金週ブースト!
ギャグ回(のつもり)です。
「スチュワート、貴女に訊きたいことがある」
「呼び方。貴女はどうかと思いますけど……訊きたいことって何でしょうか?」
執務室に入って扉が閉まった直後に始まる会話。俺は貴女なんて呼ばれたく無いんだけどな~なんて思ってそう返しつつ何が訊きたいのか尋ねる。他の人が居ないなら訊くことなんて決まってるから考えなくても良い。楽で良いな。
「じぶ……私は、つい先日まで提督研修生の身だったんだ。それで君のことは大本営で知った」
やっぱりね。大本営の偉い人からアレコレ聞いたんでしょ? それで、俺が何時牙を剥くか分からないから先に情報収集して対策しておこうってことでしょ? それなら……
「それなら大丈夫ですよ。貴方は誰かさんと違って善い人みたいですし」
「……え?」
ポカンとする提督。「え?」って顔は見るだけで謎の優越感と背徳感に駆られる。これだから止められねぇ! あぁ~、今日は誰かがポカンとする顔が沢山見られて幸せな気分だ。
「だって当たり前じゃないですか。貴方は朝にちゃんと来ましたし、如何にも真面目そうですし。新人だなんて全く気になりませんね。誰にだってスタートはあるんですし」
俺だってこんなありふれた言葉は言いたくないんだけどなぁ~。
「貴方が黒川提督のようにしない限りは私は “あんなこと” はしませんよ」
「……」
「それで、他に何か訊きたいことはありますか?」
はい。面倒くさい話はお終い! この手のやつはさっさと話題を変えるに限るね。まぁ、ここから先、何か話題があったとしても想定してないから俺のコミュ力が試されるんだけど……。
「ある」
「!?」
ああああ! もう! 何でだよぉおおおお!
そこは「もう話は無い」って言う所でしょ!? これ以上何を話すんだよ!? メンドクサイ!
畜生! こうなったらヤケだ! ほら話題プリーズ!
「艦娘達を遠征に行かせる前に、この辺に住んでる漁師さんたちにご挨拶をと思ったんだけど……」
「あー……」
そう来たか……確かにご近所付き合いは大事だ。ちょっと規模が大きいけど……。
「それなら、警備所に相談した方が速いかもしれません。ちょっと訊いてきますね」
「よろしくお願いします」
だから敬語は止めて欲しいんだけどなぁ……。
何も言わずに扉を閉めた。
「はい、それなら問題ありません」
「分かりました。それでは提督に時間を確認してきますね」
警備所に行って確認したところ、深海棲艦が近海に現れた時の為の連絡網があるらしい。それを使えばご近所さんに連絡は出来るらしいんだけど……正直使って良いのかと問い詰めたい。
「はい。……ではこちらを」
渡されたのは一枚の紙。書いてあったのは内線番号。電話なんてあったかなぁ……。
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「いいえ~」
なんて和やかな会話で確認は終わった。
「―――という訳で問題ありませんでした」
「ありがとう……それじゃあ電話するから、他の艦娘達に声を掛けてきてくれないかな? 警備所に居るように伝えてくれないか?」
「分かりました」
扉をそっと閉める。
「ハァ……」
溜息を吐く。特に意味なんて無い、溜息よりは一息入れる感じに近い。
それにしたって提督、出来てる人だなぁ……。俺だったら言われるまでは漁師に挨拶なんて気が付かないかもしれないのに……。いや、これは俺がおかしいだけか。
それでも、俺の情報を聴いて尚提督をするなんてすげぇ変わり者だぜ? 押し付けられたなら俺を拒絶するような態度を取ったりしてもおかしくないのに……。
「優しい人なんだろうなぁ~」
佐世保鎮守府の提督と同じだ。自分のことだけじゃなくて他人のことまで……。普通の提督って皆こうなの? 格好いいねぇ~……。
「ハァ……」
気色悪い思考になっちゃったじゃねーかよ。俺は男色の気はないんだけど……。それでも、つい引き寄せられちゃう魅力のようなものを感じたね。提督の言葉には何て言うの? カリスマ? を感じたね。
「多分提督っていうか、人を率いる人ってああいうタイプの人がなるんだろうな~」
なんて考えていたら、いつの間にか食堂の前に居た。皆に伝えることを思い出して扉を開く。
「あ、戻って来た。提督と二人っきりで何話してたのか衣笠さんに教えてごらんよ~」
「そういえば一回外に行ってましたよね? 巻雲は見てましたよ!」
食堂に入った刹那、瞬間移動と勘違いしそうになる速度で横に来た衣笠さんと巻雲。
あぁ鬱陶しい! 別に衣笠さんが望んでるであろう提督とのロマンスなんて欠片も存在してないし、巻雲が気になってることはこれから話すのに。むしろ落ち着いてくれないと話せない。おい、袖で叩くな。
「皆さんの遠征の前に、提督は近隣の漁師さんたちにご挨拶をするつもりのようです。ですので、皆さん警備所に行きましょう」
俺がそう言うと、納得したような巻雲を含むほぼ全員と、詰まらないって雰囲気を出している衣笠さん。……どんだけロマンスに飢えてるんだこの人は……。そんなにロマンスしたいならそこらの艦娘と勝手にイチャコラしてればいいのに……。
提督と俺のロマンス? あり得ないね。……金剛さんが建造されたら適当にプレゼントしておこう。すると提督は
警備所まで行くと、提督は既に居た。警備所の前にはまだ漁師さん達は居なかった。
が
暫く待っていると一台、二台と車が車が停まり、徒歩や自転車などでも来たんだろう、次々と人が集まって来た。その集まり方は学校の集会なんてレベルではない。あっという間に警備所の外は人で埋め尽くされた。
「何よコレ……」
「人が……多すぎます!」
長良さんも五月雨もビビっている。俺に至っては眩暈がし始める始末。人酔いってのもあるだろうけど、多分コレは人が集まり過ぎた所為で酸欠になってると思う。
それに……。
「ハハ……」
もう苦笑いするしかねぇ……。なんでテレビで見るようなデカいカメラと収音マイクっぽいのが見えるんだろうな? 気が付いたら提督の前に足場とかセットされてるし……どうしてこうなった。本当に近所の住人に声かけただけなんだよね!?
