望月が可愛いのが悪い。
だから私は悪くない。
イ級を煽りながら砲を熱くすることしばらく。
大きなハプニングも無くイ級の死体が三つ出来上がったから肩の力を抜く。
「三匹揃って香取さん未満とか……」
拍子抜けの良いところだ。深海棲艦に軍艦時代があったかは知らねーけど、もうちょっと誇りは無ぇのかよ!? 全力の香取さんが相手だったら今頃俺は
移動のスピードが速いのは良いんだけど動きがあまりにも直線的だ。あんなんじゃ避けてくださいって言ってるようなものだろ。
口の中に砲があることは知ってるし、狙われてるって分かってたら砲で弾くか避けるかのどっちかだ。単発の攻撃を俺に当てたかったらもっとエイム力を着けろ。もしくは三匹で偏差射撃をするとか、ノーモーションで撃つとかしてくれないと
久々に海の上に出て来たのは良いんだけど相手がこんなにお粗末だとあまりにも不完全燃焼だ。
痛いのは嫌だから攻撃力が高くなくて、こっちの攻撃が通らないとイライラするからそれなりに柔らかくて、余裕で勝てちゃうとつまらないから良い死合いになるような素晴らしい敵は居ないかなぁ……居ないんだろうなぁ。
「ハァ……」
「マジぃ? 凄ぉ……」
俺が溜息を吐いてたら望月が来ていた。穴だらけになったイ級を見てドン引きしている。
なぁ望月さんや……今見てるソレより、隣のやつはどう? お口に魚雷をポーンした時に良い感じな致命傷が付いた自信のある死体なんだけど興味な……さそうだな。
「艦娘だとは思わなかったよ……強いんだね~」
「……大本営の香取さんに扱かれましたから。望月もどうです? これくらいはすぐに出来るようになりますよ?」
「ん~……パスで。わざわざ一人で戦う意味が分からないよ」
艦娘であることを意外に思われ、驚かれなかった仕返しとばかりに怠け者の星に産まれた望月を香取さんの訓練地獄に叩きつけようとしたらパスされた。
一人で戦う意味? そんなの男のロマンが二割で自己満足が三割。後は十四歳から発症する不治の病が四割で、ボッチ故の残り一割。マルチプレイ? レイドバトル? 何それ美味しいの?
「あとその艤装……」
ヤベ……そういえば望月って睦月型じゃん。そりゃあ俺が睦月型の艤装付けてたら不審に思うか。
だけど追及されたらそれこそ面倒くさい事になるのは確定時に明らか。悪いがここは聴こえない振りをして逃げさせてもらおう。
「さ! 最前線まで突き進みますよ~!」
「え~……」
強引に望月の言葉を聞こえなかったことにして進み始める。
……までも無かった。
「ほら、
「えぇ~……あれぐらいならスチュワートだけで大丈夫でしょ。やる気がある人は戦果を挙げる。無い人は英気を養う。適材適所ってヤツだね~」
も、望月コイツぅ……出撃前にテキパキ行動してたのは何だったんだよ。
やって来たお代わりのイ級を血祭りに上げた後に望月に問い詰めたら「皆やる気なのに一人だけダラダラしてたらメンドいことになる」って言った。
「ホントは警備府で待機とかが良かったんだけど、大淀怖いし仕方ない仕方ない」
「だったら今から警備府に戻りますか?」
「それはそれでなんか
その通り。よく分かってるじゃないか。
「それじゃあ、私らはこの辺ですり抜けて来たのをやっちゃう担当だから」
そう言って遠くを指差す望月。確かに左右どちらにも小さいながら影が確認できた。
「ゆっくりしたいからさ~、この先で出会ったの全部ぶっ倒してきてよ」
宜しくね~なんて言って手をヒラヒラさせる望月と別れる。
個性と言うか、キャラが立ってると言うか……ああまでされると流石としか言えない。
世界滅亡のカウントダウンがあろうとも我関せずのスタンスで寝て過ごすタイプだな望月は。
結局そんなことを考えるくらいには深海棲艦と遭遇しないんだけど……。
