演習回……なんだけど……
演習が……始まらないッ!
「本日はにょろ……よろしくお願いします!」
久しぶりに佐世保に来た。
初めての演習がアウェーだということもあって、目の前で大ベテランの田代前提督に挨拶してる提督は緊張のあまりガチガチになって噛んでいた。
……分かるぜその気持ち。
俺は面白くて少しニヤついていた。
「ああ、こちらこそよろしく。……到着したばかりでいきなり演習を始めるのも
田代前提督が俺の方に視線を投げかけてくる。
「アイスブレイクですね」
「そう。アイスブレイクを挟もうか。後ろの子達も随分緊張してるみたいだし、悪くは無いと思うんだが……どうかな?」
「……そうしていただけると助かります」
提督が俺たちの方を振り返ってから答えた。俺の隣には、提督と同じくらいかそれ以上にカチカチになっている五人が居る。
田代前提督はエスパー染みた能力は観察力が~とか言ってたけど、隣の五人は俺が見ても丸わかりなくらい固まっている。千歳さんなんかは押したらそのまま倒れそうなんだけど……生きてる?
提督は緊張から、だけど、ここまで艦娘が固まるのは緊張……もあるだろうけど一番の理由は、田代前提督の背後に居る大量の艦娘。
遠征とか出撃で居ない面々も居るだろうにそれでも警備府よりもずっと多い。俺も前まで居たとはいえ。気圧されるなぁ……特に先頭で凄まじい圧! を発している長門さんには。
そんな険しい顔で俺をガン見しないで……。視線で死ぬ! 視線で死んじゃうから!
「そうだな……一時間もあれば、緊張も良い感じに解れるだろう」
「何から何までありがとうございます……」
「なに、困った時はお互い様だ。それでは、解散!
話が終わったらしい。提督達が神風と、旗風を連れて建物の中に入っていった。
残された艦娘達の方を向く。目があったら小さく手を振ってくれる人も居るけど、今日は演習。胸を借りるつもりだし、挨拶はしっかりしておこう。
「今日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
そう言って頭を下げる俺と、続く後ろの四人。
―――コツコツコツコツ
ん? 誰かが凄い速さで俺の方に歩いてくる……?
誰だろうと顔を上げようとした。……その時。
ゴッ……
「い゛っ!? ……あぇ?」
頭に強い衝撃を受けてヤバめの痛みを感じてから、急に視界が歪んで傾き始めだんだん視界が狭くなって……最後に視界が真っ暗になって意識も失った。
▼――――――――――
さっきからすっごい睨んでた佐世保の長門が、頭を下げたスチュワートの頭に握った拳を振り下ろした。
「ちょっ……!」
「痛い!」
隣の高雄が目を閉じて顔を背ける。
鈍い音が私のところまで聞こえてくる。痛そ~……思わず顔が歪む。
正面に居る佐世保の人達も、目を見開いて固まってたり、目を背けたり、瞑ったりしている。
「い゛っ!?」
そんな断末魔を上げて、ドサリ……と地面に倒れたスチュワート。
……はい?
突然の事で、脳が理解を拒んでいたみたい。落ち着いて~……うん。
挨拶をしたスチュワートが、いきなり思いっきり殴られた。
……。
「ち、ちょっと! アンタ何やって!?」
「こんの……馬鹿ものぉおおおお!」
「「ヒッ……」」
「お前があんな無茶をしたと聴いた時の私たちの気持ちが分かるか!? 胸が潰れそうな思いだったんだぞ! それなのにお前ときたら……偶々出撃したりして、一度も顔を合わせられなかったのは出向して居ないのを除けば私だけなんだぞ!?」
倒れたまま動かないスチュワートに向かって捲し立てる長門。
……しかもよく内容を聞いたら……ただの八つ当たりじゃない。
でも、ここまで言わせる何かをスチュワートは実際にやったことがある訳で……ちょっと気になるなぁ。
それはそうと……
「ちょっと! いきなり殴るなんてことはないじゃない!」
長門の行動はあまりにも非常識だ。
「うるさい……っ! ……申し訳ない。取り乱した」
「全くよ……それに、スチュワートはアンタの言葉、多分聞こえてないわよ」
倒れた時から動いてないスチュワートの近くに寄って、揺すってみたけどピクリともしない。
仕方が無いから医務室を借りなきゃ……あぁ、重た……くない?
