「おじいさんが、ここのマスター?」
「おじいちゃんは……。今は父が、ここのマスターです」
「あっ……。ごめんなさい」
「いえ、気にしないでください」
あまり変わらない表情の中に少しだけ悲しい色を見た気がして、すぐに謝った。
今の一言は、まずかったな。
気まずい雰囲気が流れようとした。けれどそこへ、場を取り持つように青山さんが口を開いてくれた。
「マスターは白いお髭を生やした、すごくダンディーな方だったんですよ」
「……! 青山さん、ご存じなんですか?」
「ええ。私が学生の頃、よく小説を読んでもらっていました。読み終わった後一言だけ、照れくさそうに感想を言うお姿がとてもチャーミングな方でした」
「へええ……」
青山さんの目が遠くを見て、懐かしがっている。慕われていたんだなぁ。
「会ってみたいなぁ。私も」
「大丈夫です~! 今でも時々、マスターのお声が聞こえますから!」
……自信たっぷりに言ってるけど、それって!
カランカラン。
扉を開く音が急に聞こえて振り向くと、二人の女の子が立っていた。
「やっほーチノ!」
「遊びに来たよ~!」
元気に右手を掲げる、青い髪の少女。最初の声は、こちらからみたい。
もう一人。赤くて長い髪を下側でツインにまとめた、ふわりとした雰囲気の女の子。こちらは、左手を胸の前で小さくひらひら動かしている。
「マヤさん、メグさん」
「おっ。揃ったかチマメ隊」
「リゼ―。お腹すいちゃった。何か食べさせてー」
「いきなりたかるなー!」
「青山さんこんにちはー」
「こんにちはです~」
笑顔の眩しい二人が加わって、私がいるテーブルは一気に賑やかさを増した。
紫色のツインテールが可愛く揺れるリゼさんへぴょこんと近づくマヤと呼ばれた彼女は、メグちゃんよりも背が小さいけれど元気な子みたい。
肩にかかるほどの髪が頭を可愛く包み込んで膨らんでいる。その繊細な髪の毛も、彼女が動く度に連れだって跳ねた。
そんな彼女の後ろから静かに歩いてきたメグちゃんは、私の目の前に座る青山さんへ挨拶をした。
丁寧に頭を下げて挨拶を終えるメグちゃんの印象は、大人しくてマイペース。はしゃぐマヤちゃんの隣にいるせいで、彼女の持つリズムがくっきりと浮かんで見えてくる。
ここに来て、私は、彼女達二人の着ている制服が同じであることにようやく気が付いた。
白いベレーに青いリボンをくるっと巻いたような帽子に、同じく白を基調としたセーラー服がペアになっている。
その中でも目を引くのは、胸元から降りる深い青色のネクタイと、品よく足元を落ち着かせる真っ白いスカートだった。
膨らみをたたえる布から下、彼女たちの幼くとも元気な両足が見える。
彼女達が身に着けるホワイトソックスと小さな茶色い革靴も手伝って、清楚さを全身に行き渡らせていた。
その姿は見る者すべてに小さな天使か純白の妖精を思い起こさせる。可愛い制服だった。
「あれー? 新人さん?」
「こらっ! お客様だぞ!」
「あっ、いいんですよ! こんにちは。えーっと、マヤ、さん」
「マヤでいいよ! 条河 麻耶っていうの! よろしくね!」
「あ、あの……」
「あ、こんにちは! えーっと、メグ、ちゃん……?」
「は、はい! 奈津 恵です! よ、よろしくおねがいしますー!」
からっと受け応えるマヤちゃんに、必死で頭を下げてくるメグちゃん。
うん。インパクトある。覚えやすい。
「あれー? ココアは?」
「ココアさんは、遅刻中です」
「しょうがないやつだよな~」
「じゃあ人手足りない!? 手伝ってあげよーか!」
「あ、私も~」
「いえ、大丈夫ですから。座っていて下さい」
「ちぇー! メグ、アイスココア飲もっ!」
「さんせーい! アイスココア~!」
「しょーがないな。ちょっと待ってろ」
「あ、リゼさん、私にも、アイスココアを~」
「青山さんはキリマンジャロを飲んでからにしてください」
チノちゃんの冷静なツッコミが冴え渡った瞬間、私のテーブルを中心に大きな花が咲いて。
それはそれは大きな花びらが、落ち着くこの部屋を一層明るくした。