星空を翔ける乙女たち アリス・ギア・アイギス another story 作:きさらぎむつみ
それは二人の、ある日の日常
プロローグ
* * *
シャード外壁近傍を二つの輝きが飛んでいた。よく見ればそれは、二人の少女がその身に纏う武装の、各所にある推進噴射の光だと分かる。
「ひとまず……今日の分は終わったねー」
黒髪のポニーテールをなびかせながら、少女の一人が呟くように言う。
その顔には、何かのスポーツで一試合終えた後のような、疲労感と爽快感のない交ぜになったような笑顔があった。
「まぁ……なんとか、本当……どうにか、ね」
一方、もう片方の少女はというと、どちらかといえば疲労感の方がやや強い印象の顔付きで、返す言葉にもあまり余裕は感じられない。
先ほどまで手持ちしていたデュアルショットギア『ボートゥール』をドレスギアの懸架フックに掛け、空いた手で結っていた栗色髪のサイドテールを解いていたのだが、その手際には億劫さこそあれ、はつらつとした雰囲気は微塵もなかった。
「まあ、確かに? 美弥がルイカの群れに囲まれて慌ててた時には私も焦ったけどさ? ちゃんと処理出来てたじゃない」
「だけど……あの状況は囲まれるように動いた時点で失敗で、本当ならどっちかの群れから順番に相手してかなきゃいけなかったんじゃないかなってーー」
「現場に本当も、完全な正解もない! って、美弥のママさんなら言うと思うけど?」
自分の言葉があまり慰めにならなかったと感じた黒髪の少女は、そのままではどこまでも底無しに落ち込んでいきそうな様子の栗色髪の少女に向け、強い口調で発破をかける。
そして、その言葉が栗色髪の少女が尊敬し、そして愛する実母が言うであろう台詞である示唆も忘れない。
「まぁ、さ。それらも含めて帰ったら反省会だよね。もっとも、その前に早く……シャワー浴びたぁい!」
場に漂う雰囲気の切り替えを、黒髪の少女はその一言に託す。その気持ちを込めて、いつもよりも若干大げさ気味にして。
「……だね。私も早くお風呂入りたいな」
(良かった、ちょっとは違う方へ気が向いたかな?)
黒髪の少女は栗色髪の少女の言葉に内心ほっとしつつ、しかし逆に今度は自分の思考の方向が、先ほどまでの戦闘の内容に向かっていくのを止められずにいた。
(あの時、美弥に向かっていたルイカ……特異型が交ざっていたような……?)
当該ヴァイス、ルイカの一群が
(あ、美弥囲まれてるな、……援護に行けそうなら行きたいんだけど……あいつ、やけにまとわりついてるな……)
などと考えながらタイミングを見計らっていたのだが、どうにかこうにか相方が対処しているのをチラチラ見ていたので、心配まではしていなかったからだ。
しかし、後から考えると疑念が生まれる。
(
出撃前に確認可能な『宙域情報』は、対ヴァイス専門行政機関『AEGiS』から発行される、十分な調査と監視・観測に基づく精査の重ねられた確かな代物である。
自分だって出撃前に再三確認したわけだが、特記事項や注意情報などの項目はなかった……なかったよね?
(んー……まぁ、たまには特異型くらいすり抜けても来るか……これが大型とかならサイズ違いも甚だしい!ってなるけど)
昨日今日に実戦デビューしたわけでもない、それなりに経験を積んだ自負もあった黒髪の少女は、それ以上は深く考えることをやめておいた。
それは、余計な“囚われ”もまた、現場では危険な状況であることを教わっていたからだ。
少女たちの視界に、シャード地下第1層へと通じる連絡通路の外壁側出入口ーーつまりは出撃時と帰還時に用いるゲートーーを照らす灯りが届く。
「とりあえず、これで今日はお仕事しゅうりょーっと!」
「お疲れさま、真砂ちゃん!」
二人の少女が立て続けに、その連絡通用口を入っていく。
二人の接近を感知して開いていたゲートは、彼女らの帰還をその個人コードで確認すると、今度はゆっくりと閉じてゆく。
話す者の去った
当初、一話の前書きパートでしたので、短いお話となっております。
せっかく切り分けたのなら、と本編開始に先駆けて投稿することにいたしました。
明後日より開始の本編に期待を持っていただければ幸いです。