「私が運んでいこう!」
「あっ、ちょっと!」
長門がスチュワートをヒョイと担いで、凄い勢いで去っていった……。
「……なんなのよ」
「夕張さんを連れてきました!」
「大丈夫ですか!?」
高雄と佐世保の大淀が、まだ状況に付いていけてない集団を掻き分けてやってきた。
「ごなんなさい! 通して~! あれ!? スーちゃんが居ない!?」
「……長門さんが持って行ったよ!」
「ええっ!? すれ違いとか……もぉ~っ!」
そして、嵐のように去っていった……
「スチュワートさんは、夕張さんに任せておけば大丈夫でしょう。……先程は長門さんが申し訳ない事をしました……。お許しください」
「いや、それは本人に言いなさいよ……」
多分スチュワートは「大丈夫大丈夫」とか言って笑って許すんだろうな~。提督には厳しいけど、私達艦娘には優しいって噂を聞いたし。
「……改めまして……本日の演習、よろしくお願いします」
「あっ……こちらこそ、よろしくお願いします」
大淀に挨拶をすると、ずいっと赤城が前に出て来た。
「お待ちしておりました。さぁ、緊張を解す為にも瑞鶴さん、一緒に弓道場に行きましょう」
そう言われて、背中を押される。
……なんて力なの!? 全然抵抗できない!
「ちょっと! 助け……」
このままではどうなるか分かったもんじゃない。
助けを求めようと残った三人の方を見ると……高雄は高雄型とお話してるし、千歳と千代田は見つからない。
……助けがない!
そう直感したけど、ドンドンと押されるだけだった。
「うふふ……こんなに抵抗しない瑞鶴さんは新鮮ね♪」
抵抗してるんだけど効果が無いの! 無抵抗じゃ……
「え……?」
……ちょっと!? 本当に弓道場に向かってるの!? 知らない場所で一人だけとか嫌だ! ちょっと!?
「さぁ、加賀さんも待ってますよ」
「え!? 嫌ーーーっ!」
▲――――――――――
……ん?
あれ、俺はいつの間に横になって……。
「ヤバい!?」
「うわぁっ!?」
何事!?
って夕張さんじゃん。久しぶりに見たぁ……。
「スチュワート!」
「!? お久しぶりです……長門さん? 何してるんですか?」
なんで頭下げてんの? 俺が工廠の医務室にテレポートしたことに関係が?
「本っ当に申し訳ない!」
「……は?」
聞けば例の一件の後、長門さんに会わなかったことが原因で長門さんが心配やら何やらを拗らせたらしく、俺を見た時に爆発したらしい。
俺にも非はあるみたいだったから、互いに謝ってこの話題を終わらせる。
気絶して、長門さんと話してる間にも時計はサボったりしてないらしかったので、演習に行くためにベッドから降りる。……うん、フラついたりはしない。健康だ。
「……それじゃあ、演習あるので行きますね」
「ああ、頑張れよ」
「演習終わったらまた来て! お喋りしよう!」
一応
「……」
……オモシレーこと思いついた。
「その時はその時で……こっちにも話のタネはありますよ。夕張お姉さん?」
「……!? ッ……」
俺の
多分鼻血か何かだろうけど……まぁ、そんなこともあるだろう。
工廠から出ていく。
後ろから「待って!」とか「夕張、貴様ァ!」とか聞こえるけど、俺は演習に行かなきゃいけないんだ!
「来たみたいよ、千歳お姉!」
「待ってたわ」
「お待たせしました……」
集合場所に向かうと、真っ先に千代田さんが気付いた。
警備府の面々が待ってたなんて言いながら出迎えてくれる。
瑞鶴さんは既にゲッソリしてるけど、大丈夫かよ……。
「……それで、お相手さんの方がどちらに?」
そう訊くと、気まずそうな顔をしながら全員が顔を逸らす。
……え? 嫌な予感しかしないんだけど……。
「えっと……あの人達なんだけど……」
言われて、指された方を見ると……。
「旗風、島風、千歳さん、千代田さん、鳥海さん、……加賀さん!?」
え? 何この無理ゲー。
それと、旗風も俺の方めっちゃ見てるし怖いんだけど?
千歳型が三分の一を占める演習が始まろうとしていた。
主人公 とくせい:いたずらごころ
姉の波動に目覚めた夕張。
ながもんの電波を受信した長門。
弓道場で ※自主規制※ た瑞鶴。
次こそ、演習回。