僕はパンツだ   作:ロリ魂アパシー

3 / 3
僕も女児パンツになりたい
そして色々と受け止めたい


後編

目が覚めると、いや、本当は目が覚めてなんかいないのかもしれないけど、目の前には白い扉があった。

ここまで近くにいても開かないということは自動ドアではないのは確かだろうけど、僕にはこの扉が何なのか全く分からなかった。

それもまぁ当然といえば当然、目が覚めてすぐ目の前に扉があるなんてそうある事態ではないし、少なくとも僕は体験したことはない。

僕が不思議がって固まっていると、僕の右側から華奢な腕が伸びてきてその扉をノックした。

 

「失礼します」

 

聞き覚えのある凛とした、それでいて可愛らしい声が聞こえた。

またその声を聴くことができた喜びもつかの間、一つの疑問が浮かんでくる。

あのズタボロな状態で真冬の川に落ちた僕は流石に死んだはずだ。つまりここは天国か地獄かもしくはそれに類する場所のはず。

ではなぜここに朝日ちゃんがいるのか。もしかしてあの後彼女は死んでしまったのだろうか…

その疑問は開いた扉の先の光景に晴らされることになった。

清潔感のある床や壁、窓際に設置されたベッド、何やらよくわからない機械。ここは病院のようだ。

僕が今いる場所について考えていると、不意に景色が後ろに流れ出した。歩いているわけでもないのに。

今どきの病院は動く床を採用しているのだろうか?正直あまり馴染みがないから病院がどんなところなのか今一よくわからない。

 

「まだ、眠っているのですね」

 

流れる景色がベッドの前で止まり、そこに眠っている人物が見えた。

朝日ちゃんは眠り続けるその人を見てそう呟いた。

ベッドの上には、本来僕が見ることができない筈の僕の寝顔があった。

 

 

 

「お嬢様、またこちらにいらしたのですか」

 

「あらじいや、奇遇ね。ここは静かだし読書に都合がいいのよ。」

 

ありえない光景を目の当たりにして固まっていると、見知った顔が病室に入ってきた。見知った、とは言っても顔を合わせたのはあの日のほんの僅かな時間だけだけれど。

じいや眠っている僕を一瞥して僕に向き直ると、少しあきれたような表情をにじませて僕の少し上の辺りに視線を移して口を開いた。

 

「お嬢様、御付きの者を予告なく撒くのはお止めくだされ。危険ですし、怒られるのは彼らなのです。それと、いくら命を救われたとはいえ、破れた下着を縫い直してお守りとして身に着けるのはどうかと思いますぞ。」

 

「撒かれるほうが悪いのよ。実際、じいやを撒けたことなんてなかったもの。それに、お守りを持つくらいいいじゃない。ちゃんと洗濯してきれいにしたんだし。」

 

御付きの人を撒くとか朝日ちゃんお転婆さんだなぁ。

また誘拐されちゃわなければいいけど。

それよりも破れた下着を縫い直して御守りにした、というのはもしかして布の僕(パンツ)の事なんだろうか?だとしたら嬉しい。けどやっぱり(はた)からみたらかなり変な子だから止めた方が良い気もする。

 

不意に僕の視界が何かで塞がれ、ぎゅ、と優しく全身を包まれる感覚がする。

暖かいその感触にはどこか覚えがあった。

手だ。細くてきれいで、すべすべで暖かい、朝日ちゃんの手。

話の流れからして、僕はどうやらその御守りに意識を宿したようだった。

僕はよくよくこの体(パンツ)に縁があるらしい。

 

 

________________________________________

 

 

朝日ちゃんは僕を肌身放さず持ち歩き続けた。

残念ながら流石にお風呂には持っていかなかったけれど、出掛けるときはもちろん寝るときまで一緒だった。

この体が睡眠を必要とするのかはわからないけれど、真っ暗な中で朝日ちゃんの寝息と鼓動の音だけを聞いている時間は僕にとって至福と言って良い時間で。

僕がこの鼓動を繋いだんだ、なんて傲慢だってわかっているけれど、それでも彼女の脈動が、規則的に上下する薄い胸が、静かな吐息が、僕の役目と願いの成就を祝福しているような気がしていた。

こうして僕がお守りライフを満喫している中でも、彼女は毎日僕だった人間のお見舞いに病院へと足を運んでいた。

そこにはもう僕はいないのだけれど、それを知らない朝日ちゃんはいつも僕のをのぞき込んでは悲し気にため息を吐く。

その姿は、幸せな僕の心をいつもちくりと刺した。

 

 

「いつまで寝てるんですか、私のパンツさん」

 

