「どうぞ、なにかおっしゃってください」
「は、はぁ……」
困惑する私の目の前に、これでもかという程微笑みをたたえた青山さんが立っている。
「えーっとぉ……」
「はい」
「そのぉ……」
「ええ」
「…………ん」
「………………ん?」
沈黙に耐え切れず漏れ出てしまった一言にさえも丁寧に反応してくれる始末。
ああー! どうしよー!
「完全に固まっちゃったねー」
「布衣さんには荷が重過ぎたのかもしれません」
「ありゃりゃ。二人とも見つめ合っちゃって全然動かないや」
後ろから見守る三人の声が聞こえてくる。本当に動けない。
「あの、やっぱり、私では、お話ししづらいですか?」
「あ! いや、えーっとですね! そんなことはなくて! つまり、その!」
「ああー。青山さんがネガティブになっちゃったよー」
「困りましたね」
「ブルー青山ブルーマウンテンの誕生だ!」
「もう何がなんだかわからないな」
ええい! もう何でもいいから何か話そう!
「あ、あの! 実はですね、私大学生でして。就職活動を控えているんですが、その、何をしたいのかが全くわからなくてですね!」
「あらー。そうでしたか」
「で、その、あの、どうしたら自分が納得できる道に進めるかなー、という風に考えに考えていたら疲れ果ててしまって、ふとした拍子に旅行へ飛び出して考えを練り直してみたいと思いまして、気づいたらこの街に来ておりましてですね……」
「いいですね~! どうにもならない状況をなんとか打開しようとする、その若さゆえの衝動! とてもまぶしいです~!」
「青山さんが目を細めてるよ~」
「すごく眩しそうです」
「青ブルマはいつだって衝動的に動いてる気がするよ?」
「作家なんだ。そういうものなんだろう」
「あの、こんな私は、どうしたら自分の道が見えるようになるのでしょうか!?」
「なるほど……。これは回答のしがいがありそうですね」
「青山さんが袖をまくったよ!」
「やる気に満ちてます」
「頑張れ青ブルマ~!」
「マヤ! その略し方はダメだってこの前言っただろ!」
一通り自分の気持ちを何とか声に出した私は、静かに内面へ耽る青山さんの顔をじっと見つめた。
ふらりと立ち寄ったこのお店で思いがけない展開だけど、きっと小説家という職業に就くくらいのこの人なら、不透明な気持ちを明らかにすることができるのかもしれない!
固唾を飲んで見守る。部屋の雰囲気も、青山さんの一言を待っているみたいだった。
「……ん」
「ん?」
「……あ」
「あ?」
みんなの視線を一点にひきつける唇が、言葉を続けようとしたその瞬間!
「青山先生! 見つけましたよ!」
ばん! と大きな音と共に後ろの出入り口が開いて、思わず振り返った私は後光の中に立つ女性を見つけた。
その女性はつかつか、というよりずんずんとこっちへ歩いて来て……。
「青山先生! 締め切りはもう三日も過ぎているんですよ! 早く原稿をあげてください!」
「あ、あの、今私、この人の人生相談中で……」
「まずは追い込みをかけている小説を書きあげてから聞いてあげてください!」
「あ、あの、あ、あ、あ~!」
……ばたん。
「青山さん行っちゃったよ~」
「嵐のようでしたね」
「あーあ。せっかくいいところだったのに~」
ふう……。
正直青山さんの言葉は気になるけど、やっぱり自分で見つけないとってことだよね……。
「はぁ。どうしたらいいのかな~」
思いっきり息をついて天井を仰ぐ。茶色い天井が、冷静に私を見つめ返してきた。
「あらあら。どうしたんですか?」
思わぬ声に視線を戻すと……。誰かいる!
「わああ!」
「あらごめんなさい! おどかすつもりじゃなかったんですけど……」
思わず椅子から転げ落ちそうになった。だ、誰!?
「あれ。千夜! いつ来たんだ?」
「さっき凛さんと一緒に入って来たんだけど。みんなあっけにとられていたから、こっそりカウンターへ回ってきちゃった♡」
緑色に白い水玉模様を浮かべる和服の女の子が、おどけるように言葉を発した。
「あ、あうあう……」
「あらいやだわ。そんなに驚かせちゃったのかしら」
本当にびっくりした。誰もいないと思ったところにいきなりにょきって頭を出すんだもん!
「ごめんなさいね。私、宇治松 千夜っていいます」
「は、あ、あ、私、来桜 布衣です……」
「布衣さんかー」
「そう言えば名前知らなかったー!」
ぽかんとしながらも何とか自己紹介を終えた私へ、千夜、さんは、首をかしげながら声をかけてきた。
「それで、何に迷っているんですか?」
「あれ? 聞いていたのか、千夜?」
「ううん。人生相談って書いてあったから」
「なるほど」
うあーん! 私はまた恥ずかしい悩みを話さないといけないの!?
しかも私よりいくつか年下に見える千夜さんに!
ああーーーー! もうどうにでもなってしまえ!
「じ、実はですね……」
「……ふんふん。なるほど~」
自分でも小さくなっていくのがわかるほど、穴へ入ってしまいたい程恥ずかしい思いを感じながら、私はどこか貫録のある長い黒髪の彼女へつらつらと身の上話を聞いて貰うことにした。