私の名前は「      」   作:捻くれ餅

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93話です。

やったね叢雲! 妹が増えたよ!
……元から居た? 今まで来てなかっただけ?



綺麗な新人、汚い先輩

「……みんな揃ったみたいね。忘れ物は無い?」

 

 長良さんが班……艦隊のメンバーに確認を取る。

 

「はい、大丈夫です!」

 

「白雪も大丈夫です。また一緒だね、吹雪ちゃん、叢雲ちゃん

 

「……神風、荷物の確認は済ませたのかしら? 一度出撃したら終わるまで戻れないわよ」

 

うん……よしっ! いいわね。大丈夫よ!」

 

「……」

 

 叢雲が神風に持ち物の確認をさせているのを見て、吹雪と白雪が優しい顔をしている。しっかりしているとは言え妹が、更に小さい子供(神風)にアレコレと世話を焼いているのは微笑ましいものなのかもしれない。

 「あ~、懐かしいね~」なんて呟いた吹雪は確か……忘れ物をして叢雲から怒られたんだっけ?

 

「スチュワートさんが出撃するのは本当に違和感が凄いわ……」

 

 長良さんが俺に話しかけて来た。

 違和感が凄いだなんて酷い事言わないでよ……ボイコットすんぞ! ……しないけど。

 

「……そんなに変ですかねぇ?」

 

「……」

 

 無言で目を逸らされた。

 それってさ、もう答え言ってるよね? 泣いて良い?

 だけど、よく考えたら引きこもりが突然外に出てハッスルし始めるようなモンだよね? うん、俺なら眼科に直行するね。

 

「……酷い反応してくれますね。神風ちゃんと同じく、初めて遠征に出る只の駆逐艦ですよ? ……ここでは、ですけど

 

 そう。大本営から謹慎が解かれた俺は、晴れて遠征に出ることが出来るという訳だ。

 運動不足の概念があるかは分からないけどずっと出撃しないと流石に(なま)るだろうし、適度な運動は心の健康に繋がるらしいから健康志向の俺はジャンジャン外に出ていくつもりだ。

 

 大湊警備府に来た当初は一年なんてあっという間だぜ! なんて余裕こいてたけど、実際俺は一月でこんなに開放感を覚えるくらいには我慢していたらしい。

 

 それなのに長良さんときたら……俺が何をしたって言うんだ。

 

 よよよ……と大袈裟に泣くフリをする。

 

「長良さんが旗艦を務めるって提督に聞いたからここに居るのに……」

 

「えっ、そうなの!? ……どうして?」

 

 そりゃあもう。佐世保に居た頃に俺が唯一遠征に行った時の旗艦が長良さんだったから。

 あとは初雪と深雪を説得して、俺と神風をそこに入れて貰ったって訳だ。

 

「長良さんには安心して付いていけるからです」

 

「そう言っててくれるのは嬉しいんだけど……過剰評価だと思うよ」

 

「……まぁ、私が何回も出撃すれば違和感なんて無くなりますよ」

 

「そんなものかな……」

 

「そんなものです。……ほら、神風さんも準備出来てるみたいですし、行きませんか?」

 

「そうね。スチュワートさんの期待に応えられるように頑張らなくちゃね。みんな、出るよ!

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 こうして俺の二度目、警備府では初めての遠征が始まった。

 

 出撃直前では提督が見送りに来て、される側になったのが恥ずかしいってこともあって陰にコソコソ隠れたりした。俺に見送りなんて要らないから……。

 

 いざ海に出てから、艤装が必要最低限の俺に対して叢雲がアレコレ口を出してきたけど、深海棲艦が居ても交戦せずに逃げ切るっていう方向性を伝えたら納得してくれた。

 RPGじゃないんだし、深海棲艦をわざわざ倒す意味なんて……無い事はないけど、そういうのはちゃんと装備の整った状態でしたほうが安定すると思うね。

 

 今現在のルートは一日で戻ってこられるルートばかりらしい。いつも日を跨ぐ前にはみんな帰還してるしそうだろうとは思ったけど、日を跨ぐような遠征が増えると警備府の守りが浅くなってしまうっていう理由がある。

 資材の量だけに気を取られないことが大切だってよく分かる。

 

 

 目的地に着いた頃には神風が疲労困憊になって、暫くの休憩となった。建造されたばかりの艦娘ってこんな感じなの? って訊いたところ、こんな感じらしい。

 

 「思うように動かない時がある」「馴染んでない感じがある」と語ったのは吹雪と叢雲だ。

 ……俺は水に浮けるっていう人間としての感性でハイテンションになってたからよく分かんないな~……。でも、靴下でフローリングの上を滑る感覚で動こうとしたら多分転ぶ。……動きの最適化って言うの? 自然に、無意識的に変わってたりするんだなぁ……。

