私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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七話目です。
書き直してます。始めたての頃の文章を見て「読みにくいなぁ…」と思ってます。


悪い人 善い人

「もうそろそろしたら行けますぅ」

 

 肩の妖精さんがそう言う。視線の先では人が通り過ぎていったところだ。今まで誰からも見つかっていないことが分かるのでその言葉は非常に心強い。きっと今回も大丈夫だろう。

 

「3、2、1……今っ!」

 

 細道から飛び出して反対側の細道に飛び込む。おかしいな、艦娘はスパイじゃなかったと思うんだけど。なんで海に着く前にからこんなに疲れなきゃいけないんだろうな?

 その原因の1つ目は移動に艤装がかなり邪魔だということ。リュックサックなんて目じゃない大きさをしてるから狭い路地での行動でストレスしか生み出さない。

 

「そろそろ海に出るか。おっアレだ。妖精さん。アレが俺が盗ろうとしていた物だけど、アレ盗っても大丈夫? 見つかるとかそっちの意味で」

 

「アレはかなり厳しいと思いますぅ。絶対に悪目立ちするので止めておいた方がいいですぅ。……代わりにアレはどうですか?」

 

 そう妖精さんが指さす先には一軒の家。古そうに見える壁には釣り竿が立てかけられている。……確かに釣り竿ならアレと同じことが出来る。なんで先に釣り竿って答えがでなかったんだろう。

 2つ目の原因はたった今なくなった。

 最初は漁船から網を盗もうかと考えていたんだけど、取り外しとか持ち運びの点で問題が多かった。一度冷静になるとガバガバさに気づく。俺はアホだ。

 代わりに釣竿を盗むことになった。

 

「それだ。……ごめんなさい釣り人さん。何かあったら恨んでくれ…」

 

 釣り竿を手に取る。前世から通して初めて赤の他人の物を盗んだ。

 凄く申し訳ない気持ちで吐きそうになる。

 気分が悪い。このままだと自然体で道に出ることが出来ない。人の物を盗む覚悟も無い奴が盗んじゃいけないってことか。

 変に怪しい挙動をするから怪しまれるのであって、堂々と自然体でいたら精々「変わった服装」くらいにしか思われないと思う。だからしっかりしないといけないのに……

 

「無理だ戻そう。今ならまだバレてない」

 

 これは持っていってはいけない。絶対に俺の心が壊れる。仲が良い奴の筆箱から何かを取ったり(授業前には返すし俺も取られるからドロー)するのとは訳が違う。これはやってはいけない、返そう。魚は諦めて海鳥でも撃ち落とそう。

 

 来た道を引き返して先程の家の裏に着いた。近くには誰もいないらしく、言われた通り人っ子一人居ない。

 

「ごめんなさい。許してください……」

 

 元のように釣竿を立てかける。誰も言わなきゃ気が付かないだろう。

 そして今度こそ海へ向かう為に脚を進めて――

 

 

 

『おぉ!? こんなところで何をしている?』

 

「ッフェァ!?」

 

 近くから声が聞こえた。

 ビックリして振り返る。さっきの家の小さい窓からハゲのおじさんがこちらを見ている。

 人!? 居なかった筈じゃ!? ヤバい、見られた!? 通報される?

 

 ……終わった。

 

『おぉ、済まないねぇお嬢ちゃん。驚かせるつもりは無かったんだ』

 

 え? 何を言ってるか分か……る。多分英語だこれ。この体は英語の聞き取りは完璧みたいだからきっと話すことも出来るんじゃないだろうか。

 

「ソーリー……んっん゛……『ごめんなさい許してください!』

 

 やっぱり英語喋れるよ。まずは謝ろう。例えこのおじさんが俺の泥棒に気付いてなかったとしても全面的に俺が悪いのは明らかだ。

 でもなんだろう、頭の中では日本語なのに口からは英語が飛び出てる感じ。……深く考えてはいけないだろう。この体の能力的なものかもしれない。きっとこの体で英語のリスニングテストを受けたらほぼ百パーセントで百点を取れるだろうということは分かった。

 目の前のおじさんは驚いたような顔をしている。その視線は腰の艤装に向かっている。

 

『あー……、立ち話は何だから入ってくれ。簡単だがもてなそう』

 

 あらやだ優しい。でも釣り竿については全くノータッチ? 本当に気が付いていないのか、それとも別の思惑があるのか? ダメだ分からん。いっそ逃げるか? でももてなすって言ってる。

 

 う~ん、なるようになれ!

 

『じゃあ、お邪魔します……』

 

 誘われるように裏口から家の中に入った、入ってしまった。最悪の場合はやっぱり盗んだことに怒っていて……ってことはないな。目の前のおじさんはこちらに全く悪意のない顔を向けている。これはアレだ。田舎のお年寄りみたいなヤツだ。善意で出来てるタイプの人間だ。根暗な俺とはおお違い。

 おじさんがカップを二つ持ってきた。受け取ると中には黒い液体が入っている。

 

『美味しいです。ありがとうございます』

 

 アイスコーヒーにお礼を言って椅子に……座れない。艤装が邪魔だ。

 

『それは艤装だったかな? 君は艦娘と呼ばれる者だろう?』

 

『え、えぇそうみたいです』

 

(そんなに簡単に知らない人に喋っちゃダメですぅ!)