「提督、なんかすごい事になってますけど……」
「……大丈夫……です。何とかします……」
滅茶苦茶声震えてんじゃねーか! 絶対大丈夫じゃないだろ!
戦慄する俺たちの前で進められる準備。気付いたら警官が人混みの整理までしている始末だ。
「提督……頑張ってください。私はしっかり護衛しているので安心してください」
俺がそう言うと、絶望したような顔を向けてくる。
……知らんわ! 自分の言葉を伝えりゃいいんだよ! この熱気だもん、勝手にマスコミとかも真実を捻じ曲げて都合のいい
遂に提督にマイクが持たせられた。
「皆……付いてきてくれ」
あっ、提督コイツ一人じゃ寂しいからって俺たちを使いやがった。いや、護衛って意味では俺は付いていくんだけど……その言い方だと情けなく聞こえるから止めろよ……。
「ハァ……皆さん、行きますよ」
残念ながらこの場で艦娘の皆を率いるのは初期艦である俺の役目だったらしい。思わず溜息が漏れる。まさか初のテレビデビューがこんなとはね……。
「ほら、提督が行かないと話が始まりませんよ? 皆さんを待たせてはいけません」
多少の無茶振りでやや強引に提督を台の上へ移動させる。俺を精神安定剤代わりに使おうとした報いだ。
台の上は下よりも涼しく、酸欠で倒れるような感じでは無かった。
……その代わりに見える人、人、人。吐きそうになったね。
提督が先頭に立つ。
それだけで騒めきがピタリと止む。
カメラのフラッシュが提督、そして後ろの俺たちにも降り注ぐ。
デカいカメラが俺たちを吸い込まんと言わんばかりに向けられている。
集まった大勢の人の目線が提督と俺たちに突き刺さる。
そんな絶大と言う言葉すら生温いプレッシャーの中で、提督が声を出す―――
―――――――
―――――
―――
―
「疲れた……」
提督のスピーチが終わり、集まった人が解散しても尚話を聴くために残ったマスコミの対応に、提督は追われていた。
全てが終わってから執務室で放たれた万感の思いが込められた一言に「明日の一面記事ですよ」なんて揶揄う気も失せた。
「お疲れ様です……」
俺も苦笑いするしかなかった。
まさか大衆、カメラを相手に「もう皆様に被害は出させません」なんて啖呵切るんだもんなぁ……。
「とんでもない人ですね……あ、コーヒー淹れましょうか?」
「お願いします……。あ~ぁ……どうしよう……」
あんなことを言った本人は今にも灰になりそうな雰囲気だけど、ああいった場面で安全牌を取るんじゃなくて、クソ程度胸のあることを言ったこの人には付いて行っても良いと思えた。……やっぱりこういうのがカリスマって呼ばれるんだろうか……。
「お陰で漁師さん達からの評価はうなぎ登り、遠征に行った皆さんの士気も高かったですよ?」
「言わないでください……」
なんて言ってるけど、やってることは完全に主人公だもんな~。
「きっとこれから楽しくなりますよ。……どうぞ、コーヒーです」
この提督も大概ですね……。
でも実際ニュースで報道待ったなしだと思いまして……
途中からノって一気に書き上げました。
スピーチの内容なんて思いつく頭は無いのでそこは割愛……
スチュワート の 好感度が 1 上昇!
『艦これ』的に提督に好意を寄せる理由はこうなんじゃないかな~……なんて。
それでも恋愛はさせません(鋼の意志)