星空に翔る女優は輝きを踊る アリス・ギア・アイギス another story   作:きさらぎむつみ

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第七話 出撃 と 安息 の日

   * * *

 

 日曜の昼間に降った雨が、桜の木に残っていた華やかさをきれいさっぱり洗い落としてしまった。

 

 年度始めのどことなく浮わつく高揚感も収まり、新たな学年に上がった意識の方がじわりじわりと高まってくる。

 

 そんな週明け月曜日の学校が終わり、

 

 共に帰宅し一旦は各々の自宅に戻った美弥子と真砂だったが、それほど時を置かずに『八坂警備』の事務所奥、整備工場(メンテナンスヤード)内の装着区域(フィッティングエリア)にスーツ姿で頭を並べていた。

 

 二人の前には、同じ00式戦闘服に身を包む、彼女らよりも背が高く整ったスタイルの女性が一人。

 

「よし。それじゃ今週は真砂っちはスナイパーギアの慣熟訓練、兼ねちゃおうか」

 

 八坂警備所属の登録アクトレスで美弥子らの先輩にあたる大須賀綾子(おおすが あやこ)が、タブレットで『案件』の詳細を確認しながら、そう明るく言い放った。

 

「了解です、綾子さん」

 

「美弥ちゃんは、この前のボートゥールでの成果が結構良かったのを考慮して、今週も前衛担当。前のめりで回避と攻撃をバランス良く、多少被弾してもボトムスギアの回復スキルで極力後退しない。一人でかき回してもらうことになるけど、私と真砂っちがスナイプフォローするから安心して動いてね」

 

「はいっ」

 

 美弥子も元気良く返事する。

 

 八坂に所属するアクトレスの中でも、大須賀綾子はリーダー役が受け持てる数少ない人物の一人だった。

 八坂以前にはかなり大きな会社で駆除案件専任アクトレスをしていて、一時はフリーランスで様々な事業所にヘルプで入っていたが、ここ2年ほどは八坂専属で活動していた。

 

「今週入ってる受注済み『案件』は今日、水曜、金曜。水曜は二人、学校のアクトレス会だから外れるけど、その分今日と金曜はビシバシしごいちゃるからね!」

 

「「はーい」」

 

 美弥子と真砂の返事が重なった。

 

「じゃあ、早速ドレスのフィッティング始めようか。美弥ちゃんはアーリーMN404の上下で、真砂っちは10式D型上下かな?」

 

 八坂警備では基本、ドレスギアハンガーに同じメーカーのシリーズセットごとに汎用ギアがあらかじめセッティングされている。

 アーリー・ファイヤーアームズ社の『MN202B2』シリーズのトップスとボトムスをセットしたハンガー、その隣は同メーカーの『MN404』、その隣からはセンテンス・インダストリー社の『ペレグリーネMk2』シリーズをセットしたハンガーが、といった具合だ。

 

 これはハンガーのドレスギア着脱プログラムの設定やギア整備時の省力化、などの点からも割と良くみる配置だった。

 

 大手の場合はそれとは更に、登録の常勤アクトレスがお気に入りの上下組み合わせ(コーディネート)にセットされた個人専用のドレスハンガーを別途用意する、という場合もある。

 そのアクトレスが、事業所側が彼女専用のギアを特注で用意して更なる活躍を期待するような星4(クアドラプル)クラスのトップエリートアクトレスだと、そうした傾向は尚のこと顕著だ。

 

 八坂警備に所属登録しているアクトレスは、専属契約にアルバイト契約、複数事業者と掛け持ち契約するフリーランス登録のアクトレスも含めて、彼女たちの『エミッション・ランク』は星2(ダブル)クラスが大半を占めていた。

 以前は在籍者の中に星3(トリプル)相当としてAEGiS登録されているアクトレスもいたのだが、エミッション減衰というごく普通な理由で引退していた。

 現在の八坂警備に星3相当、または実力を持っていて現役、というアクトレスは一人もいない。

 

 そして彼女、大須賀綾子もAEGiS登録は星2でされているアクトレスなのだが、それを補って余りある活動歴の長いベテランだった。

 

 早い頃からスナイピング技術の才能を伸ばして大手専属時代は名サポーターとして活躍、フリーランス時代にはその仕事振りも然ることながら、請われればその狙撃技術レクチャーなどを気軽に行っており、引く手あまたな時期があったほど。

 

 八坂専属の今でも、出撃の合間や最中で行う後進育成に余念がない。

 大須賀自身は、プライベート的にそろそろ一処に腰を落ち着けたい頃合いだと思案していたので、この八坂がアクトレス人生最後の花道を飾る場所、という意識にもなっていた。

 