 

 

 

 

 

「スチュワートさん……これはその……本当に?」

 

「勿論です……非常に残念ですが」

 

 神風が顔を青くしながら俺に尋ねてくる。うんうん、初々しい反応じゃないか……どんなに善い人でも直ぐに嫌になって押し付けるようになるんだよねコレ。

 

 目の前には汚泥。曇り空をテロテロと乱反射させ、かつて黒潮と一緒に顔を歪めながらせっせとコレを掬い上げた記憶がある。俺ですら慣れていない燃料の材料。またコレを見ることになるとは……

 妖精さんには是非ともバイオ燃料で稼働する艤装を開発して欲しい……切実に。こんなのは只の拷問だよ……。

 

 長良さんは申し訳なさそうな顔をしつついち早く弾薬を入れる鞄を手に持っていたし、白雪も妙に圧のある微笑みで鋼材用の鞄を手に取っていた。

 吹雪は露骨に燃料担当を嫌がって、叢雲は「初めてだから」っていう理由で俺と神風に燃料を入れる用の鞄を押し付けて来た。そんなチームプレーは要らないんだよ……。

 

「……いきなりコレをやらせるとか、酷い先輩たちですね?」

 

「全くよ……」

 

 険のある表情を浮かべ、遠くで作業をしている人たちを見る神風。

 ……しょうがねぇなあ。神風は汚泥の中に入れたら服めっちゃ汚れそうだし、幸い、膝まである金属のブーツ? をしてる俺がいっちょやってやろうか。

 

オエッ……やっぱり臭いなぁ……

 

「スチュワートさん!?」

 

「まぁまぁ……先輩にも恰好つけさせてよ。次からは神風もやってね」

 

 腕を巻くって手袋を取り、汚泥がブーツの中に入らないようにしながら汚泥の中へ入っていく。

 案の定酷い匂いに苛まれつつ、ネバつき、ところどころプルプルしてるんじゃないかと思う汚泥を掬っては、鞄に入れていく。感触と臭いだけでもう吐きそうなんだけど……流石に神風の前では吐きたくない。黒潮だったら一緒に吐いてくれそうだったんだけど……。

 

「あっ! あぁ~……」

 

 ブーツの関節部。つまり足首のところから汚泥が侵入してきたのが分かってガン萎えした。

 だけど、そろそろ鞄が一杯になってきたから汚泥から上がる。撥ねたりして上にも付いてるけど……元から黒いから臭い以外ではバレ……絶対にバレる。全部押し付けた人たちが悪い。

 

「やらせてしまって御免なさい……次からはちゃんとやるわ」

 

「次からは燃料だけは絶対にやらないって言わないだけ全然マシですよ」

 

「……ところで、スコップを使わないのには理由があるの?」

 

「……あっ」

 

 天才はここに居た。

 

 

 

 

 ちょっと遅めの昼食となったが、あまりにも気持ち悪くなった俺に食欲なんてものは存在せず、恨みがましい目で神風以外を見ながら昼食を遠慮した。食べたら食べた分以上をリバースすること間違いなしだと判断したからだ。

 

 少し離れた場所で、中までガッツリ汚くなったブーツを脱いで海に入れて洗う。

 つま先までは手が届かなかったから、非常に残念なことに警備府に戻るまで我慢しなくちゃいけないことに気が付いてゲッソリした。

 

 帰りは駆逐イ級が現れ、これ幸いにと吹雪と叢雲をサポートにつけて神風に相手をさせた。

 午前中は旧型の~なんて言ってた割には全然動けてるし、やっぱり才能なのかねぇ……俺なんて最初はイ級相手に大ダメージ喰らってたんだぞ。

 

 

 

 警備府に戻った頃にはすっかり日が暮れて、辺りは真っ暗になっていた。

 俺たちの戻りを知らされたのか、提督と、今日の秘書艦である大潮&荒潮が隣に立っている。

 

 遠征が終了したことを長良さんが言って、解散になる。

 汚泥で汚いからさっさと落としてしまおうと思い、一目散に風呂へ直行する。提督が話しかけていたような気がするけど、何か用があるなら食堂とか、俺の部屋にでも来るだろう。

 

「誰も居ない……ヨシ!」

 

 珍しい事に風呂場には誰も居なかった。きっといい時間だからみんな食堂に行ったんだろう。長良さん達も警備府に着く前にお腹空いた~って言ってたし……僥倖だぜ。

 

 パパっと服を脱いで風呂場へ入る。

 

 そんな脱衣所の目立たないところに、一台のデジカメがあったことをこの時の俺は知らない。

 




まーた青葉だよ……
?????「死にたいらしいな」
次回、青葉死す!「またですか? 勘弁してくださいよ」

久々の遠征はダイジェストでお送りしました。
次回は演習を予定しています。
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