私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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68話です。

金週ブースト!

来いよ提督! チュートリアルなんて捨てて掛かって来い!


その駆逐艦、出撃禁止につき

 執務室に提督を案内する。

 

 本当にただそれだけなのに、なぁんでこんなに緊張するかなぁ……。

 建物に入ってから足音が二人分しか聞こえてこないのも心臓に悪い。

 

「……」

 

「……」

 

 会話も無くて気まずい……いやいや、ペラペラお喋りするなんて軽薄なヤツっていう第一印象は避けたい。

 

 歩くスピードは速過ぎないだろうか? ……あぁそうだ、後ろには提督が居るんだった……護衛対象に気を割いておかないと神州丸さん(師匠)から叱られてしまう。

 

 ……ヤベェ、考えること多すぎてもう脳ミソのキャパシティ超えそう……ただ歩いてるだけなのに!

 

 助けて五月雨!

 

 

 

 俺一人が勝手にあっぷあっぷしながら進み、辿り着いてしまった執務室。

 やっぱり事前にどんな流れか一通り説明してもらえば良かった……まぁ、五月雨が説明してないってことは、もしかしたらそんな格式張ったものは無いのかもしれないし……アドリブで良いか!

 

「お入りください」

 

 扉を開けて言う。中に入った提督が「おぉ……」なんて言ってるけど、そのうち入るのも嫌になるくらい入り浸ることになるだろう。なんて上から目線の感想を抱いた。

 

 扉を閉めると提督が俺の方を向く。さぁ……一番大事な最初の挨拶だ。

 提督の目を見ながら敬礼する。

 

「改めまして……おはようございます。そしてようこそ大湊警備府へ。私はクレムソン級駆逐艦、スチュワートです。これからよろしくお願いします」

 

 無事に噛まずに自己紹介が出来て一安心しつつ、提督からは目を逸らさない。人との会話は目を見て行うって習ったからな。

 

 提督は一瞬固まってから、ビシィ! と音が出るくらいの勢いで姿勢を正した。

 

「自分は今日から此処の提督を務めさせていただく松田 翔平と言います! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 そう言って深々と頭を下げる提督。

 

 

 

「違うでしょ……」

 

 思わず突っ込んでしまった。

 

 するとビクッと肩を跳ねさせる提督。

 これが提督……? いやいや俺は認めないね!

 

「大変失礼ながら言わせて頂きますけど……」

 

 提督は表情まで硬くして、まるで蛇に睨まれた蛙のように微動だにしなくなった。……一体俺を何だと思ってるんだ? これは泣いて良いのでは?

 

「貴方は提督で私達よりも偉いんです。威張れとは言いませんが、せめて威厳と言うか……舐められない態度と言うか……兎に角! そんな下手に出る人を提督とは認めたくはありませんし、正直凄くやりにくいです」

 

「……」

 

 言ってやったぜ。言っちゃったぜ。後で何かしらの処罰がありそうだなぁ……。

 でも、後悔も反省もしてない。だって考えても見ろよ提督よぉ。長門さんとかを筆頭に大人の艦娘相手ならそれで良いかもしれないけど、占守を始めとする海防艦、見た目小学生相手に敬語使うとか……正直ドン引きってレベルじゃねぇぞ。

 

 ……なんでその提督は目の前でポカンとしてるんだろうね? まだ自己紹介終わったばっかりなのに……疲れるなぁ全く。

 

「……と、取り敢えず警備府内の案内を続けますね。荷物はここに置いておいて大丈夫です」

 

「は、はいっ……ッ! ……助かる」

 

 俺に睨まれて言葉遣いを変えた。後で叱られようが罰せられようが構うものか。

 偉い上に年上から敬語で話しかけられるとか実際拷問だから……。早くそれをデフォルトにして欲しい。俺の精神が持たない。

 

 

 

 

 

「ここが工廠です」

 

「おぉ……」

 

 工廠の扉を開けると、妖精さんが沢山飛び出して来た。どこから嗅ぎつけたのか知らないけど出てくるのが速い。それに足元に陣取られると工廠内に入れないんだけど……。

 

「……そう……か。分かった」

 

 そう呟いて一人の妖精さんを手に乗せたまま工廠の中に入っていく提督。

 あぁそっか、提督って妖精さんの声が聞こえるんだっけ? 便利なもんだなあ……。

 

 中に入ると、昨日建造する為に閉められていたシャッターは開いていて、中には S F に出てきそうな箱じゃねぇし、一人用のポッドじゃねぇし……中の見えないそんなヤツがあった。

 提督が妖精さんからの指示を受けてだろう。慣れない手つきで近くにあった操作盤のボタンを弄っている。

 

プシュゥーー……

 

 それこそ S F みたいに濛々と煙は出てこなかったけど、そんな音が響き、ガコン! って音がしたと思ったらその容れ物のうち二つの蓋? が開いた。

 

 中から出て来たのは……明石と大淀だった。

 ……マジであの資材から出来るのか……。『艦これ』の謎だ。どうしてそうなるのか滅茶苦茶気になるけど、深くまで知ったら絶対にS A N値チェック入るタイプのヤツだ。

 