 大須賀は彼女用に用意されてるショットギアロッカーからアーリー・ファイヤーアームズ社製『ダークシャーク』を取り出してくる。

 このショットギアは彼女の持ち込み私物品で、以前から細かなカスタムをし続けて使っていて“相棒”らしい。

 

「真砂っちはハンターMk2を用意ね。AEGiS情報だと今日のは“属性”案件じゃないから大丈夫でしょう」

 

 出撃先の出現ヴァイスに明らかな“属性”偏りがある場合、その子細が『案件情報』に記される。

 特に出現ヴァイスの『結合粒子集束力』ーー簡単に『レベル』と言い表されるーーが高くなればなるほど、その属性を考慮した対応が必要になるためだ。

 必要ならば、対応に向かわせるアクトレスの“属性”と彼女たちの『レベル』ーー攻撃する際の『結合粒子集束力』をどれだけ的確にエミッションコントロール出来るかの、その習熟度ーーを考慮した編成で送り出さなければ、時には任務達成すら怪しくなってしまう。

 

 もっとも、そうした対処が必要な案件はAEGiSもまずは大手事業者に依頼し、大半はそこで対応されるため中規模以下の事業者にはまず下りてこない。

 余程の場合に傘下の系列事業者が、ということはあっても、いきなりその規模の案件が八坂警備規模の事業者に振り当てられることは、かなり稀だ。

 

 真砂は大須賀に言われた通りに、ギアロッカーからセンテンス・インダストリー社製エネルギー弾スナイパーショットギア『ハンターMk2』を取り出してきて、使用前最終点検を始める。

 

 美弥子も先ほどから『ボートゥール』の点検をしていて、終わったのでその二丁拳銃ショットギアをウエポンギア用ハンガーラックに懸架していた。

 

 整備担当のスタッフが三人、彼女らがウエポンギアのチェックをしている最中にドレスハンガーのセッティングに慌ただしく動いていた。

 彼らが最終確認を完了させて、大須賀にその旨を報告する。

 

「よし、それじゃ張り切ってお仕事しましょうね! 二人とも……エイオー!」

 

「「はい! エイオーッ!」」

 

 大須賀がリーダーの際には必ずする独自の掛け声を、二人は声を揃えて片腕の拳と共に上げた。

 

   * * *

 

 実家でのアクトレス活動日だということで放課後すぐに帰宅する美弥子さんらと挨拶して別れたあと、私はと言うと当番日でもないのに図書館にいた。

 

 とは言っても、当然腕章もせず1階のフリースペースのソファの一つに座り、待ち人未だ来たらず、となっているだけだったが……それもすぐに解消された。

 

「ごめんなさい、待たせてしまって」

 

 八雲先輩がやってきた。そのまま帰るつもりらしく、左手には鞄を下げ持っている。

 彼女は真向かいのソファに腰掛け、脇に置いた鞄から書店ロゴのプリントされた紙包みを取り出す。

 

「はい。約束してた『ナイトウォッチ』シリーズと『スワロウテイル』シリーズの、それぞれ1冊目」

 

 ありがとうございます、と言いながら差し出された紙袋を受けとる。折られて簡単に封された口を開けて中を覗くと、書店の紙カバーがされた文庫本が2冊入っている。

 まだ、かなり真新しい。

 

「あれ? ……まさかこれ、買ったばかりですか? もしかして、わざわざーー」

 

 私は少し不思議に思い、周りに気にされない小声を保ちつつ問いかけたが、

 

「あぁ違うわ。館林さんにあげるつもりではあるけど、昨日今日買い足してきた新品とかではないから安心して受け取って」

 

 八雲先輩も相応の小声で、私の質問意図をすぐに察して回答してくれた。

 

「あ、じゃあ……それでしたらーーって、あげるつもりって? 借りるだけですから読んだら返しますよ? ……え?」

 

 私の思っていた貸し借りと、先輩の用意した貸し借りが少し噛み合ってない気がして、思わず確かめる。

 

「あっ……ごめんなさい。気を悪くさせてしまったなら……私の先走りだわ。これは私の『“好き”の布教活動』だから……押し付けがましかったわよね、ごめんなさい」

 

「あ、いえ、謝らないでください。突然で、あとそういうの初めてで……聞いたことあります、自分用と保管用と布教用……でしたっけ? わかります、ただ今までしたこともされたことも無かったから、びっくりしただけで」

 

 自分の失敗だ、とひたすら恐縮し始めた先輩を慌てて止める。

 