あいにくの空模様で冷たい雨が降りしきるそんな昼下がりのこと、いつものように僕だった人間が寝かされている病室に来てココアを飲みながら静かに本を読んでいた彼女は、読んでいた本をぱたりと閉じて少し周りを見渡すと僕の顔をのぞき込んでそんな問いかけをした。

 

「眠り続けるのはお姫様の方だと思うのですが…」

 

のぞき込む距離がいつもより近いような気がする。僕の顔がすぐそこに見えた。

これではまるで…

 

「おとぎ話の中だけのことなのでしょうけど、眠り続ける人には…試して、みるだけですから。駄目元で、試すだけ…」

 

彼女の顔が僕だった人間の顔に近付いていく。僕はといえば、止める術を持てずに彼女の首にぶら下がったままゆらゆらと揺れていることしかできなかった。

ある程度まで近付いたところで、僕の体が僕だった体に触れた。

その瞬間、僕の意識は暗闇に落ちた。

 

 

 

落ちた意識は直ぐに戻ってきたが、視界は真っ暗なままだった。

すっかり久しぶりになった感覚を懐かしみながら瞼を開くと、頬を赤くして目を瞑ったままの朝日ちゃんの顔が視界いっぱいに映っていた。

これから数秒後、僕にとって最高に魅力的な出来事が起こる。そう考えるとこのまま黙ってじっとしていたくなる。

しかしこんな形で彼女の大切なものをだまし取ってしまうと、嬉しさよりも罪悪感が勝ってしまうような気がした。

目はしっかりと目の前の朝日ちゃんを見つめて、目を閉じ頬を赤らめた彼女の魅力的な表情を網膜に焼き付けようとしながら、僕は後ろ髪をひかれる思いで息を吸い、口を開く。

 

ぁ、えー、と、おはよう?

 

長らく使われなかったために僕の声帯は一時的に衰えてしまったらしく、口からは情けなくかすれた声が零れ落ちた。

しかしもう少し気の利いた言葉は出てこなかったものか。自身の引き出しの少なさに自らを呪う。

 

「な、え、ほんとにっ、えと、いつから起きてらしたのですか…?」

 

目を覚ます気配のなかった僕が起きたことへの驚きと、自分がしようとしたことについての羞恥で真っ赤になった顔を両手で覆いながら訊ねてくる。

本当はずっと起きていた、というかお守りから見ていた、だなんて言ったら彼女はどんな顔をするのだろうか。

それはそれはかわいい顔をするだろうという確信はあったものの、流石にそれは意地悪が過ぎるような気がして嘘を吐く。

 

えぇと、いまさっき。ん゛んっ、げほっ、何か、僕を呼ぶ声が聞こえた気がして。」

 

「そう、ですか。どこか違和感とかは無いですか?」

 

「違和感…声がかすれてたけど今大分まともになったし…特には無い、かな?」

 

体中怠くて仕方ないけれど、何日も寝続けていればこんなものだろう。違和感というほどのものでもない。

両手両足は動くし、痺れなども無い。まだ多少の痛みはあるけれど、よくもまぁあんなボロボロな状態から回復したものだと我ながら無駄に頑丈な身体に感心、を通り越して少し呆れた。

特に体に違和感が無いことを朝日ちゃんに伝えると、彼女は少し表情を和らげて僕に背を向けた。

 

「それを聞いて安心しました。では、担当の先生をお呼びしますね。」

 

そのまま病室を出ていこうとする朝日ちゃんの背中に、僕は少し意地悪をしたくなった。

 

「ありがとう、朝日ちゃん。あぁ、ところで僕が目を覚ました時に目の前にいたけど、何してたの?」

 

彼女はスライド式のドアの取っ手にかけた手を止めて、ゆっくりとこちらに振り返った。顔が真っ赤だ。

 

「そそそそれはあれですよその、全然起きないから、あなたが、その、起こして差し上げようと思って、えと、えーと、そう!頭突きで!」

 

「頭突きで。頭突き…ぶふぅっ、ふはっ、あははははは!」

 

予想外すぎる答えに呆けてしまった。オウム返しに僕の口から出てきた頭突きという単語に、こんどは可笑しさがこみ上げえ来て盛大に吹き出してしまった。

それからひとしきり笑って朝日ちゃんの顔を見れば、先ほどとは違う理由でまた顔を赤くしていた。少し意地悪が過ぎたようだ。

 

「ふふ、ごめんね、朝日ちゃんみたいな可愛い子が、ず、頭突きって、んふっ、予想外だったから。ふふふ、」

 

僕の笑い交じりの謝罪に朝日ちゃんは小声でぅーと呻きながら俯いてしまった。可愛い。

 

