Fate/GrandOrder Lyric_of_Ruin 変種異聞帯 Ⅰ 千秋粛清強国 カン ―連理の鳳凰― 作:タナトス・ルイ
例えば、それはもう一人の自分への挑戦 『連理の鳳凰』。
例えば、それは宿命の相手との共闘 『Army Of Grand Admiral』。
例えば、それは自身が生み出した者との対決 『Strange The Tale of Genji』。
例えば、それは愛する者との望まぬ再会 『Winged Prince』。
人理焼却とも人理編纂とも異なる物語。異星の神が遺した夢幻と絶望と退廃に満ちた最初の謎をご堪能あれ。
「ほら! こいつとっととこっちへ来い!」
そう兵士が強引に連れてきたのは一人の女だった。
女の容姿には覇気がなくまるで屍の様だった。それ以上に目立ったのは女の見た目だった。髪の毛は一本もなく身体中に痛々しい痣や傷刻まれていた。女は生気を失った瞳を正面に向けた。その瞬間彼女の表情は無から驚愕へ、そして恐怖へと変わっていった。
女は衰弱しきった唇を震わせながら開いた。
「な、なぜあなた様が・・・」
そう彼女が尋ねたのは彼女の正面で玉座に座している一人の女だった。
玉座の女はその問いに答えず、目の前の彼女に冷たく言い放った。
「戚夫人。貴様の罪科は枚挙にいとまがない。皇帝である高祖様を身体を使い篭絡しようとしただけではなく、側室の分際で皇位継承に口を出しこの国を混乱させようとした。それだけでも十分に死罪に値する罪だ」
戚夫人と呼ばれた女はかすれた声を震わせながら叫んだ。
「―――様! どうか、目を覚ましてください・・・。あの方はもう・・・」
そんな彼女の嘆願にも玉座の女は耳を貸さず、ただ彼女を嗤った。
「フフフ・・・。そうだな、お前の罪を考えればこのまま殺すというのはあまりにも口惜しい。貴様のような淫売に最もふさわしい死を与えてやろう。」
彼女はそう言いながら、兵士たちに目を向け冷たくそして再び口を開いた。
「貴様たち、その者の喉を潰せ、舌を引っこ抜け! 目を抉って耳と鼻をそぎ落とせ! いやそれだけじゃ済まぬ、手も足もすべて切り落とせ!其奴はもう人じゃない人豚じゃ。すべてが終わったらふさわしい場所に捨てておけ!」
その言葉に戚夫人は絶望の表情を浮かべた。
「お、お待ちくだ―――ムグッ」
戚夫人は玉座の女に何かを言おうとしたがその口は兵士によって塞がれた。
「貴様の弁明など聞く気はない。とっととこの部屋から追い出せ!」
玉座の女の命令を兵士たちは淡々と行動し戚夫人は速やかに部屋から追い出されていった。
「ククク・・・。ついに叶った忌々しいあの女をこの手でついに・・・。これでこの国は私が願ったとおりの理想郷となる!」
そう玉座に座して笑う女は左側に視線を移した。そこには六体の人影があった。
「なあそう思わぬか。我が従者たちよ・・・。其方たちには今まで色々と世話になった。礼を言おう」
その言葉に六体の影の中の中央に立つ男が恭しく頭を下げた。
「ありがたきお言葉」
「ついては其方たちには特別に望むものを与えようと思うのだが、何を欲する?」
すると男は返した。
「我らは陛下に召喚されただけの存在。そのようなものは不必要でございます」
その言葉に満足したように玉座の女は笑った。
「そうか、そうか。お前らしい言葉よな、夏侯嬰よ」
「滅相もありません。陛下、いや呂后様!」
街の片隅にある小さな家。一見何の変哲もない家、そこに一人の男が入って行った。頭から布をかぶってその顔を見ることはできなかったが背の高い男であることだけは良く分かった。
男が部屋の中に入ると、粗末な卓の前に一人の女性が座っていた。
「お待たせいたしました。我が主」
「お疲れ様です。それで王宮の方はどうなっていますか?」
「ええ、市井の方々の風評はこの際除去して、王宮に仕えている者たちからの情報をお伝えいたしましょう」
「その言い方からすると何か動きがあったようですね?」
「はい。どうやら先帝である高祖の側室であった戚夫人が処刑されたそうです」
その言葉に女は眉をひそめた。
「そうですか・・・」
「それも非常に残酷な方法でとのこと・・・」
その報告に女性は静かに溜息をついた。
「急がなければ・・・もはや猶予はほとんど残っていない・・・でも手勢が足りない・・・」
「それについては心配はありません」
男の言葉に彼女は不意を突かれた表情を見せた。
「どういう意味」
「私の軍師としての勘が言っているのですよ。遥か彼方から我らの力となる者たちが来訪するとね」
「?まあそれがどうなるかはわからないけど、とにかく私たちでやることはやりましょう」「そうですね。私は貴女と契約した身、どこまでも従いましょう。我が主、呂雉殿」
そう男は言い終えると部屋から出て行った。 そして残された女は天を仰ぎながらこう呟いた。
「私はもう一人の私を殺さなければならない。これは私に課せられた使命なのだ」
