頭の中で提督の人物像がはんぺんよりふにゃふにゃで困ってます……。
豆腐の角に物理的に負けそうなレベルです。
「はぁ……」
提督が手を止めて一息吐いた。時計をチラリと見るとまだ作業開始から一時間しか経ってない。
それにしては相当疲た感じの息を吐くじゃん……最近何か悩みでもあるんか? 俺はカウンセラーの能力なんて持ってないから雷でも呼んでこようか?
まぁ。提督の悩みの内一つは現在進行形で目に見えるんだけどね。
ペラリと書類の山から一枚抜き取る。
【今週の資材運用状況】
明石さんと大淀さんにお願いして倉庫の資材を見てもらっている。忙しい時もあるのか所々抜けているが、基本的に一日二回チェックして纏めてもらっている。実に見やすい表とグラフの資料に大淀さんの凄さが分かる。
……資料の出来は最高なんだけど……内容を見ると頭を抱えたくなる。
グラフの「収入」は日を重ねるにつれて伸びていき、書いてある数字も大きくなっている。
これだけなら十分喜ぶべきことなんだけど……問題は「使用状況」と「差」のグラフだ。
「……」
「使用状況」のグラフもやっぱり伸びている。しかし、最近大鳳さんが来た日に一気にグラフが伸びた感じがする……感じじゃなくて実際伸びてる。
「差」のグラフも、今週一週間の結果だけ見たらプラスなんだけど……。あまりにも収入との差が無さ過ぎる。大鳳さんが来てからは本当に僅かだけど赤字が続いているのが現状だ。
……こんな時に戦艦を所望するのはやっぱりヤバいな。即戦力になるだろうから欲しがるのは分かるんだけど、ここはゆっくりと確実に戦力増強を目指すべきだ。
その為にはやっぱり資材をどうにかしないといけない。これは頼れる頭脳、大淀さんと話し合いが必要だろう。
「……ちょっと大淀さんとお話してきますので、席を外しますね」
「分かった」
場所は工廠、大淀さんを探し回った末此処に辿り着いた。明石さんと何かを話し合っている。
「すみませ~ん……今いいですか?」
「スチュワートじゃん! まさかまた建造?」
声を掛けたら明石が真っ先に反応する。言われた通り、最近は建造関係でここに来る頻度はかなり高い。
「いいえ、ちょっと大淀さんに相談したいことがありまして……」
だからと言って工廠に足を運ぶ = 建造なんて考え方は止めて欲しい。今回はちゃんとした理由があってきたんだ。
「私に相談ですか? どのような……明石さんも聞いても良い内容ですか?」
「はい、明石さんにも聴いてもらいたいですね」
「おっ、なになに? もしかして今朝から出回ってる暑気払いのこと?」
……話が広がるの早くね? だって一時間くらい前だぞ? もしかして俺がハブられてるだけで艦娘全員S N Sで連絡とり合ってるんか? って疑いたくなるくらい広がってる……。これで遠征から帰って来た人達が知ってたらホラーだな。
でも今回はそんなのんびりした話題じゃない。
「違いますよ。……実は、二人が纏めてくれた資材の事なんですけど……」
「あ~……」
「……」
俺が言いたいことを察したのか、明石さんが目を閉じて頭を指でトントンし始め、大淀さんは無言で眼鏡をクイッって動かして光らせた。
「私としては提督に戦艦の建造を中止して欲しいところなんですよ。あの資料を見る限り、もうちょっと資材の収入を増やさないと、せっかく戦艦や空母が来てくれたとしてもまともに出撃できませんよね?」
「……そうですね。最近の提督は戦艦ばかりに目が行って艦隊運用が少々杜撰になっているように感じますし……それに、提督はアレをお忘れになっているようです……」
ん? アレってなんだ? あ、大鳳さんにも自粛を促さなきゃいけないのか。大変だなぁ……
「大淀、アレってなに?」
同じことを考えた明石さんが大淀さんに訊く。
「ええ、提督は任務をあまりやっていないんですよ」
「大淀さん……任務って何でしょう?」
「あ、スチュワートさんには説明してませんでしたね……ごめんなさい」
「え? いや、謝らないでください」
「……それでは説明しますね?」
任務とは、提督が大本営から行うように指示されたもので、内容には編成を組んで出撃させる、遠征を規定回数成功させる、深海棲艦の潜水艦を撃破する等多くの種類があって、終了したものを大本営に報告すると、大本営から資材が送られてくるらしい。
話を聴いてて思った。デイリー、ウィークリークエストだコレ。
「……提督って任務やってないって言ってませんでした?」
「全くやってない訳ではないんです。実際毎日のように遠征には行って貰ってるので……」