「でも、ありがとう。起こそうとしてくれたんだね。きっと朝日ちゃんのお陰だよ、僕が起きられたのは。」

 

「ぁ、う、その、どう、いたしまして。」

 

素直にお礼を言ってみれば、朝日ちゃんは照れてまた顔を俯かせてしまった。

いつも努めて冷静にしているようだった朝日ちゃんが年相応にころころと表情を変える様に、僕はつい見惚れてしまった。自然体な彼女を、もっと見ていたかった。

 

「そりゃいくら寝ていたって頭突きされそうになったら起きるよね、恐怖で。」

 

「なっ、それはぁ、その、うー!」

 

僕と朝日ちゃんのそんなやり取りは、騒がしいの気付いた看護師さんに注意されるまで続いた。

彼女が帰った後も、ココアの甘い香りはずっと残っていた。ような気がした。

 

 

________________________________________

 

 

「それで、結局あなたは何者なんですか?私のパンツさん?」

 

僕がこの体で目を覚ました翌日、当然のごとくお見舞いに来た朝日ちゃんが僕にそう質問した。

お見舞いに来てくれるのはとても嬉しいのだけれど、こう毎日だと色々と不安にもなる。僕が朝日ちゃんの負担になっていなければいいのだけど。

それはまぁさておいて、返答に困る質問をされてしまった。

 

「僕は君のパンツにして旅人さ☆」

 

「退院後は刑務所がお望みですか。」

 

「ごめんなさい真面目に答えます。」

 

軽い冗談は重いカウンターで返されてしまった。どうやらはぐらかすことはできないらしい。

そうなるとそれっぽい嘘でこの場を切り抜けるか、それとも嘘みたいな本当の話をして何とか信じてもらうかの二択になるだろうか。

いや、そういえば朝日ちゃんには僕が彼女しか知り得ない湿った秘密を知っていることを話してしまっていた。

そうなるともう選択肢は一つしかなかった。

 

「あー、えっと、前にも話した通り、僕は君のパンツだったんだよ。今朝日ちゃんが首から下げてるそれだった。」

 

「えぇ、それは聞きましたわ。私しか知らない筈の、その、秘密も知っているようでしたし。ですが人がパンツになるなんて…」

 

「僕も最初は信じられなかった。でもあの日、じいやが僕を君に買っていった日から、君がそれを履いている時に僕が眠ると僕の意識はそのパンツに乗り移るようになっていたんだ。」

 

「じいやがこれを買ってきた日から……っ!!?」

 

その日から今日まで色々とあったことを思い出したのか、彼女はまたしても羞恥に顔を染めて僕から視線をそらした。

…この体に戻ってから朝日ちゃんの赤面を見る回数がすごく増えた気がする。そりゃまぁ見ず知らずの男に下半身の秘密を曝け出していたなんて知ったらそうなるのは当然といえば当然なんだけど。嬉しい反面少し申し訳ない。

 

「だ、大丈夫大丈夫。お漏らしくらい誰でも」

 

「わ゛ーっ!言わなくていいですからっ!」

 

宥めようとしたものの逆効果だったようだ。いつもの彼女からは想像できないような大きな声で僕の声がかき消されてしまった。

 

「そ、そんなことよりも話の続きをお願いします!」

 

これ以上そちらの方向に話を広げたくないのだろう彼女は、僕に続きを話すように促してきた。勢いよく。

 

「う、うん。もうそこまで話すこともないんだけどね。あの日から、夜は人間としてこの体で夜勤の仕事してて、日中は朝日ちゃんのパンツとして生活してただけだし。それで遊園地に行ったあの日、パンツの僕が破れたと同時にこの体で目が覚めてね。崖から見えた景色を頼りに君を探し出したってだけだよ。幸い近くに泊ってたからね。」

 

「泊まってた?あなたはこの町の人ではないのですか?」

 

「僕は根無し草、旅人s待って待って携帯しまってねぇ110番押さないで」

 

「はぁ…真面目に話してくださる?」

 

少しばかりのユーモアを挟もうとしたら通報されかけた。解せぬ。

あとその呆れた眼差しは止めてほしい。何かに目覚めそう。よくないものに。

 

「少しくらい冗談挟んだっていいじゃない…えーと、僕はあれだよ。住所不定無職(現代の旅人)ホームレス(ロマンチスト)とも言うね。それで、この町の橋の下でお昼寝してたら朝日ちゃんのパンツになってたってわけだよ。」

 

「そうだったんですね…これから行く当てはどこかあるんですか?」

 