 今まで読書は自分の購入と施設の借り物ばかりだったし、こちらのシャードへ越してくる前は周りに、互いに本を贈りあったりするような……貸し借りするような相手がいなかったから、単に初めてのシチュエーションに驚いただけだったのだ。

 

「はぁ……まぁたやっちゃった……ほら、週末は『サン・ジョルディの日』でもあるし、つい久々で嬉しくなっちゃって……昨日も一日、それ取りに入った本部屋で過ごしちゃったくらいで……うん、私浮かれてたわね……」

 

 とても自省的なその言葉に、私が初対面の保健室で彼女に持った印象は、先輩の一面でしかなく全てではなかったことに気付き、自分もその勝手な思い込みを反省する。

 

「あの……いえ、ホントありがとうございます。布教用の買い置きだから、気に入ったら頂いてよくて、続きの巻は自分で買って、で読み終えたら感想をお互いに話そう、って言う……そういうのですよね? 私……少しそういうの、憧れてたんで、すごく嬉しいです……ありがとうございます……」

 

 まさか初めての読書趣味の友人が学年違いの先輩になるとは、全く思っていなかった。

 先輩の方から私との距離を近付けてもらえるなんて、思考の隅にもなかった。

 

「……先輩、買い足しの新品じゃないってことはーーあ、やっぱり新規再刊行してすぐに何冊か買ってた本なんですね」

 

 私は文庫本の奥付(ページ)を見ていた。

 世紀の違う“本来の初版”ではない、この文庫の初版発行日は、その年月日がそれなりに以前のものだった。

 

「ええ。その作家さんはどちらも他のシリーズ読んでて、推しの作家さんだから新版発売日に……自分用と布教用二冊をね。続刊出るたびにそうしてるの」

 

 ああ、やはり三冊購入なのか。話に聞いてただけの事例通りに行動してる人には、私は初めて出会う体験だ。

 

「ああ、でもそれは毎回どの本どの作家さんでもそうしてる訳じゃないのよ? 最初自分のだけ買って読んで気に入ってから布教用買い足したり……それはどちらも推し作家さんだったから、お薦めしたい人にすぐ渡せるようにって、第1巻は最初から三冊買うつもりでいた作品だけど」

 

 少し言い訳がましく言葉を紡いでいる先輩の様子に、まだ自省の気が強いと感じた私は、あぁ筋金入りなのだ、と気付く。

 

 筋金入りの、読書狂(ビブリオマニア)

 しかも、今では多くない“紙の書籍”派。

 

 私も、特に気に入った本……いや、「気に入るだろうな」と思った本は“電子より紙”派だ。お試し版などをタブレットで読み気に入ってもそこで電子書籍を購入せずに、紙の書籍が出ているなら本屋に足を運ぶタイプだからわかる。

 

 それに『サン・ジョルディの日』と言われてしまった。

 

 今日この時に、まさか自分がされるとは思っていなかったけれど、いざそうされるとこれほどに面映ゆいものだとは思わなかった。

 

「先輩、ありがとうございます。帰ったらすぐに読みます。それと……私も当日、『サン・ジョルディの日』をさせて貰えますか?」

 

 私の突然の提案に、少し沈み気味だった先輩の面持ちが見る間に回復していた。

 

「え……も、もちろん! ……あ、私ひょっとしたら家族以外に本をプレゼントされるの、初めてかもしれない……嬉しい、館林さんありがとうっ!」

 

「八雲先ぱぁーい! 図書館ではお静かにー! でしょ?」

 

 本日当番でカウンターの中に入っていた私と同学年の図書委員から、少し茶化した雰囲気を持たせた言葉で注意をされた。

 

 私にも伝わった。一昨日の委員活動中に、私も一度聞いていたからだ。

 そのフレーズ、それは恐らく普段から八雲先輩が使う決まり文句なのだと。

 

 ばつが悪い、何とも複雑に思える笑みを浮かべて慌てながら、ごめんなさい、の意思表示に手を合わせて謝る仕草をカウンターの後輩に向ける先輩。

 カウンター内の彼女も微笑みながら唇に、立てた右手の人差し指を重ねる。

 お静かに、だ。

 

 と言っても、今の図書館1階をくるりと見渡しても私と先輩と委員の同級生と、それだけしか人の姿はなかったのだけど。

 

 ひとしきり無言の謝罪を後輩に表したあと、先ほどよりも顔を私に近付けてきた先輩は、先ほどまでより更に小さな声でポツリと、

 

「怒られちゃった……」

 

 呟きながらも、その顔には破顔を抑えきれない笑みが溢れだしていた。

 

