私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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74話です。

今回は頭を空っぽにして、画面から離れて、部屋を明るくして、現実から切り離してご覧いただくと、101%美味しくいただけます(適当)


見送る人達

 大鳳さんは嬉しそうにしてたし、俺としても今は大鳳さんは艤装に関わらせたくない。互いに利のある交渉になったと思う。俺が訓練に巻き込まれたことを除けばだが……大鳳さんが大体駆逐艦五人分の資材を吹き飛ばすことに比べたら安い物だ。

 

 そんなこんなで執務室に向かうと、声を掛けた人が集まっていて執務室の前で私! 私! って騒いでる。

 ……だからなんでそんなに漲ってんの? 出撃一つでやる気スイッチO Nとか羨ましい……俺にもやる気スイッチくれよ。

 

 え、初出撃だから張り切ってるだけ……? 冗談キツイぜ。出撃ならいつもしてるじゃないか。

 ……あ、違うわ。川内さんの無断出撃を除けば初出撃になるのか。そりゃあ自慢話になるからみんな行きたいよな。

 

「それじゃあ、メンバーを発表する」

 

 提督の声が、廊下まで響いてきた。

 

 

 

 

 

「やっと終わりましたね……」

 

 大淀さんが提督に労いの言葉を掛ける。やる気に満ち溢れた艦娘達の波が引いて静かになった執務室では、提督が打ち上げられたクラゲのように椅子の背もたれに体を預けていた。

 

「そうだね……これで良かったんだろう? スチュワート」

 

「まだ編成を組んだだけじゃないですか。出撃して無事に戻ってくるまで気は抜けませんよ……」

 

 出撃するのは旗艦を長良さんにした飛鷹さん、響、雷、曙、潮のA班。

 A班は大淀さんに色々と訊きながら考えたみたいで、素人の俺が無難じゃんって思うくらいにはそれっぽい編成だ。

 

 ……だが問題はB班は艦娘たちだ。

 旗艦(お頭)を摩耶さんにした、菊月()村雨さん(苦労人)江風(鉄砲玉A)長波(B)朝霜(C)のB班。

 艦娘たちの勢いに押されたらしく、適当に決めるとかふざけてんのか? って言いたくなる面子が集まった。……が、B班のメンツがあまりにもケンカ慣れしてそうな集団だったから放っておいた。あの人達だったら殺しても死なないと思うから大丈夫だろう。策が無い? だったら死ぬまで殴れば相手は倒れるだろうを地で行きそうで怖いんだよなぁ……頼りにはなるけど。

 

 「……何処の組のモンだ? うちのシマ(日本)で何してんだ? あ゛?」って感じで撃ち合いの前に睨み合いを始めそう……始めないよね? とにかく、常識のありそうな村雨さんを咄嗟にチョイスした大淀さんにはナイスと言いたい。村雨さんには南無三しておこう。生きて戻って来いよ……。

 

 

 

「……」

 

 そういえば今日の分の書類ってもう処理終わってんの? 資材云々から出撃するって流れにしちゃったから忘れてたんだけど。

 

「提督、机の上に書類が見当たりませんが……あ、あるならいいです。後はやっておきますので……大事なものだけ今の内に……」

 

 俺、今日まだ書類仕事してないんだよ。全部提督にやってもらうっていうのは俺が楽で良いけど、それだと提督(上司)に仕事を押し付けたって感じがして嫌だ。だから残りの書類は俺が頂く。

 

 だからその間提督は『艦これ』の提督(形容詞)な提督(名詞)みたいに艦娘とイチャコラしてればええねん。俺のことは放っておいてくれ。

 

「……提督、もうちょっと艦娘の皆さんとコミュニケーションを取ったらどうですか? それぞれの好き嫌い、得意不得意、のめり込む趣味、何が何処でどう繋がってくるか分かりませんよ?」

 

「……そうだな。善処しよう」

 

 分かってくれたようで何よりだ。

 だから俺は適当且つなんかそれっぽい理由で提督を執務室から追い払う為に、大淀さんには尊い犠牲になって貰う。

 

「でしたら、今日はこれから大淀さんと一緒に外でゆっくりするなんて如何ですか?」

 

「ふぇっ!?」

 

「こんな室内に引きこもってないで、偶には羽を伸ばして来たらどうですか?」

 

「……分かった」

 

「ええっ!?」

 

 俺の提案に乗った提督と困惑する大淀さん。

 おめでとう! 提督も了承してるし、実質デートじゃないか。

 何だよちょっと赤くなって~……満更でもないんだろ? ……ってなんでそんなに気を遣ってるような目を向けてくるん? 書類は俺が片付けておくから、二人は俺に構わず(デート)に行け!