大本営から届く資材は大淀さんが受け取っていたらしい。それはありがたい、ありがたいんだけど……どうして俺が居る時に説明しなかったのか……こんな大事な事いくら何でも忘れたりはしないぞ。
「ええっと……任務の内容とか書いてある紙とかってありますか?」
ちょっと待っててくださいって言って工廠から出ていった大淀さん。
俺はあまりのバカらしさに深い溜息と共にこめかみを抑えた。
「ハァ~……」
アホだ。俺も提督も救い難いアホだ。
戦艦を夢見て資材のやりくりに困ってる小学生みたいな提督は言わずもがな。
『艦これ』がゲームと知ってて「デイリーって無いの? へ~……珍しいね~」って考えの俺も相当なバカだ。
「ちょっと、大丈夫?」
「ダメかもしれません……」
明石さんにそう返す。不貞寝したい気分だ。毎日遠征に行って貰ってるメンバーに袋叩きにされても文句は言えねぇよコレは……。もっと負担が軽くなってた筈なんですなんて打ち明けようものなら怒りの矛先は
暫く待っていると、大淀さんが戻って来た。手には紙束を持っている。
「お待たせしました」
俺と明石さんが机の上に広げられた紙を見る。
「うわ、マンスリーとかあるの……」
イヤーリーなんて初めて見たぞオイ。マンスリーも内容をチラッと見ただけで無理だと分かる。○○艦隊とか組めるほど
でもウィークリーは結構達成できそうなのが結構ある。実際に遠征の回数系の任務には済マークが付いている。だけど深海棲艦を撃破するって感じの任務はサッパリ進行できていない。
「酷くない?」
明石さんが呟く。俺もそう思うし大淀さんは苦笑いしている。
「大淀さん」
「はい」
「今日から毎日、任務を提督にやらせますので、新しい任務が入り次第持ってきてください」
デイリー、ウィークリークエスト縛りとかいい加減にしろよぉ!?
さては提督おめーゲームしたこと無いだろ。ちゃんと現代に生きてるのか?
「わ、分かりました……」
「それと、今から早速提督のところに行って任務を始めさせようと思うんですけど、提督の相談に乗ってあげてください」
「はい」
「明石さん、大淀さん借りていきますね!」
「えっ? うん……」
「行きますよ大淀さん!」
あの
「―――確かに、遠征だと逃走が基本の為無駄な交戦はしないから怪我はしないでしょう。ドック入りによる資材の消費も無いので、安定して資材を溜めることが出来るように思うでしょう。ですが! 見てくださいコレを! どう考えても任務達成で支給される資材の方が集めやすいでしょう!」
執務室で提督相手に捲し立てる。考える程に “遠征だけ” の効率がクソだ。小学生でも四則演算習ったら任務やった方が余程良いって答えが出せる筈だ。
「いや、出撃は……」
それなのに提督はまだ尻込みしている。まさか大の大人がこんな簡単な “
「提督。遠征だけで出撃しないのは何故なのか、私に教えてください」
なんて聞き出そうか迷っていたら大淀さんからの援護射撃が飛んできた。大淀さんの言葉を聞いた提督が逃げ場を探すように泳ぎ始め、俺を捉えて停止した。
おっ、俺に目を付けるとは……なかなか見る目が無いな。
目を逸らす。残念だけど、俺も出撃しない理由知りたいんだよね。
「私は……艦娘達が傷付くのが怖い。ミス一つで誰かが居なくなってしまうのが怖い……」
「提督……」
「……」
は? 呆れた……
そう考えると腹が立ってきたな……。
「提督、そんなことを恐れていたら艦娘の代わりに市民が傷付くだけですよ? それが怖くないなら他に何が怖いんですか? 無駄に死地に追い込む真似をしなきゃならない自分が怖いんですか? 命のやり取りをさせるのが怖いんですか?」
「違う……」
「ちょっと、スチュワートさん!?」
「遠征を何度も成功させてる皆を信じられないんですか? 誰も欠けることなく戻ってくるって信じられないんですか?」
「違う!」
「だったら信じて出撃させれば良いじゃないですか! 誰も欠けることなく戻せるように作戦を立てて指揮するのが提督、司令官の仕事でしょう? 初めてだから無理? 明らかにダメそうなら誰かは反対するし、ある程度の判断は現場で出来ますぅ! 神様でも無いんだったら期待して待ってればいいじゃないですか」
「……」
ヤッベ……イライラしてヤベェこと言っちまった……。
轟沈が怖くて出撃が出来ない提督。
V S
上司を煽る部下の風上にも置けない主人公。
※煽られた時に何も言い返さないと
主人公から提督の椅子を奪われる「空席に座る女王」√に入ります。
※煽られた時に逆ギレして、あることをすると
佐世保の二の舞「擬態した深海棲艦」√に入ります。