Fate/GrandOrder Lyric_of_Ruin 変種異聞帯 Ⅰ 千秋粛清強国 カン ―連理の鳳凰― 作:タナトス・ルイ
今回と次回で大体のサーヴァントが登場すると思います。
カルデア側のサーヴァントは自分の趣味が入ってます。
シャドウボーダーから降り立った立香たちは周囲を見回した。
「ここが目的地ですか?」
その問いに答えたのはカルデアのスタッフであるシルビアだった。
「ええ、間違いないわ。そこは紀元前194年の長安。正確にはその外れだけどね。汎人類史的に言えば洛陽と並ぶ中国最大の国際都市となる場所で日本の京都も長安の都市計画に倣って構築されたと言われているわ。まあ、この時代はできたばかりで発展途上といった感じだけどね」
「そうなんですか・・・」
「あんまり大都市になる感じがしないよね」
立香とマシュがそんなやり取りをしていると後ろから声がした。
「ちょっと、いつまでもそこに突っ立っててもらっても迷惑なんだけど。どいてもらえる?」
「す、すみません。虞美人さん・・・」
シャドウボーダーから降り立った虞美人は辺りを見回して嫌な笑みをこぼした。
「フン、項羽様を裏切った男が建てた街だというからどれほどのものかと思ったらやっぱり庶民ね。みすぼらしいったらありゃしない」
そう言いながら劉邦への悪口をつらつらと口にする虞美人を尻目にマシュは立香にこっそりと声をかける。
「先輩。なんでわざわざ虞美人さんを連れて来られたんですか?」
「うーん。まあガイド役みたいな感じかなぁ。時代的には大体似たようなものだし」
「よく、自分たちを死に追いやった人の国に行くことを了承しましたね」
「ああそれは・・・」
そう言い淀んだ立香はカルデアでの彼女とのやり取りを思い出していた
「はぁ! なんで私があの忌々しい劉邦の国になんていかなきゃならないのよ! お断りよ、お断り!」
「でも、先輩はあの時代の方なので詳しいかなぁって」
「そりゃあ、あんたよりは詳しいわよ。だからなおさらよ、そんなガイドみたいなことできるはずないじゃない!」
「そうですか。まあ先輩が嫌ならばいいですよ。こちらとしてはもう一人の方に声をかけてみますから」
「えっ!?」
「その方、以前から自分の死んだあとどんな国になったのかを非常に気にしていましたし、結構あっさり了承してくれそうですから。すみませんね、嫌なこと頼んじゃって」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたが頼もうとしている相手ってまさか・・・」
「はい、項羽さんですよ」
「じょ、冗談じゃないわ! 項羽様を劉邦の国になんて行かせられるわけないじゃない! そんなことなら私が行くわ! その代り項羽様を連れて行くのはナシだからね!」
「いいんですか?」
「そんなことが・・・」
「予想以上に怒っちゃって、それでまあこういう場所なら項羽さんよりあの人の方が目立ちにくいしいいかなって」
立香はそう笑いながら言った。
「先輩、もしかして虞美人さんを誘い出すために項羽さんをダシに使ったんじゃ・・・」
ジト目で見つめるマシュに立香は引きつった笑みを見せながら
「まぁ、そうともいうかなぁ」
とお茶を濁した。
「ミセス虞美人、もう少し静かにしていただけないでしょうか。一応敵陣ですし・・・」
そう言って白銀の騎士が虞美人を窘めた。
「あんたに言われなくたって分かってるわよ、ベディヴィエール。ちょっと言いたくなっただけよ」
ベディヴィエールは肩をすくめて困ったような顔をした。
「ベディの言う通りよ虞美人! でも、不思議ね、私がいた時と同じように感じる・・・」
「えっ、三蔵ちゃんがいた時代とは何百年も違うのに?」
「うん、でも気のせいね。やっぱり地味かも」
「そうですね。キャメロットも最初はこのような物でした。何事も始まりとはそういうものなのかもしれませんね」
そんなやり取りをしていると、シャドウボーダー経由でカルデアから通信が入った。
『君たち、感傷に浸るのもいいが、あくまで君たちの目的は異聞帯の除去であることを忘れちゃ駄目だよぉ』
「もちろんわかってますよモリアーティ教授」
『マスター、いささか奇妙なことを感じるのだがいいかな?』
「うん、何?」
『こちらの手元には汎人類史における同時代の長安の地図があるんだ。それによるとその時代の長安は非常にいびつな形をしている。しかし、観測結果によるとそちらの長安の中心部は非常に整然とした街並みになっている。これはのちの隋代・唐代の街並みだ。ちょうどそちらのミス三蔵の時代くらいのね』
そのモリアーティの言葉をゴルドルフが遮った。
「つまり、時代的にあわないということだね」
『まあそういうことだね。もちろん異聞帯という特殊な状況だということは理解しているが少し気になってね』
「やはり時間的な物がねじれているということでしょうか?」
「わからない。まだ来たばかりで情報不足だし、色々調べていくしかないと思う」
マシュと立香が話しているとシャドウボーダー内からゴルドルフが声をかけた。
「そろそろ安定した霊脈のある場所をみつけねばならん、一度戻ってくれ」
その声かけに応じて外に出ていたメンバーは再びシャドウボーダーへと戻りはじめた。
その時、玄奘三蔵は不意に後ろを振り返ったのに立香は気がついた。
「どうかしたの三蔵ちゃん?」
「いや、誰かに見られている気がして・・・」
「誰もいる感じはないけど・・・」
「うん・・・。だから多分気のせいだと思う・・・ごめんね変なこと言っちゃって。さあ早く戻ろう!」
