぁ……

Q.なんで佐世保の艦娘は主人公に甘いの?
A.思い出補正で美化されたんでしょうね。今日だけ特別なのでしょう。
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