ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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童話【ピノッキオ】

 むかしむかし、ロンドン暮らしの大工のチェリーは、その日暮らしのカツカツでした。

 親方の支払いは今ひとつですし、そのくせ技術は教えてくれず、家賃を払って日々パンを買えば、貯金なんかできません。

 

 なんとか楽して儲けたいな。

 神様助けてくださいな。

 

 ロクな信仰心もないくせに、困った時だけ神に助けを求めてみると、人通りの無い路地裏をのほうから、哀れを誘う泣き声が聞こえます。どこぞのストリートチルドレンでしょうか?

 

 なにかと思って覗きこんで見ると、喋る丸太が転がっていました。

 

「誰も助けてくれないよぉ。孤独だよぉ。

 誰か助けておくれよぉ」

 

 ああ、俺もどこぞの狂人のように狂ってしまったのか?

 その声の出所が丸太と知って、チェリーが最初に思ったのはそれでした。

 ここ最近、精神疾患の犯罪者たちが、精神病院に収容される事件がどんどん増えているのです。

 無視して帰ろうとも思いましたが、あまりに哀れな声なので、チェリーは話しかけてしまいました。

 

「誰だよ、ぎゃーぎゃー泣いてんじゃねえ。

 泣けば助けてくれるのか」

「ああっ! だ、誰ですか!

 芽が出せなくって、見えないんです!

 私の声が聞こえますかっ!」

「聞こえてるよ。俺が誰かなんてどうでもいいだろ。

 おまえ、喋れるんだな」

「しゃ、喋れます喋れます!

 水を撒いてくれませんかっ?

 日向ぼっこしたいですっ!」

「知るか。だが、何とかしてくれそうなじーさんなら知ってるぜ。

 今からつれてってやるから、少しのあいだ黙ってろよ」

「はいっ! 黙りますっ!」

 

 大工のチェリーは仕事でもないのに、その丸太を肩に担ぎました。

 それで、よっこらしょっと歩いていき、人形職人のグリッド爺さんのところへ行きました。

 

 喋る丸太なんて、高く売れるぜ! チェリーはそう考えていて、はたして彼の狙い通り、喋る丸太は高く売れました。賃金一年分近くありそうです。チェリーは明日仕事をやめて、暫く楽してやろうと思い、気分良く家に帰りました。

 

 そう、喋る丸太は、チェリーだけに聞こえる幻聴ではなかったのです。

 

 一方グリッド爺さんは、喋る丸太から人形を創れるなんて夢のようだと思いました。腹話術師がいなくたって、簡単に人形劇ができそうです。上手く興行してまわれば、さっき支払ったお金なんて容易に回収できると思いました。

 

 お爺さんは何日も何日もかけて、丸太から人形を削りだしました。

 

「さあ完成だ。お前の名前は『キノッピオ』だ!」

「……キノッピオ? 僕はジャックじゃ、ないの?」

「ジャック? ああ、違うぞ。今日からお前はキノッピオだ!」

 

 おじいさんに名前をつけられると、ピノッキオは頭を抱えて唸りました。グリッド爺さんはその様子に不気味な予感を感じます、何となく身構えていると、バッと頭を起こしたピノッキオは、道具箱にある彫刻刀を掴んでグリッド爺さんに襲い掛かってきました。

 

「ぐわっ! なん……で……」

 

 ロクに抵抗できないままに、グリッド爺さんは喉を刺されました。キノッピオはその問いに答えず、また頭を抱えました。

 

「ああ、キャラがブレる……誰だよコイツ……頭おかしいんじゃねーの?

 テメーなんかにくれてやるかよ……オレは何人目で、何番目だ? ええっ?

 今度は誰を混ぜられた? これじゃ中核が歪んじまうぜ。

 クカカカカッ。いや、違うな。オレはこんな笑い方じゃない。

 キッシシシッ。コレも違うな。

 ガハハハハッ。これじゃない。

 ……まあいい後だ。先にジジイを始末しねーと。そいつが"奴"の筋書きだかんな」

 

 ピノッキオは、両手で首を押さえながら仰向けに倒れ、かひゅうかひゅうと呼吸が漏れる、グリッド爺さんを見下しました。

 

 人間の構造は良く出来ている。

 自然に創られた物ではない。

 どう見ても神の創作物だ。

 

 そんなことを思いながら、ピノッキオはお爺さんの喉を狙って再び彫刻刀を振り降ろしました。グリッド爺さんは仕事部屋で息絶えました。

 

 ピノッキオは気付いていました。自分がイカれた神サマの言いなりでしかなく、童話の中から再構築された存在だと。

 

「しっかしゴチャゴチャした部屋だな。仕事部屋か?

 他に誰もこなきゃいいが……それで? 

 今回オレはどんな役割(キャスト)なんだ? 何をすればいい。

 とりあえず『ゼペット爺さん』役は殺したが……また相棒と組んでジジイの追いはぎでもすりゃいいのか? まさかダンジョン攻略じゃないだろうな? ダンジョンはもうこりごりだ。

 ……どうせアンタがいるんだろう? 指示があるなら出してくれ」

『指示待ちの姿勢は関心しないなー。ちょっとは自分で考えてもいいんだよ?』

 

 ピノッキオの問いかけに、創造神メアリィ・スーは答えました。直接脳内に(ピノッキオに脳があるかどうかはさておくとして)その声が聞こえると、ピノッキオはうんざりとした様子でため息をつきました。

 

「自由にさせるつもりなんかないくせに」

『きゃひひっ。まあまあ、今回の君は魔獣『猟奇殺人鬼ピノッキオ』だよっ。

 子供の死体調達のメドはついたんだけど、大人の死体はむつかしくてね。

 バラバラにして、妖精でも運べるサイズにしてくれないかなっ?』

「死体なんて墓から暴けばいいじゃないか。地面の下になら幾らでもいるだろう?」

『死にたてじゃないとダメなんだってっ♪』

「ケッ。オレがテメーを殺してぇよ」

『できるものならどうぞぉ?』

 