カルデアのその日はいつも通りにやってきた。異聞帯への旅が終わり再びカルデアへと戻った彼らはカルデアの再建に追われていた。前回の時とは比べ物にならないほど消耗した設備や人員の回復のために戻ってきたスタッフたちはあくせく働いていた。それはのカルデアにおいてただ一人のマスターである藤丸立香も同様だった。もっとも魔術師として未熟である彼女にとってできることといえば限られているのだが・・・。
「ふぅ、なんとか片付いたなぁ、しばらく人がいないとこんな風になっちゃうんだね。マシュ、そっちはどう」
「はい、先輩! こちらもかなり片付きました、あとは各部屋の整理だけという感じでしょうか・・・」
「じゃあ、休憩してからにしよう。もうくたくただよ・・・」
「わかりました。じゃあお茶にでもしましょうか?」
「そうだねぇ。マシュの淹れてくれるお茶はいつでも美味しいから疲れなんて吹っ飛んじゃうもんね」
「そ、そんなこと。じゃ、じゃあ準備してきます」
マシュが部屋から出て行って一人になった立香はゆっくりと側に会った椅子に座って天を仰いだ。
「ふう、色々あったけどやっぱりここが一番落ち着くなぁ なんか我が家に戻って来たって感じで・・・」
「いつからカルデアが君の実家になったんだね?」
ふいに聞こえたその声に思わず振り返るとそこには一人の恰幅の良い男が立っていた。
「所長、驚かせないでください」
「ふん、別に驚かせるつもりはなかったぞ」
ゴルドルフ・ムジークはそう言いながら近くに会った椅子を引き寄せて座った。
「だいぶ片付いたようだな」
「ええ、まあ。所長こそなんでわざわざこんな所へ?」
「私はここの所長だぞ。カルデア内の復旧状況を見ることも重要な仕事だ」
「とか言って本当はサボりたかっただけじゃないですか?」
「馬鹿者! そんなわけあるか! まあ、なんだ君に話さなきゃならないこともできて探していたというのもあるんだがね・・・」
ゴルドルフがそう口ごもった。
「話さなければならないこと?」
「そうだ、いくつかあるが良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞くか?」
「じゃあ悪い知らせからお願いできますか?」
「君がそういうのなら、じゃあそれからいくか。君にはまだしばらく、長くなるかもしれないがカルデア唯一のマスターとしていてもらうことになるだろう」
「? 何でですか? 確かマスター適正者たちを数名戻すということになっていたじゃないですか?」
「クリプターだよ」
「!」
「カルデアにおいて本来中心的な役割を果たすはずだったAチームのメンバーがああいったことを企てていたということが明らかになった以上、彼らに共鳴する可能性のある人間がいるかもしれないということで君を除く40人のマスター適正者たちは厳しい事情聴取と再教育プログラム送りになるそうだ。こちらが止めても連中は聞く耳を持たなかった。そういう訳で君にはまだ当分の間カルデア唯一のマスターでいてもらうことになる。申し訳ないことだがね」
ゴルドルフはすまなそうな顔をしながらそう言った。
「わかりました。それでいい知らせの方は?」
「ああそれは―――」
ゴルドルフがそれを言おうとした時だった。突然警報音が響いた。
「な、何?」
立花がそう言うと部屋の扉が開いた。
「先輩! あっ、所長もいらしたんですか」
「何があったんだね?」
「どうやらカルデアスが異常を検知したみたいで・・・すぐに管制室へ」
「わかった!」
立香とマシュ、ゴルドルフは中央管制室へと急いだ。
三人がつくと職員たちが慌ただしく動いていた。
「シオンさん!」
立香は険しい顔をして画面を見つめるシオン・エルトナム・ソカリスへ声をかけた。
「立香、マシュ、それに所長!」
「いったい何があったんだね?」
「どうやら、新しい異聞帯が検出されたようなんです」
「異聞帯が検出って、まさか・・・また・・・」
「いいえ、クリプター的な存在は確認されていません。ただまだ育ってはいませんが空想樹らしきものを検出しました、恐らくは残滓かと・・・、いわば変種異聞帯というところでしょうか」
「変種・・・」
「このまま放置すれば異聞帯として完成してしまいます。そうなってからでは・・・もう・・・」
「つまり今までのように潜入して異聞帯を滅ぼせと・・・」
「そういうことになるわね」
「場所は何処なんだね?」
「はい、場所は中国です。特に強い反応を示しているのは中国の中部、現在の西安、旧名で言えば長安の辺りです」
「時代は?」
「ええっと、紀元前194年です。汎人類史においてはその一年前に前漢の初代皇帝劉邦が死去し恵帝の治世となっている時代です」
「なるほど、わかった。カルデアの所長として命じる藤丸立香、マシュ・キリエライト、私たちはボーダーで中国変種異聞帯へと向かう至急準備をし給え」
「「はい!」」
こうして再び、異聞帯への旅が始まった。しかしこれはしばしの別れの前の4篇の断章の始まりに過ぎなかったのだ。