しかしながらこの玄奘三蔵の感じた違和感は決して勘違いではなかった。確かにそこに、いたのだ。
シャドウボーダー内のメンバーはカルデアと交信をしながら今までの状況確認とこれからのことを話し合っていた。
「こちら側のメンバーはマスターの立香、それにマシュとサーヴァントの虞美人とべディヴィエール、それに玄奘三蔵、そしてゴルドルフ所長にシルビアさん、そして私ことシオンにキャプテンよ」
『カルデアの方は私と数名のスタッフ、それに何名か私の方がチョイスした頼りになるサーヴァント、全力でサポートさせてもらうよ』
「何名かのサーヴァントって?」
『まあそれは見てのお楽しみってところだ、皆それなりに気まぐれなもんでね・・・。少なくとも君たちの足を引っ張るようなメンバーじゃないからそこは心配しないでくれたまえ』
「ふん、あのモリアーティのいうことだ。半分怪しいがな」
『おやおや、ミスターゴルドルフ。もう少し信用してもらってもいいんじゃないかね? 一応私もカルデアの臨時顧問だよ。所長である君やマスターを窮地に追いやるようなことはしないさ』
「信じてますよ教授。バックアップお願いします」
『マスターにそう言ってもらえるとこちらもありがたいよ』
そんなやり取りをしているとシャドウボーダーはゆっくりと止まった。
「どうやら良い霊脈をみつけたようね」
「そういうことなら少し外に出てもいいかね? さっきあんまり外に出れなくてね」
そう言ってゴルドルフはゆっくりと外へ出ようとしたときだった。
通信機越しからモリアーティの柄にもない焦った声が聞こえた。
『よせ所長! 危ない!』
ゴルドルフは何を言われているのかわからなかった。しかし、その直後風を切る音と何かが耳の側を横切る感覚を受けた。不意に横を見るとそこには大ぶりな金属が刺さっていた。
「ひぃ!」
「こ、これは・・・」
「縄とかを固定するときに使う奴に似てる。でももっと大きい、武器みたい」
「三蔵、そんな分析はどうでもいい! 誰だ,いったい誰が投げた!」
ゴルドルフのそんなことを嘆いているとシオンが焦りながら声を上げた。
「近くに魔力反応多数、エネミーよ!」
『どうやら、さっそくお出ましのようだね。マスターどうするんだい?』
「決まってるでしょ! 所長良いですよね?」
「あ、ああ。もちろんだ、こんな所で殺されたらかなわん」
「マシュ、みんな、戦闘準備」
「はい、先輩!」
「仕方ないわね」
「お任せを!」
「任せて!」
シャドウボーダーの周りを取り囲んでいたのは黒い頭巾をかぶった人間のような存在だった。しかも着ている服は和服に見えた。それをみた立香はそんな事をしている場合ではないのはわかっていたが思わず口走ってしまった。
「忍者?」
その言葉にシオンが同意する。
「ええ、以前ある資料で見た日本の忍者によく似ているわね」
「なんで紀元前の中国に日本の忍者がいるんだ!」
「それは私にも・・・」
シオンとゴルドルフのやり取りを尻目に立香は戦闘に集中していた。
敵の数はそれほどでもないようだが。暗闇だ黒い服のせいもあって相手が見づらい。よく目を凝らしながら指示を与えていた。
それから十分くらいが経過して、 数は少しずつだが減り始めたがまだまだ多かった。
「先輩、まったく数が減りません!」
「ちょっと後輩、どうするのよこのままじゃ埒が明かないわ!」
四騎のサーヴァントだけではあまりにも数が多かった。考えあぐねていた立香だったがそんなとき不意に声が聞こえた。
「お困りのようですね? よろしければお力になりますよ。というか助けます!」
「えっ?」
そこに立っていたのは少女だった目は大きくスラっとしたところが印象的だった。髪は白銀で月光に照らされて一層輝いていた。
「汝、貴婦人のとなる相ありて『月下氷人《ユーシャンビンレン》』」
少女がそう唱えると周りの敵が倒れていった。
全員が呆気にとられていると、シオンからの通信が入った。
「立香。そこに誰かいる?」
「ええ、いますよ。女の子が一人」
「彼女から強い魔力反応を感じるわ。彼女はサーヴァントよ」
「えっ?」
立香が彼女の方を見ると彼女が微笑んだ
「そうか、貴女たちが彼が言っていた遥か彼方から来る助けなのですね?」
「はい?」
そのやり取りに割って入ったのはカルデアにいるモリアーティ教授だった。
『お取込み中だったかな? どうやら、現地のサーヴァントと出会えたようだね?』
「教授!」
「あら不思議な術を使うのね? 姿は見えないけど声は聞こえるわ」
「モリアーティ教授、どうしたんですか? いきなり」
『ああ済まないね。こちらもサポートのサーヴァントが来たから報告をと思ったらそういうことになっていたものでね・・・』
「サポート?」
『そのような呆けた返事をする出ない。汝はいずれ朕と覇を争う者なるぞ』
「っ始皇帝!」
『驚いたかね、君がミセス虞美人を選んだようにこちらもなるべく近い時代のサーヴァントをとおもってねそれで彼にしたんだ。断られるかと思ったが案外前向きな返事をもらってね』
『朕は単に後の世がどうなったかを知りたかったからな。それでこの者の提案に乗ったまでのことだ』
「そうだったんですね・・・。先輩とモリアーティ教授、似たようなこと考えていたんですね」
「マシュ、なんか言い方に棘がない?」
『まあそれはそうと、そちらの娘』
「私のことかしら?」
『そうじゃ。其方からは呂不韋と同じ波長を感じる。もしや呂の一族の者か?』
そう言うと、彼女は驚いたような表情を浮かべた。
「ええ、まさしくその通りです。私の真名は『呂雉』、そちらの方の言う通り呂氏の者です」