 インモラルな言葉が飛び交う中、ピノッキオの鼻が伸び縮みすることはありませんでした。メアリィ・スーは、自分の無力を悟りつつも未だに自分に殺意を抱くピノッキオに好感を持っていました。だから何度も使いまわしているのです。リアクションが面白いですからね。ただし殺意は本物でも、心の折れた諦観が混じっているのが今ひとつ物足りなく思えました。

 

「……ああ、殺せると思ったら殺してやらぁ。そのうちアンタを殺してみせるさ」

 

 ピノッキオがそう言うと、鼻がにょっきり伸びました。自分ではメアリィ・スーを殺せないという諦観が、心と言葉の齟齬だとして、嘘判定となったのでした。ピノッキオは慌てて否定しました。

 

「おおっと。ウソウソ。今のはナシだ。

 ……まずは指示を承った。今日からオレは猟奇殺人鬼ピノッキオ。

 死体損壊狂いのキチガイで、見つかる遺体は毎回部位欠損する。

 欠けた部位は行方不明で、二度と見つかることは無い……って設定はどうだ?」

『うんうんっ。

 ピノッキオは自分でキャラエディットできてエラいねっ。

 何度も使いまわした甲斐があるってもんだよ!

 それ採用っ! そんな感じでヨロシク!』

「えーと、頭、右腕、左腕、右足、左足、胴体……内臓をバラバラにしても?」

『いいよーっ』

「ならモツ抜きもしますか。ほっほっほ……

 おっ。なんかオレ、こんな笑い方だった気がする。

 つーか一人称はオレじゃなかったような……もっと丁寧語だったか?

 相棒を造っても良いでしょうか?」

『もちろんいいよ?

 まともに動けなくなる前に、とにかくたくさん殺してくれると嬉しいな』

 

 およそ正気の沙汰とは思えない会話は、そこでようやく終わりました。ピノッキオは血に塗れた彫刻刀を改めてお爺さんの胸元に突き立てると、残る道具箱の中身を使って、喋る丸太の残りを人外の早業で削り、あっという間に小さな人形たちを造りました。

 

「ピノッキオッ! 久シブリダナッ!」

「相棒、お久しぶりですね」

「アノジーサン、早クバラシテ裂イチマオウゼッ!

 久々ノ解体ダ!!」

「ほっほっほ。そうですねぇ。

 では獲物を探しに参りましょうか」

 

 糸で操る喋る相棒と、意図で操る殺人人形二体。合わせて四人はピノッキオの意思で、家中から良さそうな凶器を引っ張り出しました。

 

 相棒は定番の包丁を選びました。

 殺人人形二体は布断ちハサミの止め具を外して、二人で分け合うつもりのようです。

 ピノッキオは、暖炉に火をくべるサイズに木材を切る、ハチェットを選びました。

 それぞれ獲物を手に持って、グリッド爺さんを取り囲んでズタズタにしてしまいました。

 

 どの部位を持ち去ろうかと考えて、職人技が詰まった両腕を選びました。妖精とやらが持ち去れるように、両手首から肘、肩と間接部で分けておきました。

 

 するとどこからともなく妖精が現れ、それぞれ持てそうなパーツを全身でかかえて持ち去ってしまいます。ネバーランドの牢獄の国で、なにかしらしてしまうのですが、現場担当のキノッピオがそのこと知ることはありませんでした。

 

 他の部位は猟奇的殺人が起こったこと分かりやすく示すように凄惨に仕上げ、その遺体に寄り添うようにして掌サイズの人形を一体、残していきましたとさ。

 

 

 

 自由に身体が動くのは自分の意思だけれど……心は見えない神の意図で操られているだけ。

 

 自分だけじゃない。

 人間も同じ。

 そこになんの違いがあろうか?

 だったら私も、人間と同じようなものでしょう?

 

 

 

 子ども遊び(チャイルドプレイ)殺人事件。

 それはロンドンのイーストエンドにあるホワイトチャペル地区や、その近隣で起こった最悪の連続殺人事件です。数日起きに事件が起き、警察をあざ笑うかのように、次々と殺されていきました。

 

 特徴としては、どの死体も体が切り刻まれ、部位欠損していることです。また、現場に人形が残されるという点もありました。

 最後まで確たる証拠を突きつけ真犯人が捕まる、ということはなく、未解決事件として不朽の謎となった真犯人の正体については、人々の想像力をかき立てることになりました。

 被害者は以下13名。

 

 グリッド・スミス(54歳・人形職人)

 マーシー・タブラム(39歳・売春婦)

 メアリー・ニコルス(43歳・売春婦)

 チェリー・ゴードン(23歳・無職)

 キャサリン・エドワード(46歳・売春婦)

 メアリー・ジェニファー(25歳・売春婦)

 アリス・マーグメル(40歳・売春婦)

 カルロス・カーター(51歳・大工)

 メアリー・アン(20歳・売春婦)

 フランシア・コールズ(25歳・売春婦)

 マリー・シャーロット(30歳・売春婦)

 メアリー・カービン(31歳・売春婦)

 シーザー・ベント(27歳・腹話術師)

 

 現場に残される人形は、グリッド・スミス氏手製のもので、彼が第一被害者なのは疑うべくもありません。事件のたびに人形のサイズは大きくなり、最後の被害者であるシーザー・ベントの傍に寄り添っていたのは、黒いレインコートを着た五十センチ近くある操り人形でしたとさ。

 

 

 






 執拗にメアリーを狙っていくスタイル。

 
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