 

 

 

 

 

 なんてやり取りをしてたら、外が俄かに騒がしくなっていることに気付いた。

 

「提督、出撃する艦隊を見送りに行きましょう」

 

 大淀さんが提案してくる。

 そういえば、佐世保の提督も出撃する艦隊は極力見送るようにしてたっけ……。やっぱりこういうことの積み重ねなんだろうな~。俺たちは正式な初出撃する艦隊を見送る為に外に出た。

 

 

 

 恐らく、遠征で居ない人を除けば全員集まったんじゃないだろうか。

 「土産話、期待してるわ!」「いや~……初出撃貰っちまって悪いね~」「不甲斐ない結果を残さないでよ?」なんて言い合ってたが、提督(と俺と大淀さん)が出てきたらしっかりと整列した。

 

「旗艦長良。以下六名、出撃します!」

「行ってきまーす!」

 

「旗艦摩耶。以下六人、出撃する!」

「おぉーっ!」

 

 A班とB班の旗艦がそれぞれ宣言して、大勢から見送られて出撃していった。

 

 

 

 出撃していったメンバーの影が小さくなるにつれて、見送りに来ていた艦娘達が一人、二人と寮に戻っていった。

 

「……行ってしまったな」

 

 隣に立っていた提督が呟く。

 

「行ってしまったって……何がです?」

 

「もう後戻りは出来ないよね?」

 

 ええい、この期に及んでまだ言うかこの提督は!

 

「まさか無策で出撃させたと?」

 

「そんなまさか! しっかり作戦も伝えたさ。初めてだから無理はせず、危なくなったら撤退するように言ってある」

 

 ふ~ん……「いのちだいじに」かよ……。物凄く無難な選択じゃん。

 

「だったらあとは待つだけ。違いますか?」

 

「いや……その通りだ」

 

 なんか提督って俺にあんまり反対しないな? せめてもうちょっと噛みつくって言うか……。従順なヤツって面白くないから好きじゃない。

 

「だったら、なんでそんなに不安そうに出撃してった人達を見てるんですか?」

 

「それは……もし帰ってこなかったら、申し訳なくて……」

 

「……だそうですよ? 大淀さん」

 

 面倒くさくなってきたから大淀さんに振る。俺のクソ雑魚コミュ力じゃあこの提督の相手は厳しかったみたいだ。

 なんだよもし帰ってこなかったらって……その為の作戦だろーがよ。しかも安全第一って言ったなら相当運が無かったか、偶々耳が聞こえなくて指示が聞こえなかったくらいじゃないとしっかり引き際を考えて行動してくれるって。俺とは違って軍艦だったんだから。プロやぞ、プロ。

 

 水平線に最早点も見えないくらい離れたメンバーを、見えないけど眺めてる。

 

それにしても……歯痒いなぁ……

 

「スチュワートもそう考えていたのか。人の事言えないじゃないか」

 

 あぁん!? 誰にも聞こえないように言った独り言を拾うとか地獄耳かよテメーはよぉ!

 

「私はその気になれば追い駆けることが出来るから尚更です……やりませんよ? 大本営命令ですから」

 

 精々クロールが限界の提督とは違うのだよ。魚より速く泳げる変態だって言うなら話は変わるけど、仮にそうだとしても深海棲艦に手も足も出ないだろ? どんなに頑張ってもイ級の噛みつきから一回庇うが限界だ。

 

「そうか……見送るだけって、辛いな……」

 

「全く。だからこんな思いをしなくても良いように、提督はしっかりと編成を組んで、作戦を立てる必要があるんです。さ、もう大淀さんも帰って誰も居ませんし……戻りましょうか」

 

「……あぁ」

 

 

 

 ―――それは、一人の提督にとって大きな一歩になる。

 




習うより慣れろ。
最初から上手く艦娘を運用できる提督は、周回してる超人か、世界辞書(wiki)を見てる超人だけ。
資材に困り、編成に悩み、羅針盤と猫に怯えながら艦娘を愛でるのが提督だ!(暴論)
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