「う~ん、無いねぇ、ははは。まぁこの町もいいところだし、しばらく居着くかもね。」

 

「でしたら…」

 

コンコンと病室のドアをノックする音が、何かを言いかけた朝日ちゃんの言葉を遮った。

 

「失礼します。お目覚めしたとの話を聞きまして参りました。…やはりこちらでしたか、お嬢様。」

 

「じいや、ちょうどいいところに。」

 

扉を開けて入ってきたのはじいやだった。僕が彼をじいやと呼ぶ義理というか権利というかは無いのだけど、どうしても頭の中ではじいやと呼んでしまう。

じいやはというと、少し呆れたような、しかしどこか優し気な顔で朝日ちゃんの方を一瞥すると、僕の方へと向き直り頭を下げた。

 

「この度はお嬢様を守ってくださいましてありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。私がもっとしっかりしていればお嬢様が攫われることも、あなたが大けがをすることもありませんでした。」

 

「いやいやいや、頭を上げてくださいよ。僕だってやりたくてやったことですし、結果こうして生きてますし。」

 

深々と下げられた白髪の頭を前に、どうにもいたたまれなくなった僕は慌ててそう声をかけた。

事実、僕は朝日ちゃんを助けたくて助けたのだからこの結果は誰のせいでもなかった。強いて言うならば僕のせいか、もしくはあの誘拐犯達のせいだ。いや十割あいつらのせいだよな僕悪くないわ。

頭の中で責任の所在を全て誘拐犯達に押し付けたところで、奴らがどうなったのかふと気になった。

 

「そういえば、誘拐犯の連中はどうなったんですか?」

 

「彼等ならまぁ…とりあえず、生きてはいますよ。しばらくは塀の向こうでしょうな。塀から出たとしてもしばらくは監視を付けますが。」

 

「アッハイ」

 

そういえば朝日ちゃんを逃がした時のじいやの動きは素人目に見ても洗練されていたし、もしかしたらあの小屋にいた奴らは全員倒したのかもしれない。

大の男三人以上を相手に特に大きな怪我もなく切り抜けるどころか倒してしまうとは…強い老紳士は本当に存在していたのか。

 

「一人であいつら全員倒したんですか…何か武道でもやっていたんですか?」

 

「ふふん、じいやはとっても強いんですよ!空手とか柔道とか剣道とか、あと、なんでしたっけ、てこんどー?とか!」

 

じいやに向けた質問は横にいた朝日ちゃんに拾われて、得意げな顔と共に答えが返ってきた。じいやのことを自分のことにようにドヤ顔で自慢する朝日ちゃんかわいい。

質問を横から持っていかれたじいやは、少し困ったような顔をしながら微笑ましいものを見る目で朝日ちゃんを見ていた。

 

「えぇ、まあ執事として必要な技能ですから。」

 

「必須なんですね…」

 

「このような事態がいつ起きるともわかりませんからな。鍛錬は怠っていないつもりでしたが、寄る年波には勝てませんでした…」

 

穏やかな声に僅かに悔しさを滲ませたじいやは、朝日ちゃんの頭にしわくちゃな手を乗せてこちらを真っ直ぐに見つめた。

僕の目を見据えるその視線は真剣なもので、有無を言わさぬ圧があった。

 

明野(あけの) 紳夜(しんや)殿。」

 

「はい」

 

どこかで調べたのだろうか、じいやが僕の名前を呼んだ。

その声はどこか厳かな雰囲気さえ纏っていて、僕の姿勢を正させた。姿勢を正すとは言っても横になったままだからその様子はほとんど見えないのだろうけど。

 

「私はあの日、遊園地に行った日を最後にお嬢様の御付きの任を辞しました。しかし後任がおりませんで…」

 

「もしかして、僕にですか?」

 

じいやが少し言いよどんだ所に、僕の予想を差し込んだ。

するとじいやは微笑んで頷いた。

 

「正気ですか?」

 

「えぇ」

 

「どこの誰ともわからない、ふらふらしてる住所不定無職(ロクデナシ)に彼女を、朝日ちゃんを守らせると?」

 

「ふふ、『どこの』はわからなくても『誰』なのかはわかっておりますぞ?紳夜殿。」

 

つい出てしまった本音に、じいやは冗談交えて答えた。

 

「いやそういう話じゃあないですよ!この間攫われかけたのに素性の知れない人間を側に置くなんて!」

 

僕にとってこの話はあまりに魅力的だった。けれど朝日ちゃんにとってはどうなのか、それを考えると簡単に頷くわけにはいかなかった。

あんな目に遭ったのだ、心的外傷があってもおかしくない。男性恐怖症なっていてもおかしくなかった筈。

今のところそれらしき症状は見られないが、あの日誤解とはいえ一度彼女に恐怖を与えてしまった僕が四六時中側にいては忘れられるものも忘れられなくなってしまうだろう。

 

