私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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9話目です。

多少のガバは「ご都合主義」タグで何とかなると思ってます。


砲撃②

 この勝負は俺が勝つなんて思ったが果たしてどうだろうか。

 俺はイ級の標準的な強さが分からない。前回戦ったイ級が特別弱かったのかどうかの比較対象が今戦ってるコイツだから……もう少しサンプルが欲しい。

 全力で攻撃し続ければ倒せるんだろうけど、「あとどれくらいで倒せるか分からない」のは非常に大きなプレッシャーとして伸し掛かる。

 「1キロ先のゴールまで走ってください」と「この先にあるゴールまで走ってください」ではペース配分は大きく変わるだろう。

 艦娘歴たった6日な上に艦娘とも出会ってないからありとあらゆる基準が分からない。自分の速さや能力が他の艦娘に対してどれだけの優劣があるのかが分からない。

 

 やっぱり比較対象って大事だ。

 

「早く鎮守府に、他の艦娘に会いてぇな……」

 

 そんな呟きは避け切れないと判断したイ級の砲弾を腕の艤装で弾いた音で掻き消される。よく考えなくても砲弾が見えるって凄い事じゃない?

 

 有効打が無いことに痺れを切らしたのか当たらないと学習したのか、イ級が砲撃を止めて突進してくる。噛みつき同様サイズがサイズだから当たれば致命傷。無事に避けられたら大きな隙を狙えるだろうから当たる訳にはいかない。

 

「なろっ! 当たる訳にはっ、とぉ!」

 

 凄いスピードで突っ込んでくるイ級に対して離れようとするがなかなか距離が離せない。おいおいこっちは駆逐艦だぞ……あっちも駆逐艦だったな。

 さて焦るな焦るな、こんな時こそ平常心だ平常心。追うものと追われる者……あっそうだ。

 

「コーナーで差を付けろ!  フッ」

 

 急カーブをして停止した俺と大分遠くまで真っすぐ進んだイ級。ありがとうスポーツメーカー。

 このまま見えなくなるまで突っ込んでいって貰いたいがイ級は倒して腹の足しにしたい。毎日の貧相な食生活では満足できないんだ。

 

「ハハッどうした? こっちだぞポンコツ!」

 

 幼稚園児みたいな語彙力で煽る。ヤツに意味が理解出来るとは思えないしそもそも耳があるのかどうかすら怪しい。でもちゃんと反応しているようなので何とかなるだろう。

 

 

 もう一度距離が開いたことで再びイ級が砲撃をしてくる。……こいつって意外とバカなんじゃない?

 さて、砲の上手な使い方という妖精さんからの宿題に取り組もうか。

 

「でもぶっつけ本番かぁ。せめて六回くらいは練習させろよな」

 

 なんて言ってもここは戦場。練習なんてしてたらブチ抜かれるのは目に見えている。まぁ、失敗しても大きなリスクはないしやられるつもりなんて微塵も

 

「ないんだがな!」

 

 イ級の顔面目掛けて砲撃を一発撃ちこむ。そして魚雷も投げつける。そしてイ級の手前に砲弾を広げて三発撃込む。頼むから上手くいってくれよ~。

 

 イ級が吠える。どうやら運よく怯んでくれたみたいだ。目の近くにでも当たったかな?

 三発の砲弾は狙い通りの位置に飛んでいく。ここが運命の分かれ道!

 

 俺の作戦はこうだ。砲撃をするイ級の前に水柱を作る。これでイ級が怯まずに突っ込んできたら魚雷を四発、前回の3倍くれてやる。これで致命傷が与えられなければその時は詰みだ。逃げる。

 イ級が怯んだら水柱に隠れて側面へ移動。頭部よりも弱そうな側面に魚雷を当てる。死角に回って不意打ちだ!

 艦娘の機動力、その中でも駆逐艦という高い機動力を持っているのだからそれを活かすべきだ。

 という訳で動いて動いて動きまくる。相手の隙を見つけるんじゃなくて隙を作ってやればいいんだよな、というのが俺の頭から出てきた答えである。

 

 

 

 水柱が上がる。肝心のイ級は……

 

 来ない! プランA! 側面へ移動する!

 左側へ全速力で移動、気付かれては……ない。「喰らえ!」なんて叫んでは気付かれるから、とりあえず全力投球を

 

ツルッ……

 

「!?」

 

 すっぽ抜けた。うっそだろオイ。でもイ級の隙だって永遠じゃないんだからと、妖精さんからのアドバイスの通り右足で蹴りを入れる感覚で魚雷を発射。なんだよ投げなくても発射出来るじゃん。

 

「グオォーーーッ!」

 

 イ級の声が聞こえる。深海棲艦の言葉なんて分かる訳が無いので痛みか怒りか分からない。せめて痛みで泣いててほしい。

 

 その場で身じろぎしたイ級に対してこちらは回避に徹していたからほぼ無傷。でもずっと動いてたからクッソ疲れた。早く終わらせてゆっくりしたい。

 まだ動くイ級のタフさに溜息を吐く。やっぱり口から魚雷を食べさせるくらいしないと2発で倒せるなんてことはなかったようだ。身じろぎの隙が大きいから追撃の魚雷を放つ。大分攻撃のコツも掴めてきたぞ……