「ん……」
影……誰だ? ……距離にしてはデカいから深海棲艦か。たった一匹なんて良いカモだぜ。
砲を構えて急接近。ウスノロな駆逐ハ級はそれに気づいた様子はない。
「ハッハー! ……は?」
砲を撃ちこんで笑ったのにピクリとも動かない。接近しても反応なかったときは察知能力がザルかと思ったけど、確認してみれば成る程ね。
「死んでるじゃねーか」
妖精さんが言うには、深海棲艦は死んだらそこらの生物とは比べ物にならないくらい早く腐敗していくんだそうだ。何故か肉は切り離したら普通? の肉になるってのに……やっぱり深海棲艦は不思議なことだらけだ。
それにしてもまだ死体が浮いてるってことは……
「さっきまでここで戦いがあった?」
今気づいたけど、少し離れたところに線を描くようにポツポツと肉片とか死体が浮いている。
視線の先には人影きは無いし、戦闘音も聞こえてこない。だったとしたらこの肉片とかを作り上げた犯人は一体……。
でも、ヘンゼルとグレーテルみたいに千切れた破片が目印になってるから、これを辿っていけばすぐに追いつけるだろう。
―――シュオォォォ……
「ん?」
何この……何回か聞いたことがあるガスバーナーみたいな、ガスコンロみたいな……周りには誰も居ないし、空にも……
「っ!? 痛っ!」
痛ってぇ!? 撃たれた!?
二の腕を抑えながら振り返る。と同時に独特な音が頭上を越えていったからもう一回前を向く。
―――シュオォォォ……
「アイツか……」
空に浮かぶ黒い点。羽ばたきが見えないから鳥ではない。そして鳥はあんなメカニックな移動音は出ない。
赤城さんとか大鳳さんの艦載機はブロブロ~ってちゃんとプロペラの音がする飛行機型の艦載機だから、この奇妙な音が艦載機だって気が付けなかった。
俺に撃って来たってことは深海棲艦の艦載機で間違いないだろう。そして俺が知ってる深海棲艦の空母は一種類。
「空母ヲ級……」
佐世保で夜戦の時に相手の中に居た筈だ。あの時は盾を持ってし、後ろに居た満潮に攻撃は任せたけど、今回は盾は攻撃に役に立たないからって置いてきたし、後ろにも誰も居ない。
どうする……一旦引き返すか、それとも艦載機を追いかけてヲ級本体を叩きに行くか……。
「おーい!」
「? あっ、は~い!」
遠くに人影を発見! 呼びかけて来たから味方! 声からして……長波か?
「こっちに来んなー! 逃げろー!」
その言葉に立ち止まる。俺が動かなくても味方 ――― 長波と朝霜がこっちに向かって来る。
ちょっ!? 朝霜、気ぃ失ってない? 大丈夫そうじゃないけど!?
「バッカお前! ……お前……って違う! 良いから逃げろ! “アイツ” が来る!」
「いやいやいや! どう考えても重傷者が優先! それで、“アイツ” って? 大鳳さんと祥鳳さん、川内さんは!?」
「その三人も沈んじゃいねぇが重軽傷だ! 二手に分かれて逃げ出たが “アイツ” はこっちに来た! アンタも逃げろ!」
だから逃げろじゃないんだよ! 長波も服ボロボロじゃん。朝霜連れてさっさと引き返すのはそっちだろうが。俺一人で食い止めるなりして二人が助かるなら単純計算二引く一でプラスになるじゃん。
だけど俺がそんな事を考えてる間にも長波は我慢できなくなってたみたいで……。
「あぁーもう! どうなっても知らねぇからな! 私らは警備府に戻るからな!」
そう言い残して去っていった。
長波たちがあんなに焦っていたってことは、空母ヲ級がきっとそれなりの距離に居る筈だ。
振り返って長波たちが来た方を見る。
「~♥」
良い笑顔の深海棲艦 ――― 戦艦レ級が居た。目線が俺に固定されている。
……空母ヲ級じゃなかったの!?
しっかり確認しないから……。
次回! 「スチュワート、死す」