 

 なんか聞こえるんだけど……もしかして妖精さん? 直接脳内に話しかけてくるとか怖いじゃん。大丈夫? 脳みそが過負荷でボンッ! てならない?

 

(なんで? やっぱり軍事機密みたいな感じ? うわぁ、脳で会話出来てる感じがする。気持ち悪い)

 

 妖精さんからナニカサレタようで、テレパシーのような会話が出来るようになってることが判明したが、おじさんにはきっと聞こえてはいないだろうから沈黙しているように取られる訳で。

 

『おぉ! やはり艦娘かね。実は私の甥がアメリカで提督をやっていてね、私は艦娘についてそこらの一般人よりかは知っているつもりさ。詳しい事は多分、機密なんだろうけどね』

 

 そう話しかけてきた。笑ってウインクを飛ばしてくるおじさんは今まで見たことがないタイプで、なんかカワイイと思えてしまう。

 しかも話の内容は期待を良い意味で外れていた。どうでもいい世間話ではなく、釣竿の件で怒られることでもない。アメリカの提督の親戚だったとは驚きだ。更に今はバカンス中でここに居るのだと言う。

 ……これはこのおじさんについていれば帰省と共にアメリカへ行けるんじゃないか? いや、パスポートは無いから結局移動は自力か。

 

 そんなこんなで会話は弾んだ。因みにこのおじさんには妖精さんは見えていないらしく、妖精さんがクッキーを持ち上げたらポルターガイストの正体を知ってしまったと笑っていた。

 彼は、甥は提督をしていて大変そうだが会ったときはいつも笑顔を見せてくれるんだとか。

 俺は、何が何でも日本に行かなければならないが移動手段がないと大袈裟に嘆いて見せた。

 

『あぁ、久しぶりに楽しい時間になったよ。ありがとう』

 

 その言葉で世間話は終わりに近づいたことを知る。壁の時計は一時間近く進んでいた。

 

『えぇ、こちらこそありがとうございました』

 

『あぁそうだ、最後に聞きたいことが二つあるんだが、良いかな?』

 

 二つ? 一つは心当たりしかないけどもう一つが分からんぞ。

 

『えぇ、答えられる範囲で可能な限り答えますよ』

 

『じゃあ教えてくれ。君は私が声を掛ける前にあんなところで何をしていたんだ?』

 

 来たか。……正直に話そう。このおじさんはいい人だからちゃんと話せば許してくれるだろう。あぁクソっ。なんで俺はこんなに打算的な考えをしているんだろう。本当に嫌になる。

 

『壁に掛けられていた釣り竿を盗もうとしました。いえ、盗んだんです。それを返したところであなたに声を掛けられました。……ごめんなさい』

 

 そう言うとおじさんはにっこりと笑った。

 

『そうか、盗ってしまったのか』

 

 おじさんはそうかそうかと言いながら頷くだけだ。

 

『何故、怒らないんですか?』 

 

『うむ、確かに君は悪いことをした。だがちゃんと良心に従って返して来ただろう。それにな……』

 

 おじさんは黒いケースを開ける。中には釣竿が沢山入っていた。

 

『あの釣竿はもう使ってなくてね。だから君が持って行っても私は怒らないよ』

 

 涙が出そうだった。この人はなんでこんなに優しいのだろうか。

 

『でしたら、私はあの釣り竿を貰っていきます。……本当に良いんですか?』

 

『勿論だとも。誰にも使ってもらえないより釣り竿も喜ぶだろう。大分ボロボロだけど、大事に使ってやってくれ。』

 

『はい、大事に使います。……それと私からも一つ訊いても良いですか?』

 

『なんだね?』

 

『貴方の名前を伺っても?』

 

 この親切なおじさんの名前は絶対に聴いておかねばならない。いつかアメリカへ行ったときに彼の甥に伝えるために、絶対に。

 おじさんは笑みを絶やさずに答えた。

 

『私はアラン・グレンだ。それと、私の聞きたいことのもう一つ、貴女の名前は?お嬢さん』

 

『私はスチュワートと名乗っています。これ以上はアランさんが言うには軍事機密らしいのでこれ以上は言えません』

 

『おや、意地悪なお嬢さんだ』

 

『私の秘密、軍事機密みたいですけど暴いてみますか?』

 

『ハッハッハッ』

 

 

 楽しい時間はあっという間。流石に全く移動しないのはよろしくない。という訳でアランさんに別れを告げる。

 

『じゃあコレ、貰っていきますよ。大事に使わせていただきます』

 

『あぁ、無事に日本へ行けることを神に祈っているよ』

 

『ではまたいつか会いましょう』

 

 表の出口から見送られる。角を曲がるまで手を振っていたアランさんの優しさを無駄にしないよう、何が何でも日本へ帰らなくてはいけない。犯罪もこれきりだ。

 

「じゃあ妖精さん、行こうか」

 

「やっとですかぁ? 待ちくたびれましたよぉ……」

 

 海に向かう足取りは軽かった。

 




 ストーリーとしての進展あった? ……無いですね!
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