 私はこの、八雲千鶴という一つ歳上の女性のことが、一気に愛らしく感じられて……大好きになってしまった。

 

   * * *

 

『通信です。全てのヴァイス反応の消滅を確認。次の作戦区域に移動してください』

 

「よォーし。チャキチャキ次行くよー」

 

 大須賀綾子が美弥子と真砂に移動を促す。二人は慣れたマニューバで綾子の近くに集まった。

 

 綾子を先頭に、遥か以前の地球時代には『ケッテ』と呼ばれた“3機編隊で1個小隊”の三角陣形を取って、次の宙域指定区域を目指す。

 

 日常的にAEGiSから受注が回ってくる通常の“駆除”や“哨戒”の『案件』では、よほどの大量出現予測がされている内容でなければ、他の事業所のアクトレスをサポーターとして呼ぶことは少ない。

 

 別段、“ヘルプ”に来てくれたアクトレスに依頼した事業所側からの支払いが発生したりはしない。

 逆に、呼ばれて他事業所の『案件』を手伝ったアクトレスには、彼女が籍を置く事業所にAEGiSから“出張費”が支払われるくらいだ。

 

 単純に、それぞれの事業所が抱えているアクトレスの人員数と、受注する『案件』に指定された区域と時間に彼女たちを派遣可能かどうか、というスケジュールの調整問題が大きかった。

 

 それらが十分に満たされているのは、よほどの大都市を持つシャードの、その中心地に大きな事業所がいくつも存在する場合に限る。東京シャードなどがそうだろう。

 大規模に『アクトレス事業』を展開する会社があり、その系列支店網を広げている地域はカバー出来ていることが多い。

 

 また、逆にかなりの僻地になると宇宙港などの搬入口や地下第2層の生産プラント施設やその連絡口とも離れているため、ヴァイスの侵入機会、出現率自体が

少なくなるので中規模以下の事業者1社でその担当を賄えてしまえたりするのだ。

 

 『八坂警備保証』が所在する地区は、神奈川シャードの『横浜』という大都市圏ではありつつも、その中心街からは少し離れた、他の『横須賀』や『平塚』などの繁華街とも離れたちょうど挾間にあるような地区で、どちらかと言うと後者に近い。

 

 むしろ、それなりに流通や産業が盛んでプラントや連絡口を備えた各施設が点在する決して狭くはない市区町を、中規模事業所のいくつかで担当している為に、どれだけ密に連携してもそれぞれの事業所が対応可能なキャパシティの限度に近い状態だ。

 

 そうした背景もあり八坂では、大抵の『案件』は自社所属アクトレスのシフトローテーションだけで、どうにか対応可能な状態を維持していた。

 また対応出来ない規模の『案件』は、横浜中心街に支店を持つ大手企業ーー最近では特に『オーヴィタル・セーフティー』社ーーに、最初からその『案件』を担当してもらうように、とAEGiSの企業担当者と相談済みであった。

 

 なので、八坂では身内だけの三人、場合によれば二人で任務に付くことは日常だった。

 たまに“ヘルプ”してくれるアクトレスも、近接地域担当事業所のサポート専門担当で既に顔馴染みなアクトレスばかりだ。

 

 そうした既に日常、或いは平穏なーーそれが駆除や哨戒であってもーー出撃の日々の中で、美弥子と真砂はアクトレスとしての経験を着実に積み重ねていた。

 

 ふと……その経験から、真砂は綾子に問いかけてみる。

 

「綾子さん。今の区域(エリア)で出たヴァイス、『案件詳細』の出現予測データと少しズレてませんでした? なんか、ちょいちょいいつもと違う動きをされた気がして……」

 

 真砂にしてみてもそれは感覚的……「気のせい」を越える考えでは無かったので、その言葉はかなり断定的ではない。

 

「うん。あれは十中八九『特異型』と分類されるやつだね。特に表示名称が切り変わらなかったけど、真砂っちの判断はあってるよ。それに、私が言う前にしっかり対処してスナイプしてたからめっちゃ合格。花丸あげちゃう」

 

 真砂の方へ振り向いた綾子が、宙に左手の指で花丸を描いた。

 ニッと笑って、またすぐ進行方向へ向き直る。

 

「あーやっぱり。最近『宙域情報』とズレますよね。時々『特異型』の予測無いのに出てきたり、予測に無い小型が混ざってたり」

 

「うーん……私も経験あるけど、『宙域情報』はあくまでAEGiS観測網の計測から導いた“想定”でしかないからね……どうしても上振れ下振れが生まれちゃうのさ。この前、二人で出た時の報告書にも書いてたもんね。今週受注した『案件』でこれが続くようなら、隊長もAEGiSに改めて相談や対応求めるでしょう……」