「素性は知れなくとも、貴方がお嬢様を命がけで守ったということは知っています。それに、これはお嬢様の希望でもあるのです。」

 

「はえ?」

 

理解の追い付かない僕の口から情けない声が漏れた。

自分のパンツを自称する正体不明の男を側に置いて身の回りの世話をさせる?僕だったら絶対にノゥだ。

 

「紳夜さん、私のお願い、聞いてくれませんか?」

 

朝日ちゃんはわざわざしゃがんで上目遣いで僕の目を見上げてそう言った。この子は自分が可愛いとわかっていてこれをやっているのだろうか…だとしたら怖ろしい子だ。

僕がこんなあざとい仕草に心揺らがされるとでも思っているのだろうか。そうだとしたらそれは大正解だ。かわいい。何でも言うこと聞いちゃう。

彼女の魅力、もといあざと可愛さにやられてつい目を逸らした。それがいけなかった。

視線を逸らしたその先は、しゃがんだ彼女の膝の辺り。

スカートから延びる細い脚は、この寒い季節だというのにタイツなどに包まれることなくその白さを病室の床の白に浮かべていた。

それだけならばきれいな脚だなとか、少し寒そうだな、位で済んだものだが、問題はしゃがんだ体制の彼女の脚が短めのスカートを持ち上げていたことと、ベッドに横たわる僕の視点がいつもよりも幾分か低いことだった。

冬にしては暖かな昼下がりの日差しは、病室の白い床に反射して僕の視線の先のみえてはいけない部分までうっすらと照らしてしまっていた。

 

「っ!」

 

僕がそこを凝視していたことは直ぐに朝日ちゃんに気付かれてしまったらしい。

彼女はさっと立ち上がると、僕の方へ一歩近づいて僕の耳に顔を近づけてささやいた。

 

見てましたね…?ぱ、パンツだったのにパンツ見て嬉しいんですか?

 

その二つの問いに、僕は首を縦に振ることで答える。愚問である。

朝日ちゃんのパンツであれたことは確かに誇りに思えることだが、それとこれとは話が別だ。可愛い女の子のパンツを見られることは純粋に喜ばしいことで、それだけで生きていて良かったと思える僥倖なのだ。

 

否定どころか言い訳すらしないんですね、まったく。こんな布の何が良いのか全然わかりません…ただの布ですよ?全体的に薄いし、引っ張れば簡単に脱げちゃいますし、これで木の枝にぶら下がったらすぐに破けちゃいそうです。

 

簡単に脱げなければ色々と大変な気もするが、それ以外のことについては全面的に同意できた。

か弱い女の子の敏感で大切なところを包む大役をその身に課された布だというのに、女児用のパンツというものはいささか頼りないものがほとんどに見える。そんなに数見てきたわけではないけれど。

もっともこもこであったかそうなパンツがあってもいいとは思う。それはそれで可愛いとも思うし。

耐久性については…まぁパンツで木にぶら下がること自体そうそうないこととは思うが、あって損は無いのだから肌触りを損ねない範囲で追求してほしいものである。破れた時は本当に痛かった…

 

ですから、丈夫なパンツが欲しいんですよ。崖から落ちても引っ張り上げてくれるような、いくつも穴が開いても私を守ってくれるような。

 

紳夜さん、私のパンツになってくれませんか?

 

「喜んで」

 

考えるよりも先に口が開いていた。言葉が漏れていた。

彼女への気遣いとか、自分の立場とか、これまでの色々なしがらみとか。そういうものが僕を悩ませる暇すらもなく、ただ心が体を動かしていた。

朝日ちゃんは僕の答えを聞いて満足したのか改めて僕の正面に向き直って喜色を湛えた目で僕を見据えた。

むふー、という音が聞こえてきそうなほどのドヤ顔に、今になって湧いてきた言い訳や理由は溶かされてしまった。

 

「では、これからよろしくお願いしますね!」

 

微笑む彼女は、僕に小さくて柔らかそうな手を向けた。

 

僕は彼女の手を取った。

 

僕は彼女のパンツになったのだ。

 

 




長らくお待たせしました。待ってる方いらっしゃったかどうかわかりませんけど。
とりあえずのところはこれで完結となります。
この変態と朝日ちゃんについての続きを書くとしたらまぁR18の方になるでしょうね。

なんだかんだ鶴平田町の設定は気に入ってしまったので今後も使ってこうと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。