「軽巡、大淀です。艦隊指揮、運営はお任せください」

 

「工作艦、明石です。修理なら任せてください!」

 

 ちょっとだけ早く状況を確認した大淀さんが先に自己紹介をする。佐世保の二人とはやっぱり別人か……。俺が二人を知っていても二人は俺を知らない。なんか無性に悲しいな……って違う違う。次に何をするか考えないと……。

 

「大湊警備府の提督、松田 正平……だ。これから宜しく」

 

「「はい!」」

 

 二人の返事が工廠に響く。

 

「スチュワートさん」

 

 提督が振り返って俺を呼ぶ。

 

さんは要りませんよ……ご紹介に与かりました、スチュワートです。これからよろしくお願いします。……では、他の皆さんにも紹介するので、皆さん付いてきて下さい」

 

 二人に挨拶をしてから食堂へ向かう。多分皆は食堂に居るだろう。五月雨先輩にも訊きたいことあるし……ベストアンサーだな。

 

 

 

 再び食堂で自己紹介が始まり、その隙に五月雨からやることを聴いた。

 ……まさかキョトンとした顔で「もうありませんよ? 提督の指示を待ちましょう」なんて言われるとは思わなんだ……。

 確かに配属されるってことはそれなり以上に色々勉強してるってことだし、俺が仕事に関して口を挟むことは殆ど無いんだろうけど……。

 

「では提督、部隊を編成し、実際に運用してみましょう」

 

 色々考えて結局、さてどうすっかな~。くらいしか出てこなかった俺の思考は、大淀さんの放った一言で吹き飛ばされた。

 

 どこからともなく紙を持ってき(召喚し)た大淀さんが、提督の前にそれを置く。

 提督は少し考えた素振りを見せた後、サラサラと文字を書き込んでいく。

 

 ……アレ? 俺よりも大淀さんの方が秘書っぽいぞ?

 

「大丈夫ですよ、スチュワートさん。大淀さんはどちらかと言うと外部との連絡などの仕事に重点を置いてますから」

 

 もしかして俺は要らない……? なんて思ってたところに五月雨が話しかけてくる。かなり優秀みたいだけど、他の人の仕事を取ることはやらないらしく、俺の役割が死んでいないことに安心した。

 それと、大淀さんは外部との連絡と聞いて、各鎮守府の大淀さんが集まって会議したり、ビデオ通話してるのが頭に浮かんで危うく噴き出しそうになった。

 

「出来た」

 

 提督の声で編成が終わったことが全員に伝わる。それまでは俺と五月雨のように会話していたりしたのがピタリと止む。編成されたらそこからは仕事。頭では分かってるんだけど、このメリハリは経験としか言えないと思う。

 

「では確認しますね……はい、問題なさそうです」

 

「では発表し……する。旗艦はスチュワート。以下、長良、大淀、五月雨、巻雲、伊168(イムヤ)だ」

 

 呼ばれた人が気合の入ったような返事をする。それを見たのか提督も何処か満足気だ。新しい警備府の栄えある最初の出撃に選ばれたんだから妥当だろう。

 

 だけどなぁ……

 

「提督。一つ良いでしょうか?」

 

「……なんだ?」

 

「私は諸事情により大本営から一年間の出撃を禁止されております」

 

「「あっ……」」

 

「ですのでその編成、見直してもらえないでしょうか?」

 

 俺の言葉を聴いた瞬間提督がしまった! と言う顔をして、長良と卯月が何かを察したのか言葉を漏らす。

 俺だって出撃して、久しぶりに深海棲艦を相手に活躍したいよ!? 香取さんとか赤城さんとかの相手はもう十分だって! だけど大本営に止められてるんだからしょうがないじゃん!

 

「困りましたね……衣笠さんと大鷹さんは人数と役割からそう簡単に出撃させられないでしょうし……」

 

「いや、衣笠さんが出撃するよ……っていいたいところだけど、どうせまだこの辺の海は大本営がカバーしてるんだし、出撃するには艦娘を建造してからかな?」

 

 衣笠さんの言葉を聴いた瞬間、何かを思い出したのかイムヤの目から光が消えた。何かが地雷だったっぽいけど……分からないなぁ……。

 

「それよりだったら少人数で遠征した方が良いんじゃない?」

 

「それです! 提督、もう一度編成を考え直しましょう」

 

「……皆さんにはご迷惑をお掛けします……」

 

 謝罪をすると、じゃあしょうがないねって感じで出撃するって言われた時の張り詰めた雰囲気が霧散する。……本当に申し訳ねぇ……。

 

 遠征班の編成をサラサラっと書いた提督が立ち上がった。

 

「妖精さんと話をして建造を開始してもらった。それと、今からスチュワートは一緒に執務室へ来てくれ」

 

「分かりました」

 

 呼ばれる心当たりが一つしかないんですが……。

 




呼び出しの理由は一つ + もう一つです。
提督の言葉遣いに突っ込む主人公。謹慎の慎の字を知らないご様子。
でも実際、年下の上司なら兎も角、年上の部下って色々(精神的に)ヤバいですよね。

それと……
読者に “期待してもらう” のではなく、
読者を “期待させる” のはとても難しいものだと思いました。
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