 

 そこで一息ついて、美弥子や真砂から意見がないのを確認した綾子は、今度は美弥子の方へと振り向いた。

 

「美弥ちゃんはどう思う?」

 

「あ! はい……確かに、少し前から自動偏差照準なのに外れる…外されて躱されることが増えたなぁって……あ、でも真砂ちゃんにこの前言われて、少し前のめりに近付くのを意識するようになってから、減った気がします」

 

 急に話を振られ、聞くだけしていた美弥子は驚いたが、すぐに最近思っていたことを告げた。

 

「そっか。多分それは、今まで射程限界近くから撃っていた距離を縮めてるからだろうね。美弥ちゃんは、あなた自身や私とかが思ってる以上に、近接距離向きなのかもしれない……別にクロスでの格闘戦も下手じゃないでしょ? ……まぁただ、性格的に向いてるかどうかは別として」

 

「はい……やっぱり自分からヴァイスに近付いていくのはちょっと怖くて……なのに私、スナイパーやライフルのショットだと上手く使えないから」

 

 美弥子はアクトレスデビュー当初に、それらの比較的射程の長いギアを使った際はエミッションによる『結合粒子集束』が上手く攻撃に乗らず、ギア固有の射程や威力が大幅低下することが判明していた。

 以来、ヴァイスと距離を取りたい性格とは真逆で射程の短い、しかし美弥子のエミッションが一番効果を発するデュアルショットギアを使うことが常だった。

 

「そればかりはねぇ……性格とエミッションの向き不向きが噛み合わない人、たまにいるから……ま、あまり気にしちゃダメよ。アクトレス続けてるうちに、エミッションの質や扱い方の慣れで得意なスタイルが変わる人もいるし」

 

 事情を知っている綾子は、少し内向き思考になりかけた美弥子に、慰めの言葉を送る。

 だが、その言葉には綾子自身でも不思議な確信が宿っていて、ただ単純な気遣いだけではなかった。

 

 ーー美弥子には、綾子や美弥子の周りが気付けない、本人すら気付けずにいる、彼女だけが出来るような(スタイル)があるのではないか、と。

 

 そして、将来的にもしそうなるのなら……本人を含めた誰より先に、それに思い至り指摘出来るのは、先日美弥子に“前のめり”を指示した真砂なのではないか、と。

 

 そうした思いは綾子自身が確信を感じておらず、今は言葉にしても虚ろに響きそうだった……なので胸の内にしまいこんだ。

 

「まぁ、それはそれで! 今は任務に集中ね!」

 

 綾子が気持ちを込めてやや声高に、話を強引に戻す。

 

「とにかく。もしマーカー表示が『特異型』とならなくても、注意して対処すること。ヴァイスそれぞれの動きから判断して適切に対応。で、そういったサンプルケース集めて詳細に報告しよう。そうすれば向こうも問題視しやすいし、検討も捗るからね! オーケー?」

 

「はいっ!」

「……はい」

 

 美弥子は少し思いを巡らせていたのか、珍しく真砂と返事がシンクロしなかった。

 

『敵の増援を確認、排除してください』

 

 指定範囲に区切られたエリアラインを通過した途端、アナウンス音声がヴァイス発生兆候を検知してアクトレスたちに注意を喚起した。

 

「あー、こっちはまだまだ巣食ってるねー」

 

 綾子がすかさず、エリアの範囲とそこに存在する空間歪曲点、すなわちヴァイス出現予測ポイントの数を確認する。

 

「でもまぁ、予想の範囲内! サクサクッと退治しちゃいましょう! 二人とも、予定通りに展開してね! それじゃあ……タリホーッ!」

 

 応じて返事をしながら、美弥子と真砂は虚空(そら)を舞う流れ星の一つとなり向かっていった。

 

 

   続く

 




今回の後書き

前々回、『始動編』はざっくり3パートだ、とお話しましたが、前後半、という分け方をすると今回でほぼ前半が終わりました。
私の体調、今週末の通院、来週分や再来週分の進捗などを鑑みて、毎週日曜14時更新は今回で一旦終了し、続きは『始動編』完結までを書き終え、毎日定時更新が出来る体制を整えてからとさせていただこうと思います。ご理解いただけると助かります。
なお、現時点での予定では来月3月中旬頃には“後半”の毎日更新をする予定です。


なお、今年の『サン・ジョルディの日』は偶然にも!(わざとらしい)作中と同じく週末です。

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