 

 

 

 ――大きな音が聞こえる。無事に魚雷が当たったようで、一際大きな水柱が収まったところにはイ級がまだ居た。しかし動く様子は……ない。倒せたようだ。

 前回のイ級戦と同様に呼吸は荒く肺ら辺と脇腹が痛い。だが違うのはそれ以外。俺は疲れたといえほぼ無傷なのだ。服も損傷していないし血も出ていない。この差はかなり大きいだろう。

 

「ヘッ、俺の勝ちぃ……どうよ妖精さん。言われた、通りに、上手な砲と魚雷の、使い方だろぉ?」

 

「思ってたのと違うけど勝ったんだから何とも言えないですぅ」

 

 妖精さんに評価を求めたらそんな返答が返って来た。どうやら百点満点の動きでは無かったらしい。まぁ、平和な日本の一般人が戦いの場でいきなり満点の動きが出来たらソイツはきっと生まれる時代か世界を間違えたヤツだろう。

 

 何が違うのか気になって訊いてみたところ「魚雷はまあまあですが、砲の使い方は全然ですぅ」と言われて気が付いた。確かに砲としての使い方じゃないなあれは。

 

「狙いやすさに焦点を当てるべきでしたねぇ。一度攻撃した傷を狙うだとか眼とか口の中とか、弱そうな部分を狙うとか……次からは意識してくださいね~」

 

「ウッス」

 

 ホントに分かってるんですかぁ? なんて声が聞こえるけど、分かったからこそあれで正解だと思ってた自分が恥ずかしくて何とも言えないというか何というか。

 それにしても次からは、ねぇ……戦いなんて無いに越したことはないと思うんだけどやらなきゃいけないときには反省を活かしつつ全力でやろう。まぁ、イ級に手古摺る俺の全力なんて高が知れてるだろうけど。

 

 荷物からナイフを取り出してイ級の体に突き立てる。持ってて良かったナイフ! 出港前に妖精さんに頼んだ俺の判断は間違っていなかった。せっかく倒したのに食べられないなんて無駄骨にならなくて良かった。

 イ級の頭部は固すぎて刃が入らなさそうだったので、足? っぽいところに刃を入れる。すると血にしてはちょっと色が薄いトロリとした液体が僅かに流れてきた。

 

「これホントに食べられんの?」

 

 嘘ついてんじゃないの? と妖精さんを軽く睨むと慌て始めた。様子が妙にコミカルで笑える。

 

「ちゃんと食べられますぅ。……食べてる人は少ないですけど」

 

 んん~? 最後の方になんて言った~? 食べてる人は少ないってそれはまさか「食べられる」だけでそれほど美味しくはないってやつ……? それってもしかしてゲテモノって呼ばれるヤツじゃないかな。

 

「騙された」

 

「あなたが勝手に突っ走ってっただけですぅ。私は美味しいなんて一言も言ってないですぅ」

 

 詐欺師のやり口じゃねーか!

 いや、確かに妖精さんの言うとおりだ。キレるのはお門違いだな、うん。腹いっぱい食べられるだけありがたいってことで納得しよう。

 あっ魚雷で抉れてる。勿体ないけどいいか。デカいし多少減っても問題ないでしょ。……それにしても白身か、さっきの赤い液体は怖いけど身の部分だけ見ると美味しそうには見えるんだよね。深海棲艦っていう先入観で大分減点されてるけど……

 

 

 

 ちょっと離れたところに島を見つけたので上陸して、さっそく人気のない場所でイ級を調理し始める。あって良かったフライパン!

 毛布代わりの布などの漂流物の中に混ざっていたペットボトルもちょっと海水で洗って布やら炭やら入れて濾過装置にした。自由研究も偶には役に立つ。

 ちょっと不安は残るけどこれで塩も水も手に入る。ペットボトルが都合よく漂っていたことを喜ぶべきか、ペットボトルが捨てられて漂っていることに不快感を抱けばいいのか微妙なところだけど、今俺は捨てた人のおかげで水が飲めるから喜ぼう。

 

 なんて現金なヤツだなぁなんて考えながらイ級の肉を刺身にしていく。

 出来上がり、さぁ食べようと思ったときに醤油が無いことに気が付いた。

 

 食べてみると、チョコとガムを同時に食べたみたいな吐き気を催すレベルで酷い食感と、鼻を抜けるような鉄臭さ。

 好き好んで食べようとは思えないけど、量があるから空腹だけは誤魔化せる。

 薬味で誤魔化さないと到底食べられそうにないけど、今は錆びた蛇口から出た水を噛んでると思う以外に俺に出来ることはなかった。

 




やっぱり戦闘描写って難しい……

イ級後期型の脚は白だから白身にしてみた。ちゃんと洗ってますのでご安心を。
実際味はどうなんでしょうね? 美味しそうには見えません。
主人公が喰ってる部位が特別不味かったのかもしれませんし、もしかしたらちゃんと食べられる技術が浸透してるかもしれません。

この妖精さんはそんな技術を知らないということにしておいてください。
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